第306話 メンバーを発表しよう
いよいよ来月ロストカラーズへ出発する。
戦争から一ヶ月位しか経ってないので、本当ならもう少しゆっくり準備期間を開けるべきだろう。
それこそ白の国の行く末を見届けてから、ドウェイン達の航海の成功を確認してから。
ただ、それを待っているだけで、下手したら数年掛かるかもしれない。
だったらさっさと済ませてしまいたいという思いがあった。
それに……今ならメタトロンの痕跡も見つかるかもしれないしね。
それに戻ってきてから報告を聞くというのも楽しそうだ。
だから急ピッチで準備を進めている。
何せロストカラーズには何もない。それこそ食料すらないんだ。しかも、転移する場所はシクトリーナの小部屋からだ。
俺が日本からこっちに来たようにキャンピングカーで物資を積んでいくことが出来ない。それなのに最低数ヵ月分の食料や復興用の植物の種を持っていかなければならない。
転移を使えばすぐにシクトリーナに戻ってこれる。それに関しては考えていない。
転移があるから何も準備しない……じゃ、仮に転移が出来なかった場合が困る。
何せ場所は【死の呪い】が蔓延っているんだ。魔素も魔力もない。
例えば赤の国ではゼロの結界に覆われて外に転移することも連絡を取ることも出来なかった。ロストカラーズには【死の呪い】が漏れでないような結界がある。【死の呪い】を無くして、結界を解除するまで転移できない可能性があるんだ。
一応、過去にロストカラーズへ転移したシエラは戻ってくることが出来た実績はある。だけどそれはシエラ自身が転移魔法を使えたからだ。
俺達は転移魔法を使えない。トオルの魔法結晶で転移するだけだ。そして今回はトオルがいない。
最悪の可能性を考えて――復興が終わるまで帰らないことを想定して行動しなければならなかった。
――――
「はいはーい! ちゅうもーく!! それではロストカラーズ行きの最終メンバーを発表するよ」
ティティの声が大きく響き渡る。隣にいる俺には少しばかりうるさいけど、やはりこういう司会にはティティがよく似合うな。
今回はシクトリーナの四階ホールに集まった。もうドライ諸島――イプシロンに集まる必要はないもんな。
集まったメンバーはシクトリーナ幹部にファントム幹部。正直戦争が終わったんだから、ファントムは解散していいんだけど……エキドナとゼロはいつも通り野次馬で、ティアマトは関係者。ジョーカーズは解散せずにゼロの所に居座ったから、ゼロが来るところには必然的にやって来る。
ちなみにドライ諸島に関しては、各キーパーにそのまま管理を任せた。
元々ゼロは居住する予定だったし、トオルも実験で使用したいと言っていた。
デューテもあそこが居心地がいいみたい。
エキドナに関しては、デルタ島を魔物達の放牧にと考えているらしい。グリフォンやヒポグリフを始め、エキドナは色々な魔物を使役している。どうせスライムとウルフはあそこで暮らし続けるんだし、ちょうどいいみたいだ。
イプシロンに関しては、シクトリーナ三階の罠部屋に戻ってもらった。
今までは四つの島のどこかに転移扉が現れる仕様だったが、イプシロンの塔を攻略で戻れる仕様に変更した。
まぁ……今さらシクトリーナに攻めてくる人もいないだろうから、発動することはないだろうけどね。また何かゲームのイベントとして使えたらいいかもしれない。
「シオン様!! 妾は妾はメンバーに入っているのですか!?」
我慢できずにティアマトが叫ぶ。
「それを今から発表するから、落ち着いてくれ」
多分一番気になっているのがティアマト、テティスコンビとラース、リースコンビだろう。この二組のどっちが虹のメンバーかまだ誰も――相談したティティ以外は知らないからな。
「じゃあまずは既に決まっている人達だね。シオン様、ヒカリ様、アイラ様。それからリュート様とデューテ様。この五人が既に決まってる虹のメンバーだね」
名前を呼ばれた四人が前に出る。
「続いて、今回の最重要人物のレン様」
「はう!? ……あれっ? ミサキちゃんは?」
レンが自分しか呼ばれなかったことに疑問を感じる。そっか……レンは聞かされてなかったのか。
「残念ながらウチは今回は参加せん」
その言葉にレンは大きく目を見開く。今の今まで一緒に行くものと考えていただろうから、驚くのも無理はない。
俺だって最初に聞いたときは驚いた。
俺が聞いたのは昨日だ。メンバー決定の発表をするって言ったときに辞退された。
「えええっ!? なんでなんで!! あっまたシオン様の意地悪なの?」
……何故レンは俺を疑うんだ? 俺はレンに対して意地悪をしたことはないと思うんだが……。
「残念ながらちゃう」
そしてミサキよ……。残念というのはどういう意味なんだ? 激しく問いただしたいのだが?
