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ロストカラーズ  作者: あすか
後日談
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日常編⑱

「姉さん達は今日は何処に行くんだ?」


 今日は姉さんがアレーナとティティの引率担当。セラも併せて四人で何処に行くんだろう?


「それがね……。アレーナが工場見学に行きたいって言ってるのよ」


「はっ? 工場見学?」


 予想外の答えだ。てっきりまた食べまくると思っていたのに……。しかも工場って何の工場だ?


「昨日食べた料理で調味料の奥深さを再確認しました。特に醤油。是非本職の方に醤油の作り方を教わりたいと思いまして……」


 なるほど。醤油見学か。


「ってことなのよ。まぁ醤油だけじゃ面白くないから、他にもいくつか回る予定だけどね」

「工場見学も面白そうだし、私も賛成だよ」


 どうやらティティも問題ないらしい。


「でも……そう簡単に見学なんて出来るのか?」


 テレビの取材じゃないんだから、気軽に入れるもんじゃないと思うが……。


「うん。いくつか調べてみたけど、場所によっては結構オープンみたいなのよ。その場でいろんな種類の醤油も買えるそうだし、ついでに買い込んどこうかと思って」


「うん。それはいい考えだと思う。お金は大丈夫?」


 昨日のティティ達と違ってこれは必要経費で良いと思う。そういえば今日のティティはお小遣いって言わないな。諦めたか……それともソータにお小遣いをせびったか。後でそれとなくソータに聞いてみよう。


「私とセラは昨日殆ど使ってないから大丈夫よ。もし思ったよりも使うようなら後で請求するわ」


 姉さんは昨日セラと地元をゆっくりと散歩したらしい。通っていた学校の前を通りかかり、行きつけの定食屋で昼を食べて、近くのスーパーで買い物をして……昔を懐かしんでいたようだ。というよりセラに自分の過去を知ってもらいたかったのかな。

 それから町内会長やご近所さんへ挨拶回りもしたらしい。そういえば俺があっちの世界に行く前に交換留学って設定でソータ達を受け入れてもらったんだった。

 既に二年が経過しているから、不審がっていてもおかしくはない。

 今回姉さんは俺が向こうで結婚したこと。そして姉さんもセラと結婚したことを報告。

 ソータ達もここが気にきったようなので、このまま住んでもらうことにした。なのでこれからもソータ達をよろしくと。

 正直俺はここまで気が回ってなかったから助かった。姉さんはあっちに行ってから傍若無人で破天荒って感じだけど、元々はしっかり者。こういうことは頼りになる。


「それでシオンは今日はどうするの?」


「それだけど……ちょっと東京に行ってこようかと」


 俺は昨晩レンから来たメッセージについて説明した。


「――やっぱりこれって『うちの子を連れていかないで』ってことかしら」


 ミサキとレンがどんな答えを出したかは知らない。だが話があるってことは二人は戻る選択肢を選んだから、俺を説得……って可能性が高い。


「まっ俺は誠意だけみせて後は二人に任せるよ」


 説得に負けて残るのか、それとも了承を得るのか、はたまた喧嘩別れになるのか。最終的には二人が選ぶことだ。


「あれっ? 連絡があったのはミサキとレンだけなの?」


「ああ。リカとヒミカからは連絡はなかった」


 別に連絡を義務付けてないから問題はないのだが……二人は大丈夫だったのか。話題になってたことからレン達よりも気になる。


「レン達の両親と話が終わったら連絡してみようかと思う」


 どうせ近くまで行くならついでだ。もし返事もないようなら、大丈夫だと考え、そのまま遊びにいくだけだ。


「そういうことなんだが……」


 ただルーナがどうなのか。

 あっちは今日よりも人が多いはずだ。しかも明日はベビー用品などないはず。

 俺だけ行ったらふてくれそうだし、一緒に行ってもふてくれそうだ。


 俺がルーナの答えを待っていると、別のところから返事が来た。


「じゃあ……ルーナくん。僕と一緒に行動しない?」


「「えっ?」」


 俺とルーナは同時にトオルへ顔を向ける。


「うん。シオンくんが東京に行くなら、僕も付き合うよ。とは言っても向こうで別れるけどね。秋葉原でドノバンくんにお土産でも買ってあげようかなと。だからシオンくんが話している間、ルーナくんは僕と一緒に行かないかい? それとも僕と二人……三人じゃ嫌かな?」


