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ロストカラーズ  作者: あすか
第八章 ロストカラーズ
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第314話 目的地

「ねぇシオン君。何でメタトロンはあんなところに像を立てたんだろうね?」


「そりゃあ、あそこで限界だったからじゃないか?」


 メタトロンとラファエル。二人はこっちに転移して、ここまで移動したけど、とうとう限界が来た。そこで最期の力を振り絞って像を作ったと考えられる。


「そうじゃなくて、シエラさんの転移って同じところに転移するよね? なら……何を目指して三千キロも離れたこの場所まで来ていたんだろうなぁ? って思って」


 ふむ。確かにヒカリの言う通りだ。

 俺はメタトロンの痕跡があるのは転移した場所だと思っていた。

 だから転移先になかったからてっきり痕跡は消されたか、作る前に消滅したかのどっちかだと思っていた。


 メタトロンは俺達みたいに【死の呪い】に耐性なんてない。防御魔法で防ぎながら移動していたのだろうが……。

 俺達が一ヶ月半掛けて移動した距離を、魔力の回復も出来ない上に、食料も何もない状態でここまで来た。いくら空を飛べるといってもかなり厳しいことには違いない。


 そこまで必死になってここまで来た理由。


「もしかしたら、ここがエデンだったのかもしれないな」


 今は見る影もないが、この大陸で一番美しいと言われていたエデン。

 天使達が最初に地上を手に入れようとした場所だ。メタトロンにとっても一番思い入れのある場所に違いない。


《シオンよ。もしここがエデンなら、世界樹のあった場所まで後少しだぞ》


「本当か!?」


《うむ。我の記憶では、エデンは世界樹の隣国であった。仮にここがエデンの端であろうとも、後数日もあれば辿り着くであろうな》


 それが本当ならかなり有益な情報だ。

 まぁ何も目印がないから、本当にここがエデンかどうか分からない。だけど、俺はメタトロンがどれだけ執着していたか知っている。

 そのメタトロンが場所を間違えるはずはないし、中途半端に朽ち果てる筈もない。うん、ここはエデンで間違いないはずだ。


「トール。流石この大陸の出身者。ナイスな情報だ。いやぁ水槽に入っているだけの誰かとは大違いだなぁ」


 俺は皮肉を込めてチラリとティアマトの方を見る。


「……テティス。言われてますよ」


「いえ、この大陸出身と言ってもわたくしは赤子でしたし、間違いなくティアマト姉様のことだと思います。事実、姉様はここに来てから何ひとつ活躍を――むしろ足手まといになっておりますからね」


「なっ!? 何もしてないのはテティス同じではありませんか!!」


「あら……シオン様はわたくしをスケベな目で見ております。目の保養として十分に役に立っておりますわ」


「ちょっと何言っちゃってんの!?」


 黙って聞いていればとんでもないことを口にしやがった。


「うわっシオン。サイテー」

「シオン君。ルーナが居ないって言っても、プロポーズしたのにそれはないと思うよ」

「はぅぅ……不潔」


 案の定、俺を見る女性陣の目が一斉に冷たくなる。


「いやっそりゃあ確かに目のやり場に困るなぁとは思ってたけど、別にそんな目で見てないって!! それに俺よりもリュートの方がガン見してたぞ!」


 このままでは俺が変態の烙印を押されてしまうと思い、リュートを生贄にすることにした。


「なっシオン!? いくら自分が避難されているからって、冤罪は酷いよ!!」


「冤罪なものか。俺はリュートがテティスの方をチラチラと見ていたのを知っているぞ」


「リュート。最低」

「あーあ。これだから男ってやつは……」


 ふふっリュートも白い目で見られるがいい。


「シオン……酷いじゃないか」


「うるさい。ここでは男は一蓮托生だ」


 俺だけが理不尽な目に遇うなんて絶対に御免だ。


「分かりました!! では妾も脱げば……」

「「止めてくれ!!」」


 俺とリュートは同時に叫んだ。なんて空気の読めない奴なんだ。これ以上変態呼ばわりはされたくないし、ティアマトが脱いだとゼロの耳に入ったら俺とリュートは殺されかねない。本当、これ以上の厄介事は勘弁してくれ。



