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ロストカラーズ  作者: あすか
第七章 天魔戦争
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第302話 処遇を考えよう

 ゼロとティアマトも帰って来たので会議を始めることにした。


「まず最初に……皆お疲れ様。全員これといった大きな怪我もなく無事に終わったことを嬉しく思う」


 こんなことを言うと、また『怪我をしたお前が言うな!』とかディスられるかも? と思ったが、そんなことはなかった。

 多分、まだツッコみたいとも思っているのだろう。

 だけどさっきのラミリアの様子を見て、あれ以上のインパクトを残せないと引っ込んだだけのようだ。

 正直恥ずかしかったが、俺としてはこれ以上何も言われたくなかったので丁度良かった。


「本当は各島やシクトリーナの話を聞きたいところだけど、今回の議題はこれだ」


 俺は各島の途中しか観てないからどんな風だったのか、ちゃんとした詳細を聞きたい気もある。特にシクトリーナに関しては何も聞いてないからメッチャ気になってる。


 だけどそれよりも離さないといけない内容がある。俺が合図をすると、ティティがホワイトボードをひっくり返す。

 さっき皆が集まる前に、ティティにだけは説明して、会議の打ち合わせもしたからバッチリだ。


『戦後処理とメタトロンの処遇について』


 ホワイトボードには大きくこれだけが書かれていた。


「まずは戦後処理から説明しよう。……といっても、これは特に説明することはない。今回多くの天使が死んだ。その天使がアンデッドや英霊となって復活しないように、ちゃんと処理をしないといけない。そういう話だ」


「処理って……どうするの?」


 リカから質問が飛ぶ。

 彼女は冒険者として旅はしていたけど、多分無頓着……というか、教わってなかったんだろうな。


 まぁ天使は元から聖属性。倒すのと浄化がセットになっていて、アンデッドなど発生しなかったのだろう。


「詳しく説明すると長くなるから簡単に説明するな。もし死体をそのまま放置したら、死体に魔石が宿り、肉体を持つアンデッドになる。例えばグールにスケルトン、ワイトとかだな。そして仮に肉体が消滅していても、決して成仏しているわけじゃない。残滓のようなものが残っていて、そこからレイスやウィルオーウィプスのようなアンデッドになる可能性がある」


「じゃあ浄化させなかったら全員がアンデッドになっちゃうの?」


「いや、そんなことになったらこの世界はアンデッドで溢れてるよ。今言ったのはあくまで可能性の話であって、別に浄化をさせなくても普通に成仏することだってある。この世に未練があったら成仏は難しいみたいだな。そして今回は戦争だ。しかも相手は勝てると思ってやって来ていた。さぞや無念だったろう」


「未練がありまくりって訳ね」


「その通り。このまま放置していたら、半分くらいアンデッドになる可能性があると思ってる。それからネームド以上の天使は英霊になる可能性があるからな。英霊になって悪さをされたら困るので、絶対に浄化をさせなければならない」


 だが俺たちの中に聖属性の魔法が使えるのは限られている。


「それで? 誰が浄化魔法を使えるの?」


「浄化魔法ってよりは聖属性の魔法だな。えーっと、この中で聖属性が使えるのは?」


「わたくしですね」


 真っ先にルーナが手を上げる。


「私も一応使えるってことでいいのかな?」


 続いてヒカリも手を上げる。ここまでは俺も知っている。

 次に無言で手を上げる人が……アイラだ。


「アイラって聖属性の魔法が使えるの?」


「ん。【浄化の炎】なら聖属性のはず」


 へぇそういう魔法も使えるんだ。


「あっ炎でいいならウチの熱子もいけるんじゃない?」


 確かにフェニックスの炎は聖なる炎っぽいな。


「後は……もういないか?」


「シクトリーナでしたら第二と警備のメイドに聖属性の魔法を使える者がおりますよ」


「うん。彼女たちにも頑張ってもらおうと思っていた」


 第二と警備は城に侵入してきた敵の処理をしていたので知っている。


「それなら妾の親衛隊にも聖属性が使える者がおるから加勢しよう」


「おっそれは助かるな」


 エキドナのところから借りれるのはありがたい。


「ああっ何故わたくしは聖属性ではないのでしょう。動画で出来なかった活躍をシオ……ティティ様に見てもらえるチャンスだというのに!!」

「妾も……ああっ何故妾も聖属性ではないのでしょうか!? せっかくお役に立てるチャンスだというのに……」


 嘆いているのはハーレクインとティアマト。


 ティアマトは……うん。いつも通りだな。

 そしてハーレクイン。お前はヴァンパイアだからむしろ真逆の存在だぞ。しかも途中でティティの名前に言い換えやがった。ハーレクインの中では俺よりもティティの方が上になっているみたいだ。

