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ロストカラーズ  作者: あすか
第七章 天魔戦争
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第287話 ファイ島の攻防を観よう②

「ちょっと!? ねぇもうちょっと下! 下のアングルに出来なかったの!?」


 俺は無駄だと知りつつもモニター越しに下から見上げてみる。……やはり駄目か。


「シオン様……その言い方と仕草はスカートを覗こうとしている変態のように見えますのでお止めください」


「変たっ!? いやいやスカートなんかどこにもないだろ!!」


「たとえスカートがなくても仕草がそれっぽいと言っているのです。それに……ハーミット様が女性だったらどうするおつもりですか? テントの中が全裸の女性の可能性だってあるのですよ」


「……いや、その発想の方が変態だと思うぞ」


 やれやれ。でも……確かに今の俺は飾ってあるフィギュアを下から眺める感じになっていた。ちょっと反省。


 ハーレクインから送られてきた動画に真っ先に映し出されたのは、ハーミットが縦横無尽に飛び回っている姿だった。

 もちろんハーミットはいつものテント姿だ。テントが飛んでいる……ものすごくシュールな映像だったが、テントの中がどうなっているのか? 俺は未だに知らない。だからテントを下から見上げたらどうなっているのか……気になるのは当然だと思う。

 しかも、色合い的に下面は他の部分のテント布と違う色っぽい。ってことは、中が見れるかもしれない。だが狙ったかのようにギリギリのところで見えない。


「でも……あれだけ天使を取り込んでも形ひとつ変えないなんて、本当に中ってどうなってるんだろうね?」


 そうなのだ。ハーミットの攻撃方法はテントから黒い何かが飛び出して天使を掴み、一瞬でテントの中に入れる。そして数秒大人しくなったかと思うと、動きを再開し、同じように次の天使を捕まえる。その間テントが膨らむことも、天使の死体も出てこない。ずっとテントの中に入りっぱなしだ。

 こんな攻撃方法で、テントの中に裸の女性がいるなんて発想をする方がどうかしている。


 俺の予想では、やはりテントが本体で、テントの中がブラックホールのような異次元になっている。

 もしくは、あのテントは中に入ると体が小さくなるような魔道具で、中ではハーミットと小人になった天使の死体が……。

 いやいや、実はハーミットの正体はスライムで、中で天使を丸呑みにして消火しているのでは……。


 どれも嫌だけど……スライムが一番嫌だなぁ。小人になるってのが一番可能性としてはありそうか? でも死体まみれってのは勘弁してほしいから、死体は別途どうにかしている線を信じたい。


 ハーミットの次はドクターとリーパーが映る。彼らの戦い方は道化師の修行の合間に見させてもらった。

 ドクターは名前の通り医者だ。ナイフ代わりにメスを使う。また、毒薬や睡眠薬などの薬も用いる。正直俺とかなり近い戦い方だ。

 リーパーは死神。鎌を振り回しながら敵を倒していく。鎌は大きさを変えられるようで、巨大化させることで一気に天使が真っ二つになっていた。


 うん。この二人は言動や性格はともかく戦闘はまともだな。そして次に映し出されたのはマジシャンとフォーチュンテラー。男性陣と違い、女性陣の戦い方はかなり独特であった。まぁ二人は占い師と手品師だ。職業的にも全くもって戦闘向きではない。


 まずはマジシャン。

 彼女は日頃から黒のシルクハットとマントを装着しているが、そこから色々なものを召喚する。

 マントを翻すと、そこに投擲武器が現れる。ただし何が出てくるかは本人にも分からない。マジシャンが今までの人生で見てきた様々な投擲武器が出てくるようだ。一回召喚されたらその武器を使いきらないと、次が出てこないらしい。


 ナイフやクナイなら投げるだけなので大当たり。

 ブーメランやチャクラムでも当たり。

 トマホークや銛は威力はあるものの使いづらいのでやや外れ。

 大外れは弓矢の矢だけやカタパルトに使用する石。小石ならともかく自分の頭よりも大きな石が召喚されても困るだけらしい。


 他にも色んな種類が存在するようだが……。別にこれはマントが魔道具というわけではなく、あくまでもマジシャンの召喚魔法らしい。まぁマントを翻さないと使えないようだが。

