第286話 ファイ島の攻防を観よう①
「ガンマ島も大丈夫そうだし、次は順番で言うとファイ島なんだけど……ガブリエルとデューテの話でミカエルがシクトリーナに向かっていることが判明したな。あっちは大丈夫かな?」
一応盗聴した後に簡単に指示は出したけど……ここからじゃシクトリーナの様子をリアルタイムで確認出来ないからもどかしいな。
「今の所シクトリーナから連絡は来てないよ。一応ミカエルが攻めて来ることが確定したメールだけ送っておくね。それに多分ミカエルが現れてたら、もう連絡が来てるはずだし、まだ大丈夫じゃないかな」
「確かにそうだな。だとすると、すでにファイ島に到着しているラファエルを確認するべきだな」
ラファエルはファイ島へ侵攻する為に、イプシロンのすぐ側を飛んでいた。その時、行きがけの駄賃のような感じで、このイプシロンに攻撃をしやがった。もちろん結界のお陰でダメージはないけどね。こっちが【死の呪い】を発動させないからと少し強気になっているに違いない。
ちょっとビックリしたから、ゼロから痛い目に逢う所をモニター越しにバッチリと観てやりたい。だがモニターにはいつまで経ってもファイ島の様子が映らない。
「……おいどうした。画面が真っ暗なんだが?」
「えーと……どうやら魔力妨害されているみたいで、島の様子が映らないみたいですね」
「魔力妨害って……あっ、もしかしてゼロの魔法か?」
ゼロの結界魔法。結界の中と外で違う光景を映し出す幻影魔法の一種だ。だが同じラピスラズリの幻影魔法とは少し違う。
ラピスラズリが指定の場所に幻影を出す魔法だが、ゼロはその場所の過去を投影する。
俺は過去に二回経験した。
一回目は赤の国。一見普通の城だったのだが、結界の中に入ると瘴気まみれだった。
二回目は海。自我を失ったティアマトと執事の亀の決戦を止めるために発動。結界の外にいる俺にはその様子が見れなかった。
キャメリアが結界の中を見れないのは、おそらく外からの魔法を遮断しているからだろう。幻を見せているのに、中が分かったら魔法として成り立たないもんな。しかし、中が確認出来ないのは困る。
「連絡して中を見られるようにしてもらおうよ」
「連絡……付くのか?」
確か赤の国の時は、結界に阻まれて城と連絡が付かなかった。仮に連絡が付いたとしても戦闘中……そのせいで負けちゃうなんてことないかな?
「まぁゼロだからいいや」
ゼロがケータイの着信で油断することはないと思うし、本当に無理なら取ることが出来ないだけ。ダメ元で掛けてみよう。
すると、ケータイは発信音に切り替わる。発信音がするってことは、結界に妨害されている訳ではないようだ。キャメリアは遮断されて、ケータイは遮断されない……ケータイというよりはトオルの魔法だけ、核で例外登録されているのかな? そうだな。転移するにもトオルの魔法だからその可能性はある。しかし……キャメリアも例外登録してくれればよかったのに。
数コールするとガチャと繋がる音がする。
「あっ、ゼロ? あのさ……」
『シオンか!? 今忙しいから用事があればクラウンに掛けろ!』
それだけ言って切れる。背後が喧しかったし、やはり戦闘中だったか。ただそれでも通話に出るあたり、意外と律儀だよな。まぁとりあえず無事に通じることは確認できた。
じゃあクラウンに……ってクラウンに掛けても大丈夫なのか? ゼロが戦闘中ってことは、クラウンも戦闘中なんじゃ? まぁゼロが掛けろって言ってるんだからクラウンは後方待機なのかもしれない。俺は言われたとおりクラウンに連絡してみる。
『もしもし。シオン様ですか?』
幸いケータイにはすぐに出たが……女性の声ってことはハーレクインだな。
「ハーレクインか? その……今大丈夫か?」
『ええ、問題ありませんわ。如何されましたか?』
随分とゼロと温度差があるな。しかしゼロと同じく背後が喧しい。爆発音や叫び声、まさしく戦場の喧騒といった感じだ。同じ戦場であることは間違いないと思うが……どういうことだ?
