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ロストカラーズ  作者: あすか
第二章 魔王城防衛
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第35話 降伏勧告をしよう

 全員と話していたら、思いの外早く森の入口に辿り着いた。


「さて、着いたな」


 作戦としては、この十人が真正面から直接説得する。駄目なら広場の時と同様に、【絶対防御】の壁を作って逃げれなくする。作戦とも言えないが、一番確実性のある方法だろう。



 ――――


「探索隊のヴォイスだ。状況の報告に来た。上官に取り次いでくれるか?」


 ヴォイスが見張りをしていた男に声をかける。

 男は特に怪しむこともなく俺達を案内する。


「なぁ、こんなに簡単に案内していいのか? 不用心じゃないのか?」


 俺は隣にいたアルフレドに小声で尋ねた。


「恐らく俺達の中に知ってる顔でもいるんでしょうよ。ったく、本来なら全員の名前と所属部隊の照会をしないといけないんですがね。まぁ好都合だったってことで」


 アルフレドがちゃんと小声で答えてくれた。

 まさかちゃんと答えてくれるとは思わなくて、少し驚いた。移動中は一番俺を信用しておらず、ほとんど話してくれなかったのに……。

 少しは打ち解けたのかな? 俺はさっきまでの会話は無駄ではなかったと感じた。



 ――――


「なに? 全滅だと!!!」


 天幕の中に叫び声が響き渡った。今この中には俺達とこの輸送隊の隊長と副長、他に警備として三人、それから入口に見張りが二人。


「はい、正確には千三百が死亡で、残り五百が全面降伏しております」


「同じことだ! 貴様らは囮として最低一日は保たせる話だったではないか! お前らが全滅するのは勝手だが時間稼ぎも出来んとは……」


 こいつ……ここで待機しているだけのくせに随分と生意気だな。なんかムカついてきたぞ。


「それで、相手はここの部隊にも全面降伏をしろと言っております。逆らったり、この場から逃げ出すと命はないと言われておりますが?」


「この俺に降伏しろと言うのか! ふざけるのも大概にしろ! 誰が降伏なぞするものか! おい、全員に戦いの準備をさせろ! 敵を殲滅させるぞ!」


 隊長は立ち上がってそう叫ぶ。


「お待ち下さい。相手は千八百を相手に勝てる連中ですぞ! それに我らには物資を持ち帰るという任務が……」


 副長が慌てて隊長を止める。


「だが、このままではその物資すらここに届かないんだぞ! 全く、無能な探索隊の所為でこんなことになるとは……」


「なら、その無能な者達の所為で、任務続行は不可能とし、一旦撤退すべきです。ここで我ら二百で何ができましょう? 我らはその情報を持ち帰る必要がございます」


 副長の必死に説得している。このまま行けば死ぬのは確実だもんな。そりゃあ必死にもなるか。


「ふむ……確かに一理ある。この俺が敗れることはないと思うが、敵が汚い手を使って万が一にもやられるとも限らない。全ては囮すら全う出来なかった探索隊が悪い。よし、一旦城まで撤収する。急いで準備をしろ!」


 隊長は控えていた兵士に指示を出す。兵士は入り口の見張りに撤収の準備をするようにと伝える。


「お待ち下さい。彼は逃げるようなら輸送隊を殺すといっておりますが?」


 ヴォイスはまだ説得するようだ。もう無理だと思うぞ?


「うるさい! 誰の所為でこうなっていると思っている。そうか、丁度いい貴様らに探索隊の不始末の責任を取らせよう。おい、こいつらを捕まえておけ! 軍法会議にかけてやる」


 残っていた兵士が俺達を捕まえようと近づいてくる。とりあえずまだ抵抗はしない。


 ヴォイスは俺以外の九人を見渡す。


「多分こうなるとは思っていましたが、まさにって感じでしょうか?」


 その中の一人がそう言った。こいつは確かジンだったか? 道中では魔法のことについて俺と話した。


「リーダー、もう諦めましょうや。伝えることは伝えたんだ。後は犠牲を少なくする努力をしましょう」


 アルフレドもヴォイスにそう問いかける。


「……仕方ないか。シオンさん。お願いします」


「了解」


 ヴォイスから許しが出たので、俺はまず休憩地全体を【絶対防御】で囲む。


 魔法発動と同時に鳴り響く轟音。そして地面が揺れる。ここには広場のように予め準備はしてなかったが問題なく発動したようだ。


 突然の揺れと音に俺達を捕まえようとした兵士がよろめく。俺はひとまずヴォイス達に被害が及ばないように後ろへやる。


「おい貴様! 何をやった? 答えろ!」


 隊長がこっちに向かって剣を抜き叫ぶ!


