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ロストカラーズ  作者: あすか
第七章 天魔戦争
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第272話 長老の話を語ろう

「はう! 長老さん。お久しぶりです!」


 レンが元気に挨拶する。心なしか、いつもより生き生きとしている気がする。

 レンにとっちゃあ、長老は家族と話しているような感覚なんだろうな。長老は祖父といった所か。

 邪魔しちゃ悪いと思って、俺はレンと長老の話が終わるのを待った。長老の声は俺には聞こえないし、ここからじゃレンの声もよく聞こえない。

 時おりレンの『はぅ』や笑い声が聞こえてくるから、楽しんでるのは間違いないが……一体どんな会話をしているんだろうな。



 ――――


「はう! シオンさん。お待たせしました」


「えっ? ああ、もういいのか」


 いかん。少しうたた寝していた。緑に囲まれているここは、何とも居心地がいい。


「はい。前と同じように、長老さんに手を当てるとお話しできると思いますよ」


「分かった。じゃあレンは……レンも聞いとくか?」


「はぅぅ。……長老さんとお話しするのは、私の魔法を経由しているから、離れてても聞こえちゃうの」


「あっそうなんだ。じゃあ前回も?」


「黙っててごめんなさい」


「いや、別に気にすることはないけど……」


 あの時聞かれちゃマズいことは何も話してなかったよな?


「んじゃあ、レンは話に加わってもいいし、そこら辺で遊んでてもいいぞ」


「……難しい話だと思うから、私は泉の方にいます」


 エリクサーの泉か。あそこも居心地いいもんな。天使戦に向けて、今回は多めに分けてもらおう。

 じゃあ後で。とレンと別れて、俺は長老の所へと向かう。長老に触ると、早速念話が聞こえてきた。


《ホッホッホ。よく来たのう》


「ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです」


《この年になるとな。余程のことがない限り、変わりはせぬ》


 数万年生きてるんだから、一年二年は数日くらいの間隔なのかもしれないな。


「今日は……聞きたいことがあってこちらに参りました。以前……ハンプールの方でお会いしたときのことは、ご存じでしょうか?」


 俺が前回長老と話したのは、ハンプールの近くの森の長老。ここ、迷いの森の長老とは別の樹だ。

 元は一つの存在のため、離れていても意識の共有は出来るって言ってたけど……。


《うむ。覚えておるぞ。約束通り、力を付けてきたようじゃな》


「……まだまだ修行中の身。若輩者には変わりありません」


《ホッホッホ。力に溺れずに、謙遜できるのなら十分じゃ。其方はまだまだ伸びるじゃろうて》


「ありがとうございます。それで……今回は教えていただけるのでしょうか?」


《うむ。レンと植物からある程度の状況は分かっておる。儂の知っていることなら答えてやろう》


「ありがとうございます」


 さて、まず何から聞こうか。……ここはやっぱり今一番気になってることからかな。


「ではまず一つ目。ロストカラーズの【死の呪い】と長老様。もしかして関係があるのではないですか?」


《ほう。関係あるとな。其方はどう考えておる?》


 長老は若干声が弾んでいるように思える。……俺がどう答えるか、試しているのかもしれないな。少なくとも否定しないってことは、間違いじゃないと思う。


「……俺は長老様が、ロストカラーズから【死の呪い】を消すことの出来る鍵じゃないかと思ってるんです」


《何故そう思うのだ?》


「先日俺は【死の呪い】を受けてみました」


《馬鹿な!? あれを受けたじゃと! なんと命知らずな……。一体どうやって受けたのだ?》


 あれっ? そのことは知らないのか。……と、考えたら、俺が【死の呪い】を受けたのは、砂漠だ。レンは詳細を知らないし、植物もサボテンくらい。長老ネットワークの範囲外か。

