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ロストカラーズ  作者: あすか
第七章 天魔戦争
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第276話 ルールを伝えよう

 ルーナとティティにふざけてると言われながらも、続きを見ることにした。


『オホホホ、愚かなるアヴァロンの民よ。よくぞ参りました。我らファントムは、あなた方の為に、最高の舞台を用意してお待ちしておりました。今宵、あなた方の生が尽きるまで、どうぞお楽しみください。あっ、申し遅れました。わたくし、皆様のご案内をさせていただく道化師でございます。もちろん覚えていただく必要はございません。どうせあなた方の命は明日にはないのですから……』


 最初から煽っていくのは予定通り。クラウンもいつもの調子じゃなく、芝居がかった口調だ。だけど、ここはもっと道化師っぽく、小馬鹿にした感じにしてほしかった。


『随分とふざけた奴が現れたと思ったら、格好だけでなく、言動までふざけてますね……死ね』


 ラファエルの手から魔法が飛び出す。道化師は体を霧にし、それを躱す。


 ラファエルは、日本でのイメージでは男だったけど、リカの話ではガブリエルと教皇の寵愛を取り合うって言ってたから、本当は女だと思っていた。

 クラウンが近づいたことによって、ラファエルの顔も見えるようになったが……これ、どっちだ? すごい美形の男のようにも見えるし、男装した女性にも見える。というか、そもそも天使って両性だっけ?


『その霧……貴様っヴァンパイアか!』


『ヴァンパイア? オホホホっ。そのような下等な種族と一緒にしてもらっては困りますねぇ。まぁ私の種族など、どうでもいいこと。そんなことよりも! ラファエルともあろうお方が、いきなり攻撃は感心しませんよ。まぁそのような短絡的な者の集まりだからこそ、我が王の忠告を無視するのでしょうね』


 ……いや、貴方もヴァンパイアですよね? ああ、もしかしてエルダーヴァンパイアだから違うってこと? 俺的にも変わらないとしか言えないんだけど……それから、そのオホホって笑い方。すごくリーパーっぽい。わたくしって一人称に変えたことと言い、リーパーを随分とリスペクトしてない?


『いいですか? 今あなた方が生きていられるのは、我が王が慈悲深いお方だから。我が王がその気になれば、あなた方は既に死んでいてもおかしくはありません』


『ふん。戯言を……』


『戯言かどうか……これを見てもそう言えますか!』


 クラウンは懐から紫の玉を取り出し高々と掲げる。いや、それだけ見ても分からないから。


『その玉がどうかしたのか?』


『オホホホ。無知とは本当に恐ろしいですね。よく聞きなさい。この玉の中には、あの大陸を死に追いやった【死の呪い】が封じられております』


 確かにクラウンが掲げた紫の玉には、俺が魔法で作った【死の呪い】が入っている。本物の【死の呪い】と効果は全く同じの筈だ。……だから、懐なんかに入れていると、暴発したら死んじゃうぞ?


『【死の呪い】……だと? ハハッそりゃあいい。貴様らの王はとんだホラ吹き野郎か?』


『我が王をホラ吹き野郎とは許せませんが……では、今からこの玉をそちらへ投げますので、実際にその身で確かめて見てはどうですか。ああ、もし途中で破裂させるようなことがあれば、被害は広がるだけですよ』


 クラウンは下手投げで紫の玉を放る。


『……おい』

『はっ』


 撃ち落とされる? と思ったが、万が一を考えたのか、ラファエルは近くの部下に受け取らせる。自分で取らないところが卑怯だよな。

 ラファエルは部下から玉を受け取る。そして少し吟味した後、部下に向かって投げる。


『ひっ!? ラ、ラファエ……うわあああ!?』


 部下に命中すると玉が割れ、ガスが飛び出る。部下がそのガスを浴びると、苦しみながら落下。魔力が無くなったことで、飛べなくなったんだろう。そして、海に着水する前に体が消滅した。


