日本編⑩
今回までがヒカリ視点となります。
久しぶりに自室で寝たけど、寝心地は悪くなかった。むしろいつもより良いくらい。……やっぱり枕なのかなぁ? 枕が変わると寝れないタイプの人間ではないけど、戻るときにこの枕、持って行こうかな?
「おはよ……」
部屋から出て両親に朝の挨拶をしようとして固まった。
二人はまるで今から結婚式に行くかのような格好をしていたのだ。
「……何してるの?」
「おはよう緋花梨。何って今日は緋花梨の婚約者が来るんだから、準備をしてるんじゃないか」
「いやいや、別にかたっくるしくないんだから、普段着でいいよ」
「そんなこと言ったって、相手は王子様に女王様なんだから、粗相があっちゃまずかろうもん」
「別に気にしないってば」
それよりも私はお母さんの方言の方が気になる。飴の効果で向こうにはちゃんと標準語で翻訳されるだろうけど……大丈夫だよね?
結局私が止めてって言っても二人は聞く耳をもたなかった。本当に恥ずかしいけど着替える気は全くないみたいなので、諦めて転移でゼスト君達を迎えに行くことにした。
「ただいま! ゼスト君準備は……」
「母様! 恥ずかしいからその格好は……ああ。ヒカリさんが迎えに来たではないですか」
ゼスト君が天を仰ぐ。女王様を見ると、立派なドレスを着ていた。あれって確か国民に挨拶するときの正装だ。
昨日の出発の時点では一般服を着ていたのに……どおりで荷物が多い訳だよ。
「ヒカリ様のご両親へのご挨拶です。失礼のないように、見た目からしっかりとしなければなりません」
……こっちもか。どうやらどこの家も変わらないみたい。正直仰々しくしてほしくないけど、ウチの方だけが張り切っている訳じゃないと分かってちょっと安心した。
「ごめんなさいヒカリさん。母様がそう言って聞かなくて……」
ゼスト君の気持ちは私と一緒みたい。
「別にいいよ。ウチの親も似たような感じだし。それよりも、女王様は一人でそれを着たんですか?」
いつも着付けを手伝う侍女のマチルダさん達はいない。
「カナリアとクミン様に手伝って頂きました」
流石に一人じゃ無理だったみたい。でもその二人の姿は見えない。
「あれっ? カナリアちゃんは?」
「カナリアは見聞を深めるためと行って、シオンさん達とお出掛けしました。今頃街で買い物を楽しんでいるんじゃないかと」
「カナリアったら、『わたくしの仕事はこっちの世界のことを調べることですわ!』なんて言いまして……一応夜には合流させますので」
カナリアちゃん……仕事なんて言ってるけど、絶対に自分が楽しみたいだけだよね。
それを指摘したら多分『適材適所ですわ!』って言いそうだけど。
カナリアちゃんは事あるごとに適材適所って言葉を使う。
どうやらカナリアちゃんの座右の銘らしい。
ゼスト君によると、昔のカナリアちゃんは王族として何でも一人で出来るようにならないといけないと考えてたらしい。その考えに押し潰されそうになってたこともあるそうだ。
だけど今は自分が出来ることをしっかりやるってスタンスに変えたみたい。それが適材適所ってことらしい。
その考え方自体は間違ってないし、良いことだと思う。だけどその言葉を教えたのがシオン君って話を聞いちゃったら、印象はガラリと変わる。
シオン君。きっといつものように適当にあしらっちゃったんだよなぁと。
私の予想ではやらなくちゃいけないことをやりたくないから誤魔化したとみてる。
事実、最近のカナリアちゃんは適材適所を逃げ口上に使ってる気がするんだよね。
まぁ今回はカナリアちゃんはあまり関係ない。それにこっちを出歩くのも社会勉強になるだろう。
「じゃあカナリアちゃんだけ後で合流ってことですね。ウチも弟の日向が朝から逃げ出してるのでお相子ですよ」
日向はゼスト君や女王様には興味があったみたいだけど、お見合いみたいな堅苦しい場所には居たくないって朝一で出掛けていた。夜には帰ってくるみたいだし、外では私のことは口止めしているから、別に問題はない。
そういうわけで私は二人だけ連れて家に帰った。
――――
「「おわっ!?」」
私が転移で帰るとお父さん達が大袈裟に驚く。
「ひ、緋花梨か。ビックリさせないでくれ」
「ビックリって……ちゃんと転移で帰ってくるって行ったでしょ」
「父さん達はその転移とやらを見るのが初めてなんだ。だからいきなり消えていきなり現れたようにしか見えなかったぞ」
「そうだよ。あたしゃてっきりドアを取り出してそこから出入りするとばかり思ってたとよ」
ドアって……ネコ型ロボットじゃないんだから。でも日本人の感覚としては、真っ先にそれが出てくるのは無理ないかな。
「そんなことより紹介するね。ゼスト君とシトロン女王様」
私が紹介したとたん、二人はピンと背筋を伸ばす。あーあ、めちゃくちゃ緊張してるよ。
でも何となく分かる。女王様って、やっぱりカリスマというか、高貴なオーラが出まくってるんだよね。
「あっ、えっ……あー」
お父さんは何か言おうとして、でも声にならない。
「ふふっそんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ」
一方女王様の方は慣れた感じで諭すように話す。多分今までにも同じようなことが何度もあったんだろうな。
「はっはい。あの…緋花梨の父です」
「……母でございます」
「ヒカリ様のお父様とお母様。お初にお目にかかります。わたくしはカラーズ大陸で黄の国を治めさせていただいておりますシトロン・デ・イエローと申します。お会いできて光栄ですわ」
女王様はお父さん達に深々とお辞儀をする。何て言うか一挙手一投足が絵になる。
そしてお父さん達は……。
「「へへー。ありがたきお言葉!!」」
二人揃って土下座をした。
「もう! 何やってるの! ほらっ恥ずかしいから早く立ち上がってよ」
本当に恥ずかしい。今すぐここから逃げ出したいよ。
「だっ、だって緋花梨。あれ、本物だ。本物の女王様だぞ。見た目だけじゃない。なんていうか全身が本物だって言ってるぞ」
「そうだよ。ありゃあコスプレなんかじゃなか。本物の女王様だよ」
二人が私にしか聞こえないように声を潜めて話す。
「だから最初にそう説明したじゃない」
「そうだけど……ありゃ住む世界が完全に違う」
「まぁ異世界に住んでるから世界が違うのは当然だけど……」
「そういう意味じゃない! 人間として位が上だと言いたいんだ。こんなボロい家に招いていい人じゃないぞ」
「あら。とても素敵な家だと思いますわ」
どうやら女王様には筒抜けだったみたい。
「それにとてもお優しそうなご両親。ヒカリ様がまっすぐに育った理由が分かります」
優しいかどうかはさておいて……うん。私がスレてないのはお父さんとお母さんのお陰かも。
「それよりも……ゼスト。貴方も早く挨拶なさい。まだ挨拶してないのは貴方だけですよ」
そういえばゼスト君、こっちに来てから一言も声を出してない。
「はひっ!? え、えーっと……」
やれやれ、今度はこっちか。さっきまで平気そうだったのに……。面と向かったら一気に緊張しちゃったのかな。
女王様もゼスト君の態度に呆れたように首を振る。でもそれは年相応に見えて可愛く感じる。それにゼスト君を見てこっちの二人も落ち着いてきたみたい。
どうやら好意的にみられているようなので本当に良かった。
まっ、時間はあるんだし、お互いにゆっくりと打ち解けてくれると嬉しいな。




