日常編 パーティー②
今年もよろしくお願いいたします。
アズラットと合流した後は、女王達は王族専用の竜車に乗って移動することになった。
流石に自動車で移動するわけにもいかないだろう。変な波風は立てたくないしね。
俺もホリンに乗って行くわけにはいかないから、準備していた竜車で移動することになっていた。
今までその竜車に乗っていたアズラットは、俺達の用意した竜車で一緒に向かうことにした。
「アズラット様。お目にかかれて光栄です。『主人』がいつもお世話になっております」
ルーナめ。今、主人って単語を強調しやがった。言っておくが、演技だからな。
「アズラット様。妻のルーナです」
くそっ、何か妻って紹介するのが恥ずかしい。
「ルーナ……銀髪……シオン……」
あっ!? もしかしてバレた? ルーナがどうしても偽名は嫌だって言うから、そのままでいたけど……というか、シルキー全員。いや、魔族の皆さんは自分の名前に拘りがあるようで、偽名とか使いたがらないんだよな。
「……いやぁお美しい奥様で。羨ましいですね」
……これは気付いてないのか? それとも気付いてない振りをしているのか。判断に悩むな。まぁツッコんでこないなら、下手に何か言う必要はないだろう。
「まぁ! お美しいなんて……アズラット様はお上手ですわね」
「そうですよアズラット様。こう見えてもコイツはかなり年がいってまして……若作りに必死ですよ」
「まぁ!? あなたったら、少し言い過ぎではございませんこと?」
ルーナは笑顔で答えているが……足踏んでいますよ。痛いですよ。グリグリしないでいただけますか。そろそろ限界ですよ。
「本当に仲の良さそうなご夫婦で、羨ましいですね」
アズラットの顔に不安そうな表情がなくなった。どうやらこんなバカな行動を魔王がするはずがない。ただの勘違いとでも思ってくれたかな。
「失礼ですが、アズラット様はご結婚は?」
あまり俺達のことを探られないように、話題を俺達から逸らすことにした。
「それがまだなんですよ」
「アズラット様でしたら、言い寄ってくる方も大勢いらっしゃるのではないですか?」
「まぁ縁談の話が無いわけではないですが……私はあまり政略結婚や財産目当ての方との縁談はちょっと……」
おお……ますますアズラットの株が上がっていく。アズラットがこれなら王子とヒカリの結婚……実現高そうじゃね?
――――
「いやぁまさか竜車での移動がこんなに快適になるなんて……」
「クッションひとつで随分と変わるでしょう?」
「いえ、普通のクッションではこうはならないかと……」
以前の経験を生かして、竜車の移動では、スーラクッションを最初から利用していた。どうやらアズラットもビックリの乗り心地だったようだ。
《ムフフ、これで駄ライムとはもう言わせないの》
今回は随分としつこいな。まだ根に持ってるのか。まぁドヤってても、スーラとはここでお別れだ。流石にスライムを連れて城には入れない。
だが、スーラはいつものように怒ってはいない。いつもなら腕輪に変身してでもついて来るのに……。
《じゃあ私達は先に帰ってるの》
(帰るのはいいけど、見つからないように気を付けろよ)
今回のパーティーにはリュートとデューテも参加する。
その為、スーラは同じく居残り組のトールとショコラと久しぶりにミニマム同好会を開催。城に帰り、新しい仲間のスノーを紹介したいらしい。
まぁ転移する所さえ見つからなければ、全然問題ない。むしろ、スーラがいなくて羽を伸ばせ……ルーナがいるからどのみち無理だな。
とにかく俺はスーラと別れ、パーティー開場に向かうことにした。
――――
「おおっシトロン女王! よく来てくれた」
「お久しゅうございます。シアン王もご壮健で何よりです」
「そなたは相変わらず美しいのう。さっ、今宵は存分に楽しんでくれ」
……あれがシアン王か。女王しか目に入ってなさそうだ。
王は女王を連れてさっさと奥へと引っ込む。
「それではシオン殿また後程……」
俺に小声で言うと、アズラットは慌てて護衛を伴って、女王一行の後をついて行く。
俺は……一応女王の推薦だけど、行かなくていいよね?
