第4話 買い物をしよう
大学を出た俺は、銀行で金を下ろすことにした。残高を確認したら、どうやら二千五百万程入っていた。
とりあえず、当初の予定通り二千万円下ろすことにした。
大金を下ろすことで窓口で注意されないか心配だったが、怪しいと思われるよりも、逆に詐欺に巻き込まれてないか心配をされてしまった。ともあれ無事に下ろすことに成功した。
しかし……手元に大金があるのはを正直怖いな。長時間は持ち歩きたくない。早く色々と購入して金を減らさなくては……。荷物を載せるためにも、まずはキャンピングカーを手に入れたいな。俺はネットで近所の中古車ショップを検索してそこに向かうことにした。
――――
「すぐには買えない!?」
目当てのキャンピングカーはあったが、いきなり買うことは出来ないらしい。
「ええ、購入するには契約後の書類手続き、整備点検などが必要になり、お客様の方でも車庫証明を取得していただく必要がございます。実際の納品には最短でも十日前後かかるでしょう」
店員の言葉に呆然とする。流石に十日は待てない。
「何とか明後日までに出来ないでしょうか?」
「流石にそれは……。お客様は車庫証明もお持ちではないようです。車庫証明の取得にもおそらく数日はかかるかと思われますが」
困った顔で店員は言う。確かにさっき決めたことなので事前の準備は何もしていない。さすがにこちらの我が儘でこれ以上店員を困らすわけにはいかない、店員に礼を言って俺は店を出る。
店を出てため息をつく。完全に誤算だ。って、普通に考えたら自動車保険の手続きやらもあるので時間がかかるのは当たり前か。そんな単純なことにも気がつかないとは……やっぱり異世界に行くってことで舞い上がっていたのだろう。
ともかくいきなり計画が破綻した。さて、どうする?
他の道具を準備するか? いや、車がなくなった時点で持っていく荷物は限られる。
自分の車はもうないし、新しく車を買うことも出来ない。
レンタカーという選択肢も考えたが、返却できない時点で、地球に残るソータや姉に迷惑がかかる。
もちろん盗むなどの犯罪も同じだ。
ひとしきり悩んだ結果、透に電話してみることにした。
透ならさっきみたいな感じで別のアイデアを出してくれるかもしれない。
ただ、もう言い訳はできないだろう。正直に話すことになるかもしれない。
電話をかけるとすぐに透が出てくれた。
「ああ、よかった。紫遠くんに連絡したかったんだ。そっちから電話してくるとなると、どうやら車は買えなかったみたいだね?」
何でこいつは俺が車を買えなかったことを知っているんだ?
「え…何で知ってるんだ?」
「さっき紫遠くんが帰った後すぐに緋花梨くんが来てね。もう大慌てで『九重君が大学辞めちゃう!!』って。学生課に退学届だしたんでしょ? 先生から聞いたって大騒ぎしてたよ」
橘緋花梨は同じサークルの部員だ。
そして俺と菫と緋花梨は高校の同級生でもある。
高校時代は俺と緋花梨は殆ど接点がなかった。菫と緋花梨は中学から仲が良く、親友だって聞いていた。が、俺と菫が恋人同士になってからは、気を使って、緋花梨の方から菫と距離を置くようになった。
大学で同じサークルに入ってからは友達としては話すようになったし、三人でいることも増えた。
菫が行方不明になってからは、寂しさからか、緋花梨は俺の近くによくいるようになっていた。
「まだ辞めてないよ。確かに退学届を出そうとしたけど、担当の先生の承認が必要って言われて後回しにしたんだ。っと、それより緋花梨はそこにいるのか?」
そこに緋花梨がいたら五月蠅そうだ。なんとか透だけと話したい。
「いや、紫遠くんがさっき帰ったって話したら追いかけるって、急いで出て行ったけど」
今はいないらしい。……でもそっか、俺今追いかけられてるのか。
「それで、どうして俺が車を買えなかったと思ったんだ? それ以前に何で買おうしたと思ったんだ?」
「さっきの紫遠くんを見てたら何となく分かるよ。はっきり言って、さっきの紫遠くんは普通じゃなかったよ。いきなり変なこと聞いて来るし」
……そんなに不自然だったかな?
