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ロストカラーズ  作者: あすか
後日談
452/468

日本編⑧

今回はヒカリ視点の話になります。

 私はスミレちゃん達と一緒にシオン君の家を出た。

 スミレちゃんの住んでいたマンションは私の家からあんまり離れていない。ひとりで移動じゃないのは良かったけど……。


「はぁ……」


 私は思わずため息をつく。


「どうしたのヒカリ? なんか一気に落ち込んでない?」


「ちょっとね。さっき家に電話したときの反応がね……ちょっと帰るのが憂鬱になっちゃったよ」


 電話にはお母さんが出たんだけど『あんたっ!! 二年も連絡しないで何しとったと!? こっちから連絡しても繋がらないし……今すぐ帰ってきなさい!!』だった。


 出発前にちゃんと異世界に行くって説明したけれど、やっぱり信じてくれてなかったみたい。お父さんはちゃんと理解してくれたのになぁ。


「まあまあ。それだけ心配してたってことじゃない。子供を心配する親なんだから、良い母親じゃない。たっぷり叱られてきなさい」


 あっ……そうだ。スミレちゃんは両親と仲が良くなかったんだった。

 スミレちゃんの両親は既に離婚している。それにスミレちゃんが行方不明になっても知らんぷり。多分今回も会う気はないんだろう。

 そんなスミレちゃんの前で私は……ちょっと無神経だったかも。


「スミレちゃん。ごめ……」

「へぇこの辺り全然変わってないんだ」


 私はスミレちゃんに謝ろうとしたけど、その前にスミレちゃんの声に遮られた。

 スミレちゃんは辺りをキョロキョロしている。


「母さん。恥ずかしいからそんなにキョロキョロしないで」

「え~。だって六十年振りの風景なのよ。懐かしがっても良いじゃない」

「姉さん。あれ何?」

「えっ? あれって……ただの信号じゃない。あっもしかしてアイラ、日本のこと何も勉強してこなかったの!?」

「勉強……この世界の勉強って向こうでどうやってする?」

「母さん!! ちゃんとアイラに説明してあげなくちゃ駄目じゃない!」

「あははっ忘れてた」

「あははって……母さん。しばらく会わない間に随分と変わったね。それにアイラも……」

「むう。私だけじゃなく、姉さんも変わったと思う」


 三人はとても仲良さそうに話している。この雰囲気の中で謝るのは空気を読んでないよね。


「そういえばヒカリ、さっき何か言いかけてなかった?」


「えっ? ううん。何でもない。それより早く行こうよ」


 スミレちゃんは今が幸せなんだから、それでいいよね。



 ――――


 私はスミレちゃん家族と別れて自宅へとたどり着いた。

 スミレちゃんは帰るときまでこのまま三人で過ごすみたい。


 うー、一人になるとやっぱりちょっと緊張する。

 一歩下がって懐かしの我が家を見る。見た目は全然変わっていない。そりゃあ二年しか経ってないんだから変わるわけないか。

 私にとっては七年ぶりだから、すごく懐かしいんだけどね。


 意を決してインターホンを鳴らす。

 鍵は持ってるけど、勝手に開けて入るのは気が引けた。


『はーい』


 インターホンからお母さんの声が聞こえた。電話口でも聞いたけど、やっぱり懐かしい。


「あっお母さん。ただい……」


 最後まで言い終わらずに切れた。家の中からドタバタと音がする。

 ほんの数秒で家の扉が開かれてお母さんが顔を出す。


「ピカリ!? あんた……二年間も連絡せずになにしとったと!!」


 お母さんはドアを開けるなりそう叫んだ。


「ちょっ、ちょっとお母さん。近所迷惑だから!」


 せっかくの感動の再会なのに、これじゃあ台無しだよ。私は若干呆れつつ、門を開けてお母さんの前に行く。


「ほら、ゆっくり説明するから、とりあえず家に入れてよ」


 私がそう言うと、お母さんは言い足りないようだけど、渋々ながら私を招き入れる。


「ありがと。それと……ただいま」


「もぅ……あんたは……お帰り緋花梨」



 ――――


「じゃあ説明して」


 お母さんは麦茶を私の前に置く。


「麦茶より熱いお茶の方がいいんだけど……」


「なに贅沢言っとーと」


 どうやらちゃんと説明しないと納得してくれなさそう。

 でも……まだお父さんと弟の日向(ひなた)が帰ってきてない。何度も説明するのはめんどくさいんだけど……それにゼスト君の話もある。

 というか、この状態でゼスト君の話はしにくい。


「どうせお父さんと日向が帰ってきたらもう一度説明しなくちゃなんないし、それからでいいでしょ?」


 時間的にはお父さんも日向ももう帰ってきてもおかしくない時間だ。

