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ロストカラーズ  作者: あすか
第二章 魔王城防衛
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閑話 宰相の憂鬱

今回は閑話です。

三人称を試して失敗したなにかです。

 赤の国、首都ミンガラム 城内執務室


「なにぃ! 今頃偵察隊が戻っただと! あいつら一体偵察に何日かける気だ。これだからあのクソ貴族は……それで、あのクソ貴族はどこにいるのだ?」


 赤の国の宰相オズワルドは数日前に偵察に出た部隊がようやく戻ってきたという報告に憤慨していた。


「はっ! それがその……戻ってきたのは二名のみでして。隊長のランディー=ノーマンドは戦死したとのことです」


 報告にやってきた兵士はオズワルドの剣幕に慄きながらもランディーの戦死を伝える。


「ただの偵察で全滅とはどういうことだ! もういい。さっさとその二人を連れて来るのだ」


「それが、帰ってきたのはグリンとサイラッドらしいのですが、その二人は敵の捕虜にされたらしく、そこで呪いを受けて解放されたと。ですので危険と判断し、現在は隔離されております」


 オズワルドはグリンという名は聞き覚えがあった。相手の属性が分かる魔法を使える兵士だと記憶している。そして呪いという言葉に反応する。


「その呪いとはどういったものなのか?」


 呪いの種類によっては処分するしかないだろう。オズワルドがそう考えていると部屋の入り口から別の人間の声があがった。


「まあ待て、それは俺が説明してやるよ」


 入り口を見ると大男が立っている。大男がノックもせずに入ってきてはソファに腰を下ろす。


「ギルバートか。貴様がここに来るとは……一体どういう風の吹き回しだ?」


 オズワルドは断りもなく入ってきた男、この国の紅翼騎士団将軍ハインリヒ=ギルバートを苦手としていた。


「今言っただろう? わざわざ説明しに来たのさ。なにせお前が偵察に送った部隊は俺の部隊だったんだからな」


 今回オズワルドが送った偵察隊はギルバートの部隊から選出した。別にオズワルドとしては自分の部下以外なら誰でも良かったのだが、ギルバートへのちょっとした嫌がらせにギルバートの部隊に命令を出した。


「ふん、それではちゃんと説明してもらおうか! おい、貴様はもう下がってよいぞ」


 報告をしていた兵士は心の中で安堵し、慌てて部屋から出て行く。


「それで。一体どうしたというのだ? 生き残りが二人だと言うことは、やはり魔王は生きていたのか?」


 オズワルドは元々この情報には半信半疑だった。情報源が死にかけの魔族というのが怪しすぎた。それに例え捕まったとして、簡単に魔王が死んだなどという情報を漏らすのか? その為、罠の可能性も十分にあると考えていた。


「詳しいことは何一つ分かっていない。どうやら話すと死ぬ呪いが掛けられているようで口を割らんのだ」


「なら解呪すればいいだろう。確か呪い専門の宮廷魔術師がいたはずだ」


「それがそうもいかん。解呪しようとすると呪いが発動し、死の呪いが周囲にまで感染するらしい」


「そんな呪い聞いたこともないわ! どうせ解呪さないようにでっち上げてるに違いない」


「だがどうする? もし本当だったら取り返しのつかないことになるぞ。お前がその責任をとるのか? 言っとくが俺はごめんだ。もちろん兵も貸さん。自分の隊を使うんだな」


 その言葉にオズワルドは言葉に詰まる。帰ってきた者が死のうと関係ないが責任と言われれば困る。


「ならどうしろというんだ。このまま何も分からないままでいいのか?」


「まぁ落ち着け。とりあえず今分かっていることから順番に話していこう」


 そう言ってギルバートは説明をした。


 グリン達偵察隊は森を抜けて城に向かっていたところ、城から来たという少年二人と出くわした。

 そこで何があったかは分からない。どうやら規制されているようで黙秘をした。

 だが、最終的にその場で生き残ったのはグリンとサイラッド、ランディーの三人。

 その際、グリンは二人のうち一人の魔力を調べるのに成功した。

 属性を教えることは禁止されているらしく、口を割らなかったが、魔力値に関しては規制されてなく、知ることが出来た。驚くべきことにその少年は一万をゆうに超えていた。また、戦闘が終わった後は一万五千を超えていたことから、魔力が回復すれば総魔力はまだ上であるだろうとの予測。

