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ロストカラーズ  作者: あすか
第二章 魔王城防衛
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第34話 会話を楽しもう

 森を抜けて入口まで行くのに、どんなに早くても普通の人なら数時間はかかる。強くなった俺が走れば一時間くらいかな。


 だからこの人数で数時間黙々と進むのは空気が悪い。まぁさっきまで殺し合っていたんだ和やかになるわけがない。でも暇だし、この機会に色々と聞いてみたいこともある。他人のためにここまで来た奴らだ。残った自分のことしか考えないバカ達とは違い多少の会話は可能なはずだ。


「リーダー。このまま黙って進むのも面白くないから会話しながら進みたいんだけどいいかな?」


 リーダーと呼ばれた男は驚いて俺を見る? あれっ? 何か悪いことだったか?


「……別に話をしたければ勝手にすればいいと思うが? 何故俺に聞く?」


「いや、だってリーダーだし、それにしても俺は独り言がしたいわけじゃない。会話がしたいんだよ! 皆も俺に聞きたいことがあったら何でも聞いてくれていいからさ! 俺の近くにいる時は呪いは発動しないから何話してもいいよ!」


 出来るだけ明るく言ったつもりだったが、逆効果だったみたいだ。十人の中にそう言われても……って空気が流れる。それを受けて仕方がないといった感じでリーダーが口を開く。


「えっと、それじゃあ……まず、貴方のことはなんとお呼びすれば?」


 そういえば自己紹介してなかったな。まぁ敵相手に自己紹介もないが……。


「別に貴様でもお前でも何でもいいよ。まぁ一応シオンって名前があるからシオンでもいいよ。もちろん俺は君達の上官でも何でもないからタメ口でかまわない」


「タメ口きいて反逆には?」


「ははっ、なるわけないよ! むしろ堅苦しいのは嫌いだから、敬語を使った方が不敬に当たるようにしようか?」


 俺は笑いながら言うが、周りは笑ってくれない。ヤバい。やっぱりこれ冗談が通じないやつだ。


「じゃあシオンさんってことでいいか?」


「ああ、問題ない。あっでも、俺の名前は俺に呼び時か、俺の仲間と話す時以外は使わないでくれよ。禁則に引っかかるから」


「呼び掛ける時は大丈夫なのか?」


「ああ。さっきも言ったけど、俺の近くだと呪いは発動しないから。明確に距離は決めてないけど、見える範囲って認識でいてくれ。だから家に帰ってから思わず俺の名前とか出しちゃうと死んじゃうから気をつけてね」


「……どうせ、もう家に帰ることなんかないだろ。どうでもいいよ」


 背後で一人がボソッと呟く。


「おいっ!」


 隣のやつが嗜める。


「だってそうだろ! 輸送隊の件が片付けば、どうせ拷問でもされて殺されるだけだ」


 男はたかが外れた様に叫ぶ。うーん、やっぱりそんな認識なのか。


「別に大人しくしてたらちゃんと解放するよ? こんなところでただ飯ぐらいを増やすような真似はしたくない」


「はぁ? 解放ってそんな馬鹿なことがあるか! そっちにとって何のメリットもないじゃないか!?」


「メリットは殺す手間が省けるのと、死体の後始末をしなくてすむこと。それに対して解放したデメリットは何もない。だって解放しても呪いのお陰で報告出来ない。リベンジしようとして攻めようとしたら禁則に引っかかるから攻める前に死ぬ。一番損なのが、このまま捕虜にしておくことだ。食費や維持費がかかるからな。呪いさえあれば、解放した方がお得って訳だ。だから外にいる連中にも、呪いをかけたら解放するつもりだ。それに拷問って言ってたけど、そんなことはしないよ? 拷問しても真実かどうか解らない。無駄な情報が増えるだけだ。それに俺の場合、呪いと似た魔法で、自白の魔法がある。拷問する必要もない。それこそ今回の総大将を生かしておけばそれだけで十分だ。まぁ今回は特に聞くことがなかったから殺したけど」


 あれっ? 十人が固まってる? どうしてだ?