「シオンさんじゃないなら何で?」
「ホンマはウチかてレンと一緒に行きたいんや。せやけどな、多分ウチが行ったところで役立たずや。精々シオンさんのツッコミと飲み水を出すこと位や」
「それ、十分に役に立ってるよ!! ミサキちゃんが居なかったら誰がシオンさんの暴走を止めるの!! 今回はリンもラミリアさんも居ないんだよ!」
ねぇ。なんだかレンが俺に対して少しキツいと思うのは気のせいかな?
でも……確かにミサキのツッコミ能力はパーティーに欲しいところではある。それに飲み水も貴重だしな。
「シオンさんの暴走はデューテさんかリュートさんがちゃんとやってくれるはずや」
その言葉にデューテとリュートがこっちを向いて嫌な顔をする。……言っておくけど、俺はお前達二人の暴走の方が気になるぞ。
「それにな。ウチが向こうに行ってもあまり役には立たん。せやけどこっちでは役に立つんや。向こうに行ったら何年も帰ってこれん可能性がある。なのにウチとレンの二人が居らんくなったら兄やんは絶対に大変になる。レンかてそれは分かっとるやろ?」
「そうだけど……でもミサキちゃんがいなかったら私……」
「ウチな。考えたらずっと――日本にいた頃からレンに依存しとった気いする。レンがいなかったらきっと何も出来んやった。でもウチももう二十歳をとっくに越えとるし、そろそろ一人立ちもせなあかん。今回がいいチャンスや。ウチの成長のためにも、分かってや」
「ずるい……ずるいよミサキちゃん。それを言うなら私の方だよ。私の方がミサキちゃんに依存してた。ミサキちゃんがいなかったら何も出来なかったんだよ」
「なら……お互い成長するために、今回は別行動や」
「うん。分かったよ」
「だけど何年も待たせると、ウチだけ先に結婚しとるかもしれんなぁ」
「はうっ!? ミサキちゃん。そんな人がいるの?」
「いや、今は居らんけど……でもレンが居らんようになったら、きっとぎょーさんナンパとかされるやろなぁ」
「……多分変わらないと思う」
「ああん? なんやて?」
「はいはーい!! 二人とも感動のお別れは後にしてね。じゃないと次に進めないから」
本当にティティはここぞというタイミングで先に進めるなぁ。ミサキはもう少し言いたげだったけど、大人しく座る。そしてレンはステージにやって来る。
「シオンさん。絶対に早く終わらせましょうね!」
「そうだな。早くしないと結婚されちゃうもんな」
「はぅぅ……ミサキちゃんに相手なんかいないから大丈夫だもん」
ミサキに先を越されたくないのか……それともミサキを取られるのが嫌なのか……レンが成長するのはもう少し先かな?
――――
「じゃあいよいよ青と水色の発表だけど……」
「もちろん妾とテティスですよね!?」
本当にティアマトはもう少し我慢が出来ないのか?
