第36話 輸送隊を解放しよう
隊長たちを殺した俺は天幕の外に出る。……外は想像以上に静かだ。
「あっシオ……おーい! こっちだ!」
ヴォイスが俺の名前を呼ぼうとして……禁則に触れるかもしれないと思ったのか、慌てて呼び直した。
おいおい、危ないな。下手したらそれで死ぬぞ。ってか、今のは禁則に引っかかるのか? 一応目視できる場所にいるから大丈夫だとは思うけど、その辺は結構あやふやな部分だからな。少し不安だ。まぁもし禁則で呪いが発動したら、死ぬ前にすぐに解毒させるけどね。流石に俺に呼びかけて死んだら申し訳なさ過ぎる。
「おい、ヴォイス危ないぞ。下手したら今ので死んでたかもしれないからな」
ただ今後の為にも一応注意しておく。
「ああ、すまん。俺もさすがに今ので死んだら情けなさ過ぎるわ」
ヴォイスは笑って誤魔化すが、その大量の冷や汗がどれだけヤバいと感じたのかを物語ってるぞ。
「ま、気をつけてくれよな。で、どうなった?」
「何人か壁で死にましたけど、残りは全員降伏して、あっちに集めてます」
「本当か! もっと長引くかと思ったが、意外と大人しかったな」
「アルフレドのやつがよくやってくれた。どうやらあいつの知り合いが纏めてくれたみたいです」
「アルフレドが助けたいって言ってたやつか。ふーん、なぁヴォイスはアルフレドのこと知ってるのか?」
「俺とは勤務地が違ったから詳しくは知らない。けど、かなり優秀な人物って聞いたことがある。……まぁ辺境警備隊の中ではって制約がつきますがね」
「辺境警備隊? そういえば、お前達って辺境勤務だったよな」
「えっ!? ……そっか。元々俺たちが来ることは知っていたと。そりゃあ負けるよなぁ」
「今はそれどころじゃないけど、もし良かったら後でお前達のことも聞かせてくれないか? さっきは俺のことばっかだったもんな。まぁ無理にとは言わないが……」
「……時間があったら。それよりも今はこっちだな」
ヴォイスの案内でやって来た広場には、武装を解除した兵士たちがいた。大人しくしている分、探索隊よりはよっぽど話が分かりそうだ。
――――
「皆ご苦労様。おかげでスムーズにことが運びそうだよ」
俺はアルフレド達を労う。
「よしてください。俺はただ、知り合いを助けたかっただけです」
アルフレドはそう言っているが、若干照れてるように見える。
「少し聞いたけど、お前の助けたかった人物がここにいる奴らを纏めたってな。どいつだ?」
「えーと、それなんですが……あいつはここでは部隊長の役目をしていたんだ。シオンさんの話じゃ上官は責任とって殺されるんだろ? なぁどうか助けてやってくれないか?」
アルフレド俺に土下座をしながらお願いしてくる。土下座ってこの世界にもあるんだ……。
「別にいいぞ」
俺はあっさり了承する。
「えっ!? いいのか?」
簡単に了承されて逆に驚くアルフレド。
「ああ、別に俺は上官が嫌いなわけじゃない。無能で自分の行動に責任が持てない上官が嫌いなだけだ。お前みたいに慕っているやつがいて、この混乱をまとめられるやつが無能なわけないからな」
それに……と付け加える。
「ここの隊長と副長はすでに倒してしまったしな。元々部隊長くらいは別に気にもしないさ。さっきの戦いだって本当は総大将くらいしか別に処分しようとは思わなかったし」
「えっ? でも……」
「だから無能だったんだろう? あっちの部隊長もその部下も。俺は一言も部隊長も責任とれ何て言ってないぞ。勝手に勘違いして同士討ちしただけだ。そこを自分勝手に行動して……ちゃんとしてたら、向こうもここと同じようになってたはずさ」
部隊長が慕われてて部下に倒されなかったら? 責任逃れをしようとしなかったら? 同士討ちで五百も死ぬことはなかっただろう。
「俺達が愚かだったんですね。ちゃんと出来ていれば犠牲は遥かに少なく出来ていたんだ」
アルフレドは後悔しているようだが、多分どうにもならなかったと思う。
「まぁそれが出来ないから侵略なんてするんだろうな。と、いい加減紹介してくれよ」
俺がそう促すとアルフレドは一番前にいた男を呼ぶ。
「こいつ、俺の部下でロベルトって言います。実力はあるやつなんで、良くしてやってください」
どうやらロベルトはアルフレドの部下らしい。……ん?
