日本編④
「日本に帰れるやて!?」
「ああ。しかも時代的には四人が転移してから一年後の日本だ」
俺が次に誘ったのはミサキ、レン、リカ、ヒミカの四人だ。仕事終わりのようで、ちょうど四人で晩御飯を食べていたところに話を持ちかけた。
「一年後……」
リカが小さく呟く。
まだ一年しか経ってないと思ってるのか、一年も行方不明になってると思ってるのか、はたまた別の思いなのか俺には分からなかった。
「出発は十日後。滞在期間は五日程度。場所は元俺の家だから九州。久し振りの日本を堪能してもいいし、家族に会いに行くのもいい。そして……そのまま元の生活に戻ってもいい。四人は一年間の行方不明くらいなら復帰も出来るだろう」
高校には戻れないかもしれないが、社会復帰は十分できるはずだ。
「元の生活……」
「お父さん……お母さん……」
やはり四人とも思うところはあるようだ。
「すぐには決められないだろうから今は決めなくていい。だけど自分の将来だから、しっかりと自分で考えて決めてくれ」
「なぁシオンさん。今回を逃したら、もうチャンスはないんか?」
「いや、トオルが魔法を使えば何回でも行き来できる」
「なんや。せやったら、どっちか選ぶ必要はないやんか」
「だけどトオルが言うには乱発は出来ないそうだ。あまり頻繁にゲートを繋ぐと世界が混じってしまうおそれがあるらしい。だから今後は数年に一回の頻度になると思う。それに時間軸は固定するから、同じように時間の流れが過ぎていく」
もし本当に急用があればその限りではないが、そうでない場合は次に日本に行けるのは数年後になるだろう。
「じゃあ、もし今回の転移で帰らなかったら、次は数年後になるんか。しかも日本も数年後になっとる。仮に日本に残ったとしても、こっちに戻ってこれるのは数年後になる。結局どっちか選らばなあかんのやな」
「そういうことだ。もし日本に残るつもりなら……こっちでやり残したことのないようにな」
四人は黙って考え込んでいる。多分俺達に出会ってすぐなら悩みもせずに帰っただろうが、四人ともこっちでちゃんと自立しているから、今更帰れると言っても……ってところだろう。
しっかりと悩んで決めてほしいな。
――――
「へぇ日本に帰れるんだ。そうねぇ……アイリスの顔も見たいし、数日くらいなら行ってもいいわね」
四人と違い、完全に旅行気分のスミレ。日本で生活する気は完全にないようだ。
単純に娘のアイリスに会うためだけに行くって感じだ。
「スミレが大学時代に住んでいたマンションは俺が五年分の家賃を払ってるから、まだ残ってると思うぞ」
「本当っ!? だったらついでに私物を持ってこようかしら。あっでも埃だらけよね?」
「アイリスに合鍵を渡してあるから、アイリスが掃除してるかもしれないな。まぁどちらにせよ【キレイキレイ】を使えば掃除はすぐに終わるよ」
「……あっちでも平気で魔法を使うつもりなのね」
スミレは少し呆れたように言う。
「もちろん大っぴらには使わないけど……少し位はいいと思わない?」
スミレの部屋の掃除なら誰にも見つからないしいいと思う。他にも便利な魔法は色々と使わせてもらうつもりだ。というか、俺が既に電化製品以上に使い勝手のいい、魔法なしの生活に耐えられる自信がない。
「まぁ私がとやかく言うことではないから文句はないけれど、気をつけないと、アイリスやソータ君に迷惑が掛かるわよ」
「分かってるって」
流石にソータ達の迷惑になることは出来ないもんな。
「あっそうだ。アイラにも行くかどうか聞いといてくれないか?」
アイラは最近シクトリーナには殆ど帰ってきていない。相変わらずリュート達とずっと冒険者をしている。
スミレにはよく連絡をしているみたいなので、スミレに頼むことにした。
「アイラも連れていっていいの? 日本人じゃないわよ?」
「俺だってルーナとシーナを連れていくんだから構わないよ。それにアイラだってアイリスに会いたいだろ?」
「分かった。行くかどうか分からないけど、一応伝えてみるわ」
「あっだけどリュート達は駄目だって言ってくれよ。流石に人数オーバーになる」
「ふふっ分かったわ。でも彼らも一緒じゃないとアイラも行かないって言いそうね」
確かに……リュートとデューテ、それに今はラピスラズリの二人も加わって、五人はかなり仲良しになってるもんな。俺もたまに羨ましくなる。
しかしその四人を許せば、他のシクトリーナ外の人も許可せざるを得ない。
もしゼロやジョーカーズが自分達も連れていけとなったら……考えたくもない。
「まぁ本人の自主性に任せていいと思うよ」
来たければ来ればいいし、残りたければ残ればいい。なにせただの旅行だしな。
――――
「十日後だね。私は大丈夫だよ」
次は黄の国のキンバリー城でヒカリに確認。もちろん正面から入ると色々と面倒だから、ヒカリの部屋に転移しての不法侵入だ。……見つかったら捕まっちゃうかな?