 ――――


 俺とリュートが理不尽な目に遭ったが、久し振りに皆に元気が戻った。

 今までは先が全く分からなかったから不安だったが、目的地に近づいているのが分かると、明確にやる気が変わってくる。


 まぁティアマトだけは少し不服そうだけど。ちなみにテティスはティアマトに言われて白いTシャツを着用した。

 確かにこれで上半身の露出は抑えられているが……白だと濡れて透けるからあまり変わらない。

 むしろTシャツがピタリと肌に貼り付いて、よりエロく感じる気がするのは俺だけだろうか? ……まぁ指摘して変態呼ばわりされたくないから黙っているけど。


《シオンちゃん。じゃあ一気に先に進むの》


「ああスーラ。よろしく頼む」


 さっきの話し合って出し惜しみせずに急いで進むことに決定した。

 スーラには更に負担を掛けるが、魔法結晶はかなり節約できていたので、魔力の消費を気にしなくていいように言ってある。


《じゃあスーラカーの形を変えるから皆一旦降りるの》


 言われた通り全員がスーラカーから降りる。……水槽を降ろすのが大変だったけどな! うん、やっぱりティアマトは足手まといだな。

 ハーミットは大分軽くなったのか、自分で降りることが出来ていた。主に重かった原因は魔力回復ポーションと食料だからな。あと……水槽もか?

 台車を使わなくてよくなったせいで、アイラが少し寂しそうにしていたのが印象的だった。


 全員が降りるとスーラは楕円形に膨らむ。これってもしかして……。


《名付けてスーラ気球なの!》


「いや、気球と言うより飛行船……って!? 空飛ぶの?」


《そうなの! 地面を這うよりも空飛んだ方が速いの。多分倍以上早く到着するはずなの!!》


「いや、でもスーラは長時間飛べないじゃん。それに羽もないし……」


《これは風の魔法結晶と炎の魔法結晶で浮かぶの。だから私の魔法は関係ないの》


 風と火で飛ぶ……か。確かに気球だな。


「そっか。……なぁひとつ聞きたいんだが、魔力を消費しないのなら、何でさっさと空を飛ばなかったんだ?」


 スーラの言うことが確かなら、初めからスーラカーじゃなくてスーラ気球で良かった気がする。それなら半分の時間でここまでこれたんだよな?


「そうだね。倍以上の速度が出るなら最初から使ってればもう辿り着いてたかも」

「魔力もそんなに消費しないのなら魔力ポーションがあるうちに使ってれば、僕やアイラも手伝えたからもっと早く到着したかも」


 俺の意見にデューテもリュートも賛同する。


《…………シオンちゃんが空飛ぶの嫌いだからなの》


 スーラがとんでもないことを言い出す。そしてその言葉に全員が俺を向く。


「絶対に違うよね!! ただ単に思い付かなかっただけだよね!!」


 全く。すぐに俺のせいにしようとする。


《違うの!! シオンちゃんは飛行船の建造を中止させようとするくらい嫌いなの! だから最終手段に取ってたの!》


「はう。そういえば飛行船の件でミサキちゃんと言い争ってた」

「じゃあ僕らはシオンのせいで、無駄な一ヶ月を過ごした訳だね」

「シオンが高いところを苦手なのは知ってるけど、ちょっとあんまりじゃない?」


 えっ!? 皆それを信じちゃう感じなの!?