「いや! お前の方が上官なのかよ!? そっちに驚いたよ! むしろお前が責任とれよ!?」
思わず俺はツッコんでしまった。
「いや、今回の作戦では俺はただの一般兵と同じ扱いだったんで。元々いた辺境警備隊ってとこでは隊長をしていました。で、こいつは副隊長」
「隊長って結構偉いよね? 何一般兵に紛れっちゃってんの!?」
「でも……それを言うならヴォイスのやつも隊長ですよ? 俺とは違う砦にいましたけど」
「お前もかよ!? どうりでお前たち二人は出来るやつだと思ったよ!」
ヴォイスは苦笑いで答えた。
「はは……まぁ俺たちは辺境兵ってことで、貴族兵や王国警備隊のやつらに疎まれてましてね。ここでは一般兵扱いに追いやられてましたから」
今回の二千は辺境の警備兵だけでなく、国中を見回る王国警備隊との混合部隊だったようだ。むしろ辺境兵はここの二百と探索隊に少しいただけらしい。王国警備隊は国中を見回るといっても、どちらかといえば、村に寄って年貢や物資を徴集するため、また余分に徴収したり村の女を好き勝手しようとする半ば盗賊のような集団らしい。
実力のあるヴォイスやアルフレドを隊長にすると、王国警備隊の隊長との実力差が明白になる。それを恐れた為、二人や他の辺境警備の隊長クラスを一般兵扱いにしたようだ。奇しくもさっき話していた異邦人の対応と似たようなものだろう。
「まぁいいや、やっぱり後で色々と聞かせてもらうからな! それで、えーと、ロベルトだっけ?」
「はい! ロベルトであります。ここの輸送隊の部隊長をしているのであります。普段はアルフレド隊長に扱かれております!」
バシッと敬礼をしながら答える。
「あー、そんなに畏まらなくてもいいから、もっと肩の力を抜いて……ね?」
「自分はこれが素なのであります。どうか気にしないで欲しいのであります」
どうにも堅苦しいやつだ。話してるだけでドッと疲れる。
「シオンさん、こいつ本当にいつもこうなんだよ。だから気にしないでくれ」
普段から辟易してるんだろう。アルフレドも諦めているようだ。
「そ、そうか、なら仕方ないな。それで、君達は俺に降伏したってことでいいのか」
「はい。全面降伏であります。呪いの説明も受けているのであります。全員了承しているので、いつでもいいのであります」
うっ、やっぱりこいつと話していると異様に疲れる。しかしこの人数を文句なくまとめてるんだから、確かに優秀そうだ。
「じゃあ今から全員に薬を配るから飲んでくれ。多分聞いていると思うが、俺からも説明させてもらう。この薬を飲んだら二つの制約が待っている。一つは俺に逆らわないこと。それからここのこと、今回のことの一切の公表を禁じるだ。何か質問はあるか?」
いくつか手が上がる。特に騒ぎもしないし、他の兵士もさっきの兵士たちより優秀そうだ。
「よし、じゃあ一番手前のお前からだ」
俺は一番近かったやつを指す。
「は、逆らうな。と言うのは具体的にどこまでを指すのでしょうか? 意見を申し立てるのも駄目なのでしょうか?」
「具体的には俺の命令に従ってもらうのを拒むことだ。まぁ俺はお前らの上官じゃないから、命令はほとんどしないと思ってくれ。あと、別に意見がある場合はしても構わない。俺だって間違うときはあるし、可能なことなら俺も出来る限りは善処する。まぁ無理な場合は諦めてくれ。例えば薬を飲みたくありませんは流石に聞けないぞ?」
俺が冗談めかして言うと、周りの空気も若干和らいだ気がする。よし、さっきと違いこっちでは掴みは成功したみたいだ。
「あ、あと、俺に襲いかかったり、逃げだそうとしたら、もちろん逆らったと見なされる。これでいいか?」
「はい。ありがとうございます」
質問者は納得して座る。
「よし、今の質問以外の質問はあるか?」
まだいくつかの手が上がる。……エイミーも手を上げている何でだ?