 三人は捕虜になり呪いをかけられた。その際、ランディーは契約を破り呪いが発動し死亡。

 二人はこれ以上関わるなと警告するために解放された。



 ――――


「なんだそれは! 結局魔王の生死は分からず仕舞いではないか! それどころか、下手をすればこちらの情報がダダ漏れではないのか? おい、そんな役に立たない奴らすぐに殺してしまえ!」


「だから落ち着けっての。ったくお前は賢いはずなのに短絡的なのが問題だよな。殺してどうするよ。グリンの能力は稀少だし、殺して呪いが発動したらどうするんだ? 下手したら国が滅ぶぞ」


 冷静なギルバートの正論にオズワルドは歯噛みした。


「それにいくら口止めしても、その中に少しは情報が隠されてるってもんだ」


 ギルバートがニヤリと笑う。


「一体さっきの情報から、どんな情報が隠されているんだ?」


「まず、第一に魔王はすでに死んでいる」


「なっ! 何故魔王が死んだと分かるんだ! さっきの情報にはなかったぞ!!」


 オズワルドは立ち上がってギルバートに詰め寄る。


「まず今回戦った奴が男だったからだ。しかもどうやら城の中を自由に出入りできる……な。お前だって男嫌いの首なし魔王ってことはよく知ってるだろう? それからもう一つ。関わるなと脅すために捕虜を解放したからだ。今までの魔王なら男が攻めてきただけで捕虜にすらしなくて全滅だっただろ?」


 もちろん宰相であるオズワルドも魔王の男嫌いは知っていた。自分が雇った兵士でも絶対に城には入れないことで有名な男嫌いの魔王。そもそも男を捕虜にして城に数日閉じ込めるだけで、今までの魔王と違う行動であることは間違いない。


 しかしそうするとオズワルドには別の疑問がわき上がる。だとしたら今城の中にいるやつは何者だ? 魔王を倒したものがそのまま居座ったのか?

 捕まえた魔族の情報から、魔王を倒した人間は以前この国で捕まえた異邦人だったはず。途中で逃げられはしたが……奴が城を占領したのか?


「今回の二人組は魔王を倒した異邦人とは関係ないだろう。おそらく魔王を倒した方の異邦人は魔王との戦いで両者相打ちにでもなったんではないか。そして、今いる二人はその戦いでゲートが開いてやって来た新しい異邦人に違いない」


 ギルバートの言葉にオズワルドが目を見開く。


「まてまて、さっきの話から魔王が死んだことはまぁ納得しよう。確かにあの城の中には男は入れない。しかし何でそれだけで魔王と異邦人が相打ちになったと分かるんだ? その異邦人が占領している可能性もあるんじゃないのか?」


「恐らくそれはない。まず第一にランディーやグリンはあの異邦人の顔を知っている。ヤツをこの城で捕虜にしていた際に彼らは見たからな。だからもしヤツならグリンを解放せずに殺しただろう。多分相当の恨みがあるはずだからな。それにヤツなら関わるなって脅しもおかしい。復讐してやるなら納得だが」