 つまり自分でイメージして、ランダムになるように設定しているのだ。

 何故そんなデメリットにしかならないような魔法にしたか聞いたところ『何が出るか分からない方が面白いではありませんか』と返ってきた。

 手品なら面白い方がいいだろうが、それは客に対してで、自分が面白くなる必要は全くない。

 それに生死が関わる戦闘にランダム要素を設けるなんて……本当に何を考えているのやら。


 因みに今回召喚された武器は火炎ビンだった。果たして当たりなのか外れなのか……判断に悩むところだな。

 しかし、たかが火炎ビンと言っても、マジシャンの魔法。マジシャンの魔力で作り出されているため、その威力は絶大だ。

 天使が火炎ビンを食らったら、一瞬で燃え尽きる威力となっている。


 それからシルクハットの方にも細工がしてある。

 こちらは帽子を脱いで、つばかトップをステッキで叩くと中から魔法が飛び出してくる。もちろんこれもランダムだ。


 炎が飛び出ることがあれば水が出ることもあるし、コウモリが出てくることもある。

 こちらもマジシャンが今までに受けた魔法や、倒した魔物の種族で召喚されるらしい。こうなってくると、ある意味ラーニングみたいなものだな。


 今回は……ドラゴンの首だけが召喚された。首は天使に襲いかかるとそのまま丸呑みにする。魔法だから首だけでも問題ないのか。

 やはりドクターやリーパーと比べると、かなり独特の戦い方だ。


 そしてもう一人特殊な戦い方をしているのがフォーチュンテラー。

 といっても、フォーチュンテラーは直接的な攻撃魔法を持っていない。攻撃方法はヴァンパイアとしての能力だけ。

 眷属のコウモリを召喚する。血液を吸う。霧になる。それくらいだ。


 ちょうど今フォーチュンテラーに向かって天使が攻撃を仕掛けようとしている。その天使がフォーチュンテラーの目の前まで来ると、フォーチュンテラーが何もしていないのに天使が真っ二つになる。


 フォーチュンテラーの魔法は予知。持っている水晶で少し先の未来が読めるそうだ。そして水晶に映っている未来に魔力を流すことによって、未来を変更することができる。

 恐らくフォーチュンテラーの水晶には真っ二つにされた天使の襲い掛かってる映像が映っていたはずだ。

 その映っている天使に魔力を流して水晶の中の天使を真っ二つにすれば、数秒後に実際の天使が真っ二つになる。


 また、天使に直接危害を加えずとも、水晶内に映っている部分に細工をすることも出来る。

 例えば地割れを起こす。目の前の木を消滅させる。もしくは雷を召喚して天使に直撃させることも可能だ。

 これらは未来の出来事のため、敵は避けることができない。

 かなり無敵感のある魔法だ。


 ただし敵に直接危害を与えるには、フォーチュンテラーの水晶に流す魔力が相手の魔力よりも高くないといけない。

 一回の攻撃で毎回相手の総魔力よりも高い攻撃をしていたら、すぐに魔力が枯渇してしまう。

 今のフォーチュンテラーの総魔力は約六十万。天使が十万だと仮定すると、五回使えば天使と同じ魔力になってしまう。

 まぁ直接危害を加えなければ……例えば敵の進行方向に炎を置くだけ、雷を降らすだけならそこまで魔力を消費しない。ただし必中攻撃ではあるが、殺傷能力はかなり落ちる。

 まぁ攻撃をしなくても、敵の攻撃方法が分かるのだから、避けるだけに特化してもいい。これなら魔力は殆ど使わない。


 使えば無敵だが、敵を直接倒すには非効率な魔法ともいえる。

 さっき天使を真っ二つにしたのは……おそらく動画映えするために違いない。フォーチュンテラーはそういう奴だ。


 魔法単体で考えると、誰よりも強い魔法だが……一対一に特化しているため、撃破数争いの今回は負ける可能性が高いかな。


 次に映ったのはクラウンではなくゼロだ。

 ハーレクインめ。道化師の活躍は最後に持ってくるつもりか?


 そういえばゼロの戦いって初めて見るな。普段は酒飲んで遊んでいるイメージが強いけど、どうなんだろう?