「シオン殿。それにルーナ殿も。よく来てくれた」
そこにレムオンが話しかける。良かった。俺の相手はレムオンがしてくれるのかな。
「……なぁ。あんな感じなんだったら、俺もう帰っていいよね?」
「何を馬鹿なことを言っておるのだ。ほら貴公も早くこちらへ来るのだ」
やっぱり駄目か。俺はレムオンの案内で会場に入ることにした。
――――
パーティーは、シアン王とシトロン女王の友好の式辞から始まった。まぁ当り障りのない事しか行ってなかったけど。明日正式に民衆に向かっての式典を正式にするみたいだ。
次にバルデス商会がシアン王と謁見……はご遠慮してもらって、代わりにグリンとエイミーをバルデス商会が誇る、チェスとリバーシの名人として生贄にした。
「そなた……どこかで会ったことがないか?」
王がグリンに向かってそう言ったのは本当に驚いた。
「はい。……数年前になりますが、カーディナル王の同行者としてこの国に訪れたことがございます」
カーディナル王が一瞬分からなかったが、グリンが言ってるんだから、赤の国の王のことだろう。そういえば何となく聞いた覚えがある。なるほど、シアン王に会ったことがあったのか。だから来たくなかったんだな。言ってくれれば……色々と事前に話を聞いたのに。
「おお! 覚えておるぞ。確か魔力を数値化できる者であったな。何故そのお主がここにおるのだ?」
ああ、対象の魔力を数値化できる魔法。かなりレアな魔法だから、それの自慢にでも駆り出されたのかな? そういえば魔力検査カードは他国から貰っているって聞いた。それがこの青の国なのかもしれないな。
「赤の国が滅んだ後、何とか生き延びた私をここにいるシオン様が雇ってくださったのです。今はシオン様の領地でバルデス商会の商品を作っております」
あっ! グリンめ。俺の名前を言いやがった。別にバルデス商会のスタッフってだけでいいだろうに……多分当てつけだろうな。案の定、王が俺を見る。今回の招待者リストに簡単な経歴と名前は載せていたから俺がシオンってのはバレている。
「確かそなたがシオン……であったな。どうじゃ、余の国にも商品を卸さぬか?」
「あらやだシアン様。私の国の貴族を奪わないでくださいな」
「奪うなぞ……そのようなことは」
女王が庇ってくれる。うん、それくらいはしてくれないとな。
「現在ルーアンを中心にバルデス商会の商品も広がっております。それで我慢してくださいな」
「う、うむ……そなたらの商品は我が国でも話題となっておる。何か困ることがあれば遠慮なく言うと良い」
俺は頭を下げて後ろに下がる。ふぅ。女王のお陰で特に変な探りや、わがままを言われずに済んだ。
この後、女王達王族は晩餐会へ、俺達招待客は貴族達との舞踏会への参加となる。明日はグリンとエイミーが王とチェスとリバーシの勝負をし、女王が式典に参加。夜はもう一度晩餐会をして終了。明後日に帰宅となる。俺は……今日だけで何とかならないかな?
――――
「シオン様……わたくしが間違っておりました」
「だろ? だから言ったのに」
「ウチも……大人しゅうシオンさんの言うことを聞いとればよかったわ」
「はぅぅ。ごめんなさい」
「まぁ今更言っても遅いんだけどな。我慢して……ほら。次が来るぞ」
「またかいな。もう嫌や……」
「はぅぅ」
王たちが晩餐会へと向かった後に、こちらも舞踏会が始まった。
ミサキやレンんど、女性陣はパーティーや宮廷舞踏会と聞いて、きらびやかなイメージだったろうが……。
要は貴族が自分の自慢話をする場所。もしくはお見合い会場って感じだ。
そこに、今話題のバルデス商会のご令嬢と、この会場内では一番の美人と言っても過言ではないルーナだ。貴族の男どもが黙っているはずがない。
三人は次から次に男から話しかけられていた。もちろん無下にする訳にもいかず、話をしながらやんわりとお断り……もしくは一曲だけ踊り、逃げて来るを繰り返していた。
ミサキもレンもルーナから一通り社交界用のマナーを叩き込まれているから、その点だけは心配ない。
まぁそのルーナは、俺が居るってことで、ダンスだけは頑なに拒んでいたが。
ちなみにヒカリは王子の婚約者って立場を利用して、晩餐会の方に参加していた。姉さんも一緒の席には座ってないが、護衛として側についている。その為、この場にいない。……向こうではどんな会話が繰り広げられているんだろうな?