「エイミー、何でお前が手を上げているんだ?」
「質問があります! 影でこそっとシオンさんの悪口を言ったらどうなりますか?」
俺はジト目でエイミーを見る。
「お前は俺の悪口を影で言いたいのか?」
エイミーは慌てて首を振る。
「いえいえ、あくまで一般論であります」
エイミー、お前まであります口調は止めろ。
「あー、まず俺の陰口だったな。俺の陰口を話すと死ぬぞ」
「え゛っ? 死ぬんですか?」
予想外だったんだろう。エイミーが驚いている。
「ああ、まず俺のことを陰で話しているってことは、俺の存在、つまりここのことを話してるよな? その時点でアウトだ。あと、それが陰口じゃなくて本人に言えばどうだ? 例えば、お前たちの王の目の前で悪口は話してみたらどうなる? 不敬罪で殺されないか? それと同じだ。悪口イコール俺への反逆と見なされる。まぁ口に出さなければ大丈夫だ。王の前で悪口を考えても不敬罪にはならんだろう? 考えるくらいなら大丈夫だ。ってか、呪いをかけた奴を恨まないのはおかしいもんな? エイミー、口に出さないならいくらでも悪口を思っていいぞ」
最後は笑いながら答える。
「別に何も考えてないですよ。一般論って言ったじゃないですか。そんな意地悪言ってると考えるようになっちゃうかもしれませんよ?」
エイミーも冗談と受け取ったらしく、ニヤリとして答える。
うん、こう言った冗談を言えるのは正直助かる。他の兵士たちの緊張がさっきよりもなくなってきたのが分かる。
「さて、じゃあ次は……」
それからもいくつか質問が飛ぶ。
・今回の事というのは俺たちの遠征自体のことか? →具体的にはこの土地に来てからのこと。そのため何の目的で来たかは話すことができる。でも結果は話せないから話の流れ的には遠征のことも話さない方がいいだろう。
・話せないことは話せるのか? →話せる。呪いのため話せないとは言っていい。呪いの効果、話すと死ぬこと、解呪を試みると周りにも被害が及ぶことも話せる。だが、呪いをかけた人物や詳しい制約などは話せないので注意すること。
・俺たちは帰れるのか? →帰す。お前達を養う余裕はない。
さっきも話した内容ばかりだが、ここの連中はちゃんと質問してくれる分、探索隊とは全然違う。
「よーし、質問はもうないな。覚悟が出来たやつから飲んでいけ」
俺の言葉に一斉に兵士たちが飲んでいく。
「よし、じゃあ今からの流れを説明する。まずは探索隊と合流をする。その後、合流したら全員で帰ってもらうことになる。お前達には往復で迷惑かけるが、ここに置いておくわけにはいかないから連れて行くことにする。いいか?」
ロベルトが手を上げる。
「質問があるであります。ここに置いておくわけにはいかないとはどうしてでありましょうか? どうせ出られないならここで待ってても良いと思うのでありますが? それに、すでに薬を飲んで後は解散するだけなら今ここで解散しても問題ないのではありませんか?」
ふむ、と俺は考える。ここは森の外なので、城の結界の中に入ってもらおうと考えて、連れて行こうとしたんだが……確かに解放するだけなら別に今ここで解散してもいいよな?
