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ロストカラーズ  作者: あすか
第七章 天魔戦争
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第267話 道化師を弟子にしよう

 任命式も無事に終わり、それぞれの島に解散する面々。

 天使がいつ来るか分からないが、それぞれの島で、最終チェックや連携などを確認するつもりだろう。


 俺は、さっきの任命式で紹介をされたジョーカーズ。彼らを見てピンと来たことがあった。いや、彼らじゃない。クラウンだ。クラウンなら、俺のイメージ通りのことが出来るはず。その交渉をする為、俺はファイ島へと向かった。



 ――――


 相変わらずファイ島は辛気臭い。

 別に空気が悪いわけじゃないけど、何となく薄暗い。枯れ木が多くて、コウモリが頻繁に飛んでいる。

 ドルク達はどうやってこの島を開発したんだろうな? 錬金術でどうにかなるとは思えない。


 俺が城へ入るとフレアに応接室に通された。今日は大人の性格のようだ。


「ではクラウン様をお呼びしますので、こちらでお待ちください」


 最初に会った時の印象が酷かったけど、今は立派なメイドとしてやってるみたいだ。ただ、扉をすり抜けるのは止めて欲しい。


『なせクラウンだけなのですか!!』


 しばらくすると、女性の叫びが聞こえてきた。女性の声だから、今のはマジシャンかフォーチュンかな?

 俺がクラウンだけ呼び出したことで、何か勃発しているのかもしれない。

 ……やはり互いにライバル同士なのか? 誰か一人を四天王に任命しなかったのは正解だったかもしれない。


「ぼ、ぼ、ぼ、僕に用事があるんだって?」


 数分後、若干勝ち誇った顔のクラウンが顔を出す。一体どんな攻防が繰り広げられたんだろう?


「ああ。実はクラウンに折り入って頼みたいことがあるんだ」


「あ、あ、あ、あら? わたくしでは駄目なんですの?」

「ち、ち、ち、違うよ。僕に用事だよね?」


 ……今度は他の人格かよ。やはりコイツは面倒くさいな。


「……俺は道化師に用事があるんだ。ややこしいから、俺と話すときは、誰か一人に統一してくれ」


 話す度に人格が入れ替わったり、増えたりすると、こっちが疲れる。幸いなことに、道化師は五人の人格とちゃんと共存しているようだ。話せば分かってくれるはず。


 だが、俺がそう言うと、クラウンが固まった。……どうしたんだ? もしかして怒っちゃったか?

 少し待つと、クラウンの体が女性になった。ああ、脳内会議で、誰が出るか相談してたのかな。女性ってことはハーレクインだろう。


「では、わたくしが代表でお話を伺いますわ」


「あれっ? しゃべり方……」


 初めの吃りがない。……それだけで随分と聞き取りやすい。ってか、普通に話せるのかよ!