「そもそも大学辞めるのにシナリオ作るとか訳が分かんないよ。だから、神話生物云々は関係無いかもしれないけれど、どこか不便な土地に行くって考えるのが自然でしょ。ならさっきの話で一番のポイントはキャンピングカーじゃないか。で、わざわざ電話してきたのは買えなかったからかな? って。それ以外に僕に連絡する理由はないからね」
こいつ名探偵か!? ……って、俺が分かりやすいだけか。
「なんでもお見通しか。キャンピングカーはあったけど買えなかった」
「そうだろうね。普通は手続きとかあるから最低一週間はかかるんじゃない?」
こいつ……買えないこと分かってたのか。
「ああその通りだよ。何が即日購入できるよだ。出来ないじゃん」
「まぁあれはゲームでのお話のつもりだったからね。それに確かに店では買えないだろうけど、手に入らないわけじゃないし」
「本当か! じゃあどうやったら手に入るんだ?」
「教えてもいいけど、その代わり紫遠くんの事情を教えてくれないかな? 理由があるんでしょ?」
少し考えたが、俺にとっては別に教えて困ることはない。考えたら信じてもらえなくても構わない。それよりも透が協力してくれた方が助かる。
「教えてもいいけど他のやつには言うなよ?」
流石に言いふらされたら残るソータ達に迷惑がかかるだろう。
「緋花梨くんにも?」
緋花梨か……さっきも思ったがあいつに話すと五月蠅いよな。
「緋花梨には会ったときに考えるわ」
「ふーん、で、理由はこのまま電話で聞いてもいいのかな?」
「いや、透さえよければ合流したい。それにキャンピングカーのこともすぐに知りたいし」
「そっか。じゃあ僕の家に来なよ。部室じゃ誰が来るかわからないしね」
おお、透にも家があるんだな。部室に住んでたわけじゃないんだ。透が俺の家に来たことは何回かあるが、俺が透の家に行くのは初めてだな。
「了解って言いたいけど、俺は透の家知らないけど?」
「じゃあ校門まで来てよ。僕と一緒に行こう」
「分かった。じゃあ一旦戻るわ」
そう言って電話を切る。俺は急いで学校に戻ることにした。
――――
大学へ戻ると透は門の前で待っていてくれた。
「ごめん、待たせたか?」
「いや、そこまで待ってないよ。それよりも早速お話聞かせてよ」
かなり食い気味に透が聞いてくる。家で話すんじゃないのかよ。
「いいけど……信じるか信じないかは責任持たないぞ?」
「もちろんさ! それを信じるかは僕が決めることだから」
そう言って俺は透の案内で家に向かいながら歩き出す。
「えっと、じゃあ簡単に言うけど、俺、明後日、異世界に行くことにしたから」
「え? 異世界?」
「うん、異世界」
「どうやって?」
「ゲートを使って」
「………最初から教えて欲しいかな」
どうやら簡潔すぎたらしい。
「んー最初からって言ってもなぁ、今朝、家のガレージと異世界が繋がったから、身辺整理や準備をして異世界に行こうとしているって感じかな」
「……なんで明後日なの?」
「ソータが三日後にしてくれって」
「……」ソータって誰だい?」
「異世界から来た元日本人、後エルフと狐の獣人もいた」
「分かった! 予定を変更して紫遠くんの家に行こう!」
突然方向転換して俺の家に行こうとする透。
「なんでだよ! 透の家に行くんじゃなかったのか!?」
「紫遠くんの説明じゃ簡略化され過ぎて分からないよ! ……それに獣っ娘が見たいもん」
「もんってお前はそんなキャラじゃないだろ。ってか時間がないから出来るだけ準備してから帰りたいんだよ」
今帰ったら貴重な一日が無駄になってしまう。
俺がそう言うと、透はポケットからスマホを取り出して電話をかける。誰に連絡してるんだ?
「お疲れ様です、氷山です。あっはい、さきほどお話したキャンピングカーの件ですけど大丈夫でしょうか? あ、問題ない? 良かったら今からでも…はい、そうなんですね。分かりましたありがとうございます。失礼します」
何やらすごく気になる会話だった。何? キャンピングカー? どういうことだ?
