第5話 夕食を食べよう
買い物を済ませ、透と一緒に自宅へ帰ってきた。もうすっかり夜だ。
キャンピングカーは広めのガレージのため、楽々駐車が出来た。だが、ガレージの奥にはゲートがある。気をつけないとゲートに飲み込まれてしまう危険性があるため、駐車は慎重に行う。
「多分大丈夫だと思うけど、そこの奥にゲートがあるから触らないように気をつけて」
車を降りる際に透に一応忠告すると「えっ何処だい?」と透は目を輝かせてゲートの方を確認する。
「これがゲートかい? 確かになんか歪んで見えるけどずいぶんと小さいね。これで本当に異世界に行けるのかい」
そこには確かにゲートがあったが、朝に競べると随分と小さくなっている気がする。本当に明後日まで持つのか?
「朝はこのキャンピングカーくらいの大きさはあったよ。後でソータに聞いてみよう」
興味深そうにゲートを見続けている透を無理矢理連れて、家に入ることにした。
――――
俺達が玄関前までたどり着くと、玄関の入口前では体操座りで顔を埋めている一人の女性がいた。……緋花梨だ。
どうやら今は泣き疲れて眠っているようだ。
……やっちゃったかな?
俺は後ろにいる透に目をやる。
透もあちゃーって顔をしている。
俺は大きく息を吸いため息を吐くと彼女の肩を揺さぶり話しかける。
「おい、こんなとこで寝ると風邪引くぞ」
「ふぇ?」
緋花梨が目を覚まし、こちらを見上げる。
そして俺が誰か気が付くと、途端に泣き出す。
「ごごの¨え¨ぐん¨、がえってぎだ~」
もはやまともな言葉になっていない。
「そりゃあ俺の家だからな。帰ってくるに決まってるだろ。それよりもどうしたんだ? こんなとこで寝て」
俺のいつも通りの口調が癪に障ったのだろう。緋花梨が怒って立ち上がる。
「どうしたじゃないよ! 馬鹿ーーー!!!」
緋花梨は叫びながら、持ってた鞄でバシバシと殴ってくる。
「ちょっ、痛いから、止めろって!」
手ならともかく鞄はマジで痛いって!!
「退学ってどういうこと! 心配して家に来てみれば、知らない男の人がいるし! 電話しても繋がらないし! メッセージは何時までたっても既読すら付かないし!! もう本当に心配したんだから!」
えっ!? 俺は慌ててスマホを確認した。
メッセージには「九重君、先生に聞いたけど退学ってどういうこと!」「さっきから電話してるけど、着拒とかしてないよね?」「九重君の家に知らない男の人がいるけど誰かな?」「このメッセージも見てくれないって、もしかして事故とかに遭ってないよね?」「氷山君にも連絡が着かないんだけど知らない?」「どうしたの?返事してよ?」
等々他にも似たようなこと累計で二桁以上送られていた。ここまでくるとちょっと怖いぞ。
横にいる透の方を見る。
どうやら透の方にも連絡があったようだ。そして俺と同じく、透も確認してなかったようだ。
透のスマホを覗くと、「九重君が家にいなくて知らない人がいるの!」「部室に九重君戻ってきてない?」「九重君から何か連絡来てない?」「氷山君……もしかして今、九重君と一緒にいない?」
と書かれていた。もうちょっとしたホラーだ。
「あー、すまん。忙しくて確認するの忘れてた」
「ごめんね。緋花梨くん。色々あったんだよ」
俺達は緋花梨に謝った。
「忙しかったって。もしかして退学のこと? どうして退学なんてしたの!」
「落ち着けって。ってかまだ退学してないし。用紙貰っただけだって。
「退学しないなら用紙貰う必要ないよね!? ねぇどうして!」
「だから落ち着けって。説明するから。ほら深呼吸。はい吸ってー、吐いてー」
俺は緋花梨に深呼吸をさせる。
緋花梨は何度か深呼吸するとようやく少し落ち着いたようだ。
「少しは落ち着いたか?ほら顔拭け。ぐちゃぐちゃだぞ」
そういってハンカチを渡す。
「むー。ぐちゃぐちゃってゆうなー」
そう言って涙を拭く。
「それで、一体どういうこと」
どうやら説明しない限り、絶対に帰りそうもないな。
「どうせ透にもちゃんと説明しないといけないからな。中に入れよ。あ、緋花梨はもう遅いけど大丈夫か? 親御さん心配しないか?」
