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ロストカラーズ  作者: あすか
第七章 天魔戦争
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閑話 シクトリーナの決着①

今回は閑話。ルーナ視点となります。

「それでは申し訳ありませんが、少しの間お借りいたします」


「ええ。戦場はここからなら数分で辿り着くと思います。ルーナ様のことですから心配はいらないとは思いますが、お気をつけて」


 シオン様の戦いを見届けたわたくしはすぐにシクトリーナへ帰還しました。

 本当ならシオン様を待っていたかったのですが、もしシオン様を待っていたら……わたくしはどうしたでしょう?


 あの時……シオン様の足が殺されたとき、わたくしは心臓が止まる思いでした。

 もしあれが足ではなく心臓だったら……わたくしは発狂していたかもしれません。

 相手の魔法が効くのは予想外でしたが、最初から【魔力の共鳴】を行っていれば防げた攻撃でした。やはりシオン様は詰めが甘いですね。


 ですからシオン様と顔を会わせてしまったら……油断するなと怒るでしょうか?

 それならば良いのですが、恐らくわたくしは感極まって抱き締めてしまいそうです。人目があるのを分かっていながら唇まで奪ってしまいそうで……それが恥ずかしくて思わず逃げてしまいました。

 どうやらティティには気づかれてしまったようですが……シクトリーナが気になるのも事実ですので、わたくしはこのままサクラ様の応援へと向かうことにしました。


 現在サクラ様が戦っている場所は、シンフォニア領とシクトリーナ領の境目の平地……なのですが、どうやら皆様は空を飛んで戦っている様子。

 せっかく応援に来たのですが、残念ながらわたくしは空を飛べません。これでは足手まといに待ってしまいます。


 そこでシンフォニア国境の砦で待機しておりましたハーマイン様にヒポグリフをお借りしました。

 このヒポグリフに乗っていけば、わたくしも皆様のサポートが出来るはずです。

 しかし……借り物ですから怪我をさせないように気をつけねばなりませんね。


 それにしても……シオン様を始め、トオル様にサクラ様……皆、飛ぶ術を持っておりますから、わたくしも空を飛ぶ術を身につけなくてはなりませんね。

 ……銀の翼を生やしたら飛べないでしょうか? 流石に今は試す勇気はありませんね。


 試す魔法で思い出しましたが、ティアマト様の【クリスタルコメット】。あれぞまさに芸術といえる魔法でした。何故かシオン様には不評のようでしたが……。

 わたくしも似たような魔法を考えてみたいものです。今から戦う天使で実験してみましょうか?


 そう考えていると天使が見えてきました。結構な数です。サクラ様とリカ様、ヒミカ様の三人では少し厳しいのではないでしょうか?


 サクラ様はともかく、リカ様とヒミカ様は……最低限の護身術は教えておりますが、それで天使を相手にするには荷が重いでしょう。


 特にリカ様はほんの一時間前まで歩くことさえ出来なかったのです。お二人の置かれている立場から考えるとお気持ちは分からなくもないですが、無茶だけはしてほしくないですね。もしお二人に何かあると……シオン様が悲しんでしまわれます。


 戦場は……サクラ様が従魔のロック鳥に乗って、一人離れたとこにいますね。あのロック鳥……岩子と名付けられている可哀想な従魔です。

 わたくしがそのような名前を付けられたらすぐに主人を見限ってしまいそうですが……それでも従うのはサクラ様のカリスマでしょうね。わたくしは可哀想に思い、普段はロックさんとお呼びしております。


 周りの天使は金色の派手な鎧を着けているのがミカエルでしょうか? それから他にも何人か天使がいますね。彼らがネームドでしょうか?

 サクラ様はミカエルと因縁があります。いつも明るく元気なサクラ様がミカエル――ケイン様の話をするときだけは神妙な顔つきになられます。

 サクラ様のためにも、ミカエルとの対決だけは何があっても邪魔してはいけませんね。ならわたくしがネームドを引き受けてもいいかもしれません。


 ですがそれよりもリカ様とヒミカ様の方が先です。お二人は自前の黒い翼で空を飛んでおります。周りが全て白い翼ですから、随分と目立ちますね。


 それからフェニックスとワンダージェリーがお二人に近づく天使を相手にしておられます。

 フェニックスは熱子。ワンダージェリーはオワンと名付けられています。ですが、ロックさん同様名前に不満があるようですので、わたくしはフェニさんとワンダーさんとお呼びしています。


 それにしても……本当にワンダーさんは空を飛んでおります。海の生き物ですら空を飛べるのに、わたくしは飛べない……やはり空を飛ぶ術を早く編み出さなくてはなりません。


 ワンダーさんが泡を飛ばして攻撃しております。ですが別に天使が泡に当たっても特にダメージを受けた様子はありません。一体あの泡にはどのような効果があるのでしょうか?