 因みに他の道化師は場所の関係上、下がってもらっている。そこでいつも話を聞いているハーレクインが出てきているのだが……今度からはハーレクインじゃなくて、クラウンに出てきてもらおうかな。


 まぁこの二人は無視して話を進めることにしよう。


 といっても、これ以上はいないかな? 残っているのは夜魔族くらいだ。流石に夜魔族に聖属性はいないだろう。下手するとヴァンパイアと同じく弱点の可能性すらある。


「しかし……この人数で全ての島の浄化はかなり大変ですね。敵を倒すよりも時間が掛かりそうです」


 何せ五十万の浄化だからな。いくらメイドや親衛隊が手伝ってくれると言っても、この人数ではかなりしんどい筈だ。


「だからまずルーナは魔法結晶を準備してくれ。ルーナの魔法を魔法結晶に込めれば他の人でも手伝いが出来るだろ? 必要だったらキューブも貸すから」


 こうすれば聖属性以外のメイドや夜魔族だって手伝えるかもしれない。


「分かりました。では会議が終わりましたらすぐに行動できるように、わたくしは一旦下がります。シクトリーナの通信室でこの会議を聞きながら、メイド隊の準備と、魔法結晶の準備を致しますね」


「ああ分かった。だけどこの後かなり重要な話をするから必ず聞いといてくれ」


「かしこまりました」

「あっじゃあ大変そうだから私も手伝うよ」


 どうやらヒカリも手伝うようだ。うん。ヒカリの魔法結晶もあると助かるな。

 二人は早速シクトリーナへと戻った。



 ――――


 二人が向こうで聞く体制が整うまで、シクトリーナ組とファントム組で簡単に情報を共有した。

 シクトリーナはこっちの戦いを知らないし、俺達もシクトリーナの話を知らないからな。そもそもシクトリーナは俺が出撃したこともルーナから簡単に聞いただけのようだしな。


「――これがサクの生徒手帳だ」


 説明が終わった後で生徒手帳を渡す。リカは生徒手帳を受け取るとギュッと握りしめる。


「……ありがとう。これのお陰でスバルとお別れの挨拶が出来たわ」

「ルーナさんはこの生徒手帳を知っていたから私達にアドバイスをしてくれたんだよね」

「私は貴女達が倒れてるから負けちゃったかと思ってすっごく不安だったんだからね」


 リカとヒミカの話は正直かなり驚いた。相手の体に入って、語り合ったとか夢みたいな話だ。だけど二人とも同じことを言ってるし、起きたらサリエルも死んでたってことは……本当のことなんだろうな。