 それに、玉手箱も竜宮城。海の底だ。これも範囲外なんだろうな。


「ティアマトという、ロストカラーズ時代からの生き残りが、玉手箱に封印して持っていました」


《ティアマト……そうか。原初の女神はまだ生きておったか》


 長老はティアマトの名前を聞いて懐かしむ。原初の女神? もしかして、ティアマトって、とんでもない人物なのか? とてもそうは見えないけど。


「小さな箱に入った分しか受け取っていないので、この身にも、少ししか受けておりません。まぁそれでも随分と魔力を持って行かれましたが」


《いくら少量でも、アレを受ければ、死んでもおかしくなかった。その程度で済んでよかったのう》


 うう、やっぱりそうなのか。……もっと慎重にならないとな。


「長老様。自ら受けて理解しましたが、【死の呪い】……あれは、属性を奪うのですね」


《よく気がついた。その通り。アレは命の源である属性を奪うのじゃ》


 ここまでは予想通り。


「さっき、俺が魔力を奪われた話をしましたが、奪われた魔力は元に戻りませんでした」


《それはそうじゃ。奪われたのだから、戻ってくるわけがない》


「そこで、長老様が集めている朝露の水……俺達は勝手にエリクサーって呼んでるんですが、それを飲んだら、奪われた魔力が戻ってきました」


《…………》


 長老は何も言わない。


「長老様には【死の呪い】を回復させる力がある。違いますか?」


《水を飲んだのは、受けてからそれほど時間が経っておらんかったじゃろ?》


「ええ、数分だったと思います」


《であろう。いかに儂といえど、失ったものまでは戻らん。其方のは、まだ完全には失った状態ではなかったのであろうな》


 あの時の予想通りだった。時間を置いて確かめないで良かった。


「例えばですが、ロストカラーズに、長老のエリクサーを雨のように降らしたら、【死の呪い】は消えてなくなりませんか?」


《……無理じゃろうな。仮に一時的に無くなっても、【死の呪い】の発生源をどうにかせんと、何も意味はない》


「そうですか……」


 そうだよな。発生源をどうにかしない限り、いつまでも発生し続けるか。


《発生源に関して言えば、儂を植えるだけで、【死の呪い】は止まる》


「はぁ!? ……どういうことです?」


《元々、【死の呪い】は、戦争が原因で発生したわけではない。あの大地で自然発生していたのだ。儂はそれを漏れぬよう植えられた》


「植えられたって誰に?」


《原初の神ナンム。先ほど話しておった、ティアマトのことじゃ》


「ちょっ!? どういうことだよ」


 ティアマト? ナンム? 原初の神? 長老を植えたって……あーもう! 頭が爆発しそうだ。

 

《ナンムはこの星で最初に現れた、原初の神。ナンムは海しかないこの星に、天を、地を創造した。ナンムが創造することによって、アンやキなど、様々な神が生まれ落ちることとなった》


 アンとキは知らないけど、それも神の名前なのかな?


《ナンムの創造した大地で神々は生活を始めた。新たな神々が、自然を、大気を創造し、この星は生命が住める星となった。ナンムの創造は上手くいったかのように思えたのじゃが、急激な発展は反動を呼ぶこととなった。それが、全てを無に返そうとする【死の呪い】の誕生じゃ》


 発展が反動を……地球の環境問題みたいな感じかな? どこの世界も似たようなものか。


《そこでナンムは【死の呪い】からこの星を、海を、天を、地を、そして生まれた神々を守るため、【死の呪い】の発生源に儂を植えた。ナンムがその全てを賭して生み出した儂は【死の呪い】を吸収し、栄養にすることが出来た。それが魔素の誕生じゃ》


「えっ? じゃあ魔素は長老が作ったってこと? じゃあ、それまでは魔法がなかったの?」


《魔法自体は存在しておった。精霊を知っておるか? あれらは魔素を用いず、魔法を唱えることができよう》


「確か精霊魔法って言ってた。自然のエネルギーを使ってるって」


《そうじゃ。元々神々は創造する力しか持っていなかったが、自らが想像した自然のエネルギーを利用して、魔法を唱えることが出来た。じゃが、魔素が生まれたことにより、より簡単に魔法が使えるようになって、皆そちらへ移っていった》


 精霊魔法より、魔素魔法の方が簡単なのか。楽な方に移っていくのは、人間も神も一緒なんだな。


《【死の呪い】も消え、平和になった。じゃが、ナンムは儂を植える際に、大量の【死の呪い】を浴びて、存在が消えかかっておったのじゃ。ナンムは最後の力を振り絞り、自身の分身を生み出した。それがティアマトじゃ》


「ちょっ!? そんなことティアマトは一言も……」


《ティアマトは自分がナンムであったこと。神々を生み出したことも、大地を創造したこと、原初の神であったこと、その全てを忘れておった。ティアマトは自身の記憶を探しに大地を巡ったが、結局記憶は戻らず、海へと帰った》


 竜宮城で、ティアマトは自身のことを話したがらなかったが、記憶がなかったからだったのか。


《ナンム亡き後、神々は天に、地に、地中に、海に。この星の様々な場所に散っていった。そこで神以外の生物、植物、鉱物や大気に至るまで、次々と創造していった》


 ここで、各神話に分かれることになるのかな? 天に行った神によって天使は作られたってことになるのかな? ……もしかして俺は今、本当の創世記を聞かされているのか?


