第285話 ガンマ島の攻防を観よう②
デューテとガブリエルの舌戦が終了し、そして第二ラウンド。
会話は遅れて聞いていたため、画面上では既に戦闘が始まっていた。
先制攻撃はガブリエル。杖のようなものを取り出し、杖先から白く光った魔法を放つ。ガブリエルの属性は白だから、おそらく属性を含んだ魔力波の一種だろう。
その攻撃を合図として、後方で待機していた天使達が一斉に進軍を開始する。
デューテはガブリエルの攻撃をあっさりと躱し、地上に降りてリュート達と合流する。
まとまって迎撃するのか? と思ったが、そうではないらしい。
デューテはその場で二、三言話すとすぐに飛んでいった。この会話は過去の音声を再生中だったから聞けてない。
そして結界が発動する。
降りていったのは結界の合図をするためだったのかな?
結界が発動することによって、ガンマ島には放電現象が巻き起こる。これにより天使達にデバフが掛かる……はずだが、今のところ放電現象に苦戦しているものの、弱体化した様子は見られない。という状況で音声と映像が追い付いた。
「デバフが掛からないのは、ガブリエルはデューテ様があの島にいることを知っておりました。もしかしたら何か対策を立ててきたのかもしれません」
そっか。ガブリエルはここにいるのはデューテだと予想してここに来ていた。
ガブリエルはデューテの魔法の効果を知っている。自身はバフの効果を受けていたし、デバフの効果を受けていた俺達も見ている
だとすると、さっきの準備中に対策を立てていても不思議じゃない。
「デバフが掛からなくても、こっちのバフは掛かってるし優位なのは間違いないよな」
結界自体は発動しているんだから、こちらが強くなっているのは間違いない。
「ですが飛び続けられるのは厄介ですね」
確かに天使達は飛び続けている。デバフで飛べなくするのもこちらの作戦だったから、これは少しマズいのかな?
まぁ放電にやられて落ちて来る天使はいるが。ただ死んではいなさそうだ。
「あっ、リンちゃんだ」
ティティの言う通りモニターにはリンが大きく映し出される。リンは落ちてきた天使達に針を投げる。落下中に針を受けた天使は着地も失敗し、地面に叩きつけられる。
そして天使はその場から動けないでいる。多分あの針にはマヒでも仕掛けてあるんだろう。真っ先に飛び出して敵の動きを封じる。まさに遊撃隊の仕事だな。
そして動けなくなった天使を、モニターの映像では捉えきれないほどのスピードでリュートが止めを刺す。既に相棒のショコラとの融合も済んでいるみたいで、スピードに磨きが掛かっている。
リンとリュート。シクトリーナの神速コンビの二人が、地上で次々と天使を仕留めていく。
さて、残ってるアイラと応援に向かったラピスラズリは……。
「うわっなんだこれ!?」
突然モニターが白一色に染められる。これは……。
「雪?」
最初は白の霧かと思ったけど、よく見るとこれ……吹雪だ。
そういえば俺も初めてラピスラズリと戦ったときに吹雪でかなり苦戦させられた。しかし、こう吹雪いていたら何も見えない。
「映像を切り替えます」
キャメリアがそう言うと、モニターの画面が変わった。フェードアウトして、島の上空からの映像になっている。
外から見るガンマ島は、全体が吹雪に包まれており、そこに雷が鳴り響き、ときおり空で爆発が起こっていた。
目の前の異常気象というか天変地異というか、あまりの光景に絶句してしまう……。
さっきも別の島で隕石が降ってきたりしていたし……俺達ってさ、この世界を破壊するのが目的だったっけ? そう思えるくらいの終末感が目の前にはあった。このままではロストカラーズの復興前に、俺達の手でこの世界が滅んでしまいそうだ。
「シオン様。先程のデバフの件ですが、もしかしたら、あえて付与させなかったのではないですか?」
「えっ?」
「だって、あのような雪と雷。それに爆発。天使が地上にいたら、地上の被害が尋常ではないと思いませんか?」
確かに。空の方が雷も当たりやすいだろうし、地上で爆発が起きたらせっかく作った施設が壊れてしまう。
だからあえてデバフをせずに、天使を空にいた状態でこの異常気象に巻き込ませたのか。
そして地上に落ちた天使をリンとリュートが叩くと。
これ、作戦だよな? ラピスラズリとリンは直前に来ることになったのに、よくここまで連携をとることが出来るよな。
「というか、爆発って何だ? 雷に当たっても爆発はしないだろ?」
雷は雷で命中したら光ってるし、一体誰が爆発させてるんだ?
「爆発はアイラ様ですよ」
「アイラ!? アイラって火じゃないのか?」
吹雪の中に火を付けても爆発はしないよな? あっ、でもゲームとかでは火の魔法使いは爆発魔法も使えることが多いか。そもそも雪と炎って真逆の存在。打ち消し合ったりしないのかな?