「あれは、今から自分が話すと言う主張の為ですので、一人の時は、必要ない行為ですの」


 ああ、五人の人格で誰が話すか、あれで判別してるのか。正直ウザかったから、こっちの方が助かる。


「実は……」

「「ちょっとシオン様! どうしてクラウンだけですの!」」


 そこにフォーチュンとマジシャンがやって来る。……一体いつになったら話を進められるんだろう。


「「ちょっと待ってください!? ハーレクインになってるじゃありませんか! まさかシオン様はハーレクインが目当てで……」」


 さっきまでクラウンだったのが、ハーレクインになっているもんだから、女性二人が更に騒ぐ。というか、息ピッタリだなこの二人。占い師と手品師。何となく似ているもんな。


「ふふっ、貴女方よりも、わたくしの方が魅力的……ということでしょうね」


「「なんですってぇ!?」」


「ちっがーう! 何言ってるんだよ!」


 あーもぅ。なんでそこで煽るんだよ。二人が滅茶苦茶ヒートアップしてるじゃん。


「三人とも落ち着けって。俺はただクラウン――今はハーレクインだけど、道化師にやってもらいたいことがあるだけだ」


「なぜ道化師なのです! 頼みなら、私が代わりに……」

「いえ、このフォーチュンテラーにお任せください」


 そこで二人が睨みあう。仲良いんじゃないのかよ。


「俺がハーレクインに頼むのは、奇抜な衣装やメイク。要するに道化師の格好が理由だけど……マジシャンとフォーチュンもこの格好になる?」


 俺が必要なのは人の神経を逆なでするような道化師の格好。絶対に天使のもイラつくはず。それが出来るなら誰でもいいんだけど……。

 マジシャンとフォーチュンは互いに向き合い……。


「「失礼しました」」


 そう言って退出する。流石にこの格好は嫌だったのか。


「ったく。何なんだよ」


「ふふっ。あのお二人はシオン様のお役に立ちたいのですよ。あの二人だけではありません。リーパーもドクターも、きっとそう思っているはずです」


 そう言いながらハーレクインは仮面を取る。……他の魔族同様、素顔はかなりの美人さんだ。白塗りメイクや仮面で分からないが、おそらく他の道化師も似たようなものだろう。


「何でだ? さっきが初対面で、挨拶しかしてないのに……」


「それは……シオン様が、わたくし達の父であるゼロ様がお認めになっている方ですから」


 そっか。ゼロは始祖の第一世代からヴァンパイアにされた。同様に、彼女らは第三世代は第二世代からヴァンパイアにされたから、本当の子供じゃなくても、ゼロが親になるのか。

 そしてゼロを見れば分かる。ヴァンパイアは親のことを本当に大事に思っている。


「シオン様は知らないでしょうが、昔のゼロ様は自由奔放、唯我独尊。他人なんてどうでもいい。自分だけが全て。唯一無二の存在でした」


 魔王だったときの話かな? 自由奔放は分かるけど、唯我独尊はイメージにないなぁ。ましてや、ティアマトへの忠誠や、カミラ達、それに夜魔族のこともあるから、自分だけのイメージよりも、仲間思いの一面の方が強い。


「わたくし達エルダーヴァンパイアは、そんなゼロ様を父として、主人として尊敬しておりました。ゼロ様が隠居し、わたくし達に暇を出したときは、全員で悲しんだものです」


 隠居してバラバラになったのは、自分たちの意思じゃなくて、ゼロが連れていかなかったんだ。部下のことちゃんと気遣ってるじゃないか。


「そのゼロ様が、力になってやりたい友人がいるから力を貸してくれと、一人一人に頭を下げて、お願いに来ました。ゼロ様なら、わざわざ会いに来ずとも、使い魔を使って呼び出せば、わたくし達は喜んで馳せ参じます。頭を下げずとも、命令していただければ、この命に代えてでもその使命を全うします」


「いや、死んじゃ駄目だろ」


「ふふっ、ゼロ様もそう仰ってました。ですが、以前のゼロ様は、子は親のために命を投げ打つものと言っておられましたのに」


 確かにゼロは今でも父の意思を継いで、ティアマトを守ろうとしているし、そう考えていたのかもしれない。


「昔のゼロ様も良かったですが、今のゼロ様の方が素晴らしい主君だと、ジョーカーズ全員の総意です。ですから、ゼロ様を変えてくださったシオン様には、我々ジョーカーズは忠誠を誓います」


 ……俺は何もしていない。ただ一緒に遊んでいただけ。ゼロが変わったのは、ゼロ自身が望んだからだ。だけど……嬉しいな。



 ――――


「それで、わたくし――いえ、道化師に用事とは何でしょう?」


 ようやく本題か。長かったな。


「その前に少し聞きたいんだけど、ハーレクイン達の格好は、好きでやってるの?」


「もちろんですわ。わたくし達道化師は楽しませてなんぼの世界。その為には、まずは見た目を変えることですわ」


 ……一体誰を楽しませていたんだろう? ゼロ? それとも同僚? もしかして人間とか?

 そもそも、確かに人と違う見た目だけど……。ハーレクイン達は楽しませるってより、怖がらせるに近いと思う。道化恐怖症になりそうだ。


「まぁいいや。じゃあ楽しませるために芸をしたり、人前で話したりするのって大丈夫?」


「もちろんです。……もしかして宴会の司会とかでしょうか? でしたら喜んで務めさせていただきますが」


「いや、それはもう適任がいるんだ」


 ティティがいる限り、司会の座は揺るがないだろう。というか、この天使との戦争前に、こんな風に改まって宴会の司会はお願いしないだろう。


「では何を?」


「うん、実はハーレクイン達には、案内役になってもらいたいんだ」


「案内役? それはリーパーですよ?」


「それじゃあ地獄に行っちゃうじゃないか! 誰が地獄の案内を頼んでるんだよ! そうじゃなくて、このドライ諸島の案内をお願いしたいんだ」


「ここの案内人? 誰かご招待をされますので? 別に構いませんが、わたくしはまだこの土地が不馴れでして……少し時間をいただければと」


「時間は……まぁ相手次第だけど、まだもう少しあると思う。それから、島の詳しい詳細は説明しなくていいんだ。派手に出迎えてくれればいいんだから」


「……一体どなたを案内されるつもりで?」


 ハーレクインの顔には先程までの笑顔がなく、真顔になる。恐らく気づいたかな?