「別に嫌なわけでは……トオル様ならシオン様も許してくださるでしょうし」


 今でこそシクトリーナに住んでいないが、長年一緒に生活してきたんだ。他の男ならともかく、トオル相手に嫉妬はしない。

 しかし……。


「トオル。自分からルーナを引き受けるなんて、どういった風の吹き回しだ?」


 トオルなら面倒なことを回避してひとりで行動しそうなもんだけど……。


「だってシオンくんが話している間暇なんでしょ? だからその間にルーナくんにメイド喫茶を紹介したくて」


「おいおいメイド喫茶って……」


 こいつはまたとんでもないことを言い出したぞ。子連れの男女でメイド喫茶に行くつもりか?

 そもそもメイド喫茶ってルーナとは真逆の……。


「行きます!!」


 ルーナが立ち上がって主張する。


「日本のメイド……非常に興味があります」


「あの、ルーナさん。その……メイド喫茶は別にメイドって訳じゃ……」


 だが既に俺の言葉をルーナは聞いてなかった。あっこれもう駄目な奴だ。


「トオル……責任とれよ」


 これ絶対に期待外れで後で怒るパターンのやつだ。それで俺に八つ当たりがくる。そうなったら……戻ったらエキドナにあることないこと吹き込んでやる。



 ――――


 レンに案内された場所はちょっとした料亭の個室。こんな小洒落た料亭は初めてで少しドキドキする。……こういう場所にアレーナを連れて来たかったな。


 集まったのはレンの両親とミサキの両親と祖母。それからレンとミサキだ。

 こっち側は俺とシーナ。トオルとルーナはレンにこっちまで送ってもらった後、秋葉原へと向かった。そして邪魔になるとシーナを預かった。

 シーナを預けるほどメイド喫茶に気合いを入れて……本当にショックを受けなければいいが。


「初めまして。吉田恋の父親です。娘が随分とお世話になったようで……」


 代表してレンの父親が挨拶する。レンって吉田って名字だったんだ。そしてミサキの名字は森らしい。


「いえ、こちらこそレン……恋さんにはお世話になりっぱなしで……じゃない、俺、いや私の名前は九重紫遠です」


「なんや、シオンさん緊張しとるんか?」


 俺のテンパり具合にミサキが茶化す。いや、直前までは緊張なんてしなかったんだけど、親の目の前で娘を呼び捨てに……って考えたら一気にどうしていいか分からなくなってしまった。


「ははっ。娘達から九重さんのお話は聞いておりますので、お気になさらずに普段通りにされてください」


 どうやら逆に気を使われてしまったようだ。


「いやぁお恥ずかしい。向こうでは名字を名乗る習慣がなかったもので、普段からレンとミサキと呼んでおりまして……すいませんが、この場でもそのように呼ばせてもらいます」


「ふむ。……それではこちらも九重さんと呼ばずにシオンさんとお呼びした方がよろしいかな?」


「そうですね。その方が助かります」


 別に九重のままでもいいけど、ずっと使ってなかったから、ちょっと戸惑ってしまう。


「言葉も崩して構わないですよ」


「目上の方にそれはちょっと……」


 こっちの世界では俺は城主ではなくただの無職。気分的には上司に無礼講と言われてタメ口にならない新入社員ってとこだ。


「はははっどうやら本当にシオン君は娘から聞いた通りの人物のようだ」


 ……一体レンは俺のことをどんな風に紹介したんだろう?


「さっ料理でも食べながらお話を聞かせてください」


 どうやら予想以上に好意的なので、俺の方も安心して席に着くことにした。

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