第264話 新人を迎えよう
今回から七章に入ります。
毎日投稿は少し厳しいため、しばらくは、三話投稿して、一日お休みのペースで投稿予定です。
新年。一年の始まりを告げるめでたい日。
この世界。カラーズでは新年の五日間は一ヶ月四十五日とは別にカウントされる特別な五日間。
ここシクトリーナもここ数年、新年はフィーアスで餅つきをして、雑煮を食べるのが恒例となっている。そのまま五日間は、全員仕事をせずに、まったりと過ごすことにしていた。
だが、今年は例年とは違う。
雑煮までは食べたのだが、その後はまったりとはしなかった。
年が明けたことで、天使がいつドライ諸島に攻めて来るか分からないのだ。流石にこの五日間で攻めて来ることはないだろうが、少しの時間も無駄には出来ない。
一応、年内に城塞都市は完成した。
そして、昔の仲間を集めに行くと言って旅に出たゼロも、先日戻ってきた。
今日は、その新たな仲間の紹介と、前から考えていたチームファントムの任命式を執り行う予定だ。
皆で力を合わせて頑張ろうって……要するに決起集会だな。
――――
「では、まずは新たな仲間を紹介してもらおう。ゼロ、頼む」
「そんな大げさなものではないのだが……。おい」
ゼロが呼びかけると、後ろに待機していた五人のエルダーヴァンパイアが前に出る。
……見た目から、既に色々とおかしい。全員個性的で、一癖も二癖もありそうなのが分かる。
「左から『クラウン』『リーパー』『フォーチュンテラー』『ドクター』『マジシャン』だ。もう一人……『ハーミット』がいるが、ここには来ていない」
「……それ名前?」
どう聞いても名前には聞こえない。どちらかというと……職業?
「名前兼役割と言ったところか」
やっぱり役割も担っているのか。……それでもいくつか分からないのがあるぞ。
「全員エルダーヴァンパイアなんだよな?」
「そうだが……。何か問題があるのか?」
「いや、問題はないけど……」
問題はないが、名前といい、役割といい、そして何より見た目が……全くヴァンパイアっぽくない。むしろ……サーカス団?
五人をもう一度見てみる。リーパー、ドクターが男で、フォーチュンテラーとマジシャンが女だ。クラウンは……どっちだ?
「この五人にハーミットを加えて六人。通称【ジョーカーズ】だ。六人の魔法や能力に関しては、追々でいいよな。六人とも、魔王を名乗れる程度の実力はあると保証しよう」
とてもそうは見えないけど……魔王程度ってそれ大概だからな。
「……ハーミットってのは、後から合流するのか?」
「いや、既に来てはいるんだが、人前に出たがらなくてな」
ハーミット――タロットのイメージしかないが、確か隠者だ。また一人引きこもりが増えたってことか。……役に立つのか?
「コイツ等のことはもういいだろ。おい、下がっていいぞ」
いや、せめてそれぞれ一言くらい……。
「ゼロ様。もう少し紹介してくださっても良いのではありませんか?」
俺の言葉を代弁するように、フォーチュンテラーと呼ばれた女性が言う。
フォーチュンって、幸運だよな。テラーって何だ? 良く分からないが、服装は黒のゴシックローブにマントとフード。これだけなら、森の奥に住んでいる黒魔法使いって感じだ。だが、手に持っている水晶。……占い師かな?
「……好きにしろ」
ゼロはどこか投げやりな……諦めた感じで言う。あまり紹介したくなかったのかな?
「では好きにします。皆様、私はフォーチュンテラー。長いので、気軽にフォーチュンとお呼びください。ゼロ様の元を離れてからは、ずっと占い師として各地を回っておりましたわ。何か占って欲しいことがありましたら、遠慮なく私の所までお越しください」
やっぱり占い師か。ヴァンパイアが占い師で旅をしていたって……一体何を占うんだ? そして、魔法のあるこの世界で、占いの成功率ってどの程度なんだろう。
フォーチュンが挨拶を終えると、次はドクターが前に出る。
ドクターってことは医者だよな。こっちも黒衣に身を包んでいる。……顔に傷はないが、法外の金額を請求する無免許医みたいなイメージだ。
「……俺はドクター。【闇の外科医】と呼ばれている。解剖なら任せろ」
怖えよ! 何だよ闇の外科医って! コイツ、絶対に医者じゃなくて、殺人鬼の方だろ。……まぁゼロが連れてきたんだから、ここでは暴れないと思うが……。
ゼロがあまり紹介したがらない理由が分かる。二人だけですでにお腹一杯だ。これにあと三人……いや、ハーミットも含めて四人いるのか。
ドクターの次はリーパーが前に出る。黒のローブに深めに被ったフード。そして自身の身長程の長さの鎌。これ、ヴァンパイアってより……。
「オホホホホ。わたくし、リーパーと申します。役割は案内人。確実に地獄まで案内するのが、わたくしの役目なのですよ」
……笑い方が非常に不気味だ。
「違うだろ。リーパーは死神。案内人ではない」
ゼロの冷静なツッコミ。だよね! どう見たって死神だよこれ。
「ホホホ。死神ですから、地獄への案内人で間違ってはおりませんよ」
だからさ。そんな殺人鬼みたいなのはいらないんだけど……本当に大丈夫なのか?