 その言葉にオズワルドは納得する。確かにこの城に異邦人が捕らわれた時の実験でかなり手痛い思いをしていたはずだ。復讐に走ってもおかしくはない。


「その二人が新しい異邦人というのはどうしてだ?」


「ゲートが開く条件は大きな魔力のぶつかり合いだ。五年前の魔法戦争のようにな。魔王が死ぬくらいの戦いだゲートが開いてもおかしくない」


 過去の文献からゲートが開いくのは大きな魔力の動きがあった場合だ。魔王との戦いならギルバートの言うように、ゲートが開いてもおかしくはない。


「根拠はまだある。二人のうち一人が魔力が一万を超えていた。異邦人は魔力が高いことも確認されているが、それと同じように魔法の特殊な使い方が多い。二人に掛けられた呪いもその一つだろう。それに魔力値は公表しても属性は秘密にしている。恐らくこちらを委縮させる魂胆なのだろうが、それなら属性も公表すればいい。それが出来ないってことは、レアな属性ってことだ。実際レア属性は異邦人に多いからな」


 確かに捕まえていた異邦人も青の属性だったが、特殊な魔法で逃げられた。異邦人にはレアな属性が多いのも過去の文献にはいくつも確認できる。


「最後に決定的なのはこれだ」


 ギルバートは手に持ってた袋から何か取り出した。箱のようなものに絵と文字が描いてある。文字は何て書いてあるか読めない。


「なんだそれは?」


「帰ってきた二人が持ち帰った荷物だよ。ちゃんと帰れるようにと数日分の食料が支給されたらしい。まぁここに帰ってまでに結構食べてしまっていて、あまり残ってはいないがな」


「捕虜を解放するのに食料を支給するだと?」


 随分と甘い考えを持つ連中だとオズワルドは思った。


 ギルバートは箱の表面にコーティングされた透明な何かを破り、蓋をペリペリと半分ほど開けるとその中に熱湯を入れ、また蓋をする。

 しばらく待つと何とも食欲をそそるいい匂いが漂ってくる。


「これはお湯を注ぐだけで食べられる料理だ。食ってみろ、想像以上にうまいぞ」


 オズワルドは蓋を開ける。すると中から湯気が飛び出し、漂っていた匂いが一気に部屋中に充満する。


(な、なんなんだこれは? どうやらパスタのようだが……スープに浸したパスタなど聞いたこともない。それにスープに浮かんでいるのは何だ? 黄色いのは卵か? それに肉のようなものとエビを乾燥させて小さくしたようなものまで入っているのか?)


 意を決して食べようとするが食べ方が分からない。スプーンでもフォークでも食べにくい。少し思案して仕方なくフォークで絡ませるようにして食べてみた。


「……美味いな。これはどういった味付けなのだ? コショウが使われているのは分かるが、それ以外にも多数の香辛料が使われているのか? それに食べにくいがこの麵、パスタではないな? 一体どうやって作られているのか検討もつかん。それにこの肉……いやそもそも肉なのか? それに他の具も全くもってどうなっているのか想像もつかん」


「だろう? それに料理だけじゃなく、器も見てみろ。素材が何で出来ているかさっぱり分からん。鉄のように堅くなく寧ろ脆い。そのくせ湯を入れても溶けることもない。何より中身が完全に密閉されていたのだ。透明な何かでコーティングされていて長期間の保存も可能らしい」


 ギルバートは他にもいくつか取り出して机の上に置く。


「見ろ、同じ形をしていても器に描かれている絵が違うだろう? それぞれ味付けが違う。この黄色が香辛料を大量に使われた料理、あの青いのが海鮮を使った味付けに、赤いのは非常に辛い。他にもこちらは絵を見ても分かるように果物を砂糖付けにしたような物が入っている。絵にしても寸分違わず同じ絵が貼り付けてある。一つの絵を複製しているようだがどうやっているのか全く分からん」


「それぞれ味付けが違うだと? まさか貴様はこれを全部食べたのか!?」


 オズワルドがギルバートに問い詰める。貴重品と言っていたが、それをいくつも食べたとなればいくら将軍といえども許しがたいことだ。


「本来なら帰ってきた二人が教えてくれるのが一番だが呪いのせいで話せないからな。仕方ないから俺と料理長、それから技術部の奴と食った。とは言っても一人一つだぞ。お前と同じだ」