「シオン様。アイラ様がいつまでも火しか使えないと思っているのなら大間違いですよ。アイラ様だってちゃんと成長しているのですから」
爆発を成長って言うのか。嫌な成長の仕方だなぁ。
「わたくしが最後にアイラ様と模擬戦したときは、矢尻に火薬が仕込んであって、好きなタイミングで爆発させてましたよ」
……ってことは、アイラはあの吹雪の中で矢を放って、爆発させてるってのか? 視界も悪い上に、矢なんてすぐに吹き飛ばされそうな中で? ちゃんと狙っているのか、それともどこでもいいから爆発させてるのか? ここからでは分からないが、少なくとも天使がいる場所で爆発が起きているということだ。
「デバフがなくても天使は吹雪で動きが鈍く、雷と爆発によりやられていく。仮に生きていたとしても、地上ではリンとリュート様の神速コンビが敵に攻撃の隙も与えずに倒していく。どうやらガンマ島も問題なさそうですね」
「確かに。あとはネームドがあの中で生き残れるか、だな」
あの状態で生き残っているネームドがいればかなりの強敵だと思う。吹雪だっていつまでも吹雪いている訳ではないだろうから、吹雪が止んでからが本当の勝負なのかもしれない。
「大丈夫じゃないかな? まだとっておきも残ってるしね」
「とっておき?」
はて? これ以上の戦力ってあったっけ?
「うん。ガンマ砲だよ。あれを使えば多分大丈夫だよ」
確かにガンマ砲ってのが存在することは知っている。だが、それにそこまでの威力があるのか?
「あっほら、ちょうど発射されるみたいだよ」
ティティが言うや否や、ものすごい出力のエネルギー砲が発射される。まるでアニメで見た宇宙戦艦の波動砲のようだ。
ガンマ砲はガンマ島の結界を撃ち破ってどこまでも……。
「……何あれ?」
「だからガンマ砲だってば」
「それは分かってるよ!! じゃなくて、あの威力は何だって聞いてるんだ!」
アホみたいな火力だったぞ。先日デューテはガンマ砲でアヴァロンは落とせないって言ってたけど、今の威力なら余裕で落とせるだろ?
あれの直撃を食らったら、俺ですら死んでしまうに違いない。
「おかしいなぁ、あそこまで威力があるのは計算外だと思うよ」
「でも事実あれだけの威力があったじゃないか。見てみろ、生き残った天使の顔。明らかに戦意喪失してるぞ」
可哀想に。真っ青になって怯えきってる。今降伏を呼びかけたら全員降伏するんじゃないのか?
「……ねぇ。何で天使が見えるのかな?」
「何でってそりゃあ生き残りが見えても……」
って、そういえばさっきまで吹雪で全く見えなかった。それに雷も。爆発はアイラが止めてるとして、きれいさっぱり晴れている。
「そもそもガンマ砲ってなんなのです」
そういえば原理は聞いてなかったな。少なくとも地球の技術じゃ無理だぞ。
「ガンマ砲はね。トールの魔力を集めて発射する砲台なんだよ」
出力はトールの魔力なのかよ。そういえばトールは見かけなかったな。仮にデューテと融合していたとしても、それは魔力での話。ゴーレムの肉体が無くなる訳ではないし、意識だってゴーレムの中に入りっぱなしだ。だけど、鳥型も人型も見当たらなかった。
そして今のティティの説明。トールは砲台の所で待機をしていたのか。
そして俺でも知らない情報を、何でティティが知ってるのか。本当に底が知れない。
「トールの魔力を集めて発射……。それはトールの魔力だけ集めるのでしょうか? それとも別の人も発射することが出来るのでしょうか?」
「一応他の人の魔力でも発射できるみたいだよ。ただ一番出力が高かったのはトールみたいだけどね」
それは一番魔力を保有しているのがトールだからだろうな。
「それは……例えば周囲の魔力を集めて発射するするのでしょうか?」
「さぁ? そこまでは知らないなぁ。でもそれって関係あるの?」
「勿論関係あります。わたくしは実験には参加しておりませんが、実験時には結界を張ってはいなかったのではないですか?」
「そうだね。別に張る必要もなかったし」
「では実験中は周囲にトールの魔力しかなかった。その時の威力は今よりも低かった。今は結界を張って、さらに吹雪の魔法も発動しておりました。そして発射後は晴れている。仮に結界の魔力と吹雪の魔力も取り込んで発射していたとすれば、あの威力になるのではないですか?」
「……だから今はこんなに晴れてるのか」
周囲の魔力を吸収して発射するガンマ砲……どうやら想像以上にとんでもない砲台だったようだ。
「しかし、これでガンマ島も安全と言えますね」
天使は今のガンマ砲で随分と減ったし、生き残りは戦意喪失。今は晴れてるが、吹雪だっていつでも出せるだろうし……うん。負ける要素は何一つないな。




