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ロストカラーズ  作者: あすか
第八章 ロストカラーズ
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第315話 完全なる無

 俺は【死の呪い】の柱へダイブした衝撃で意識を失いかけた。


 ――危ない危ない。ここで意識が無くなったら【毒包囲】も消えて、一瞬で消滅してしまう。

 意識を失いかけたのは別に【毒包囲】が破られた訳ではない。


 柱の中と外では空気――いや、世界が全く違った。


 外も【死の呪い】が蔓延していたが、それでも不思議と大気や重力は存在していた。これは大地が残っているのと同じ理由だと思う。

 もし大地そのものが消えてしまったら、発生源も消えてしまい【死の呪い】が発生しなくなる。

 【死の呪い】は全てを無に返そうとする。少しでも不純物があると、そこに向かって消滅させる。まるで意思のある生物のような存在だ。だから【死の呪い】自体が発生しなくなる元までは消滅させない。そう考察されていた。


 だがこの柱の中は違う。大気はおろか、重力すらない。完全に無の世界だ。

 さっきの衝撃はいきなり宇宙空間に放り出されたイメージに近いかもしれない。

 【毒包囲】が宇宙服の役割をしていたから、何とか意識を失わずに済んだと言うことろだろう。

 今の俺は【毒包囲】がなければ息すら出来ない。逆に言うと【毒包囲】の中の酸素が無くなれば……。


 ――長居は出来ないな。

 俺の【毒包囲】もいつ破られるか分からない。さっさと済ませることにしよう。


 しかし……肝心の発生元はどこだ?

 【毒包囲】の外は完全な闇。真っ暗で数センチ先すら見えない。その上無重力。正直地上がどっちかも分からない。

 まぁダイブした時にひっくり返ったりしてないから、現時点で足がある方が地上だとは思うが……現時点で浮いていて、地面に触ってないから確かではない。

 これは……下手に動くと完全に分からなくなるな。


《あっちばぶぅ》


 手に持っていた世界樹の苗木が一枚だけ葉を揺らしながら念話を飛ばす。どうやらこの柱の中でも念話は出来るようだ。


 俺は緑属性じゃないし植物と話が出来る魔法は使えない。だから普段世界樹と念話が出来るのは、レンが俺にも聞こえるように魔法を唱えてくれていたからだ。この柱の中では完全に世界が違うからレンの魔法は届かないと思っていたけど……俺に直接付与しているから効果が持続しているのかな?

 そういえばレンは離れていても会話が聞こえると言っていたが……流石にここの会話は聞こえないだろうなぁ。


「あっちって……その葉が動いている方に行けばいいのか?」


《そうばぶぅ》


 長老にはいつも敬意を払っていたけど……流石に同じ世界樹でも、これに敬語は使いたくない。というか、長老とすら呼びたくない。

 しかし現時点で頼れるのはこの苗木だけ。

 非常に頼りない相棒だが信じるしかないな。

 ……離れてみてよく分かるスーラの頼もしさってな。肩で喚いているだけじゃなかったんだなぁ。



 ――――


 苗木が示す方向を頼りに真っ暗な中を進んでいく。が、無重力なのでとにかく動きにくい。しかも【毒包囲】で自分を囲んでいるから、自分が動くんじゃなくて【毒包囲】を動かさないといけない。球体の【毒包囲】の中で必死に走る俺。気分はハムスターだな。


 しばらく進むと、【毒包囲】の表面に何か抵抗を感じる。【死の呪い】がさっきよりもこっちに当たってる。かといって襲い掛かって来る……とは少し違う気がする。まるで風に飛ばされたような当たり方に近い。


《あそこの穴から噴き出ているばぶぅ》


 暗いから見えないけど、どうやら間欠泉のように【死の呪い】が噴き出しているようだ。


「……じゃあその穴を塞ぐように植えればいいんだな?」


《そうばぶぅ》


 うーん。植えるってどうすればいいんだろう?

 そもそも現状ではどのくらいの大きさの穴かすらも分からない。この苗木で塞げるくらい小さな穴なのか?


 それにその穴に向かって行くなら噴き出ている【死の呪い】に直接当たるんだろ? 噴出の威力で【毒包囲】が破れてしまう可能性がありそうだ。そうなると俺が消滅してしまう。


 せめてここから穴の大きさが分かればなぁ。


《まずご飯を食べて、おっきくするばぶぅ》


「おっきくするって……成長させろってことか? ここにはレンもヒカリもいないんだぞ?」


 第一、三枚の葉から八枚の葉にするだけでもずいぶん魔力を消費したと聞いたぞ。


《そこにご飯がいっぱいあるばぶぅ》


 ……あっ!? そっか。根本的なことを忘れてた。世界樹は【死の呪い】を防ぐだけじゃなくて、栄養に変えて成長するんだった。

 この大陸に来てからはずっと【毒包囲】の中にいて【死の呪い】に当てられていなかったから成長してないだけ。

 だから【毒包囲】の外に出してやれば周りの【死の呪い】を吸収して成長するんだ。じゃあ……別にレンとヒカリにお願いして成長させる必要もなかったんだな。


 俺は早速、苗木を【毒包囲】の外に放り投げる。

 一瞬だけ【毒包囲】に小さな穴が開いて、【死の呪い】が流れ込む。


「おわっ!?」


 俺は慌てて【死の呪い】にエリクサーを撒く。少量ならエリクサーで中和されるのは実体験で実証済みだ。


 ――うん。【毒包囲】の中に【死の呪い】は全部無くなったな。

 さて、苗木はどうなったかな?