「そんなに簡単に返事をしていいのか? 王子の妻になるんだから色々と忙しいんじゃないのか?」
ヒカリは次期王妃ってことだよな? 公務とか花嫁修行とかスケジュールがギチギチに管理されてそうだ。
「別に特別なことは何もしてないから大丈夫だよ。あっ畑だけは誰かに頼まないと」
何で次期王妃が畑を気にかけてるんだろう? というか、畑ってシクトリーナの畑だよな? キンバリーに住むことになっても、よくシクトリーナで見かけると思ってたが……もしかして、まだ毎日世話に来ているのだろうか?
俺がそこにツッコもうとすると、その前に部屋の扉をノックする音が聞こえた。そして返事を待たずに開かれる扉。
「ヒカリさ……あっシオンさん。お久しぶりです」
現れたのはゼスト王子。王子とはシーナが産まれたときのお祝いで会ったとき以来だから、確かに久しぶりかもしれない。
しかし……許可なく勝手に自分の婚約者の部屋に男が侵入してるんだから、ここは怒ってもいいところだと思う。
「あっゼストくん。ちょうど良いところに……あのね。私、数日間留守にしていいかな?」
「留守に……? どこかに行かれるんで?」
「うん。久し振りにお父さんとお母さんに会ってこようと思ってね」
「ヒカリさんのお父上とお母上ですか。……あれっ? 確かヒカリさんは……」
ヒカリが異邦人だと言うことを思い出したのだろう。王子はぐるりと俺の方を向く。
その目が『どういうことです?』と訴えている。
本当は後でヒカリから説明させようと思ってたんだけど……仕方がないな。俺は王子にも説明することにした。
「――そうですか。異世界を移動できるようになったと。私もシクトリーナの皆さんとはそれなりに長く付き合って参りました。天使との大戦や、ロストカラー……いえ、コローレでしたね。コローレの復興など、かなり非常し……いえ、破天荒な所をみてきました。しかしまさか異世界にまで自由に行き来するとは……」
なんだろう。非常識でも破天荒でもどっちでも失礼だと思うんだけど……気のせいかな?
「言っておくが、非常識の大半はトオルだからな。俺はどちらかといえば常識的な方だ」
トオルに姉さん。ゼロやエキドナ。うん、俺はまだまともだ。
「…………はぁ」
王子は随分と気のない返事をする。全く信じてないようだ。
「だからねゼスト君。数日だけだけど、留守にするね」
「はい。それは仕方ありませんが……」
あっいいんだ。やっぱりこの国の王族は随分と自由だよな。
「シオンさん。その旅……私も連れていってくれませんか?」
「はあっ!? 王子を連れて……いやいや、異世界ですよ?」
まさか付いてくると言われるとは思わなかったので驚いた。……そんなにヒカリと離れたくないのか?
「ヒカリさんのお父上とお母上に会われるのでしたら、フィアンセとしてご挨拶をするべきだと思うんですよ」
こっ、これはもしかして『娘さんを下さい!』ってやつか!?