現時刻は夜の八時を過ぎている。大学生としてはそこまで遅いとは言えない時間だが、緋花梨は実家暮らしだ。女性が連絡もなく遅くまで出歩くのはまずいだろう。
緋花梨は少し悩んだあと、「ちょっと家に電話してくる」と言って少し離れたとこに行った。
「透、帰るとき緋花梨を送ってくれないか?」
緋花梨が見えなくなったタイミングで俺は透にお願いした。
「えっ? 僕今日は紫遠くんの家に泊まる予定だけど?」
それを聞いた透は心底不思議そうな顔をした。
「聞いてないぞ? えっ何、泊まるの?」
「そうだっけ? まぁいいよね。あ、緋花梨くんは駅まで送るよ」
「はぁ、まぁいいけど」
部屋はあるし特に問題はない。
「ごめん、お待たせー。晩ご飯がいらないなら早く連絡しなさいって怒られちゃった」
緋花梨てへっと苦笑いをする。
「とりあえず十時までには帰ってきなさいって。だから一時間くらいなら大丈夫だよ」
「そっか、じゃあ晩飯でも食べながら話そうか。……でも材料がないか」
昼も余り物で簡単に作っただけだ。もう殆ど食材がない。
「じゃあ僕と緋花梨くんでそこのコンビニで買ってくるよ。すぐに戻ってくるね」
「ああ、なら家の中にいる三人分の酒とつまみも頼む。俺は先に入って準備してるから」
了解と言って二人は出かけた。
俺はそれを見送った後、玄関のドアを開けるとそこにはソータが待ち構えていた。
「よう、お帰り」
「ただいま。そこで待っていたのか?」
「声が聞こえていたからな。出て行こうかと悩んだぞ」
ソータは笑いながら言うが、紹介する前に出てこられたら迷惑だったぞ。
「そういえば二人は目を覚ましたか?」
「ああ、シオンが行った後、すぐに目を覚ましたぞ。今は二階で漫画読んでる」
「……読めるのか?」
全部日本語だぞ?
「まぁ、便利な魔道具のおかげでな。えっとそれで飯は…?」
昼飯は準備したがそれだけじゃ腹が減っただろう。
「ああ、さっきの二人が買いに行った。簡単なものなら今から作る。まぁ二人もすぐに戻ると思うが。それで、お前たちのこと二人に紹介してもいいか?」
「シオンが信用できると思ってるなら構わないさ。俺達もこっちの世界で頼れる人が欲しいし」
「そっか、じゃあ夕食時に紹介しよう」
そう言って俺はキッチンへ向かう。
先ほどの買い出しで少しだけ食料は買ってきている。ただ時間がないので今日はコンビニ弁当だ。だからつまみになる簡単な物だけ作ることにした。
――――
「なーシオン。酒はあるか? 俺達全員結構飲むんだが」
居間で待っていたソータがキッチンに顔を出す。どうやら暇だったようだ。酒はさっき透に頼んだが、正解だったようだ。酒に関しては俺もそれなりに飲めるし、嫌いではないが、普段は一人暮らしなので普段は常備はしてない。
「酒は今買ってきてもらってる」
「本当か! 日本の酒は初めてだから楽しみだ!」
「そうなのか?」
「当たり前だろ! 俺は当時高校生だったんだぞ。向こうでは関係なかったから普通に飲んでたけど」
それもそうかと俺は納得した。
「向こうではどんな酒があったんだ?」
「基本はエールだな。ビールみたいなやつ。でも向こうのエールは冷えてないんだよ。冷蔵庫とかないし。だからそんなに美味くない。水代わりに飲んでたな。あとはウイスキー的なやつが多かった。度数が高いやつ。ドワーフが好きなんだ。まぁこっちのウイスキーの味がわからないから本当にウイスキーかは分からないけど。後は貴族がワインを飲んでいるらしい。数が少なく市場には出回ってないから見たことはないが。後は蜂蜜酒くらいかな」
「ふーん。じゃあ色々とか飲み比べてくれ。そしてカラーズに持って行った方がいい酒があったら教えてくれ」
嗜好品だからあまり余裕はないかもしれないが、持って行って損はないはずだ。
「シオンって料理上手なのな」
俺が会話しながらも手は動かしていたのを見てソータが感心する。
「親が死んでからは去年まで姉と二人暮らしだったからな。姉と交代で家事をやっていたら上手くもなるさ。ってか今は料理って程のことはしてないぞ」
ちょっと包丁を扱っているだけだ。
「いや、手際の良さは伝わるってくるから。でも親がいなかったら…俺だったら出前とかで済ましそうだ」