「……おい、今どこに電話かけた?」
「この大学のアウトドア同好会の部長さん。念のためと思って、緋花梨くんが帰った後に連絡してたんだ。どうやら部員でお金出し合ってキャンピングカーを買ったんだけど、全然使わないから売ってくれるんだって。今サークル棟の駐車場に置いてるって。あっ、金額は五百万円だよ」
さっき五百万って言ったのは、前にこの話を聞いたことがあったからだろう。
しかし、俺は透の準備の良さに呆れてものか言えなかった。お金がなかったり、俺が必要ないっていってたらどうする気だったんだ?
ともあれ今回はお陰様でキャンピングカーは手に入りそうだ。
「なら早速行こうか」
「うん、じゃあキャンピングカーが手に入ったから僕の家には行く必要がなくるんだし、紫遠くんの家に行こうか」
「……車があるなら買い出しが先だ」
「えー明日でいいじゃないか」
「いいわけないだろ。時間がないんだから。それに明日もやることは多いんだ。今日出来ることは今日のうちに済ます」
「分かったよ。じゃあさっさと済ませようよ!」
――――
「おっ!氷山!こっちだこっち!」
部室棟へ移動する度、駐車場の方から透を呼ぶ声が聞こえてきた。
声がした方を向くと、そこには大きく手を振っている大柄な男と、その横にキャンピングカーがあった。
「あっ真柴さん。お疲れ様です。それが話してたキャンピングカーですか?」
透は普段から男性女性問わず、くん付けで呼ぶ。
その透がさん付けしてるってことはこの人は先輩になるのか?
「おう、そうだ、国産キャブコンの最新型だ! 今年の頭に買って二回しか乗ってないから新品同然だ!」
「中を見てもいいですか?」
「おう! いいぞ!」
俺達はキャンピングカーの中に入る。
「リビングはこの通りかなり広い。テレビとDVDもあるし、ゲーム機を持ってくればゲームだって出来る。ソファを倒せばベッドになるが、少人数ならリビングを使わなくても奥に寝室があるから普段なら常設ベッドで十分だろう。キッチンには冷蔵庫と用水・排水タンクにシンクとコンロ、それとレンジがある。こっちは簡易トイレと温水シャワーだ。荷物の収納も問題ない。この車一台で食う、寝る、遊ぶが出来る」
真柴がドヤ顔で説明する。確かにこれは自慢したくなるだろう。
キャンピングカーは初めて見たが、凄い乗り物だったんだな。シャワーまであるのか。簡単なキッチンくらいしかないと思ってた。
「本当にこれを五百万で売ってくれるんですか?」
「まぁな。最初これを見たときは全員この魅力に負けて衝動買いしたんだ。しかし、いざ購入してみると、皆の時間が合わず中々使えなくてな。管理も大変だし、これならレンタカーで十分だと思ってな。それに元の定価は七百万くらいだから中古ショップに売るよりは俺たちも得してるんだ」
確かに殆ど使わないなら五百万が帰ってきて、使うときはレンタカーを借りる方がいいだろう。
「それで、契約の手続きなんですけど……」
「氷山に聞いてる。時間がないんだろう? こっちでやっとくよ」
おそらくすぐに旅行に行くとでもいってあるのだろう。正直助かる。
「助かります。必要なものがあったら言ってください。俺じゃないかもしれないけど、代理をよこしますから」
印鑑とか保険の手続きとか必要なはずだもんな。迷惑かもしれないけど、姉にでも頼んでおくか。
そうして俺は真柴先輩にその場で金を支払い、無事にキャンピングカーを手に入れることが出来た。
――――
「これからどうするんだい?もう夕方だよ?」
車を手に入れただけで大分時間が過ぎた。今はもう夕方だ。
「とりあえずホームセンターに行こう。防災グッズやサバイバルグッズを買わなくちゃ。後は時間があれば家電量販店に行く」
「じゃあ、さっさと今日の分の買い物を済ませようよ!」
俺達は早速手に入れたキャンピングカーで買物へと向かう。
俺達はホームセンターでサバイバルグッズやアウトドア用品、生活用品などを買い漁る。そのあと家電量販店でノートPCや中古のスマホ、タブレットなど必要なものを買い、帰宅した。