「ちょっと待ってろ」
俺はそう言ってルーナに連絡する。
『どうされました、シオン様? 見たところもう終わっているように思えますが?』
やっぱりルーナはこちらを確認しているようだ。
「ここって結界の外だが見えるのか?」
ここはすでに千里眼ちゃんの視界の外のはずだ。
『上をご覧ください。ドローンが飛んでいますよ?』
俺は上を見る。そこには大型のドローンが飛んでいた。小型は俺が使ってるんだからあるわけないと思ったが、確かにドローンは大型も買ってきていた。じゃあさっきの広場ももしかしたらドローンで確認していたのかな?
「なるほど、じゃあ話が早いや、こいつらにもう【毒の契約】しちゃったんだが、ここでもう解放してもいいと思うか? わざわざ連れて帰るメリットはないと思うんだが?」
『ええ、その人数を連れてこられても困ります。元々全滅させる予定でしたし、解放しても問題ないでしょう。ですが、今回攻め込んできた賠償は求めてください。具体的には竜を。百単位で』
戦争は負けた方が賠償金を払うのは当然か。ルーナに言われなきゃ気がつかなかった。それにしても意外とがめついな。竜百体もどうするんだ?
「そんなに貰ってどうするの?」
『ツヴァイスの開墾に役立つかと』
開墾にどう役に立つかは分からないが、いないよりはマシなのは理解した。
「なるほどね、了解」
そう言って通話を切る。
「あの……シオンさん? 今何を?」
ヴォイスがおずおずと尋ねる。
「ん? ああ、城のやつと連絡とってた。便利なんだよこれ。ケータイって言って遠くのやつと連絡できるの」
「……人工遺物ってやつですか? とても魔道具ってレベルの物じゃないっすよ」
「……アーティファクトって何だ? これは元々俺が持ってきた道具を改造しただけだ。そうだ! 見てろ」
そう言ってエイミーに向かって写真を撮ってそれをヴォイスに見せる。どうせなら女性を撮りたいしな。
「エ、エイミー? これは? 一瞬でこんな詳細な絵を画けるというのですか!?」
「これは絵じゃなくて写真だけどな。他にも動画も撮れるんだぞ、エイミーちょっと踊ってくれ!」
「えっ? 何? 踊るって? 出来ないよそんなこと!?」
そう言いながら手を上げクネクネさせる。……何だろう、踊りというよりは得体の知れない物体の生体みたいになっている。流石に無茶ぶりが過ぎたか。
「すまん、エイミーには無理があったか。まぁいいか。ほれ見てみろ」
そう言って動画をヴォイスに見せる。さっきのエイミーが映し出される。
「ぷっ! ……すごいですねこれ。しかしこれが人工遺物じゃないのなら、俺は少し異邦人を恐れた貴族や王族の気持ちが分かりましたよ」
なるほど、未知は恐怖か。
ついでに聞いてみたが、人工遺物とは遥か昔に作られた魔道具で廃墟やダンジョンで発掘されることがあるらしい。ロストカラーズ時代に作られた魔道具は非常に強力な魔道具もあるらしい。過去には人工遺物一つで国を滅ぼすほどの威力を発揮したとかいう話だ。
「別に人工遺物みたいな危険な道具じゃないけどな。これとかただの便利な道具だ。あっもちろんこの存在も言ったらダメだからな」
「分かってますよ。こんなの口止めされてなくても言えませんよ。本当に全面戦争になってしまいます」
ヴォイスはとんでもないって手を振る。
「と、横道にそれちゃったな。ロベルト、おまえの意見を採用する。お前たちはここで解散して問題ない」
「本当でありますか!」
ロベルトが驚く。まさか本当にここで解放されるとは思わなかったのだろう。
「ああ、だが条件もある」
「条件……でありますか?」
「ああ、今回は俺たちは迷惑を被ったわけだよな? 普通、戦争で降伏した場合、戦後処理はどうなる?」