 俺が投げた方を確認する。まぁ真っ暗だから確認できない……と思ったけど、前方に一ヶ所だけ暗闇じゃない部分が出来上がっていた。

 もちろん苗木を投げた場所だ。そこには苗木を避けるかのように外と同じ灰色の空間が出来ていた。そして苗木がまた少し大きくなっていた。その空間分の【死の呪い】を食べて成長したってことか。


《どんどん食べて大きくなるの!!》


 語尾のばぶぅが無くなる。本当に成長しているみたいだ。


 俺が見ている間も世界樹はどんどんと大きくなっていき、明るい空間も範囲を拡げていく。

 それにしても……明るくなった空間に新しく【死の呪い】が入ってこない。

 まるで【死の呪い】が本能的に避けているようだ。


《お兄ちゃん! ここなら安全だよ!!》


 確かに見るからに安全そうだ。俺は世界樹の元へと駆け寄った。

 しゃがんでようやく入ることの出来る大きさの空間だったが、そこには重力と大気があった。


 【毒包囲】は解除しないが、ようやく落ち着ける空間が出来てホッと一息つく。やっぱり地面に足がつくと安心する。


《ねぇ。そろそろ足元が窮屈だから、早く植え替えてよ!》


 確かに……今の世界樹は俺の胸の辺りまで成長している。苗木が植わっていた鉢植えのままでは根っこが大変なことになっていそうだ。とりあえず世界樹を鉢植えから取り出す。うん、この程度なら持ち上げられるな。だけどこれ以上大きくなると持ち運ぶのが大変そうだ。


「ふむ。じゃあこのまま穴を塞いでしまおうか?」


《うん。もう大丈夫だと思うよ!!》


 しかし……今の世界樹は元気な子供って感じだ。元はあの長老とは思えないよな。


「自分で歩くことは出来ないのか?」


《木が歩くわけないじゃん。お兄ちゃん馬っ鹿だね!》


 ……元気というか、ただのクソガキだな。


「歩けなくてもさ。根っこを伸ばして自分で穴まで行くことは出来ないのか?」


 やはり俺が穴に行くのは危険だからな。出来るだけ世界樹に任せたい。


《だーかーらー。そんなこと出来るわけないじゃん》


 くっそムカつくガキだな。


「……じゃあ俺が連れていくが、レンにはお前が一人じゃ何もできない役立たずだったと伝えるからな」


《お兄ちゃん!! 僕、頑張ってみるよ!!》


 俺が脅すと途端に態度を翻す。やっぱり出来るんじゃねーか!!


 レンに聞いたことがあるが、植物が動いたり根っこを伸ばすのは魔法じゃないらしい。魔法はあくまでも植物と話を聞くためで、植物が動くのはその植物の力だと言う話だった。

 以前エキドナが植物の蔓をトールに絡ませたことがある。それからサボテンの根っこを伸ばしたことも……。あれも魔法じゃなく植物にお願いしたってことだったんだ。


 なら普通の植物に出来て、世界樹に出来ないはずはない。

 出来ないっていったのは、俺のお願いを聞きたくないのか、面倒くさいかのどちらかだろう。多分前者かな?


 おそらくゴーレムメイドのイチカのように、お願いを聞く人と聞かない人がハッキリと分かれているのだろう。お願いを聞く条件は緑属性で植物と意思疎通が図れることかな?


《でもひとりじゃ無理だから、お兄ちゃんも手伝ってね》


 まぁ手伝うのは仕方がないだろう。


「何すればいいんだ?」


《僕が穴の周りを根っこで覆うから、お兄ちゃんは僕の体を穴の上に乗っけるんだよ》


 なるほど。本体を運べってことか。


「分かった。穴から【死の呪い】の噴出を防いでくれたら、俺が本体を連れていく」


《あとママに僕がちゃんと役に立ったって伝えてよね!》


 ……いつからレンはママになったんだろうか? どっちかと言うと、孫みたいな感じだったのに……。


「なぁひとつ聞いていいか? お前は……カラーズにある世界樹の長老様と繋がってないのか?」


 確か枝分かれしてもひとつの存在って言ってたと思うけど……。


《うーんと。記憶や意識は共有してるけど、僕は僕かな? ほら、迷いの森とママと初めてあった僕は違ったでしょ?》


 そう言われれば……お互いのことは知っていたけど、別とも言っていたような……良く分からんが、道化師みたいに多重人格みたいなものと思っておこう。


《もういい? 始めるよ?》


 今考えることでもないし、世界樹がやる気を出している内にさっさと済ませてしまおう。


「ああ。頼む」


《じゃあ体を持ち上げてね》


 俺は言われた通り本体を持ち上げる。


《そのまま足を正面に向けて!》


 俺はバズーカ砲を構える要領で、世界樹を肩にからう。すると世界樹は四本の根を一気に成長させ、正面の闇へと向かっていく。


 四本の根はそのまま大きなカーブを描いて地面に突き刺さった。

 突き刺さった根は周囲の【死の呪い】を吸収し始める。


「おっとと」


 その勢いに飲まれて思わず前のめりになる。


《お兄ちゃん。大丈夫?》


「ああ。大丈夫だ」


《じゃあ、あそこに僕を植えてね》


 体勢を立て直して正面を確認する。突き刺さった四本の根の中央に直径五十センチ程度の穴がある。……あの穴から【死の呪い】が噴き出していたのか?

 想像よりもずっと小さい。でもあれならいける!


 俺は世界樹を抱えてダッシュ。穴に向けて勢いよく世界樹を降ろした。

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