「いやっ本当に違うんだ! 俺じゃない。スーラだ。全部スーラが悪いんだ」


《シオンちゃん。往生際が悪いの。早くごめんなさいをするの》


 コイツ……。俺は肩にいる本体を鷲掴みにしてもみくちゃにする。


《わっちょっ何するの!?》


「うるさい。お前なんかこうだ!」


 俺はスーラをビヨーンと引き伸ばす。


《やーめーるーのー》


 そんな俺とスーラのやり取りを全員が冷めた目で見つめていた。



 ――――


「……ちょっと。これ、冗談抜きに今までと段違いなんだけど?」


 砂に足を取られないし、【死の呪い】のせいで魔法以外の風もないから逆風もない。落ちる心配さえなければ、倍どころか三倍は距離が稼げそうだった。

 それにスーラ気球は空に浮かんでいるので、スーラカーに比べると揺れがない。その為、夜も休まず飛び続け、目的地へ近づいていった。


《でも、最初の頃は荷物が多くて飛べなかったの》


 ハーミットが台車を使わなくていいくらいまで軽くなったから、スーラ気球が使えるようになった。俺とスーラはそう結論付けた。じゃないとまた喧嘩になっちゃうもんな。まぁ全員見ている中で決めてるんだから、誰に言い訳してるんだって話だが。


 とにかくスーラ気球に乗って数日。ついにその場所が見えてきた。


「どうやらあそこが【死の呪い】の発生源のようだな」


 最初に発見した時は【死の呪い】が集まっているだけかな? と思っていたのだが、近づくにつれそのヤバさが分かってきた。

 どこまで繋がっているか分からない……天まで届きそうな灰色の柱があった。

 もちろん柱といっても物体じゃない。【死の呪い】のみで構成された巨大な柱だ。あの柱の根元が【死の呪い】の発生源に違いない。

 根元から発生した【死の呪い】が上昇して柱のように見えているのだ。

 これは予想だが、上昇した【死の呪い】が防御結界に阻まれ、そこからこの大陸中に広まったに違いない。


 あまり近づきすぎても危険だと判断したので、俺達は数百メートル離れた地点でスーラ気球から降り、待機することにした。


「あの柱にダイブしたら一瞬で消滅してしまいそう」


「ああ。まず間違いなく消滅するだろうな」


 地上に降りると、更にヤバさを実感する。

 心情的には今すぐに回れ右して逃げ出したい。


「……妾はあの中にダイブしたんでしょうね」


 ティアマトが冷や汗を流しながら呟く。

 確かに……今と同じ状況かどうかは分からないが、一番最初に【死の呪い】が発生した時に、あそこにナンムが世界樹を植えた。

 長老は全てを賭して植えたって言ってたけど、あれをみればティアマトとして生まれ変わっただけでも大したものだ。まぁティアマトはちょっと残念な感じだけど。


「今回はシオンがあの中にダイブするんだよね?」


 ……やっぱりそれしかないよなぁ。俺以外がダイブしたら一瞬で消滅するだろうからな。というか、俺も大丈夫なのか? うう、ちょっと不安になってきた。


「なぁティアマト。もう一回くらいダイブし……」

「絶対に嫌です」


 ちょっとした冗談だったのに、最後まで言わせてすらもらえない。それだけ嫌ってことだろう。

 他の人も……あからさまに全員が目を逸らす。


「あっそうだ! スーラがいるじゃん。ねぇスーラ。俺の代わりに……」


 スーラが俺の肩からヒカリの肩に飛び移る。


《シオンちゃん。頑張ってくるの》


「……裏切り者」


《ふふーん。なんとでも言うの》


 くそっ本気で静観モードに入りやがった。


《マスター! では私が……》


「うん。ホリンは危険だから止めようね」


 ホリンは冗談が通じないからな。本気でダイブしそうだ。


「仕方ない。ちょっと行ってくるか。スーラ後は頼んだぞ」


《任せるの!》


 俺がここから離れると【毒包囲】が解除される可能性があるからな。

 でもスーラがいれば安心だ。スーラも俺と同じ魔法が使える。もちろん【毒包囲】も使えるから、スーラに任せておけば俺がいなくても心配はいらないだろう。


「はう! シオンさん」


 レンが俺に世界樹の苗木を渡す。


《はやく植えるばぶぅ》


 ……なんて生意気な苗木なんだ。この苗木がもっと距離とか場所とか方角とかを示してくれていたらもっと楽な旅だったのに……ただひたすら『あっちばぶぅ』しか言わなかったから皆不安がっていたんだぞ。

 元の長老に戻ったら絶対一言文句を言ってやろう。


 俺は苗木を持って【死の呪い】の柱にダイブした。

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