「それは……負けた国は勝った国に賠償を払っ……!? まさか金でありますか!」
「いや、金はいらない。その代わり、竜をくれ。もちろん全部とはいわない。乗ってきた分は乗って帰ればいいさ。でも死んだやつが多いから余ってるだろ?」
「はぁ。それくらいなら竜も戦死扱いに出来るので問題はないでありますが、それだけでよろしいのでありますか?」
「別に金には困ってないし、食料も必要ない、魔道具とかも持ってないだろ? あ、でも竜を城まで連れて帰るのが大変だから、何人かは残って手伝ってくれればありがたいな」
「それなら自分が残るのであります」
「えっ? お前が残ったら誰が帰りの指揮を執るんだよ。……ああ、アルフレドが指揮を執るのか?」
「はぁ? 何で俺が指揮を執るんですか? ってか俺はここで帰らないですよ」
「何でだよ! 帰れよ。なぁ」
そう言ってヴォイスを見る。
「えっ? 俺も残る気でしたが。ここで解散するのはここにいる輸送隊でしょう? 俺達の部隊は広場にいてまだ解散されてないですから」
「いや、解散していいよ。別に関係ないよ」
どうやら一緒に来た十人は俺と帰る予定だったようだ。解散してもいいといったが誰も帰らないらしい。
「あーじゃあもういいや、ロベルトぉ、こいつらが手伝ってくれるらしいからお前帰ってもいいや、ご苦労様」
「そんなぁ……。自分も一緒について行きたいでありますよ」
「何でだよ!? 付いてきても何もないぞ! ってかアルフレドが指揮を執らないならお前がこいつらを責任もって連れて帰らないといけないだろ? こいつら途中で迷子になったらどうするんだよ」
「いや、さすがに迷子はないだろ……」
アルフレドが冷静にツッコミを入れてくる。正直そのツッコミがちょっと嬉しい。
「でも、確かに上官としては責任持たないとな。なぁロベルト隊長」
アルフレドがニヤリと笑いながらロベルトに言う。
「うう、隊長非道いであります。横暴であります」
「いや、実際にお前が今は隊長なんだからな? 俺はしがない一般兵だ」
「全く……やつらは隊長をないがしろにして、本当に使えない奴でありました」
「おい、気持ちはわかるが、一応今回の総大将ですでに故人だ。死んだ人間まで悪くいうな。それに文句を言うなら、あの時直接言うべきだったんだ」
「……はい、申し訳ないであります」
俺はアルフレドに良いこと言うなぁと感銘を受けた。本当にアルフレドはいい上官なのだろう。
「よし、それじゃあロベルトは帰りの引率な。じゃあ俺達はとりあえず戻るか」
と思ったが、竜のこともあるし輸送隊が出発するまではここにいることにした。
――――
輸送隊の準備は一時間くらいで終了した。
「それでは、出発するのであります。シオン殿、お世話になったであります」
「何も世話してないけどな。気をつけて帰れよ。あと、くれぐれも禁則事項は破らないように。あと、いないとは思うが万が一薬を飲んでないやつがいたら、この扉くぐったら死ぬからな気をつけてな」
「はっ? ちょっと待つであります。その扉を通ると死ぬとはどういうことでありますか?」
「ん? ああ、この扉には毒が仕込んであるんだ。通ると死ぬ。だけど、呪いを受けてると中和してくれて死なずにすむんだ。まぁお前達は全員飲んでるから大丈夫だろう。広場では薬を飲んだ振りして捨てたやつがいたから大変だったぞ」
ロベルトはほっと胸を撫で下ろした。
「そう言うことなら大丈夫であります」
周りに慌てている奴も見当たらない、どうやら本当に大丈夫そうだ。
「それでは出発であります!」
ロベルトの叫び声で輸送隊が出発する。
全員を見送った後、俺は【絶対防御】を解除する。うーん、やはりかなり魔力を消費してるな。今も周囲の魔素を吸収しているが全然足りない。これ、満タンになるのに数日かかりそうだ。