 それから触手による攻撃もしております。こちらは触った天使は痺れているようです。ですが殺すほどの威力は無さそうです。


 フェニさんの方は、雄叫びを上げながら炎を撒き散らしております。フェニさんを中心に、炎の円が広がっておりますが、炎はまるで生きているかの――踊っているかのように見えます。


 炎はワンダーさんが痺れさせた天使を消し炭にしております。それから自慢の鍵爪で相手を貫いております。フェニさんも中々やりますね。


 それにしても……倒された天使が次々と地上に落ちていきます。地上には既にかなりの量の天使の死体がありますね。

 もしわたくしが地上からやって来ていたら……天使の死体の雨に晒されてしまったでしょう。本当にヒポグリフを借りて良かったと思います。


 リカ様とヒミカ様は……どうやら一体の天使とお話しされている模様。お知り合いの天使でしょうか?

 天使は……随分と継ぎ接ぎだらけの天使です。失礼ながら、まるでゾンビのような天使のように見えます。


 リカ様が叫んでおられます。ものすごく怒ってらっしゃる……どうやら訳ありの様子です。

 ですがこのまま話続けられたら、戦ってらっしゃるフェニさんとワンダーさんが可哀想ですね。ではまずはお二人の元に行って、状況を確認しましょう。



 ――――


「貴女は――貴女達はどれだけ人間を弄べば気がすむの!!」


 わたくしは敵をナイフで蹴散らしながらお二人に近づくと、リカ様の叫び声が聞こえてきました。どうやらかなり深刻なようです。


「ルーナさん!?」


 ヒミカ様がわたくしに気がつきました。

 リカ様もその声にわたくしの方を向きます。


「ルーナさん……どうして……」


「あちらが片付きましたから、応援に参りました」


「片付いたって……終わったの?」


「ええ。七大天使は全滅。メタトロンも捕虜として捕らえました。残っている天使はここにいる天使のみです」


「馬鹿な!? メタトロン様が破れただと!?」


 つぎはぎ天使が驚いております。

 まぁわたくしも、もしここでシオン様が殺られたと伝えられたら同じ反応をするでしょう。


「ええ。ですが信じるはずがありませんよね?」


「当たり前だ!」


「別に貴女が信じようが信じまいがどうでもいいです。それで……リカ様、ヒミカ様。あの方をご存知で?」


 わたくしが質問するとリカ様がつぎはぎ天使を睨んで答えました。


「あいつは……サリエル。スバルが器になっていた天使よ。そして……肉体はスバルの肉体を使っているわ」


 それは……リカ様の怒りも当然ですね。


「しかし……こう申し上げては失礼ですが、スバル様の肉体は処分されたはずでは?」


 確かそのような話を伺っていたのですが気のせいでしたか?


「どうやら違ったみたいね。さっき聞いた話だと、スバルの体を散々弄った後に、それでも器として機能するか実験をしたそうよ」


 それで先程のリカ様の叫びですか。

 これは……わたくしがこの天使を倒すわけには参りませんね。この天使は……お二人が相手をしないとなりません。

 ですが……正直かなり厳しいかもしれません。サリエルはお二人よりも格上の様子。普通に戦えば負けてしまうかもしれません。ですが……。


「あの天使はお二人に任せてよろしいですか?」


「当たり前よ。横取りしたらルーナさんでも許さない」


「分かりました。ではわたくしは残った天使のお相手をいたします。そのためには……少し邪魔になりますので、別の場所に移って頂きたいと思いますがよろしいでしょうか?」


「……それはあっちに言って」


「では……少しだけ手荒にさせていただきます」


 わたくしはヒポグリフからサリエルの上空へ飛び上がる。そして、サリエルが反応するよりも早く上から頭を蹴り落とします。

 サリエルはそのまま地上に叩きつけられます。このくらいのダメージはハンデでしょう。


「ちょっ! ちょっとルーナさん!?」


「手加減したから大丈夫です。あとはお二人がやってください」


「……分かったわよ」


 少しだけ不本意そうにしていましたが、大人しく従ってただけそうです。


「リカ様、ヒミカ様。ひとつだけアドバイスを。天使として体を完全に乗っ取られたとしても……人間状態で死んでいたとしても……その体に染み付いた魂は残っております。その魂を呼び起こすことが出来るかどうかは……お二人次第だと思っております」


 わたくしは先程トオル様がシオン様にお話ししていたことを思い出しました。

 記憶がないと言っていたセラフィエルが生徒手帳を持っていた。

 その事は後でシオン様からお話があるでしょうから、わたくしからはお話いたしません。


「……ありがとう。善処してみるわ」


 聡明なリカ様は、それだけでわたくしが言いたいことを理解したようです。


「焚きつけておいて何ですが、深追いだけはされぬように……いってらっしゃいませ」


 お二人は地上へ降りていきました。続いてわたくしはフェニさんとワンダーさんに話しかけます。


「フェニさん、ワンダーさん。ここは大丈夫ですから、お二人のサポートに付いてくださいませんか? ですが決して手は出さぬようお願いします。お二人がピンチの時だけ、死なないように助けてあげて下さいまし」


