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ロストカラーズ  作者: あすか
第八章 ロストカラーズ
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第317話 返事

連続投稿一話目です。

「さっ懐かしき我が家に到着っと」


「アイラ! レン! ヒカリ! 早速温泉に行こうよ!! そしてお風呂上がりにキュッと一杯」


 デューテが酒を飲む仕草をする。


「はぅ……その言い方はおじさんっぽいよ」


「そんなこと今はどうでもいいよ。もう限界まで我慢してたんだからさ……お酒を持って温泉でもいいくらいだよ」

「あっそれいいね。まずはお風呂で一杯やろうか」

「……私も賛成。ハーミットはどうする? ……そう。残念」

「ハーミットは何て言ったの?」

「テントが濡れるから温泉は無理だって」

「そっか。じゃあ四人でしゅっぱーつ!」


「おっおい! 勝手に……」


 俺が止める間もなく勝手に出ていく四人。


「妾は誘っては頂けないのですね」

「ティアマト姉様。わたくしたちはずっと海で休んでいたのですから……それに温泉は少し苦手です」

「確かにそうですが……仲間外れみたいで寂しいではないですか」

「姉様。それは些か子供っぽいと言いますか……とりあえずわたくし達も一旦帰りましょう」


「えっ? 二人とも?」


「シオン様。もしパーティー等をされる場合はお呼びください」


「えっ? いや……確かにパーティーはするかもしれないけど……その前に帰還のあいさ……」


 だがテティスとティアマトは最後まで俺の話を聞かずにさっさと転移してしまう。


「なぁリュート。お前は残って……」


 俺は振り向いてリュートに呼び掛けようとしたが、既にそこにはリュートの姿はなかった。


《リュートちゃんが後は任せたって》


 アイツ……クリスに会いに行きやがったな。

 それに気がつくとハーミットまでいないし……。


《皆早く帰ってゆっくり休みたいの》


「そりゃあ分かるよ。俺だって早く温泉に入ってベッドにダイブしたいもん」


 だが俺の言葉に返事をしたのはスーラではなかった。


「でもシオン様はそれをしちゃダメなの分かってるよね!」


 そこには満面の笑みを浮かべているティティがいた。


「やっぱり……駄目?」


「当たり前だよっ!! 連絡もなくいきなり帰ってきて……ちゃんと説明してもらうからね!」


 やっぱり今から帰るって連絡するべきだったか? でもそれでも精々数分しか違わない。


「仕方がないな……」


 俺はティティに尋問室へ連行された。ちなみにスーラは面倒だと思ったのか、俺から離れ、ヒカリ達の所へ向かっていった。

 くそっ裏切り者め。帰ってきたら揉みくちゃの刑にしてやる。



 ――――


「さぁ観念して大人しく全てを吐くんだ」


 ティティがバンっと机を叩いて俺にライトを向ける。……俺は何かの犯人なのか?


「いや、別に普通に話すけど……何でこんな所で話すんだよ。食堂とかでいいだろ?」


 せっかく帰ってきたんだから、アレーナの料理を食べながらゆっくり説明したい。


「カツ丼で良いなら準備させるけど?」


「……あくまでも尋問ごっこがしたいんだな」


 ティティとこんなやり取りするのも久し振りだな。


「別に尋問ごっこがしたい訳じゃないよ。でもさ、せっかく帰ってきたんだから、お祝いしたいじゃん。連絡なしで……しかも年内に帰ってくるなんて思いもしなかったから、全員大慌てで準備してるんだよ。だからそれまでの時間潰しってことで……ねっ!」


 確かに夏に出発してから半年ちょっと……年内に帰ってきた。しかも前もって連絡など一切してないから驚くのも分かる。そう考えるとさっきティティが俺の前に現れたのも驚くべき早さだったと思う。


「でも……時間なら自室で準備ができるまで寝てていいじゃん」


 正直疲れてるんだから、報告は後でもいいだろうに。


「それだと私が最初にお話聞けないでしょ!」


 ……結局ティティが話を聞きたいだけかよ。


「俺……何度も人に話したくないんだけど……」


「だから私が聞いて、伝えてあげるんだってば」


「……話を盛らない?」


「……多少は面白おかしくするよ!」


 そこは正直なんだ。でも……確かにティティに任せた方がいいかな。


「でもどうせならティティ以外にも聞いてもらいたいんだが……」


「素直にルーナ様に話したいって言えばいいじゃん!」


「ぐっ」


 図星を突かれ、俺は言い淀む。そもそも俺が帰ってきたら真っ先に来るはずのルーナが姿を現していない。何か取り込んでいるのか?