「うん。もう予想が付いてると思うけど、天使の案内をしてもらいたいんだ」


「……詳しくお話をお聞かせください」


 やはり予想していたようで、ハーレクインに驚きはない。


「さっき結界を張ったけどさ。この島の攻略方法って分かる?」


「アルファ島からファイ島の核を外すことで、イプシロンへ入ることが許されることですか?」


「そう。英霊の封じてあるこの塔に入るためには、四つの島を攻略しなくてはならない。そしてルールの話も分かっってるよな? 四つの島を同時に攻略し、同時に核を破壊するっていう嘘ルール。このルールを天使に伝える役目、それを道化師にお願いしたいんだ」


 前回の偵察隊ではティアマトとテティスが先鋒を務めた。まぁあれは迎撃の為なんだが……。

 今回は天使の前で、ドライ諸島の説明をしてもらう。四つの島を同時に攻略すること。遠距離は効かないこと。他にも細かいルールは沢山ある。それを道化師にお願いしたい。

 アヴァロンが船なのか飛行船なのかは分からない。でも全軍って言うくらいだから巨大なはずだ。当然戦力も前回の比じゃない。

 前回は一体だけだったネームド天使は何十体といるだろうし、七大天使や教皇もいるはずだ。


「正直危険すぎる役目だ。でも、天使を分散させるには、この嘘ルールをちゃんと説明しないといけないんだ」


 本来なら、偵察隊がその任務を担う筈だった。だけど、全滅させちゃったからなぁ。


 せっかく万全の体制で待ち構えていても、敵が思惑通りに動いてくれないと、無駄になってしまう。

 こっちの土俵に入ってもらうためのルールを相手に伝える必要があるのだ。


「……その大役をわたくしに任せると?」


「そういうこと。ある程度強い人じゃないと、単騎で敵に対することが出来ない。そして、使者として普通に行っても適当にあしらわれるだけ。いいか、ハーレクイン。いや、道化師達。お前達のショーで天使達をこちらの土俵に引きずり込んでやれ」


「……本当に。本当に、わたくしがその大役を仰せつかってもよろしいので?」


「嫌なのか?」


「とんでもありません! 新参者のわたくしに、このような大役を任せて頂けるなんて……道化師としてこれ程嬉しいことはございません。たとえこの命が尽きようとも、なんとしてもこの大役を勤めさせていただきます」


「だから死ぬのは駄目だからね。でも……うん、任せた。そのためにも……」


「まだ何かあるので?」


「ハーレクインが強くなくちゃいけない。天使が来るギリギリまで、俺がお前達をみっちり鍛えてやるから覚悟しろ」


「おおっ! シオン様直々に鍛えてくださるのですか!」


「ああ、目標は一週間で魔力値を百万まで伸ばす。それから、ショーの練習もしないとな」


「ま、魔力値をひゃくまん? そ、それ、ゼロ様よりも上では?」


「……そ、そうかもしれないな」


 俺と初めて会ったときのゼロは百万いってなかった。だけど、魔力増強ドリンクのお陰で、今はもう百万を越えているはずだ。まぁハーレクインを鼓舞するためにも言わないけど。


「わたくしが父よりも強く……」


「そうだ! お前はゼロよりも強くなれ。なぁに百万なんて、このスライムですら突破してるんだ。楽勝だろ」


《ですらってなんなの!》


 言葉の綾だろ。いいから黙ってろって。


「そのスライム……とんでもないスライムなのですね」


 ハーレクインの顔に一筋の汗が流れる。やはり魔力百万超えのスライムは異常だよな。


「大丈夫! ハーレクインなら、余裕で抜けるさ。本当は今から……って言いたいところだけど、説明やら準備やらが必要だと思うから、明日から修行開始な」


 明日また迎えに来る約束をし、俺はイプシロンへと戻ることにした。さて、俺も修行のための準備をしようっと。

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