 フェニさんはわたくしに小さく頷きます。ワンダーさんは分かりませんけど、おそらくフェニさんと同じようです。


 フェニさんは「ピィィィ!」とひと鳴きすると、炎を撒き散らしてワンダーさんと一緒に地上へ降りていきました。


 フェニさんもワンダーさんも……決して念話をされようとしません。

 ヒカリ様が仰るにはロックさんも含めたお三方は名前が変わるまで念話をしないストライキをされているようで……ただそれをサクラ様には伝えてはいけないそうです。

 妙な拘りですが、従魔としての拘りなのかもしれません。

 そしてサクラ様に悪いとのことで、ヒカリ様以外の方とも念話をしません。

 ですが何故ヒカリ様だけよろしいんでしょうか? 疑問は尽きません。


 それはともかく、フェニさんとワンダーさんがリカ様とヒミカ様を守ってくだされば安心です。

 わたくしはここにいる天使を倒してしまいましょう。


 フェニさんが最後に放った炎のお陰で天使は近づけなかったようです。

 わたくしは天使のいる範囲に【銀幕世界】を張ります。空を飛んでいる数万の天使を一気に飲み込むほどの巨大な【銀幕世界】です。

 結界のような役割もありますので、天使はこの舞台から出ることが出来なくなりました。


 さてこの天使たち。非常に不愉快ではありますが、わたくしの銀色とは違いますが、聖属性の一面を持っております。

 その為わたくしの攻撃は殆ど通用いたしません。

 わたくしの魔法が弱点になるのはアンデッドやヴァンパイア。それから毒魔法を扱うシオン様。


 シオン様が弱点なのに、敵の天使は弱点ではないなんて……今回ほど自分の属性を恨んだことはありません。


 わたくしはイプシロンの管理者に選ばれたあと、天使に有効な攻撃を研究しました。ですがどうしても上手い考えが思い付きません。


 例えばわたくしは銀製品に自分のイメージを付与させることが出来ます。シオン様が言うにはチートと呼ばれるそうですが、これによりある程度他の属性も補うことが出来ます。

 ただしこれはあくまで銀製品に付与できるだけです。今回のように【銀幕世界】に付与できるわけではありませんし、大人数相手にはどうしても限界があります。その上、シオン様のように毒を……というわけには参りません。

 わたくしも今回初めて知りましたが、相反する属性である毒の付与は出来ないようです。毒を付与しようとすると……銀が変色をして崩れてしまうのです。

 この時ばかりはシオン様との間にさらに障害を感じて凹んでしまいました。


 そんなある日、地球の本を読んでいるとある発見がありました。

 こちらの世界には漢字はありませんので、全く想像もしませんでしたが、日本には水銀と呼ばれるものがあるそうです。


 詳しく調べてみるとこちらでは別の名前で存在しており、錬金術の研究でよく使用されているものでした。

 わたくしは錬金術を使うわけでもありませんし、馴染みがないものですから、この水銀という漢字を見るまでは考えも付きませんでした。


 その水銀の中でもメチル水銀と呼ばれるものはなんと強い毒性を持っていたのです。そこからわたくしの方向性が定まりました。


 銀とは違いますが、水銀を魔法として召喚する。

 魔法はイメージですから、たとえそれが銀でなくともイメージすれば使えるはずです。


 ですが、今まで考えもしなかったこと。そう簡単に魔法は完成しませんでした。

 始めは全くイメージが沸かず、失敗ばかりしました。


 わたくしはシオン様やサクラ様のように単純ではないですし、トオル様のように柔軟に考えることは出来ません。ただ漢字に銀が用いられているから使える。

 それだけで魔法を使えと言うのです。

 理性が無理と頑なに否定してくるのです。


 ですが……わたくしはやり遂げました。

 毒性のある銀――水銀を召喚することに成功したのです。


 まぁ……それをトオル様に報告したら、これは水銀ではなく、ただの銀色の毒だと言われたのですが……。


 考えたらわたくしは水銀が毒性を持っていると調べただけで、どのような種類の毒かなんて調べてなかったのです。

 ですからシオン様が普段使われている毒をイメージしながらそれを水銀と思い込んでいました。


 結果、今回の銀の毒が完成したのです。普通に銀に付与させても出来なかったのに……本当にイメージ――いえ、もはや思い込みですね。思い込みの力は馬鹿に出来ませんね。


 しかしこれでわたくしも毒を使えることが出来るようになりました。また一歩シオン様に近づけたような気がして嬉しく感じます。


 先程唱えた【銀幕世界】には、その偽水銀――銀の毒を付与させてみました。

 先程から【銀幕世界】の中で叫び声や悲鳴が聞こえてきます。天使にも毒が通用しているみたいです。


 どうやら破られる心配も無さそうですし、このままで大丈夫でしょう。

 ですが、現在【銀幕世界】の中には死体がたくさん……。

 死体に関しては、最後にまとめてわたくしの【この世界から安らかなる(ホーリーリリース)解放を】で消滅させましょう。


 生きている天使相手には通用しなくても、死んでしまえば属性は関係ありません。わたくしの聖属性の魔法も通用することでしょう。


 さて、残る邪魔な天使はサクラ様の側にいるネームドのみ。あの天使たちには【クリスタルコメット】のようなわたくしの新たな魔法の実験体になっていただきましょうかね。

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