「実は……」
『あっ、申し訳ございませんシオン様。外野が少しうるさいので、静かな場所に移動します。少々お待ち下さい』
静かな場所って戦場から離脱ってことか? そんなに簡単に離脱できるのか……。そのまま三十秒程待つと、喧騒が遠のいた。
『シオン様。お待たせしました。どのようなご用件でしょうか?』
「その……連絡しておいて何だけど、今戦闘中なんだよな? 大丈夫なのか?」
『ええ。わたくしは今は休憩中なので問題ありませんわ』
「休憩中って……」
そんな通常業務中みたいな雰囲気で言われても……。
『公平を期すために、わたくし達は同時に一人しか参加できないのですよ。これもわたくしの能力なので、文句を言われる筋合いはないのですが……理不尽だと思いませんか?』
「すまない。全く意味が分からないんだが、何が公平で何が理不尽なんだ?」
『今回、ゼロ様対ジョーカーズでどちらが活躍したか勝負をしているのはご存じですよね?』
「いや、知らないが?」
多分事前の打ち合わせか何かで決まったんだろうが……何で知っていること前提なんだよ。
『あらそうでしたか。これは失礼しました。とにかく現在ゼロ様とどっちがより多くの天使を倒したか、どちらが大物を倒したか勝負をしているのですよ』
「ゼロ対ジョーカーズって言ったよな? ゼロ不利すぎじゃないか?」
個々の能力ならゼロの方が圧倒的だろうが、強さじゃなく、倒した敵の数なら人数の多いジョーカーズの方が優勢だろう。
『確かに人数が多いからこちらの方が有利と思われるかもしれませんが、敵からダメージを受けるとマイナスポイントですから一概に有利ともいえないんです』
なるほど。勝負となると無茶をしがちになるけど、ダメージを受けるとマイナスってことで慎重にならざるを得ない。よく考えてるな。
『それにシオン様はゼロ様のことを甘く見ておられます。ゼロ様ーーあの人は化け物です。不利なんてとんでもないです』
親に向かって化け物とか……どうやら大分してやられてるな。
『それにゼロ様は狡いんです。島に結界を張って、瘴気を撒き散らしたのですが……それにやられた天使もゼロ様のカウントにしているのですよ。ですからこちらは天使が瘴気で死ぬ前に殺さないと、ポイントにならないんです』
やっぱり結界の所為でキャメリアの能力が遮断されたとみて間違いないな。
「実はその結界のせいで、ファイ島の様子が分からないんだよ。だからどうなってるのかな? と思って連絡したんだ。そしたらゼロが忙しいから用件があるならクラウンに言えって……」
『そうでしたか。こちらの状況は今申したとおりですわ。ゼロ様が圧倒的に優勢で、勝てる見込みがなくなってきたところですの』
「そ、そうか……じゃあ別に苦戦しているわけではないんだな?」
「ええ、既にネームドも何体か倒しております。流石にくっころさんはまだ生き残っているようですが……ゼロ様に恐れを抱いたようで、後方に逃げていきましたわ』
ラファエル……逃げたのか。というか、コイツはいつまでラファエルのことをくっころと呼び続けるのか……。
「そういえば、理不尽ってのはどういうことだ? 公平にって言ってたけど……」
今の話なら、ゼロが道化師の能力を制限する理由にはならない気がする。
『ええ、ゼロ様には勝てそうもありませんから、ジョーカーズ内で誰が一番活躍したか勝負することにしましたの。そこで、わたくし達が五人で勝負すると不公平だと言うことで、同時での参加は駄目だと言うことになりましたの。一応交代は認められておりますから、わたくしも後で参加する予定ですわ』
そういうことか。ゼロとの勝負は諦めてジョーカーズ勝負に切り替えたのか。
「なぁ。なんとか中の様子を見ることが出来ないか?」
『そうですね……。ゼロ様は結界を解除する様子はございませんので、よろしければわたくしが動画を撮ってお送りしましょうか?』
なるほど。リアルタイムではないが、今通話しているケータイを使えば動画を取ることが出来るな。
「そうだな。じゃあ動画を撮って、イプシロンの通信室宛に動画を送ってくれ」
『かしこまりました。では後ほど動画をお送りいたしますわ』
よし、これで後は動画が送られてくるのを待てばいいかな。
「……随分と一方的な戦いのようですね」
「ああ。なんか楽勝っぽいから動画を見る必要も無さそうだけど、一応待ってようか」
数分後、動画が送られてきたので、全員で観ることにした。




