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ロストカラーズ  作者: あすか
第七章 天魔戦争
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第281話 配置移動をしよう

「これで後半も終了だね! 今は天使は準備中みたいだけど……もう少ししたらこっちに攻めてくるんじゃないかな」


「……状況は分かった」


 というか、分かりすぎるくらい分かった。三人の劇は、もう寸劇と言えるレベルを軽く越えていた。


「なぁ三人ともどんだけ練習したんだ?」


 三人とも最後までカンペを見ずに演じていた。そんなに分量はないといっても……頑張りすぎだろ。


「練習といっても、一回皆で読んだだけだよ。振り付けは全部アドリブで、ぶっつけ本番だったんだよ」


「マジかよ……。というか、一回読んだだけで全部覚えたのか?」


「わたくしは道化師ですから演じることは得意なのですよ」

「私も潜入が仕事っスから、これくらい一回読めば頭に入るっス」

「私は全然覚えてないから、全部アドリブだったよ」


 コイツらは……どうでもいいことに関して無駄にハイスペックだな。


「それで……今の内容を各キーパーに連絡はしてるのか?」


 今の情報は俺達以上にキーパー達に必要な情報だ。


「それは寸劇の前に既に完了してるよ。皆張り切ってるみたい」


 ……キーパー達相手には寸劇はしてないよね? 俺もキーパー達と同じような説明で十分だったんだけど……絶対に俺達に分かりやすく説明ってよりは、間違いなく自分達が楽しみたかっただけだよな。


「シオン様。それではわたくしはファイ島へ戻ります」


「え? あ、ああ……頑張ってな」


 ハーレクインは挨拶だけしてそのまま転移で戻っていった。

 あれ? 結局ハーレクインって、寸劇しかしてなくない? というか、後半に出てきたウリエルはクラウンが演じてたし……こういうのも一人二役って言うのかな?


「さっきの劇によると、天使は準備が出来次第出撃するって言ってたな。ってことは、今すぐにでも出撃してくる可能性があるのか?」


 まぁ今劇は、前後編合わせても十分ちょっとだから、そこまで時間が経ってるわけでもない。が、俺達がコントロール室に言ってた時間やらを考えると、実は全然余裕はないんじゃないのか?


「一応トオル様が盗聴を継続しているから、出発のタイミングは分かると思うよ」


「あっ、トオルはまだ盗聴してるんだ」


「うん。と言っても、盗聴器が仕掛けてあるのはラファエルだから、彼女の様子しか分からないんだって。今は準備で離ればなれになってるから、メタトロンやガブリエルの状態までは把握できないらしいよ」


 まぁそりゃあそうだよな。スーラの分身体は一緒に行ってないから、ラファエルに付けた後は、別の人に付けることが出来ない。というか、やはり魔法や魔力を感知できる結界があったみたいだな。スーラが一緒に居たら危なかったぞ。


「そういえば、トオルの盗聴器はバレないんだな。あれって一応トオルの魔法だろ?」


「トオル様は魔力も透明に隠すことが出来ますからね。感知もすり抜けるんでしょう」


 ……なんかズルいよな。俺なんか絶対に隠すことが出来ないもんな。まぁトオルが味方でよかったってことだな。……味方だよな? 今ここに盗聴器とか仕掛けてないよな? 信じてるからな。


「とまぁ盗聴器に関しては、ラファエルに付いてれば十分だろう。あの中で一番好戦的なのはラファエルだ。攻撃場所も一番遠いファイ島だし、準備が完了して出撃を開始するのは彼女が最初で間違いないだろう。……と、そういえば誰がどこに攻めてくるか判明したな」


 ラファエルが道化師のいるファイ島を選んだのは予想通り。まぁ道化師はラファエルと戦う気はないみたいだけど。

 ガブリエルはガンマ島……さっきの様子じゃ、デューテの存在に気がついていたみたいだな。

 ウリエルはデルタ島。エキドナがいるから、恐らくここが一番楽な戦闘になるだろう。ただし、スライムやウルフ達に犠牲がでないかだけが心配だ。

 そしてアルファ島。イェグディエルとメタトロンが攻めて来る……。


「トオルとデューテの所が心配だな」


 七大天使のツートップであるガブリエル。恐らくラファエルと同じく、十人のネームド天使と十万の軍勢のはずだ。

 一方デューテは、トールと融合して強くなれるが、それでもキーパーの中では一番戦力は低い。残りの戦力はリュートとアイラのみ。二人もネームドには負けない実力があるが、如何せん数に……差がありすぎる。