「なぁに、撤退しようとしたから、逃げられなくしただけだ。すぐに分かるさ。まずはお前ら、とりあえず死んどけ」


 そう言って捕まえに来た男達に【毒投与】をしていく。こちらに向かってきていた兵士は三人とも苦しむ間もなく一瞬で倒れ込む。苦しまないように毒は強めにしてある。


「なっ!? き、貴様はいったい……」


 隊長は目の前でいきなり三人が倒れたことで、明らかに動揺している。


「報告します! この辺り一面に大きな壁が出現! 触っただけで死んでしまう毒の結界のようです」


 そこへ叫びながら断りもなく天幕に入ってくる兵士。だが、流石にこの場では咎めるものはいない。


「何だと! で、出口はあるのか!?」


 驚いて声も出ない隊長の代わりに副隊長が慌てて兵士を問い詰める。


「それが……辺りを全て囲まれているため、出口らしきものは見当たりません。今、魔法での解除を試みていますが、魔力の量が桁違いとのことで解除は難しいと聞いております」


「な、何ということだ。これでは逃げられないではないか……」


 副隊長が呆然と呟く。隊長の方は驚きの連続でまだ固まっている。


「だから逃がさないって言っただろ? 人の忠告をちゃんと聞かないからこうなるんだよ」


 俺は入ってきた兵士に【毒射】を放つ。兵士は頭を打ち抜かれて即死する。


「シオンさん。俺、ちょっと抜けてもいいですか。実は助けたい人物がいるんで」


 アルフレドは俺にそう言ってくる。助けたいやつか。こいつが付いてきた理由だろう。


「ああ、いいぞ。間違って死なないうちに早く行ってやれ。他のやつも助けたいやつがいれば助けに行っていいぞ。まぁいなくても降伏を薦めに行ってもいいかもな。けど、今外に出るのは危ないと思うから、ここにいた方が安全だと思うけど?」


 俺はそう答えた。


「ありがたい。じゃあちょっと行ってくる」


 アルフレドは急いで天幕を出て行く。今ここにいる敵は隊長と副隊長のみ。止めるやつなんかいない。

 私も……とエイミーやヴォイスなども天幕を出て行く。最終的には全員出て行って、俺だけが残ることになった。皆……危ないかもって忠告したのに……。やはり仲間を助けたいのかな。



「さて、と。人の忠告を無視したやつにはどんな死に方がお似合いだと思う?」


「なっ、俺を殺すとでも言うのか! ふざけるのも大概にしろ!」


「お前らって皆同じこと言うんだな。もう飽きたよ。それとお前、確か『俺が敗れることはない』だったか? 確かめてみようか?」


 毒で簡単に殺してもいいが……それだと面白くない。もっと後悔させないと。


 ……そこまで考えて、俺は姉さんの顔を思い出した。姉さんの殺人を楽しむ快楽殺人者にはなるなと言う言葉が頭に浮かぶ。

 俺は今、こいつらを心底後悔させながら、嬲り殺す気だった。

 こいつらを生かしておくならそれはアリだろう。後悔させてやる必要があるから……。しかし、殺すことが決まっているのにいたぶるのは、俺の自己満じゃないか?


 多分こんな考えそのものが間違ってるんだろう。俺は人を殺しすぎて心が壊れてしまったのかも知れない。


「死ねぇ!!」


 俺がいきなり考え込んで動かなくなったから、それを好機と思ったのだろう。隊長は剣を振りかぶって襲いかかってきた。

 もちろん、それは【自動盾】によって防がれる。


「なっ!」


 隊長は防がれて驚きの表情を浮かべる。さらに防がれた険は【自動盾】の酸によって溶かされて、刃の部分から崩れ落ちていく。

 柄だけになった剣を見て呆然とする隊長。こいつずっと驚いてばっかだよな。俺が呆れていると視線に気がついたのか隊長と目が合う。


「ひぃ……」


 隊長は尻餅をつきながらバタバタと後ろに下がる。

 その滑稽な姿にため息が出る。


「はぁ。俺はこんなやつ相手に悩んでたのか? なんか馬鹿らしくなってきた。もういいや、本当はお前らがここに攻めてきたことを後悔させながら殺すつもりだったんだが、やめた」


 その言葉に助かった。と二人の目に安堵が浮かぶ。


「一思いに殺すから最後に言いたいことがあったら言っとけ」


 その気はなかったけど、図らずも気を持たせて絶望に突き落とした形になってしまった。


「お、俺を殺していいと、お、思ってい、いるの、か、」

「ひぃ私は悪くない全部こいつが悪いんだ。だから私だけでも助けてくれ」

「な、貴様というやつは! 大体貴様が逃げろというから……」


「最後の言葉がお互いの罵りとは……最後まで愚かだったんだな。部下だけは! みたいに殊勝なことを期待した俺が馬鹿だったよ。じゃあな」


 そう言って俺は【毒射】を放つ。


「ちょっとまっ」「ちがっ」


 最後まで言えずに二人は胸を貫かれて死亡する。

 正直すっきりしない。心にモヤがかかったような気分になる。

 これは人を殺した罪悪感からなのか。それとも嬲り殺しにしなかったからか。俺には前者だと思いたいが、確信を持つことはできなかった。


「っと、それより外はどうなんだ?」


 出て行ったあいつらのことが気になる。あいつらに何かあったら今の俺は本当にここの連中を全滅させてしまいそうだ。


「ふっあいつらのことをこんなに心配するなんてな。やっぱり人との会話って大事なんだな」


 たった数時間話しただけで、思った以上にあいつらに心を開いていた自分に驚いた。

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