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ロストカラーズ  作者: あすか
第七章 天魔戦争
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第300話 メタトロンの願いを聞こう

「つまり……全ての黒幕はテュポーンだったってことか」


 今聞いた話が事実だとすれば、何もかもがテュポーンの所為だと言うことが分かる。ただし天使達が行った行為も、利己的で決して許されることではない。しかしテュポーンがいなければ、そもそも何も起こらなかったかもしれないのだ。


「スミレくんが本当にテュポーンに召喚されたかは分からない。だけど少なくともメタトロンじゃないのは確かだよ。だって彼が初めて召喚したのがリカくん達なんだから」


 さっきの説明なら、メタトロンが召喚魔法を習得したのは数年前。そしてスミレが召喚されたのはこちらでは六十年前。

 その時に召喚魔法が使えたと分かっているのはテュポーンだけ。ほぼ間違いないと言っていいだろう。


「だけどテュポーンに関しては僕は絶対に譲る気はないよ」


 トオルの決心は硬い。


「そんなに何度も念押しされなくても分かってるよ」


 俺だってスミレをこっちの世界に召喚して辛い目に合わせた奴に対して思うところはある。だがそれ以上にトオルがテュポーンに対しての思いが強い。

 もし仮に俺が今もスミレの恋人だったなら……今のトオルと同じ感情だったかもしれない。だが俺の今の気持ちは……。


 うん。もうこれは俺の出る幕じゃない。


「それで? テュポーンの現在の居場所は分かっているのか?」


 テュポーンが最後に目撃されたのは数年前。その後の行動は分かってるのか?


「一応メタトロンが最後に会った数年前まで住んでいた拠点の場所は分かってるよ。もしそこに居なくても、アヴァロンに今までの記録が残されているらしいから、それを調べて片っ端から探してみるよ」


 それなら足取りは掴めそうだな。


「そうか。別に横取りはしないが、協力は惜しまない。何かあれば遠慮なく言ってくれ」


「うん。その時は頼むよ。だけど……シオンくんにはシオンくんの役目があるんじゃないかな?」


「俺の役目?」


「全ての始まりの大陸――ロストカラーズの復興だよ。まさか今までの流れで復興しない……はないよね?」


「……ああ。心配しなくてもちゃんと復興させるよ」


 今までの俺は七人揃ったら復興させてもいい。そういうスタンスだったが、ティアマトの話を聞き、長老の話を聞き、それからメタトロンの話。

 七人も揃っているし、俺の今の気持ちは復興させたいに変わっていた。


「落ち着いたら復興に出掛けることにするよ。それで? 他には何か情報はあるのか?」


「あと聞いたのは他にネームド天使がいるかの確認や、現在まだ器のない英霊の存在。アヴァロンの秘密とかかな。この辺はある程度落ち着いてから調査することにするよ」


「それがいいだろうな」


 ロストカラーズの復興もそうだが、トオルの方も今すぐにって話ではないようだ。

 後片づけや残された白の国の対応。黄の国や青の国との話し合いをして、世間へ発表が必要になる。戦後処理でやることはたくさんあるんだ。


「その前に……メタトロンをどうするかだな」


 トオルが説明している間もずっと一言も話さずに目をつぶってじっとしているだけ。さっきも思ったが、ここまで動かなかったら、死んでいるのか疑わしくすらある。


「元々自白剤の効果で必要なこと以外話せなくなってるけど、シオンくんがアズラエル――トビオと戦っているのは一緒に観たんだよ。終わってからはずっとこんな感じさ」


「……トオルはまだメタトロンに聞くことはあるか?」


「僕は聞きたいことは全部聞いたから……あとは自分で調べるよ」


 調べるってのはアヴァロンでってことだろうな。俺もスミレのことが分かったのならこれ以上聞くことはない。


「なら自白剤の効果を解除させるよ」


 俺はメタトロンの中で発動していた自白剤を解除する。


「さて……これで普通に話せるはずだ。何か言いたいことはあるか?」


「……アズラエルの撃破。見事であった」


「お、おう。ありがとう?」


 まさか開口一番褒められるとは思わなかったから、戸惑ってしまった。……褒められたんだよな?