 島の中ではバフデバフが掛かるといっても、三人の体力も限界があるだろう。それからデューテとリュートは因縁がある。ムキにならないといいけど……。


 そしてトオルの所は天使のトップであるメタトロン自らが参戦。普通に考えたら、今回の敵の中では一番強いだろう。

 それに加えて七大天使のセラフィエルやネームド天使達。

 加えてメタトロンの私兵もいるだろう。今回の敵の軍勢では、一番の勢力だと考えられる。

 仮にセラフィエルの軍勢だけなら余裕だったろうが……果たしてトオル一人しかいないアルファ島で、どこまで太刀打ち出来るのか?


「心配ならさ。イプシロンから応援を出したらどうかな? どうせここには敵は来ないでしょ」


「ここから応援って言っても……」


 イプシロンの戦力は俺とルーナとリンとラピスラズリ。


「……俺か!?」


「違うよ!! ラース様とリース様をデューテ様の所に送ったらどうかな?」


 俺じゃなかった……。しかし、確かに二人が行ってくれると、大分助かる……が。


「いや、彼らには上空の【死の呪い】の維持をお願いするから、無理だ」


 彼らは明日まで幻影魔法を唱え続けなければならないのだ。

 【死の呪い】自体は、すでに脅しの役目しかないのはバレバレなのだが、それでも無くすわけには……無くしちゃ駄目かな?


「ねぇ。ちょっと聞きたいけど、上空のあれさ。消えちゃったら抑止力にならないよな?」


「そんなことないんじゃない? だって向こうはもうあれを本物だと思ってるんだから。それに、元々分かれて行動するつもりだったみたいだし、無くなっても困らないんじゃないかな」

「わたくしもそう思います。無くなったところで、天使はもう使えないとは思わないでしょう。まぁ、もう一度発動するのにタイムラグがあること、魔力を大量に消費するから持続できなかった。などは思われるかもしれませんが」


 確かにあの規模の【死の呪い】をもう一度発動するとなると、さっきと同じ行動をしないといけないから、時間は掛かる。それに大量の魔力を消費するのも事実だ。あっ、そうだ。後で魔力回復ポーションを飲んでおかないといけないな。ただ、それは別に知られても問題ない話ではある。


「そっか……なら無くなっても問題はないのか」


「シオン様。ですが、念のため、天使が出撃するまでは残しておいた方が良いかと思われます」

「あっ、あと砂時計はあった方がいいかもね。無くなっても制限時間が切れたら出てくるぞー! って考えると思うから」


「なるほど……。確かにそうだ。スーラ。砂時計の維持は可能か?」


《砂時計だけなら、残してきた分身だけで大丈夫なの!》


「じゃあ敵がこっちに進軍を開始したら、砂時計だけ残して一旦消してしまおうか。そして、ラース達にはガンマ島へ行ってもらおう」


 彼らも活躍したいと言っていたし、どうせこのイプシロンには天使はやって来ない。


「あのー。私も何処応援に行った方がよくないっスか?」


 リンか。……確かにリンも【月虹戦舞】の一員として修行を重ねてきた。ルーナを除けば、メードの中ではダントツの実力だ。


「行くとしたら……アルファか、ガンマか?」


 ラピスラズリとリンを行かせることによって、ガンマ島をより安全にさせるか、一番危ないアルファ島に応援をやるか……しかし、アルファ島は応援を出しにくいからなぁ。


「シオン様。ではアルファ島にはティアマト様を応援に行かせてはどうでしょう? 島に上陸するのではなく、外の海から援護させるのです。彼女達なら【クリスタルコメット】を使用すれば、大半のエンジェルを倒せるのではないでしょうか?」


 ティアマトか。確かに天使達はアルファ島に到着しても、大軍が全て上陸できるわけではない。海から挟撃の形を取れば、大半の天使を【クリスタルコメット】に巻き込むことが出来るかもしれない。