「よし、じゃあ俺達も戻るか」
そう皆に言いながらケータイを掛ける。
「あ、トオル? 今、大丈夫?」
『全くシオンくんは人使いが荒いんだから。僕だって疲れてるんだよ?』
珍しくトオルが愚痴る。本当に疲れているようだ。
「結構マジで疲れてそうだな。お願いはしたけどそんな状況なら無理しないで大丈夫だぞ?」
『いや、疲れてるのは本当だけど多分シオンくん程じゃないから。それにもうすぐ着くよっと見えてきた』
森の入口を見るとトオルがやって来る。
と、突然トオルの手からすごい勢いでこっちに何かが向かってくる。
《シオンちゃん! 大丈夫だった!!》
どうやらスーラがトオルと一緒に来たらしい。
「ああ、スーラ。平気だよ」
そう言って定位置に乗せる。
「トオルすまないな。って、てっきり転移でくると思ったけど……? まさか魔力がないとか?」
「違うよシオンくん、僕の転移は登録した場所にしか行けないんだ。つまり初めての場所には行けないんだよ」
「あ、そうだったのか。だからいつもあの広場だったんだな」
「そういうこと。ここも今から登録するから、次からは来ることが出来るよ」
そう言いながらトオルはしゃがんで地面に手を付ける。手には魔法結晶を持ってるみたいだ。
「こうやって、魔法結晶にこの土地のデータを記憶させると、この魔法結晶を持っている限りここに転移することが出来るよ」
「へぇそう言う仕組みなのか。それ、魔法結晶の魔力がなくなったら使えなくなるのか?」
「転移には魔法結晶の魔力は使わないから無くなることはないよ。でも、これもケータイと同じ様に番号が必要だからね。まだ十ヶ所までしか登録できないんだ」
「そんな貴重な場所をここにしていいのか?」
「まだ十ヶ所使ってないし、上書きは可能だからね。問題ないよ。それに、この場所は便利だと思うしね。さてと登録完了っと。いつでもいいよ」
どうやら話しているうちに登録が完了したらしい。
よし、行くぞ。と、声をかけようとして、後ろを振り向くと、ヴォイス達はこっちをポカーンと見ていた。
「シオンさん、そちらの方は……」
代表してヴォイスは聞いてくる。
「あ、そっか。こいつはトオル。俺の仲間だ。魔法なら俺よりすごい。頼りになるぞ」
トオルがよろしくと手を振る。
「トオル、こいつらは一応捕虜かな? でも結構見込みのある奴等だぞ。で、今から見込みのない方の捕虜達のところに行くんだが……」
俺はさらに奥にいる龍を指差す。
「戦利品で貰った竜をどうにかしたいんだわ。とりあえずルーナがツヴァイスにって言ってるから、ツヴァイスまで送って欲しいんだけど」
奥には竜がきれいな整列をして待機している。
「へー、壮観だね。一体何匹いるんだい? ツヴァイスは登録してあるから大丈夫だよ。じゃあまずはツヴァイスに行って、その後広場まで送ればいいのかな?」
その通りだと、俺は頷く。
「了解。じゃあ行くよ!」
そう言ってトオルは転移の魔法を唱える。すると、目の前に空間の揺らぎが出てくる。いつもの転移と違う。これはまるでゲートだ。
「トオル、これは?」
「さすがに僕でもこんなに大人数を運べないからね。簡易ゲートを作ったよ。潜ったらツヴァイスに出るよ。そこにメイド警備隊が待ってるから」
一体いつの間にそんなことまで出来るようになっていたのか。俺はトオルの成長に驚くばかりだ。俺もこんな風な便利な魔法を覚えたいな。
「よし、ほら何してる。竜を連れてくから準備をしろ」
俺は手を叩いて指示出しする。
皆は何か聞きたそうにしていたが、とりあえず竜の移動を手伝ってゲートを抜けていく。
全員が入っていったのをみて、俺達も転移して行った。