 ゼロが右手を突き出すと、手のひらから黒い霧を出す。それに巻き込まれた天使は霧から抜けると……まるでミイラのようにからっからに干からびていた。

 ヴァンパイアは血液を吸い取るんだけど……おそらく血液だけじゃなく、全身のありとあらゆる水分が抜き取られてしまったのだろう。


 ゼロの体が霧になる。霧のまま移動をし天使の背後で肉体に戻る。そして片手で天使の首を掴むと力任せに胴体から首を引きちぎる。肉体はそのまま落下していき、手に持っている頭部は先ほどのように干からびて……塵となる。


 ゼロの右腕が狼の頭のような形に変形する。そのまま近くにいた天使をバクリと食べる。


 ……グロッ!? グロすぎるよ!? なんなんだよこれは!!

 体が霧になるのも、肉体が変形するのも、血液を吸うのも、怪力なところも全てヴァンパイアの特徴と言える。

 ジョーカーズと違い、全て正統派ヴァンパイアではあるが……そりゃあラファエルも逃げ出すわ。

 さっきハーレクインが化け物って言ってたけど……そう言われても仕方がない気がする。ジョーカーズが白旗を上げるはずだ。


「うう……今日の晩ご飯食べられるかなぁ」

「シオン様。流石にこれ以上は観たくないのですが……」


 二人の気持ちは痛いほどよく分かる。俺だって同じ気持ちだ。

 このゼロがいる限り、この島は安泰だろう。ただ一応まだ道化師の戦い動画が残っているはずだ。


「じゃあ最後に道化師の戦いだけ見て終わりにしようか」


「いえ、動画はこれで終了ですが?」


 なんだ。ハーレクインのやつ、自分の……まぁクラウンだろうが、クラウンの活躍は取らなかったのか?


「まぁ道化師のことに関しては大体分かってるのでいいか」


 半月の間ずっと模擬戦をしていたんだ。模擬戦自体は防御しか教えなかったが、戦い方はある程度分かる。

 メインの魔法はさっき見せた【観客の目】。相手を動けなくして、その隙に攻撃をする。これが基本的な攻撃方法だ。ただ道化師によって魔法が違う。


 もし戦っているのがクラウンだったら、クラウンの魔法【バルーン】を使用して敵を倒すはずだ。【バルーン】はその名の通り風船を作り出す。その風船は爆弾になっており接触することで爆発する。風船なのでスピードはないが、【観衆の目】で動けないので、スピードは問題ない。

 それに今回は空飛ぶ天使が相手なので、風船を罠として空中に配置するだけで、【観衆の目】を受けてない天使の動きも妨害できる。


 他の道化師――ピエロの【人形遣い(パペットマスター)】。トリックスターは【ジャグリング】。ジェスターの【パントマイム】。ハーレクインの【猛獣使い】。


 それぞれ役割が違う特徴のある魔法になっているのが面白い。だから道化師に関しては殆ど分かってるから観なくてもいいや。

 と、思ったらそこにハーレクインから連絡が来る。


『シオン様。動画は届きましたでしょうか?』


「ああ。今観てたところだ。道化師の動画はなかったがどうしたんだ?」


『それは今からわたくしが戦いに出ますので、ピエロに撮影をお願いしてお送りいたしますわ』


 コイツ……自分の活躍を送るために、わざわざ他の道化師の動画を撮らなかったのか。


「いや、ファイ島の活躍は十分に分かったから、動画はもういいよ」


『えっ!? シオン様!?』


「今後は何か大きな変化があったら連絡してくれ」


『そんな!? わたくしの活や……』


 そんなのは知らんとばかりに通話を切る。……ちょっと可哀想だったかな?


「シオン様ひっどーい! ハーレクイン様がかわいそう」


「いや、これ以上戦闘シーンは必要ないだろ。それに……ハーレクインの魔法はティティの教育上よろしくないと思う」


 ハーレクインの【猛獣使い】――鞭で打たれた相手はハーレクインの忠実な僕となる。

 若干女王様が入ってるからな。ティティには目の毒だ。


「シオン様が私のことどう思ってるか、一度じっくり話さないといけない気がしてきたよ」


「だからティティのことはいい女だと思ってるんだって」


「シオン様。わたくしは? ハーレクイン様の動画はわたくしの教育にもよろしくないのではないのですか?」


「えっ? ルーナは特に……いや、真似されたら困るから、ルーナにもよくないか」


 ルーナが女王様になると思うと、俺は夜逃げするかもしれん。


「何故ティティは教育上で、わたくしは真似なのですか!!」


「はははっ。まぁどうでもいいじゃないかそんなこと」


 とりあえず笑って誤魔化すことにした。だって……ねぇ。流石に正直には答えられないよなぁ。

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