……ちょっと面白そうだ。
「分かった。じゃあ王子も一緒に行こう」
「えっ!? いいのですか?」
「シオン君。本当にいいの?」
まさか簡単に了承するとは思ってなかったようで二人とも驚く。
「まぁ別に人数制限はないからいいよ。それに二人なら、滞在中はヒカリの実家に泊まればいいだろ?」
なら人数の面でも問題ない。ただし、あくまでも王子一人だけだ。もし女王にこの事が知れ渡ればとんでもないことになる。
『聞きましたかカナリア! すぐに準備をしますよ!』
『はい。お母様!!』
そう考えていると、本当に扉の向こうから女王の声がした。
「なっ!? ちょっちょっと待てえええ!!」
俺は慌てて扉を開けるが……そこにはもう二人の姿は見えなかった。しまったなぁ。まさか外で聞いていたとは……。
「王子。連れていくのは王子一人だけですからね。もし女王と王女が一緒に行くようなことになれば、王子も置いていきますからね」
「…………それは私を連れていかないと言っているように聞こえるのですが?」
……王子も女性陣には苦労させられているみたいだ。
「俺からは本当に行きたかったら頑張れとしか言えない。まっまだ十日あるから説得する時間はあるだろ。そうだっ! アズラットに相談してみたらどうだ? 彼なら女王を説得できると思うぞ」
アズラットはこの国の宰相で、俺達の秘密を知っている数少ない人間の一人だ。そして俺の友人でもある。
彼は偉ぶらないし、苦労性なところが俺とよく合った。
最近は二人で飲みながら愚痴を言うのが定例化している。
「確かにアズラットなら……」
「よし、じゃあ俺は帰る」
「えっ! せめてアズラットの所まで一緒に行ってくれないのですか? シオンさんがアズラットに言ってくれたら、アズラットも手伝ってくれると思うんだけど……」
「甘えるな。それに俺は今からラスボスの説得に行かなくちゃいけないんだ」
「ラスボスって誰?」
「…………姉さんだよ」
「えっ!? サクラちゃんは連れていかないの?」
「姉さんは今身重だから……。ゲートを使うなんて真似してお腹の子に何かあったら大変だろ?」
「うーん。シオン君の言いたいことは分かるけど、それでサクラちゃんが納得するかなぁ?」
「だからラスボスなんだよ」
本当は内緒で行きたいけど、それをすると後が怖いもんな。憂鬱だけど……俺は姉さんの所へ向かうことにした。
――――
「はあっ!? 私だけ残れってぇ? アンタ、それ本気で言ってんの?」
ドスの効いた声。めっちゃこええ……姉さんマジギレしてんじゃん。
「いやいや、ちょっと待ってよ! だってさ。姉さんは今は安静にしてなくちゃいけないでしょ!」
「安静にって……もう安定期だから大丈夫よ。むしろ多少は動いた方がいいのよ」
「それはそうかもしれないけど……ほら、ゲートを通るんだから、何か変な悪影響が出るかもしれないしさ」
「私の子がそんな柔なはずないでしょ」
「確かに姉さんの子だから、姉さんみたいに図太い可能性はあるけど、それでも姉さんみたいに心臓に毛が生えてる訳じゃないんだよ」
「誰の心臓に毛が生えてんのよ!!」
姉さんのハリセンが俺の頭を叩く。……流石に言い過ぎたかな?
でも昔なら間違いなくグーパンが飛んできていたよな。
お腹への反動を考えてハリセンにしているから、少しは大人しくなってるみたいだ。
「別に今回だけじゃないんだからさ。次で行くってことでいいじゃん」
「次って数年後なんでしょ? そんなに待ちたくないわよ。それに……父さんと母さんに報告したいのはアンタだけじゃないのよ」
それを言われると……弱いな。
「とにかくアンタの指示には従わないからね。どんなことをしても付いていくわよ!」
「もう……なぁセラからも何か言ってくれよ」
「シオン……諦めろ。ああなったサクラを止めることが出来ないのはよく知ってるだろ?」
セラは姉さんと結婚してから俺のことを呼び捨てタメ口を聞くようになった。というか、俺がそうさせたんだけど。
姉さんの旦那ってことは俺の兄になるってことだからな。本来なら俺の方が義兄さんと呼ばなくてはならない。
だけどセラに絶対に止めてくれと懇願されたため、互いにタメ口ってことで手を打った。
それから姉さんへの呼び方も姉御からサクラに変わっている。まぁこれは夫婦なんだから当然だけど……でもセラは慣れるまでは随分と苦労していた。照れもなく自然に呼べるようになったのは最近じゃないか?
まぁいくら呼び方を変えたとしても、セラが姉さんの尻に敷かれているのは変わらないんだけどな。
「セラ。他人事のように話してるけど、アナタも行くのよ?」
「はあっ!? 俺も行くのか!」
全く想像してなかったのか、セラが驚きに包まれている。
「当たり前でしょ。じゃないと私は誰を紹介すればいいのよ。それとも嫁の両親には挨拶すらしてくれないとでも言うつもり?」
「いや、そんな訳では……」
「じゃあ行くわよね?」
「…………はい」
弱い。弱いよセラ。せめてもうちょっと突っぱねて……うん。俺にも無理だわ。
そういうことで結局姉さんも行くことになった。