 私がそう言うとお母さんは首を振る。


「駄目。父さんと日向が帰ってくる前に説明なさい」


「えっ? どうして?」


「父さんと日向はあんたの異世界って話を信じとーけん。本当のこと話さずに適当にはぐらかすに決まっとる」


「お母さん……まだ信じてなかったの?」


「信じるって……信じるわけないでしょうが。今回帰ってきたのだって、どうせあの手品の男に捨てられたからやろ?」


「手品の男って……トオル君のこと? えっ!? お母さん、そんなこと考えてたの?」


 トオル君は、お母さんを説得したときに、魔力結晶で水と火を出した。確かに手品っぽく見えなくもないけど……。

 どうやらお母さんの中では私はトオル君と駆け落ちして振られたから帰ってきたという認識らしい。

 仮にそうだとしたら、異世界なんてとんでもないこと言わずに、普通にお付き合いしてる人って紹介するよ。まったく……お母さんってこんなに頭の固い人だったっけ?


「あのねぇ。私はちゃんと異世界で暮らしていたし、トオル君は……一緒にいたけど、別に付き合ったりしてないからね」


 ここはハッキリとさせておかないと。この認識ではゼスト君を紹介出来ない。


「だったら異世界だって証拠を見せなさい」


「証拠って言われても……」


 やっぱりそうなるよね。


「ないんでしょ?」


「いや、たくさんあるんだけど……」


「はっ?」


 ドヤッてたお母さんが固まる。実際、証拠はたくさんある。魔法結晶もあるし、向こうで撮った写真もある。村の子供――ケットシーやスプライトは地球にはいないし、スーラさんやサクラちゃんの従魔の写真だってある。

 だけど、本物だって理解してくれるかなぁ?


 それよりは魔法を使った方が確実かも。

 よし! 私は麦茶を一気に飲み干した。


「じゃあ今から異世界で覚えた魔法を唱えるからちゃんと見ててね」


 私は腕捲りをする。ちゃんと種も仕掛けもないことを証明しないと、また手品と思われちゃう。

 私は空になったコップに、ポーションを注ぐ。何もない指先から出てくるんだから、流石のお母さんも信じてくれるよね?


「あんた今……どこからオレンジジュースを出したと?」


 オレンジジュース……確かに似てなくはないけど。


「オレンジジュースじゃなくて、ポーション。ほら、お母さんもゲームで使ったことあるでしょ?」


 今はもうゲームなんてしてないだろうけど、私が小学生の頃は一緒にRPGの謎解きを一緒にやったことがある。


「ポーションって……あれはゲームの中の話でしょ?」


「だから異世界……ゲームの中みたいな世界に言ってたの! それ飲んだら、怪我だってたちまち治っちゃうんだからね。お母さん、どこか怪我してない?」


「あんた……母に向かって怪我しろとでも言いたいのかい?」


「何でそうなっちゃうのよ! 違うから。今怪我してたらこれ飲めば治るって言ってるの!」


「生憎と怪我はなかねぇ。ああ、でも肩こりと虫歯があったね。それも治るのかい?」


 肩こりと虫歯……怪我じゃないけど、どうなんだろ?


「流石に肩こりと虫歯は治したことがないから分からないよ。試しに飲んでみてよ」


「あんた……母で実験しようってのかい? 全くなんて子だよ。こんな怪しい飲み物で治るわけなか」


 そう言いながらもお母さんはポーションを飲んでくれた。


「……全然オレンジの味がしないね」


「だからオレンジジュースじゃないんだってば」


 味はただの水に近い。でも魔法はイメージだから、オレンジジュース味のポーションをイメージすればいいのかな?


「それでどう? 虫歯は治った?」


 肩こりとはどちらかと言うと、状態異常な気がするから、シオン君の出番な気がする。


「普段から痛いわけじゃないから、よく分かんな……えっ!?」


 お母さんが突然驚きの声をあげる。そして自分の手をマジマジと見つめる。


「どうしたの?」


「……あかぎれが治っちゃったよ」


 あー、そういえばお母さんは年中手荒れに悩まされていた。手荒れも怪我だもんね。


「どう? このポーションの効き目は? 私が魔法で出したんだよ」


「……どうせ市販のよく効く薬を手品で出したんでしょ」


 本当に強情なんだから……。


「そんな薬があったら、今頃日本中で売れまくってるよ。それに見てたでしょ? 私何も持ってなかったじゃない」


「素人には分からないから手品なんでしょ」


 あーもう! ああ言えばこう言う。こうなったら、絶対に認めさせてやる!

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