 ギルバートの言葉をオズワルドは完全には信じなかった。一人一つは確かだろうが食べ比べでもしたに違いないと思ったからだ。そしてそれを羨ましいと思うくらいこの料理は美味しかった。


「……まぁいい、それで技術部の奴らはは何て言ったんだ」


「まず料理からだな。料理長はこのパスタは恐らく油で揚げて保存に特化したものだろうと。ただ既存のパスタを揚げてもこうはならない。おそらく特殊な調理法が必要だろう。それ以前にパスタですらないようだ。具材に関しても調理法はおろか、食材すら不明だ。果物の方も未知の果物のようだったと言ってた」


 この国の宮廷料理人が知らない食材ならこの国にはないのだろう。いや、もしかしたらこの世界にすら無いのかもしれないとオズワルドは思った。


「器の方も素材すら検討もつかないらしい。ただ、この保存方法だと恐らく一年以上保存出来るようになるらしいぞ。技術部の奴ら、何とかここでも製造できないかと必死で調べてるぞ」


 兵士の遠征や冒険者や行商人、冬の間の保存食。これがこの国でも作れるようになればきっとこの国の料理事情は大きく変わるだろう。


「なぁ、異邦人は何故あの二人にこれを持たせたと思う?」


 打って変わって真剣な目でギルバートはオズワルドに問いかける。これだけ貴重な物を捕虜の解放に使う理由か。


 少し間が開いてオズワルドが口に出す。


「……奴等にはこれが貴重品ではない?」


 この言葉を聞いてギルバートはニヤリと笑う。


「俺も同じ考えだ。今回の異邦人は最低二人はいる。もしかしたらもっといるのかもしれん。…食料以外にも大量の物資を持ってな」


 過去この世界に来た異邦人は一人で荷物は何も持っていないことの方が多かった。持っていたとしても身につけられるものくらいだ。それが物資を持ってあの城に住んでいる。


(転移魔法の秘密に大量の女魔族。元から魅力的だった場所にさらに加えて異邦人の物資だと!)


 これでは今、あそこの城の価値は計り知れない。


「だがどうする? あそこに攻め入っても恐らく返り討ちになるだろう?」


「ああ、間違いなくな。何せ魔力値が一万越えの化け物だ。それも拙攻で出てくるレベルの連中がだ。二人以外にもいるかもしれないことを考えると、それ以上に強い可能性もある」


 一万以上が数人いただけでこの城の兵士は全滅するだろう。


「俺は正直ヤベー気がするから手を引いた方がいいと思う。けど……陛下がなぁ」


 ギルバートは心底うんざりしたように言った。


「うむ、今回のことを報告を陛下が聞いたら……結果を聞くまでもないだろうな」


 他国から強欲で無能な王と囃し立てられているが無理もないとギルバートもオズワルドも思っている。しかし王に逆らうわけにもいかない。


「いっそのこと教えないってのはどうだ?」


「魅力的な提案だが却下だ。不敬罪で処刑されるぞ馬鹿もんが。それにすでに研究を開始しているのだろ?」


「ま、それもそうか。それに報告は宰相殿の仕事だしな。俺には関係ないか」


「おい、まさか私にだけ任せて貴様は逃げるのか!」


「逃げるって俺だって他にやることがあるんだ。報告は終わったし、もう行くわ」


 ギルバートは手をひらひらさせて部屋を出て行く。


「おい! 待たんか! おい!」


 オズワルドの叫びもむなしく、ドアが閉まっていく。これだから奴のことは嫌いなんだとオズワルドは思った。 後に残されたオズワルドはどう陛下に報告しようかと頭を悩ませた。

 その所為で、窓の外にいたコウモリが一部始終目撃していたことには最後まで気がつかなかった。

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