「姉が出来合いを嫌ったんだよ。だから必死で勉強したんだ」
「なぁシオンってシスコンなのか?」
「シスコンって程ではないけどな。二人だけで過ごしてたら多少はな。それに色々と迷惑かけてきたから、少しくらいは貢献しないと」
「ふーん。お姉さんには異世界のこと言わないのか?」
「言わないわけにもいかないだろ。帰省したら知らない男がいて、弟は帰ってきません。ってなったらどうなるか……。明日にでも電話しようと思ってる」
「そうか。俺が口出しすることじゃないな。すまん」
「そうでもないさ。ここに住むことになったら、姉にも会う機会があるかもしれないしなっと。さて、つまみも大体出来たぞ」
俺が作ったのはほうれん草とベーコンの炒め物と長芋とベーコンの炒め物の二品を作った。本当はほうれん草とベーコンの一品の予定だったが、ベーコンがまだ余っていたのともう少し時間がありそうとのことで手元にあった長芋とで二品にしてみた。
「似たようなもので悪いがとりあえずだ。ソータ、上にいる二人を呼んできてくれ」
「ったく、あいつらいつまで読んでるんだ? シオンが帰ってきたことは気がついてるはずなんだが……普通なら降りてくるだろ」
ソータは心底呆れているようだ。
「まぁいいじゃないか。色々珍しいんだろ。ソータも昔と違ってて驚いただろ?」
「ああ、知らないゲーム機はあるし、テレビも……直接番組表が表示されるとか驚いたよ。それから一番驚いたのがトイレだな。ドア開けたら自動的に便座が開くし、なんかボタンが色々あって水が出てくるし」
テレビはアナログだったし、ウォシュレットはあったかもしれないが、普及し始めたのは九十年代後半の筈だ。
そんな話をしていると玄関からインターホンの音が聞こえた。
「おっ、帰ってきたかな?ソータも二人を呼んできてくれ」
ソータは二階へ、俺は玄関まで行く。玄関を開けるとそこには透と緋花梨がコンビニ袋を持って待っていた。
「やぁ。お待たせ。これお酒ね。お弁当は緋花梨くんの方ね」
「はいこれ。お弁当は何がいいか分からなかったから適当に選んできたよ」
「ああ、ありがとう。居間の方に持って行ってくれ。あ、お金は後で払うよ。…って大量だな」
「どんなお酒を飲むか分からなかったからね。色んな種類のお酒を買ってきたよ」
そこに丁度ソータ達も降りてくる。
玄関で挨拶もなんだからとソータ達はさっさと居間へ行く。
その後ろをついて行く俺達三人。
「ねぇねぇ紫遠くん、エルフさんと獣耳さんだよ! すごいねぇ! 感動だよ!」
透が後ろからボソボソと声をかけてくる。緋花梨は「はぇ~キレイな人達」と大口開けて見つめている。お前は女の子なんだからそんなに大口開けるなと言いたい。
「ったく、後でちゃんと紹介するから。ほらさっさと行くぞ!」
俺は二人を引き連れてソータ達を追いかけた。
――――
「それじゃあ、乾杯の前にそれぞれ自己紹介をしようか。まずは俺達から。って言っても俺の名前はもう聞いているかな? 俺は九重紫遠。一応ここの家主だ。んで氷山透と橘緋花梨」
「氷山透です。紫遠くんとは大学の学友です」
いつもとは違う丁寧な口調で挨拶する透。
「あ、えと、あ、橘緋花梨です。同じく同級生です」
どう挨拶していいのか分からなくなった緋花梨がどもりながら挨拶する。
「ほら、透が丁寧な挨拶するから緋花梨が困ってるじゃないか。畏まらなくてもっと普通でいいよ」
「でも紫遠くん、初めて会う人にはちゃんとそれなりの礼節を取り計らわないといけないんだよ」
普段礼節なんて考えてなさそうな透からの言葉に驚く。
「俺達も畏まられると困るな」
ソータからもそう言われると透も納得した。
「そうかい? じゃあ普通にさせてもらうよ!」
「ああ。なら次はこっちだな。俺は一条蒼太だ。ソータって呼んでくれ。そしてこっちが…」
「アイリスと言います。エルフです。こちらの世界のことはほとんど分かりませんので色々と教えて頂けると助かります」
「うむ。クミンじゃ。わらわは狐族の中でも最上の九尾じゃ。よろしく頼むの」
透は何やら「おお…のじゃっ娘」と小さく呟いている。これは感激しているのか?