「私はルーナに打ち上げするからって騙されたのよ。酷いと思わない?」


「いや、ルーナが居なかったら姉さんはまだ戦ってたでしょ?」


 姉さんは相変わらずだ。だけど……少しだけいつもよりも表情が明るい。ケインのことずっと気に病んでたからな。


「それにしてもシオンは本当に情けないわね。結局怪我したの一人だけだったんでしょ?」


「うっまたそれをぶり返す」


「ぶり返すって言われても、私達が聞いたのは初めてなんだから仕方がないでしょ」

「というか、自分の足を斬るのに痛み止めを使ったなんて……少しは根性を見せなさいよ。私は両足を痛み止めなしで斬ったわよ」

「いや、リカはもう少し慎重に行動しよう。ねっ?」


 うう……まともなのはヒミカだけか。

 でもこの二人もスバルと話ができて良かったな。これで二人もちゃんと前を向いて歩けるだろう。



 ――――


「――と、これがメタトロンから聞いた内容だ」


 ルーナ達も聞ける環境になったと連絡があったので、先程聞いた話を伝えた。


「戦いに負けて仕方なく空へ……か。天使には天使の事情があったのね」

「別に見下す為に空におったわけやないんやな」

「だからと言って、天使の行いが許されることじゃないけどね」

「分かってはいるけど……これならただ私利私欲の悪人だったって言われた方が、気持ちが楽だったよ」


 こういった感情は日本人だから感じる部分があるかもしれないな。

 デューテやリュートも思うことはありそうだが、それでもちゃんと割りきってそうだ。

 ゼロ達に至っては理由は何であれ敵なら容赦しないといった感じだろう。


 ただし、二人ほどかなり深刻そうな顔をしていた。

 エキドナとティアマトだ。


「のうシオン……トオルは何か言っておったか?」


 全ての黒幕がテュポーンだったと言うのは、エキドナにとっては思うことがあるだろう。


「テュポーンは自分が倒すから手を出すなって言われたよ」


「……シオンはそれでよいのか? シオンとて、テュポーンはスミレの……」


「別に構わないよ。まぁスミレにはちゃんと話すけどね。それより……トオルが暴走しないように、ちゃんと見張っておけよ」


「分かっておる」


 エキドナは大丈夫そうだな。

 問題はティアマトの方だ。


「ティアマトも……別にティアマトが気に病む必要は全くないんだぞ」


「ですが……もし妾が記憶を失わなければ、妾の子らは争うことがなかったのではないでしょうか? いいえ、そもそも妾がナンムだった頃に、ちゃんと教育しておけば……過ぎ去った話だとはいえ、考えさせられてしまいますね」


「ティアマト姉様……」

「ティアマト様……」


 テティスもゼロもその後の言葉が出てこない。何て言えばいいか分からないんだろうな。


「シオン様。メタトロンに会わせては頂けませんか?」


「姉様!?」

「ティアマト様っ!?」


「……会ってどうする気だ?」


「わたくしはエンリルのことを覚えてはおりませんが、エンリルの子であるならば妾の孫も同然。会って……話がしてみたいのです」


「……どのような話をしても、メタトロンの処刑は免れないぞ」


「分かっております」


「……分かった」


「シオン!?」

「シオン樣っ!?」


「ありがとうございます」


「ただし。あまり時間はあげられない。処刑前に少しだけ……ってところだろうな」


「それで十分です。それで……処刑はいつ行われるので?」


「それなんだけど……メタトロンが死に場所を指定してきた。メタトロンは最期は故郷で……つまり始まりの大陸――ロストカラーズで死にたいらしい」


 誰かは分からないが、ハッと息をのむ音が聞こえた。


「ロストカラーズで死ぬということは【死の呪い】で存在ごと消滅することになる。メタトロンはそれでも構わないとのことだ。どう思う?」


「別に……本人が希望しとるんならええんちゃう?」


 最初に答えてくれたのはミサキだ。彼女の率先して答えてくれる姿勢は本当にありがたい。


「元部下の私が言うのもなんだけど……私も別に構わないと思うわよ。別に見せしめとして磔にしたり、さらし首にする訳じゃないんでしょ?」


「そんなことするわけないだろう!?」


 全くリカは……なんて怖いことを平然と言うんだ。


「最期は故郷でってのは何となく分かるかもしれない。私はもうこの世界が故郷みたいに思ってるけど、それでも最後にもう一度日本の風景を見てみたいって気持ちはあるかも」


 俺も日本に未練はないけど……それでも明日自分が死ぬとしたらどう思うだろう? 姉さんと同じように、最期に日本の風景をもう一度見たいと思うかもしれないな。


「ルーナ。ルーナはどう思う?」


 ロストカラーズの転移の扉はシクトリーナの最上階。五階と六階の間にある。

 そして六階は元魔王シエラのプライベート室。未だにルーナしか立ち入ったことがない場所だ。


「因みに俺とトオルはメタトロンの感情を優先させて使用させても問題ないと思っている。だがあそこはルーナの管轄だ。ルーナが決めてくれ」


『わたくしは……ええ。わたくしも問題ないと思います』


「そうか。ありがとう」


 こうしてメタトロンはロストカラーズに転移させることが決定した。

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