「ここはシオン様に説明してもらうねっ!」
ティティにマイクを手渡される。
「えーっと、ティアマトとテティスの海魔王コンビかラースとリースのラピスラズリコンビ。最後まで悩んだけど、今回はティアマトとテティスにお願いしたい」
やはりティアマトがナンムってことが大きい。それに、地理関係も分かるかもしれない。
「本当ですか!?」
「良かったですわね。姉様!」
二人は大喜びだが、ちょっと早い。
「ただし、今から言う質問に答えてからだ」
「質問ですか? 何でしょう?」
「ロストカラーズの復興には何年も掛かるかもしれない。その間二人は地上で生活できるのか? それから、二人がいなくなったことで、この海の魔物達は大丈夫か?」
元々二人は海中に住んでいる。エキドナ達と同じように、人型になれば今みたいに地上でも生活できるようだが、長時間地上で生活できるのか? それから、ドウェイン達が出航したばかりの状態で、魔王の二人が不在になったら、海が混乱するんじゃないか? この二つが問題ないようなら是非にでもお願いしたいところだ。
「妾とテティスが居なくとも、じぃが居ればこの海は心配要りません。それに問題がありましたら、ゼロ様が助けて下さいますしね」
「えっ? あっああ。もちろんですが……出来れば俺も付いて……」
「あっゼロは来なくていいから」
今回は戦闘に行く訳じゃないからな。戦闘しか出来ないゼロは必要ない。
「シオン……貴様ぁ」
凄んだって駄目なものは駄目だ。俺はゼロを無視してティアマトに向き直る。
「それから、地上での生活ですが、数ヶ月程度なら問題ありません。それにあの大陸だって海はありますから、海に寄ったついでに補給をすればそれで十分です」
「……テティス。今の話は本当か?」
ティアマトが行きたくて嘘を吐いている可能性があるから、テティスに聞くことにした。
「まぁ間違ってはおりません。ですが、わたくし達は海にいませんと、魔法の威力は半減しますね」
「ちょっとテティス!? そんなハッキリと言ってしまったら……」
やっぱりテティスに聞いて正解だったな。
だがそれでもやっぱりこっちの二人かな。
「まぁ定期的に海に行けばいいだけなら問題はないだろう。二人ともよろしく頼む」
「はいっ! 妾に何でも命令してください」
「……出来るだけティアマト姉様の暴走を食い止めるよう努力いたしますわ」
……本当にティアマトの暴走を食い止めてくれよ。
俺はラースとリースの方を見る
「ラースとリースには俺やリュートがいない間、リンと一緒に【月虹戦舞】の活動をしてくれ。黄の国なら活動できるだろ?」
黄の国はリュートとデューテ。Sランクの二人がしばらくの間不在になるんだ。俺も不在だし、冒険者ギルドでクリスが発狂してしまいそうだ。
だから二人にはそっちの方を頑張ってもらいたい。
「分かった。そういうことなら我々はこちらに残ろう」
ラースは文句を言わずに従ってくれそうだ。それにリースも特に何も言わない。彼女は本当ならスーラやアイラと一緒に行動したいのかもしれない。ただ……ここにはたくさんの人がいるからな。まだ人見知りのリースにはここで文句を言う勇気はないんだろう。まぁ後でラースに愚痴るといいさ。
――――
「ってことで、このメンバーでロストカラーズに行ってもらうんだけど……ミサキ様が不参加の分、一名程枠が空いてるんだよねぇ」
長老の話から考えて、俺の守れる人数が十人程度。虹の七人とレンで八人。それに俺の相棒のホリンで九人。他の相棒はチビッ子なのでカウントしない。だからあと一人は連れていける。
「ではその枠には、シオン様の一番弟子として是非ともわたくしを!! わたくしを連れていくと、五人分の働きをお約束出来ますよ」
真っ先に手を挙げたのはハーレクインだ。ったく。誰が一番弟子なんだよ。
それに五人分って……道化師全員が出てきたら、十人以上の人数になるだけじゃないか。
それに……最後の一人は既に決まっている。昨日ミサキから話を聞いて、俺はすぐにティティに相談した。するとティティが是非にと言う人物がいたから、ティティが交渉して許可を貰った。
「最後の一人は彼女だよ!!」
ティティの声に奥からテントがふよふよと飛んでくる。
「なっ!? まさかハーミットが最後の一人なのですか!!」
そう。ハーミットがロストカラーズ復興の最後のメンバーだ。