緋花梨はこっちをみて口をパクパクしている。そう言えば何も教えてないよな?教えてやりたいところだけどそれより先にすることがある。
「それじゃあ、ソータ達と俺らの出会いを祝して乾杯!」
「「「「かんぱーい」」」」
こうやって宴は始まった。
――――
「日本酒と言うとったか? こっちの酒はおいしいのぅ」
「クミンさん、こっちの果実酒もおいしいですよ」
「なんじゃと! そっちもよこすがよい」
「この料理は何ていうのですか? サクサクしてておいしいです」
「これはコロッケって言うんだよ。こっちでは代表的な料理だね。ただコンビニの総菜だから…ちゃんと作ったらもっと美味しいよ」
「うめー、うめーよ!、おかわりくれ!」
「コンビニ弁当だからもうねーよ」
ソータは一心不乱にカレーを食べていた。
皆、すごい食いつきだ。ゆっくり話をしたかったが、これは食後にした方が良さそうだな。
俺は横で大人しく食べている緋花梨に声をかける。緋花梨には時間がないから先に説明しよう。
「ま、こういう訳だ」
「九重君、流石にそれだけじゃあ分からないよ」
流石の緋花梨も苦笑いだ。
「え~と、この人達が九重君が大学を辞めようとした原因なの?」
改めて緋花梨が問いかける。
「う~ん、確かに原因なのか? まぁきっかけかな」
そう言って俺は朝からの出来事を説明した。
ガレージで三人を見つけたこと。異世界から来たこと。今ならガレージから異世界に行けること。
明後日に異世界に向けて旅立つことを決めたこと。日本には戻ってこないため大学を辞めようとしたこと。
俺は緋花梨に菫のこと以外を説明した。
「なんで……何でわざわざ異世界なんかに行こうと思ったの? だって危険なんでしょ!? 危ないよ」
緋花梨は少し涙目になっている。
「確かに日本に比べると危険かもしれない。でもここにいてどうする? 大学卒業して社会人になって……このまま一人で退屈な人生を送るよりも異世界に行ける方が面白そうじゃないか」
「じゃあ私も一緒に『駄目だ』」
俺は緋花梨の言葉を途中で遮る。
「どうして!」
「緋花梨には家族がいるだろ? もう二度と会えなくなるんだぞ? それでもいいのか? 残された家族を考えろよ。両親は? 確か弟もいたよな、どうする? 日本で一人暮らしするのとは訳が違うんだぞ」
「じゃあ九重君も残される私の気持ちも考えてよ! 分かってるんでしょ! 私の気持ち」
俺だってそこまで鈍いわけじゃない。普段の行動から緋花梨が俺に好意を持っていることくらいは分かる。だけど俺には……。
「ごめん、緋花梨の気持ちには答えれない。それにどうしても俺は異世界に行かなくちゃいけないんだ」
「別に私の気持ちに答える必要はないよ。そんなのは私も分かってる。だって九重君はいつも菫ちゃんのことしか考えてないもの。だから私は友達でいいの。いつまでも変わらず接してくれればいいの。それなのに……」
俺は前で楽しく食事をしているアイリスに声をかける。
「アイリスさん。ちょっと聞きたいことがあるんだが」
アイリスは箸を置いてこちらを向く。
「なんでしょうシオンさん。あ、私のことはアイリスでいいですよ」
「わかった。じゃあアイリス、母親の名前を教えてくれ」
アイリスはハッとして真面目な表情になる。そして一瞬ソータを見る。ソータは軽く頷く。
「分かりました。私の母の名前はツクモスミレ、日本にいた時は九折菫と名乗っていたそうです」
やっぱりそうか。菫はカラーズにいるんだ。どうりでいくら探しても見つからなかったはずだ。