「汝にひとつ問いたい。我らは何故敗北した?」


 弱かったから。とかそんな答えを期待しているわけじゃないのは分かる。


「……成長しなかったから。かなぁ?」


 色々考えた結果。この言葉がシックリくるような気がした。


「成長……だと?」


「あんた達は地上に住んでいる人を下等な生き物だとみなし、嘲笑っていた。それで一度は滅びかけたんだろ? そこで考えを改めれば良かったんだ。地上の生き物を馬鹿にしていたけど、中々やるじゃないか、とね。だけどあんた達はそれでも変わらず自分達が上位の存在だと、負けるはずがないと信じて疑わなかった。それがあんた達の成長を止めていたんだよ」


「それが敗因だと言うのか?」


「人ってのはな、成長するんだよ。俺はこの世界に来てまだ五、六年ってところだ。来た当初は魔法も使えなかったよ」


「それは汝が特別だっただけだろう」


「違うよ。確かに紫の属性は特別かもしれない。だけどそれだけじゃここまで強くはならない。俺は何度もメイドに負けたし、魔王にも負けた。それこそガブリエルにもしてやられた。だけどそこから学んで成長したんだよ。あんた達はどうだ? 最初に負けたときに、下等な生き物に負けるはずがない。偶然だと言って、負けを認めなかったんじゃないか? 成長は相手を認める所から始まるんだよ」


 ルーナと模擬戦で何度も負けた。エキドナとの模擬戦も負けた。ガブリエルにだって勝利できなかった。

 そう考えると、俺ってば負けてばっかりだったよなぁ。

 それでも負けを認めてここまでやって来たんだ。


「俺達はあんた達のがここに攻めてくるって分かった半年前から全員で力を合わせて強くなってきた。ここには人間やエルフ。戦闘には参加してないけど、ドワーフや獣人。それから魔族に魔物。精霊もいたな。それから雷神トールのような神だっている。誰が上でもない。そいつらが全員平等に良いところを認めて、悪いところを補って……成長してきたんだ。ひとつの種族しかいないあんた達に勝ち目はないよ」


「勝ち目はない……か。その通りであったな」


「それをもっと早く理解してくれたらこんなことにはならなかったのにな。……それこそ【禁断の果実】なんか使わずに、一緒に暮らせば良かったんだよ」


「それは出来ん」


「何故だ?」


 今の流れなら反省してくれたように感じたんだが……。


「汝は何故我々が空に住んでいたか知っておるか?」


 何故空に? 確か……。


「確かナンムが居なくなった後、ナンムの子供達が色んな場所に移り住んだって話じゃなかったか?」


 長老から聞いた話だと、ナンムが【死の呪い】を封じた後、最期の力を振り絞ってティアマトになった。だがティアマトは全てを忘れていた。

 そしてナンムを失った子供――第一世代の神々は、色々な場所に散っていったはずだ。それこそ始まりの大陸以外の場所にも出て行った。その時に天使は空に住むようになったんだよな。


「その認識は正しくもあり、間違いでもある」


「どういうことだ?」


「確かに我らは望んで天へと向かったわけではない。追い出されたのだ」


「追い……出された?」


「原初の神ナンム様が【死の呪い】を防ぐべく、その身を投げ出して母なる大地をお救いになった。だが、ナンム様がお隠れになった後、ナンム様子らが代わりとなる王になるべく争い始めた」


「はぁっ!?」


 そんなこと……長老は一言も言ってない。


「まず最初に犠牲になったのはナンム様の初めの子であるアン様とキ様。序列で行くと、アン様とキ様が王になるはずであったからだ。この二柱を亡き者にし、残った子らで戦争を始めた」


 アンとキに関しては長老から聞いた。


「我ら天使の親であるエンリル様は、その戦いに敗れ空に逃げることになった。空を飛ぶことの出来る子は限られておったので、真っ先に狙われたそうだ。他にも飛べることの出来た神が次々と敗れた。敗れた神の中には海や別の大陸へと向かって行った」