「……そうか、解放しても情報が漏れる心配がないなら問題がないわけだ。納得した」


 かろうじてリーダーが絞り出したように言葉を放った。どうやら皆さっきの男みたいに後で殺されると思っていたんだろう。まぁまだ完全に信用はされてないようだけど。


「さて、こっちも少し聞きたいことがある。まぁ答えたくない、または答えれないことがあれば答えなくていい。世間話に付き合う感覚で話そうじゃないか!」


「それで……何が聞きたいんだ?」


 リーダーは諦めた口調で聞いた。


「まずは皆の名前が知りたいな! 俺はさっき言ったし……。それに名前がないと会話がしにくいじゃないか!」


 俺はニヤリとしてそう答えた。



 ――――


「そうなんですよ! もうその上官は本当に酷くて……いつその股間に蹴りを入れてやろうか? っていつも思ってましたよ」


「おいおい、穏やかじゃないな。そもそも女性が股間を蹴り上げるとか、はしたないこと言わないようにしよう」


 俺は移動しながら一人ずつ順番に話を聞いていた。今はこの中で唯一の女性であるエイミーと話していた。エイミーは十五歳で冒険者になり、二十歳で兵士になった。


「ってか、そう言うセクハラ親父みたいなやつは何処にでもいるんだな。話を聞くだけでイラッとする。やっぱり女性にも働きやすい環境作りって必要だな」


 女性が兵士になることは殆どない。あっても貴族令嬢が気まぐれでいる程度で、基本的には冒険者止まりのようだ。

 彼女は病気の親のために、冒険者の不安定な収入より固定収入が欲しくて仕官したそうだ。

 だが、何もコネのない彼女のような女性には兵士社会はそうとう辛いようで、セクハラなんかは日常茶飯事。上官に至っては命令で無理矢理押し倒そうとするくらいだ。

 今のところ何とか逃げ回っていて、最後までは行われていないようだが……。


「シオンさんのように理解のある上官だったらいいんですけどね。殆どの人が世間は女性の癖に兵士なんて……って言うんですよ」


「いや、俺だって女性には危ないことして欲しくないと思うよ。兵士にだって事務みたいな危険が少ない部署はあるだろ? そっちの方がいいんじゃないかって思うし」


「シオンさんのは優しさから言ってますよね。他の方は生意気だって言ってるんですよ。それから危険が少ない部署は貴族が配属になるので…私みたいな村の出身は最前線送りですよ」


 エイミーは、はぁとため息を吐く。


「本来なら貴族とか偉いやつが、他の兵の見本として率先して前に出るべきだと思うんだけどね。後ろに閉じこもって命令だけするなんて最低だな」


 これには流石にエイミーは苦笑いだ。貴族の悪口は言えないのだろう。


「俺さぁいつも『もっと女性の気持ちになって考えて下さい』って怒られてるんだ。うちの職場ってほぼ女性だから肩身が狭くて……今日は第三者の意見が聞けて本当に良かったよ」


 職場って言っていいのか分からないが、城に住んでいるのは俺とトオル以外が皆女性だ。何も知らない男ならハーレム生活って喜ぶかも知れないが、実際は肩身が狭いだけだ。


「こちらこそ普段愚痴とか言えなくて……おかげて少しすっきりしました!」


「本当大変だよな……そうだ! 病気を治すポーションがあるから、ここから帰るときにお土産として渡すよ。多分ほとんどの病気に効くと思うから親御さんの病気も治ると思うよ」


「本当ですか!? 医者や白魔法師ですら延命することしか出来ないくらいの病気なんですが……それにお金もないし……」


 エイミーは不安そうに尋ねてくる。


「大丈夫大丈夫。ここのポーションは基本的に何でも効くから。もちろんお土産だからお金も要らないよ。ても、俺が忘れてる可能性があるから帰る前に声をかけてくれ」


 まぁそのポーションは俺が作るんですけど。俺の魔法は毒を与えるだけじゃなくて治療することも出来る。だってどちらも人体に影響のあるものだからな。病気も人体に影響のあるものなので問題ない。


 気になるのは病気の種類がわからないから専用の治療薬を作れないことだ。だから今回は人体の状態を健康状態にするポーションを作ることにしよう。これならどんな病気も…呪いでさえも解くことが出来るはずだ。何せ治すじゃなくて健康状態にするのだから。