 ……本当に消滅するんだ。


 自分の魔法ではあるが、試す訳にはいかないので、魔法が発動するのを始めてみた。自分の魔法ではあるが、正直何とも言えない気持ちになる。それと同時に、いとも簡単に部下を見捨てるえげつない行動に、反吐が出そうだ。


『どうです? 当時を知っているあなたなら、今のが本物か偽物か……分かりますよね?』


 今の光景は、ロストカラーズ時代に何度も見てきたはず。これを見て偽物だとは思うまい。


『……ふん。一人しか殺せぬのなら、脅威ではないわ!』


 ……本物だと理解した上で、強がりを言っているのか?


『オホホホっ。お試しで全滅させてしまいましたら、面白くないではないですか! その気になれば、アヴァロン全てを包み込むくらい訳ないですよ。それも戯言と笑い飛ばしますか? 試しても宜しいですが……その時が、あなた方の最後ですよ?』


 いや、流石に試さないからね!? 確かに使用の許可は出したけど、それでも最小限に留めたいと思ってるんだから。


『……もういい。貴様らがふざけた奴らだというのは、十分に理解した。全軍! 出陣するぞ!』


 クラウンはずっと話しながらも、道化師っぽく振舞っていた。真面目に話している雰囲気ではないし、ラファエルが業を煮やしても仕方がない。だが、そのラファエルの号令に、天使は動かない。


『おい! 貴様らどうした。なぜ進軍しない!』

『そ、それが……体が動かず……』


 辛うじて答える部下。ただ、その目はラファエルを見ておらず、クラウンを凝視していた。


『進軍は少し待っていただきたいものですね。まだ我が王に託された仕事を全う出来ておりません』


『貴様ぁ! 何をした!!』


『オホホっ。こちらが何をしたか。それすら分からない方が指揮を執るとは……やはり我が王と比べるまでもありませんね』


 どうやらクラウンの魔法【観客の目】が発動したようだな。

 クラウンを見た者は、その場から動けなく……というより、道化師から目が離せなくなる魔法だ。

 道化師は、観客を笑わせる為に、常に注目されなければならない。もし、目を逸らされ、帰ってしまう客がいれば、道化師として失格だ。その為、観客が常に自分を見て、逃げられないようにと開発したらしい。

 ……正直なところ、それは道化師の実力とは全く関係ない気がするんだが、それは言わなかった。


 ただ、クラウンの黒属性で、どんなイメージをしたらそんな魔法が使えるのか? 気になったので、修行中に尋ねたところ、元々ヴァンパイアの種族が魅了系を得意にするからと、属性と全く関係ない答えが帰ってきた。

 確かにヴァンパイアが魅了や催眠系の魔法を得意としていることは知ってるけど……まぁさらに詳しく聞くと、瞳の色が黒の相手にしか効果がないという、申し訳程度の黒成分はあった。

 この世界、人間は殆どが黒い瞳のようで、元人間のエンジェル達には効果が抜群のようだ。ただし、大天使や、ネームド天使は赤や青、金の瞳が見受けられる。恐らく自身の属性に近い色なのかな?、

 それから、この魔法にあまり魔力を割いてないようなので、大天使以上の天使にはそもそも効果がなさそうだ。


『ちっ……おい! 動けるもの全員でアイツを殺せ!』


 その言葉に、十体のネームドと、百体の大天使が一斉にクラウンに襲いかかる。


『き、き、き、キミは命令だけで攻撃はしないのかい?』

『あ、あ、あ、頭が負けたら格好悪いから、出てくるはずありませんよ』

『そ、そ、そ、そう。俺達に負けるのが分かってるからな』

『ま、ま、ま、まぁわたくし達の仕事はルールを伝えることで、倒すことではありませんから』


 敵の攻撃を分散させるため、クラウンの影から四人の姿が現れる。

 五人になった道化師達は、一切攻撃はせず、天使の攻撃を華麗に躱す。


 俺と修行した半月の間、模擬戦で俺が教えたのは、今の状況を見越して、一対多の戦い方を徹底的に教えた。まぁ道化師は一人じゃなくて、五対多になるんだけど。その戦い方も、攻撃ではなく防御……ひたすら避けることと守ることに特化させた。今はルールを教えるだけで、かつ必要はないからね。攻撃する必要はない。