 結果だけ聞けば長老の話と同じになる。あの時詳細は聞いてないからこれが真実の可能性はある。


「地上に残った神の戦いは決着がつかず、大陸内の領地を分割することで争いが終わった。その後、それぞれの神は基本的に不干渉を貫き、自らの領地を豊かにしていく。中にはガイアやゼウスのようにいつまでも争い続けた神もおったようだ」


 ガイアとゼウスの話がそのままテュポーンの話に繋がる訳か。


「その話は……本当なのか?」


「それは分からぬ」


「えっ? 分からないの?」


 やけに自信たっぷりに話してたんだけど。


「我が生まれたのはエンリル様が空においでになられてからだ。我はエンリル様から伝え聞いたことしか知らぬ」


 そっか。メタトロンも第二世代になるんだよな。第一世代のことを直接見ていたわけじゃないのか。


「ただ我はエンリル様がどれほど心を痛まれておったか知っておる。であるから我には真実であると、疑ってはおらぬ」


 疑ってない……か。確かに信憑性は高いかもしれない。


「エンリル様を含め、ナンム様の子らは数万年も経つ頃には全員がお隠れになられた。先ほど汝が言ったように、地上の者を甘く見ておったのは事実だ。そこは反省せねばならぬ。だがエンリル様の無念を知るものとして、地上の者と手を取り合うことなどは絶対に出来ぬ」


 長老も気がついたら第二世代だけになっていたと言ってたな。たとえ当事者だった第一世代の神がいなくなってもメタトロン達天使の恨みが晴れることはなかったというわけか。


 ……最後まで分かり合うことは出来なかったか。


「たとえどんな事情があったとしても、今回の戦争で勝ったのは俺達だ。メタトロン、お前にはその責任を負ってもらう」


「そうであろうな」


「最後に……言い残すことはあるか?」


「願わくば……ひとつだけ願いを聞いていただきたい」


「……なんだ? あっ、こちらからも言っておくが、残念ながら天使の生き残りはお前だけだ」


 そろそろシクトリーナも全滅している頃だろう。

 あっでも、ラファエルは生け捕りにしたんだったっけ? その辺りのこと詳しく聞いてなかったな。


「残念だが仕方あるまい。我の望みは……我を母なる大地で殺してはくれぬか?」


「なっ!?」


「汝は母なる大地へ行くことが出来るのであろう? であれば、頼めないだろうか?」


「確かに俺達は始まりの大陸に行くことが出来る。だがあそこはまだ【死の呪い】が蔓延している。あそこで死ねば、存在そのものが消滅してしまうぞ」


「全ての天使が死んだ今、我はもう甦る気はない。それならば我は最期はあの大地で死にたい」


「……流石に俺の一存では決められない。少し時間をくれ。トオル、ここを任せる」


「分かったよ。あと……僕の意見としては構わないと思うよ」


「分かった。参考にするよ」


 そういって俺は尋問室を退出した。



 ――――


「なぁスーラ。何で皆争うんだろうな?」


 尋問室を出た俺はやるせない気持ちを感じていた。別にナンムが居なくなったのなら皆で協力すればいいじゃないか。何で争うんだよ。


《争いは自分と違う考えを持つ人がいるから発生するの。でも自分と全く同じ考えを持つ人は存在しないの。生きている限り、皆が違う考えを持って生活しているから、争いは絶対に無くならないの。もし争いがなくなるとことがあるとしたら、それは一人ぼっちになるか、皆が全く同じ考えを持たなくちゃ駄目なの。でも仮に皆が同じ考えを持っちゃったら、そこから成長もなくなっちゃうの》


「ス、スーラ。なんかずいぶんと哲学的なことを言ってないか?」


 いきなり語りだすスーラ。てっきり同意を得られると思っていたから、かなり驚いた。


《スライムの世界も色々と世知辛いの》


「そ、そうなんだ……」


 世知辛いって……いつも呑気に暮らしているように見えたけど?

 というか世知辛いの意味分かってるのか?


《でもね。争いを減らすことは出来ると思うの。その為にシオンちゃんは頑張ってるんでしょ?》


 やっぱり相棒だな。俺はスーラのこの言葉に救われた気がした。

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