《この後数万年、この星は平和だった。いつの間にか、ナンムより生み出された最初の神々はいなくなり、その神より生まれた新たな神が住んでおった。其方の知っておるトールもその内の一柱じゃ》


 じゃあ言うなれば、トール達は第二世代の神々ってことかな?


《この後は知っておろう? くだらぬ理由により、神々の争いが起こった》


 ああ、本当にくだらない理由だ。


《その争い中、故意なのか他意なのか。誰がやったかも分からぬが、儂の体に傷が付いた。まぁ大木じゃったから、戦争の邪魔だったのかもしれぬな。じゃが、儂が傷ついたことにより、長年封じておった【死の呪い】が漏れ出すこととなった》


 【死の呪い】は戦争中に誰かが唱えた魔法でも、戦争のせいで大地が死んだわけでもなかった。

 最初から発生していたもので、封印していたユグドラシルが傷ついたことで封印が解かれたんだ。


「この後のことは、ティアマトに聞いたから、俺も知ってます。【死の呪い】のせいで、住めなくなったから、方舟に乗って、別の大陸へ向かったのでしょう?」


《その通り。最初の神の中には、大陸を離れ、別の大陸を創造したものがおった。新しい大陸には魔素が少なく、結局戻って来たがな》


 そっか。魔素は長老が生み出しているから、ロストカラーズから離れると、魔素もなくなるのか。このカラーズ大陸はその最初の神が作って、放置していた場所なのかな?


「じゃあ今このカラーズに魔素があるのは長老様のお陰?」


《まぁそうじゃな》


 あっ、ちょっとドヤッてる気がする。


「ん? でも、カラーズには【死の呪い】はないよね? どうやって魔素を作り出してるんですか?」


《別に儂は【死の呪い】だけで生きとる訳ではない。普通の植物と同様に日の光や、水、大気でも成長するゆえ、そこから魔素を吐き出すことはできる。それに、この大陸に来てから数万年。儂以外にも魔素を吐き出す植物や魔物もおる。昔とは違うということじゃな》


 あっ、ちょっと寂しそうだ。これ以上この話はやめておこう。


「長老様は、種になって方舟に運ばれたんですよね?」


《種というか、苗じゃな。それがどうかしたかの?》


「いや、誰が運んだのかと思って……だって、その人は【死の呪い】のことを知っていたんでしょ? だったら、【死の呪い】が発生した時点ですぐに長老様を植え直せば……いや、長老様を治せば良かったんじゃ……」


《先程も言ったように、【死の呪い】を知っておる原初の神はいつの間にかいなくなった。従って、儂が【死の呪い】を封印しておったものは誰一人おらぬ。簡単な意思疏通ができる者はおったが、儂とこのように会話ができるものも、ナンムしかおらなんだ。レンで二人目ぞ》


 おいおい。実はレンはかなりスゴい奴なんじゃないか? しかし……会話が出来た人が、そんなに少ないとなると、長老がレンを可愛がる理由も分かる気がする。……そういえばエキドナは会話できるのか? レンに弟子入りして植物を操ってたけど……簡単な意思疎通の方になるのかな?


《儂を苗にして、方舟に乗せたのはティアマトぞ。……記憶を失っておっても、儂を必要だと感じたのやも知れぬ》


 無意識に必要だと感じていたと。研究のためと言ってたけど、玉手箱を使って【死の呪い】を持ち帰ったのも、同じ理由かもしれないな。


《儂が語れるのはこのくらいじゃが……何か参考になったかのう?》


「ええ、十分参考になりましたが……俺が聞きたいことはまだ半分残ってます」


 【死の呪い】と長老の秘密は分かった。だけど、俺はまだ聞きたいことがあった。

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