リュートとデューテは黄の国で何度も経験しているようで、すごく馴染んでいた。リュートなんか、女性から話しかけられまくりだ。リュートだけじゃない。グリンも同じだ。さっきから女性が後を絶たない。
……一方、俺は誰からも声を掛けられないんですけど? ありがたいことではあるが、なんか男としては二人に大きく負けた気がする。まぁ、隣でルーナが睨みを利かせていれば、近づいてくる女性はいないか。
それだけなら良かったのだが……何故か男どもは話しかけてくる。しかも好意的ではなく、侮蔑的な感じでだ。そいつらはルーナ目当てで、辺境の領主である俺よりも、いかに自分が優れているかとアピールする。しかも、それが逆効果なのに気がついていない。だからこそ、余計にルーナの機嫌が悪くなるのだが。
エイミーは……舞踏会場の隅でリバーシ談議に花を咲かせていた。その内ゲームをし始めそうだ。
「……今まではメイドでしか参加しておりませんでいたので、こんなに声を掛けられるとは思っておりませんでした」
人が捌ける度にため息を吐くルーナ。自分がこれほど声を掛けられるのは完全に予想外だったようだ。
そりゃあメイドとして参加していたら、声かける人もいない。それに、相手は魔王や魔族が相手だ。容姿端麗な魔族の中ではルーナの見た目もそこまで珍しくはない。が、人間相手で、メイドじゃなければ目立ってしょうがない。
「シオン殿。楽しんで……いる雰囲気ではないな」
そこにレムオンがやって来る。レムオンは晩餐会ではなく、こちらに参加していた。
「なぁまだ終わらないのか?」
「まだ始まったばかりではないか。それに、陛下も来ておらぬしな。それよりも……紹介したい人物がいるのだが、少し付き合ってくれぬか?」
晩餐会が終了すれば王達もこちらに戻って来る。そして最後にダンスを披露して終了となるはずだ。
「ここを出られるならどこにでも行くぞ」
「ではわたくしも……」
「いえ、ルーナ殿には少しだけ席を外していただきたい」
一緒について行こうとするルーナをレムオンが制する。
「じゃあルーナはここで待機な」
ルーナには悪いが、俺一人だけでもここを逃げ出せるならそれに越したことはない。まぁ俺が居なくなれば、さらに男から声を掛けられるだろうけど。……嫉妬はしないぞ。
「そんな……それはあまりにご無体ではございませんか?」
ルーナはこの世の終わりみたいな表情を浮かべる。……そんなに嫌か?
「……じゃあミサキとレンと一緒に隣の部屋で食事でも取ってろよ」
一応舞踏会場の隣の部屋に、軽食が取れる控室のような場所がある。サンドイッチ程度しかないし、シクトリーナの料理の方が美味しいけど。まぁそこでも話しかけられるだろうが、ダンスに誘われない分、ここにいるよりはマシだろう。
「……早く帰ってきてくださいね」
……可愛いじゃないか。
「シオン殿は出来るだけ早くお返し致しますので、心配されないよう。あと、隣にはホーキング公もおりますので、彼といると、それ以上他人から話しかけられることはないでしょう」
ホーキングも来てたのか。……逃げ切れなかったんだな。
「それを早く言ってくださいまし! お二人が戻ってきたらそちらに居ますから、早く戻ってきてくださいましね!」
俺は見送られるがままレムオンと舞踏会場を後にした。