「ルーナ様が来なくて気になる?」


「そりゃあ気になるよ」


 何か前もティティと似たような会話をした気がする。あの時は……そうだ。天使との戦争でルーナが出撃して不在だったんだ。


「実はね……シオン様達が出発してから、ルーナ様が大変だったんだよ」


「えっ!? ルーナに何かあったのか!!」


 俺は机を叩きながらティティに詰め寄る。


「はいはい。慌てない慌てない。というか、近すぎるから離れて!! 離れないとチューしちゃうぞっ!」


「えっ!? ああ。ごめんごめん」


 俺は慌ててティティから離れる。……って、今とんでもないこと言わなかったか?

 だがティティに変化はない。

 そもそも、いつもなら『はにゃっ』とかあざとい悲鳴をあげて赤面しそうなんだが……俺の聞き間違いだったかな?


「あのねっシオン様が出発した後でようやくプロポーズされた実感が出てきたみたいで……恥ずかしさのあまり、三日間部屋に籠って出てこなかったんだよ」


 ……何してるんだルーナは。


「んで、ようやく出てきたかと思えば、暇があるとニヘラって気持ち悪い笑みを浮かべたりしてたの」


 気持ち悪いって……仮にも上司相手だぞ。


「その後しばらくして落ち着きを取り戻したかと思ったら、今度はシオン様が数年は戻らないことを実感して、寂しいのか時よりボーッとしててね。何でもないところで躓きかけたり、壁にぶつかったり、ルーナ様らしくないポカを連発してたの」


 いや、ルーナは意外と残念なところがあるからそれはあまり驚かないぞ。


「そしてようやくシオン様が居ないことを受け入れて、数年待つ覚悟が出来た途端にシオン様が帰ってきちゃったの。帰ってきたらプロポーズの返事をしなくちゃいけないでしょ? 数年は返事しないとたかくくってたのに、いきなり心の準備もなく返事なんて、ルーナ様が出来るわけないじゃん。嬉しさより恥ずかしさがまして……また籠っちゃった」


「本当に何やってるんだか」


「いやぁそうは言うけどね。シオン様だってプロポーズするのに随分と日数を有したじゃん」


 ……まぁ確かに。


「しかもシオンさんと違って、ルーナ様は数百年も生きてて、初恋なんだよ。まだ恋愛に対して初心(うぶ)なんだよ。思春期真っ盛りなんだよ」


 いやぁ思春期は言いすぎじゃ……。


「だからね。ルーナ様の心の準備が出来るまで少し待っててあげてね」


「まぁそれはいいけど……」


「じゃあ分かったら最初から全部白状するんだ」


 結局尋問ごっこに戻るわけね。まぁ良いけど。



 ――――


「へぇ。じゃあ皆で力を合わせて穴を塞いだんだ。ドラマみたいだね!」


「いや、ティアマトとテティスは役に立ってないから全員じゃないけど……」


「そこは全員ってことにしておこうよ! じゃないとティアマト様が凹んじゃうよ」


「まぁその辺は盛りすぎないように脚色していいよ」


 それにそこでは活躍してないけど、その後の復興では十分活躍してくれたしね。

 ティアマトは昔を思い出しながら、大陸中の川や湖を再現していた。今はまだ生物は棲んでないけど、その内新たな生命があそこから誕生するはずだ。


「そんで、シオン様とデューテ様が二人っきりで大陸中を旅してたの?」


「その予定だったんだけどね。やっぱり【死の呪い】の中を旅するのが面白くなかったみたいで、一個目の世界樹の種を植えた後は、デューテも復興の方に参加しちゃったよ」


 だから殆ど俺達だけで大陸中に世界樹を植えた。

 一応道案内役でトールは貸してくれたけど……お陰で随分とトールと打ち解けてしまった。


「でもでも。それでも数年は掛かる予定だったんでしょ?」


「確かに俺達もその予定だった。だけどな……予想以上に事が上手くいったってことだ」


「上手くいきすぎてない?」


「種明かしすると、数年って最初に言ったのは長老様だったんだよ。んで、長老様は転移の便利さを知らなかった。俺達が順番に歩いて世界樹を植えに行くと思っていたんだよ」


 だが結果は俺が数日かけてホリンに乗って世界樹を植える。そしてそこに転移登録して一旦転移で帰る。その後でヒカリやレンを使ってその世界樹を成長させる。

 そして拠点に戻って別の方向へ世界樹を植えに行く。長老はその行程を数ヵ月掛かると思っていた。だが実際は数日で済んだ。


 後は繰り返しそれをやりつつ、畑仕事をしながら復興。

 大陸中の【死の呪い】が無くなったら、結界を壊して無事に帰還って訳だ。


「結界を壊したら、転移とケータイ両方が復活するからな。連絡するよりも直接帰った方が早いと思ったんだ」


「じゃあ結界を壊してすぐに帰ってきたの?」


「ああそうだ。野菜は大分取れるようになってきたけど、肉はないし、調味料も底を付いちゃったからな。それに最も活躍してくれた【キレイキレイ】も節約していたし……まぁとにかく皆限界だったんだよ」