 エイミーは「ありがとうございます」と泣きながら言っている。お礼は治ってから言って欲しいよな。


 さて、エイミーとの話はこれくらいにして次は…副リーダーに任命した。アルフレドだった。


「よう、アルフレド。少し話をしようか?」


 アルフレドは俺を見るとため息を付く。


「はぁ。よく平気に会話が出来ますね。さっきまで殺し合ってたんですよ?」


「お互い仕事みたいなものだし。終わったことで愚痴愚痴言っても仕方ないだろう? それにただ歩いてるだけじゃ暇だし。それで、お前は俺に何か聞きたいこととかないのか?」


 さっきのエイミーは女性の仕事のことと言うちょっと違った話だったが、他の奴等は俺に色々と質問してきた。


 ・俺の魔法、属性は何なのか?→毒魔法、紫

 ・異邦人なのは本当なのか?→本当

 ・どうやってそんなに強くなったのか?→魔王よりも怖いメイドと毎日地獄の特訓


 と、定番の話だったり、


 ・魔族との生活について。→女性ばっかりで気をつかう

 ・ここでどんなことしているのか?→畑耕してる


 など、ここでの生活についての質問もあった。


 何でも話すと言ってしまったため、属性なども全て話してしまった。紫って言ったら驚かれたよ。まぁ口止めはしてあるからここにいる奴ら以外は知ることが出来ないから問題ないだろう。


 質問には他の人達にも聞こえるように答えたので、質問が被ることはなかった。


「正直、俺にはあんたが全く分からないです。あんだけ沢山の人を殺しておきながら、こうやって平気で話している」


「さっきも言ったけど仕事みたいなものさ。別に俺だって人を殺したい訳じゃない。でも、戦争ってそう言うものだろ? 敵がこっちに侵略しているのに何もしないのは駄目だ。だって、俺の仲間が被害が及ぶかも知れない。お前だって国のため…かは知らないけど戦争して人を殺したことがあるんじゃないか?」


 アルフレドは黙って俺の話を聞いている。


「俺はお前らのことを侵略者だって怒ってるわけではない。お前らだって命令されてここに来てるんだしな。どちらかといえば被害者の方だ。怒るとしたら警告したにも関わらず攻める命令をした国や上層部ってことだ。お前も今は仲間を殺されて俺を恨んでるかも知れないが、元々は俺を恨んで攻めてきた訳ではないんだろ? それとも異邦人だから死ぬか奴隷が当然だろ? って思って攻めてきたのか?」


 アルフレドは答えに窮しているみたいだ。


「そもそも赤の国はどうして異邦人を嫌ってるんだ? 俺にはそれがどうしても分からない。過去に異邦人が何かしたか? 少し調べたけどそんなのは存在しなかった。むしろ新料理を開発したり、便利な魔道具を作った記録は残ってたが……?」


 例えばパスタ、元からパスタはあったみたいだが、マカロニタイプしかなかったようだ。スパゲティタイプのパスタは異邦人が広めたと資料に書いてあった。ただ、食べ方は茹でてチーズをまぶして食べるくらいしかできなかったようだが。

 他にもコンロのような魔道具を開発し、料理が捗るようになったともある。


「すんません、それ俺が答えてもいいですか?」


 アルフレド出はなく、リーダーのヴォイスが言ってくる。


「ああ、構わない。お前の考えを聞かせてくれ」


「おそらく自分達の地位が脅かされるのが怖いんだと思います。異邦人の特別な能力、知識が自分達以上なのは分かっていること、なら育つ前に処分してしまう方がいいでしょう。大義名分のため異邦人は悪だと言う認識を植え付ければ周りから反感も起こらないですから」


 自分を脅かす可能性がある存在は最初からいない方がいいってか。


「共存の道を辿れば繁栄しただろうに……自分だけが欲ばろうとするから。力と知恵がある異邦人か、自分の為に平気で無実の人間を殺せる国か。一体どっちが化け物なんだろうな。俺には分からないよ」


 俺の言葉に答える人は誰もいなかった。でも、コイツらには周りの意見じゃない、少しは考えてほしい。そう思った。

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