「えっ菫って……えええっ!! 娘って! 九重君、一体どういうことなの!?」
緋花梨がこれ以上ないくらい驚いている。まぁ無理もないか。
「落ち着け緋花梨。そういうことだ。菫は誘拐でも死んでもない、異世界に飛ばされたんだ」
「そんな………菫ちゃんがいるの? えっでも娘って……エルフ?」
菫が生きていると分かって嬉しいが意味が分からないって感じだ。
「なんかよく分からないけど、異世界で五十年前に飛ばされたみたいだ。だから今は七十歳くらいか? はは、おばあちゃんだな」
俺は笑いながら答える。だが、例え年老いていたとしても、俺はもう一度菫に会いたい。
「母はエルフの洗礼を受けてますので、人間とは寿命が異なっていますよ。少なくても五百年は生きると思います。だから見た目は皆さんと変わりありません」
「「五百年!?」
アイリスの言葉に俺と緋花梨が同時に驚く。えっ? 何? その寿命。ってか変わってないの?
「実は母からシオンさん宛に手紙を預かっています。母はシオンさんがおじいちゃんになっても、母のことを忘れてなかった場合にのみ渡して欲しい。もし死んでいたらお墓にと言って渡してくれたのですが……」
実際はこっちでは一年しか経ってなかった。もちろん忘れるはずもない。
アイリスはポーチから手紙を取りテーブルの上に置く。
「個人宛のお手紙ですから、出来ればシオンさんにしか見せたくはないのですが…」
確かに俺も見られるのは少し恥ずかしい。
「じゃあそろそろお開きにしようよ。緋花梨くんもそろそろ帰らないとまずいでしょ? 駅まで送るよ」
透が全体に声をかけ、驚きで放心状態の緋花梨を呼びかける。
「え、でも……」
それでも緋花梨は納得がいかないようだ。
「ほら、今は混乱してると思うからまた明日聞こうよ。明日はまだここにいるんだし」
「そうだぞ。流石に時間がヤバいだろ? 俺も、もう少し詳しく聞いておくから明日話してやるよ」
まだ俺もさっきの話で少し混乱しているから落ち着きたい。
「わかった。明日絶対に教えてよね!」
そう言って透と二人で駅に向かっていった。
――――
「あーうまかった」
「本当に美味しかったです」
「うむ、どれも飲んだことない味じゃったが全部美味しかったの。満足じゃ」
二人がいなくなった後で三人も箸を置く。三人とも満足そうだ。
「今日はコンビニ弁当で悪かったな。明日はちゃんと作るからもっと美味いもの食わせてやるよ」
「コンビニ弁当でも向こうの飯と比べれば十分美味いんだが、これは明日が楽しみだな」
「そうですね。お肉だけは向こうでも美味しいですけど、こんなに味があることはないですからね」
カラーズでは家畜や動物、それから魔物の肉が食用としてあるらしい。
その中でも魔物の肉は魔力が体内にある分美味しいらしい。
しかしいくら美味しくてもカラーズには調味料が不足しているためただ焼くだけになってしまう。
一部の貴族以外は塩すら貴重品らしい。
一応塩も死なない程度には手に入るらしいが、贅沢出来るほどの量はない。
日本でも霜降り牛が美味しいといっても塩も何も付けなければ味気ないもんな。
よし決めた。調味料は多めに持って行こう。
「え~と、じゃあアイリス、早速で悪いけど俺の部屋にいいかな? 手紙を読ませてくれ」
「わかりました。ソータさん、ちょっと行ってきますね」
「あー分かった。シオン、俺達はもう少しここでチビチビやってるから」
「分かった。そのうち透が帰ってと思うから帰ってきたら色々と話をしてやってくれ」
「りょーかい」
酒とつまみを食べている二人を残して俺はアイリスと部屋へ向かった。