「何て言うか……不便な生活が我慢できない現代っ子って感じだね」


「まぁ確かに。俺達がここに来る前は調味料も【キレイキレイ】も無いわけだし、というか野菜すら限られていた。だけど……この生活になれちゃったら、もう無理だよ。ティティだって調味料も肉もない場所で長期間のサバイバルをしろって言ったら無理だろ?」


「私はシャワーが使えないのが嫌かなぁ」


「こっちはシャワーなんて半年使ってなかったんだからな」


「あっじゃあ私には無理だね」


「だろ? 全員限界だったんだよ。まぁ数日休んだらまた様子を見に行くからさ」


「また長期間行くの?」


「いや、どちらかと言うとツヴァイスの時のようにゆっくりやるかな。転移も設定したから誰でも行けるようになったしね」


「じゃあ誰でも自由にロストカラーズに行ってもいいの?」


「ああ……だけど、あそこはもう色のない世界じゃないから、ロストカラーズじゃないんだ」


「じゃあなんて名前なの?」


「俺が勝手に決めていいか分からなかったから仮名だけど……コローレって名前にしようと思う」


「コローレ?」


「ああ。この大陸はカラーズ。カラーって色の意味があるだろ? コローレも色って意味があるんだ」


「へぇ。コローレ大陸か……。うん! 良いと思うよ」


「本当か!? いやぁティティにそう言われると自信がつくなぁ」


「……相変わらずシオン様は私に変なイメージを抱いてるんだね」


「そうか? 半年ぶりに会ったティティは変わらずいい女だと思ってるぞ」


「はにゃっ!? も、もう何言ってるのか……ほら、もう話が終わったから休んでいいよ!」


「えっ? 準備が出来るまで閉じ込めておくんじゃなかったの?」


「あのねぇシオン様。こんなに急に帰ってきて、数時間で準備できるわけないじゃん。働いてる人もいるんだから、ちゃんと日を改めてパーティーをするんだよ」


「ってことは俺はティティに騙されてたのか?」


「そういうことになるね。あっカツ丼はすぐに準備できるよ?」



 ――――


 俺はカツ丼を食べて自室に戻った。

 スーラは……まだ戻ってきてないか。

 もしかして、俺のいないところで美味いものでも食べてるんじゃないだろうか?


 ――探しに行くか? いや、いいや。それよりも……俺はベッドにダイブする。


 バフッと勢いをつけても誇りが舞わない。俺の不在の間もちゃんと掃除をしていてくれたみたいだ。


 それにしても……俺のベッドって、こんなにもフカフカで気持ちよかったっけ?

 いかん。このままなら一瞬で眠ってしまいそうだ。せめてシャワーを浴びて着替えなくては……。


 ――コンコン。


 ドアがノックされる。誰だろう? ティティがまた何か言いに来たのか?

 俺が扉を開けると……。


「シオン様。お帰りなさいませ。お出迎えにいかず申し訳ございません」


「ルーナ……」


 そこに居たのはルーナだった。半年ぶりのルーナは見た感じどこも変わっていなかった。ティティの言っていたような初心なイメージはない。……心の準備ってのが出来たのか?


「入っても……宜しいでしょうか?」


「えっ? あっああ。いいぞ」


 俺はルーナを部屋に招き入れる。ヤバい少しドキドキしてきた。


「……スーラさんはいらっしゃらないのですか?」


「ああ。俺がティティに連行された時に逃げ出しやがって……今頃温泉にご飯に楽しんでるんだろうよ」


「ティティから少し伺いました。とても辛い旅だったそうですね」


「ああ。色んな意味で辛い旅だった」


 主に食事や生活の面で――精神的に辛い旅だった。


「わたくしも……」


「ん?」


「シオン様が今まで不在にしていた黄の国の旅や青の国とは比べ物になりません。転移で帰ってこれない、連絡が出来ない。それがこんなにも辛いことだとは思いもしませんでした」


 俺も、黄の国や青の国の時は連絡なんて……と後回しにしていたけど、それは何時でも連絡が出来るから。転移ですぐに帰ってこれるからと環境に甘えていたと痛感した。


「シオン様。出発前のことを覚えておりますか?」


「ああ。返事を……聞かせてもらえるか?」


 俺がそう言うとルーナが一歩俺に近づき……優しくキスをする。


「これが返事じゃいけませんか?」


「いや、十分だ」


 俺はルーナを抱き寄せて、今度は俺の方からキスをした。

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