「だけど、ティアマト達は今、アヴァロンの固定に全力を出してるから、そんな余裕はないと思うぞ」


 アヴァロンを固定している水の鎖は絶対に壊されないように、ティアマトとテティスがほぼ全力を出している。この上【クリスタルコメット】を使用なんて出来るはずがない。


「鎖こそ、ハリボテで宜しくないですか? 先程の話では、ルールは守るおつもりのようです。ということは、アヴァロンを動かすつもりはないということ。そもそも、アヴァロンに残る主要人物はイェグディエルのみ。そのイェグディエルが上の命令に背いて、鎖を外そうとしたり、アヴァロンを勝手に動かすような真似はしないでしょう」


 言われてみればそうかも。動けないと思わせるために、鎖はそのままだが、全力で抑え込む必要はないのかもしれない。


「じゃあティアマトに連絡して、海からアルファ島の援護をするように言ってくれ。ただし、無理はするなと。ティアマトとテティスの部下も一人も死んではならんと念を押してくれ」


 海にも魔族は沢山いる。海中にいるからといって、安全だとは限らない。とんでもない攻撃をしてくる可能性は残ってるもんな。


「じゃあリンはラピスラズリと一緒にガンマ島へ向かってくれ」


「了解っス」


 ということで、リンも出て行った。これでイプシロンに残っている戦力は俺とルーナのみ。


「さて、じゃあ俺は……」

「シオン様はここでお留守番ですからね?」


 ……まだ何も言ってないのに。


「いや、でもさ。皆戦ってるのに俺だけここにお留守番は……」


「シオン様にはここイプシロンで万が一に備えて待機していただかなくてはなりません。ご自分でそう仰ってたではないですか」


 確かに。俺はここで戦況を確認して、ピンチな所があれば駆けつけるポジションだ。これだけ準備万端でも、予想だにもしないことがあるかもしれない。例えば……。


「なぁミカエルって何してると思う?」


 今回別行動のミカエル。ガブリエルが言うには今回の作戦に関係があることって話だが……。


「俺は最初、伏兵か何かで回り込んでくるかと思ったんだけど……」


「それなら先ほどの先戦中に話があったはずです」


「だよなぁ。だったら考えられることは……」


「シクトリーナ……でしょうか?」


「になるよな」


 俺達の正体に薄々感づいていたガブリエルなら、シクトリーナに兵を向けても不思議ではない。まぁその為に姉さんを待機させていたんだが……。


「まさか七大天使。しかもミカエルとはなぁ」


 ミカエルの器はケイン。Sランク冒険者にして、リュートとデューテと一緒の冒険者グループのリーダー。そして、元日本人。

 彼は姉さんとの勝負の途中で、ミカエルに体を奪われた。その為、姉さんは誰よりもその時のことを気に病んでいる。よりにもよって、そのミカエルがシクトリーナに行かなくてもいいのに。


「今の所、シクトリーナにミカエルが来たって報告はないよ」


「こっちの襲撃と併せているのか。もしくはお忍びで近づいているのか……。とにかく住民は避難させた方が良いかもしれないな」


 ドライと違って、シクトリーナには住民や城下町など、壊されたら困る設備が沢山ある。

 一応、最終手段として、城下町全体をフィーアスに転移させることも出来るが……あれって復興がちょっと大変なんだよな。まぁ背に腹は代えられないか。


「シオン様。シクトリーナがピンチの時は、わたくしが救援に向かいます」


「ああ、頼む」


 誰よりもシクトリーナに思入れのあるルーナ。本当なら今すぐにでも戻りたいだろうが……。

 シクトリーナの戦力は、姉さんとセラ達……エンジェル相手なら、セラ達でも十分相手になるが、ネームドでは分が悪い。実質姉さん一人で、ミカエルとネームドを相手にする必要がある。

 ルーナにはミカエルが姿を現して時点で救援に向かって欲しいな。


 しかし……いくら敵が来ないだろうと言っても、戦力をゼロには出来ない。こうなると、本当に俺はここから出られなくなっちゃうな。まぁさっきの悩みもあるし、しばらくは大人しく見学することにしよう。

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