「全く……ドクターもリーパーも相変わらず野蛮ですね。私はマジシャン。手品師です」
次に挨拶したのはマジシャン。黒のタキシードとシルクハット。確かに見た目は手品師って言っていい。
でもさ。この世界なら、マジシャンなら、手品師じゃなくて魔法使いでいいじゃん。何で手品師……そもそも手品師って、どうやって戦うの?
まぁこのマジシャンは、顔も隠れてないし、話し方も普通。ドクターとリーパーを野蛮と言える常識も持っている。うん、一番まともそうだ。……他と同様、全くヴァンパイアっぽくないけど。
ここまでで四人。最後に残ったのはクラウン。……正直なところ、見た目で判断すると、コイツが一番問題児っぽい。
他の四人はヴァンパイアっぽくないけど、一応黒で統一されてるし、裏世界というか闇の住人って感じはする。
だけど、クラウンは違う。白塗りの顔に真っ赤な鼻と口のメイク。白と黒の二色になっている。二股に分かれた帽子とつなぎ服。分かりやすく一言で言うと、サーカスのピエロだ。多分男だろうが、化粧と衣装の所為で、性別が判断しにくい。
……コイツ一人で、雰囲気も場の空気も全てを台無しにしていると言っても過言ではない。
「は、は、は、初めまして。僕はクラウン。見ての通り道化師さ」
「ち、ち、ち、違うよ! 本物の道化師はこのボク。ピエロだよ」
「な、な、な、何を言っている。本物はこの私、トリックスター。道化師である」
「だ、だ、だ、騙されるな。俺が本物。ジェスター、道化師だ」
「み、み、み、皆様。何を言ってるんです。わたくしこそが本物。名はハーレクイン。道化師でございます」
……なんだこれ?
クラウンは、どもりながら自己紹介を始めたと思ったら、クラウンの影から新たな道化師が次々と現れる。それぞれが、クラウンと同じようにどもりながら自己紹介をする。
特徴的なのは、クラウンと微妙に服装と背格好が違うことだ。ピエロはクラウンと服装は同じだが、色が違う。ピエロの衣装は赤と黒。それから、目の下に涙のメイクが追加されており、身長もややクラウンよりも低い。
トリックスターはクラウンよりも身長が高い。服の色は、白と黒で同じだが、ゆったりとしたつなぎ服ではなく、肌にピッタリの全身タイツ的服になっている。顔も化粧でなく仮面だ。
ジェスターは、三人と違いカラフルな衣装で、ボンボンが沢山付いている。靴は左右で違うの履いてる。
ハーレクインは一目で女性だと分かる。仮面を付けているが、綺麗な金髪の長い髪。赤と黒のミニスカとストッキング。道化師っぽい服装ではあるが、実にセクシーだ。
突然道化師が五人に増えたことにより、俺は動揺が隠せない。
「……クラウンって五人いるの?」
俺は思わずゼロに尋ねた。
「違う。何というか……一言でいえば、多重人格者だな」
「それ違うよね! 多重人格ってのは、一つの体に複数の人格が入ってることだよね? これ……五つ体があるじゃん!」
服装も体つきも違う。単純に道化師の格好をした人物が五人いるってことだろ?
「いや、本当に一人なのだ。……シオンにも分かりやすく言うと、スーラの分身体に近いかもしれん。分身体に別の人格が宿っていると言うのが正しいだろう」
「あれが分身体? 体系が全く違うじゃないか」
相手を騙せないんじゃ、それはもう分身ですらないと思う。
「だから分かりやすく言ったまでだ。それに、分身だけではない。本体も人格によって、服装や体格が変わる。さっきまではクラウンが表に出ていたから、クラウンと紹介した」
ゼロの話を総合すると……本来のクラウンは一人だけど、多重人格者。
分身のように、別人格の肉体を増やすことが出来る。
それに、分身を出さなくても、普通の多重人格のように、本体の人格が変わることもある。本体の人格が変われば、服装も体格も変更する。服装も変わるとかどんな原理だ? ……あっ、エキドナやラミリアのように、魔族型と人型のような関係かも知れないな。それなら確かに多重人格なの……か?
というか……。
「ねぇ! やっぱりヴァンパイア要素がないじゃないか! どういうことだよ!」
さっきの四人とクラウン。やはり全員にヴァンパイア要素なんかこれっぽっちもない。これじゃあ本当にサーカス団だ。
「だから、詳しく説明したくなかったのだ」
確かに……。ゼロが各人の紹介を流したかった理由が分かる。
「ゼロの部下って、何て言うか……個性的だな」
元々コイツらと魔王生活をしていたんだろ?
「本当は、もっとまともな人材を集めたかったんだが……まともな奴らは既に自分の生活を持っていてな。誘うのが忍びなかったのだ」
ああ、まともな奴もいたのか。でも、まともだから、ちゃんとした生活をしていて……んで、変な人材だけ集まったってことか。これなら、最後のハーミットも似たようなものだろう。
「まぁこう見えても、最低限の常識はあるし、実力も確かな連中だ。存分にこき使ってやればいいさ」
最低限の常識……か。本当にあるのだろうか? でも、この五人を……いや、クラウンを見て、思いついたことがある。クラウンの実力が本当に確かなら……。
《また悪だくみを考えてるの》
(今回はそんなに悪だくみじゃないさ)
うん。ちょっとだけ楽しみになってきた。