『ええい! 増えた所で本体は一つだ! さっさと捉えろ!』


『さ、さ、さ、さて。どうやら大人しくして頂けないようですので、このまま今回の戦争のルールを説明致します』


『ルールだと?』


『き、き、き、キミ達の勝利条件は、バラキエルの奪取』

『ち、ち、ち、中央の島イプシロンの塔最上階に、バラキエルは封印されている』

『だ、だ、だ、だが、イプシロンへは入れない』

『し、し、し、周囲にある、四つの島がイプシロンへの侵入を拒んでいるからですわ』


 道化師達は天使達の攻撃を器用に躱しながら説明を続ける。鍛えた俺が言うのもなんだけど、よく喋れるよな。というか、天使達……全く聞いてなさそう。まぁここにいるラファエル達は聞いてなくても、手鏡のような、通信系の魔法や魔道具は準備しているだろうから、アヴァロンに残っている天使達は通信で聞いてるはずだ。


『い、い、い、イプシロンに侵入するにはただ一つ』

『そ、そ、そ、それはね。四つの島を同時に攻略することなんだ』

『こ、こ、こ、個別の攻略では封印は解かれない』

『き、き、き、期限は明日中。明日中にバラキエルを解放できないと、貴様らの負けだ』

『じ、じ、じ、時間切れはあなた方の死を意味しますわ』


『黙れっ!! そんな戯言を鵜呑みにするはずがないだろう!』


 そりゃあ敵からの攻略情報は信じないよなぁ。


『あ、あ、あ、あなたが信じる信じないは関係ありません』

『だ、だ、だ、だけどキミ達は従わざるを得ない』

『に、に、に。逃げた場合、従わない場合、時間切れの場合は、我が王がアヴァロンに【死の呪い】を発動させる』

『か、か、か、限りなくゼロに近いが、ルールに従うのが貴様らが生きる可能性のある唯一の道』

『そ、そ、そ、それが、我が王の慈悲』


 そこまで言うと、道化師は一人に――クラウンに戻る。


『慈悲だと? 罠の間違いだろうが!!』


『先程も申し上げましたが、信じるかどうかは自由です。では、わたくしは全て伝え終わりましたので、これで失礼させていただきます。この後は、わたくしの説明を無視して進むも良し、ルールに従うのも良し。ですが、わたくしは一旦戻るのをお薦めしますよ』


『逃がすと思うのか!』


『心配されなくても簡単に帰れますので……ああ、わたくしと戦いたいのでしたら、ここから一番遠い島にわたくしはおりますので、そちらに来てください。その時は本気でお相手いたしますよ。最後にあなたがあまりにも無知なので、少しだけ忠告を……』


 今までヘラヘラしていたクラウンは真顔になる。……まぁ化粧で台無しだけど。


『何故我々が、あなた方を待ち構えることが出来たのか。何故わたくしがあなたのお名前を知っていたのか。何故秘密にしていたアヴァロンの名前を……存在を知っているのか。そのことをよく考えた方がいいですよ』


『何故……だと?』


『他にも、天使でない我々が、あの大陸の復興に七大天使が必要だと知っているのか……不思議だと思いませんか? 我が王は、あなた方と違い【死の呪い】を自由に操れるのですから、バラキエルは必要はありませんでした。では何故バラキエルを回収したのでしょうか? しかも、七体必要なのに、一体のみしか回収せず……。そもそも、何故あなたは他の七大天使を差し置いて、一人で先に出陣できたのか? 下手したら、さっきの【死の呪い】で死んでいたかもしれませんねぇ。これ以上は教えませんので、よくよく考えてみることです』


 クラウンはそれだけ言い残して、その場から消えた。

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