日常編 パーティー①
「嫌だ嫌だ嫌だ。絶対に行きたくない!!」
「もうシオン様……一体いつまでそんなワガママ言ってるんですか!」
「だってさ。俺は忙しいんだよ」
「またそんな言い訳して……」
「本当だって。今大事な研究中なんだよ。それが完成すれば、天使にだって勝てるんだって。だからさ……」
【死の呪い】のことが分かれば、対天使の切り札になるはずだ。
「大事な研究なのは分かります。ですが、たった三日くらいはお休みしてもいいでしょう。今までだって散々遊んできたのですから」
……確かに今までのことを言われると厳しい。
「でもさ、ようやく先が見えそうなんだよ。本当は今にも長老さんの所に行きたいくらいなんだ。なっ、レンも長老さんに会いに行きたいだろ?」
「はぅ……長老さんに会いに行きたいけど、パーティーにも行きたい」
くっまさかレンがそんなにアクティブだったとは……。
「大体さ。なんでルーナがそんなに俺をパーティーに行かせたがるんだ?」
「シオン様はこの城の城主です。今後のためにも、人間の社交界には参加すべきです」
「でも、俺の正体は明かさないんだぞ?」
「例え明かさずとも、社交界の空気は味わった方が宜しいです」
確かに今まで一回もそういった行事は行ってなかったが、他国との交流も増えてきたし、今後は非公式だけでなく、公式のやりとりもあるかもしれない。その時に何もわからないじゃあんまりか。
「分かった! 空気を味わえばいいんだろ。じゃあ俺は透明になって隠れているから……」
「却下です」
最後まで言わせてすらもらえない。
「何でさ!」
「何でって、少し考えれば分かるでしょう!」
「でもさ。女王だって、俺がどんな形で参加してもいいって……」
「私はそのような話。一度も行っておりませんが……」
「でも、どんな形で参加するか指定してなかったじゃないか! ってことはどんな風に参加しても自由ってことだよな?」
「何故そうなるのです。常識的に考えて、普通にパーティーの客として参加してもらいます」
「シオン様……わたくしにはあんなことを仰ったのに」
王女が若干幻滅した目を向ける。
「だって俺は仕事じゃないもん」
「どう考えても城主のお仕事ですわよね!?」
「シオン。流石に往生際が悪すぎるわよ。私も参加してあげるから、我慢しなさい」
「姉さんは参加したいだけだよね!? しかも、護衛として付いて回ってるだけだから、マナーもあまり考えなくていいじゃん。……そうだ! じゃあ俺も護衛……」
「駄目に決まってるでしょうが!」
やはり最後まで言わせてもらえない。
「シオン様。私の護衛は十分な人数がいますから、シオン様は私の大切な方としてシアン様にご挨拶を……」
「言い方! それ、俺が青の国の王に殺されちゃうやつだから!」
女王に入れ込んでいる王に向かって、大切な方とか紹介されたら、待っているのは地獄でしかない。
「……分かったよ。俺はレンの護衛として参加するよ」
「はぅ? 私の護衛?」
「レンはバルデス商会の代表として参加するんだ。元々俺はバルデス商会の護衛なんだし、ちょうど良いだろ?」
これなら俺はバルデス商会の代表として表に出ることもないし、パーティーの参加者ってよりは、控え室で待機組になれそうだ。
「……シオンさん。バルデス商会の代表はレンだけやなく、かわいい娘がもう一人おるんやが? 何でレンだけ強調するんや?」
「……もう一人に護衛は不要だろ?」
「なんでや! ウチかてか弱い女の子や! ウチとレン。何が違うって言うんや。『はぅ』か? ウチには『はぅ』がないからあかんのか?」
「おい、落ち着け。別に『はぅ』は関係ない。どちらかと言えば、それはマイナスポイントだ」
「はぅぅ。二人とも私に失礼じゃない?」
「……母様。本当にこの方々をお連れしてよろしいのですか?」
「……私も少し不安になってきました」
そう思うなら今からでも取り消してくれ。
――――
ついに青の国のパーティーの日がやって来た。
女王達はハンプールから国境を越えて、無事に青の国に入ると、同じように、基本はシクトリーナでまったりしつつ、数日置きに青の国の町に滞在しながら、王都レヌシーを目指していた。
青の国の町に関しては、シグレがレムオンを送り届けた時と同じルートのため、その都度シグレに転移で送ってもらった。
今は王都に一番近い町へ向けて進んでいることになっている。明日、アズラットとその町で合流した後で、一緒に王都に行く予定だ。
その為、パーティーに参加する予定の人間もその町からは行動を共にしないといけないのだが……。
まぁどれだけごねても、俺は参加せざるを得ないようだ。
参加者は女王一行が、姉さんとリュート、デューテを含むだ。
そして、レムオンの紹介で参加するのが、バルデス商会一行で、ミサキとレンとヒカリ。
ミサキとレンにヒカリを加えて、バルデス商会の代表とした。立場的には社長秘書的感じだ。社長のミハエルさんの代理での参加になる。
そして、残ったのが、女王の特別推薦枠で俺とエイミーとグリンの三人だ。
俺は結局バルデス商会の護衛としての立場も却下され、特別枠での参加となった。
俺は女王が期待を寄せる領地の領主となり、バルデス商会に商品を卸していることになっている。その秘匿性から、領地を名乗る必要がないと、楽な立場ではあるが……。
絶対に面倒なことになりそうだ。
そして、エイミーとグリン。この二人はシクトリーナのチェスとリバーシのチャンピオンだ。二人に王の相手をしてもらおう。
二人とも……特にグリンは嫌がったが、絶対に逃がさない。
そして、最後にもう一人……。
「ルーナ。ご機嫌だな」
「えっ? そんなことはございませんよ。シオン様に無理やり連れてこられて面倒だなぁとは思いますが」
絶対に嘘だ。面倒と思うなら、そんな弾んだ声にならない。というか、それ以前に、そのにやけた顔で何を言っても説得力はない。
俺は断る最後の手段として、城主の俺が行くんだったら、メイドとしてルーナも付いてくるよな? と言った。最近はドライとハンプールくらいなら外に出れるようになったが、元々は生粋の引きこもりのルーナだ。そのルーナが見知らぬ青の国。しかも知らない人が大勢いる場所に行くなんて……流石のルーナも唸って悩み始めた。
俺は勝った! と思ったが、余計な一言を放つ奴がいた。
『ルーナが参加するんやったら、メイドよりシオンさんの妻として参加したらどうや?』
『『妻っ!?』』
『それやったら、一緒に参加できるし、舞踏会では二人でダンスも踊れるかもしれんで?』
『それはいいですね。では、シオン様は護衛でなく、私の推薦で参加するようにしましょう』
『妻……ダンス……わたくし、参加します!』
ってな感じだ。ミサキと女王の余計な一言……いや、俺がルーナを誘わなければ、レンの護衛として、穏便に参加できたかもしれないのに……。
「シオン様っ。メイドが人前で主人とダンスなんて……ああっ!? 本当に嫌ですわ」
そう言うなら、もう少し嫌がって欲しい。
ダンスか……。一応ルーナに城主の心得として、修行と一緒に教わりはしたけど……覚えているかな?
――――
次の日。待ち合わせしていたアズラットに驚かれた。
「何故、貴方がここにいるのです?」
本当にそうだよ。
「いえ……何故か私もパーティーに参加することになりましてね。ははは……はぁ」
「そうではなく! どうしてハンプールにいた貴方が私達よりも早くここに辿り着いてるのですか!」
あっ、そっちか。
確かにキャンピングカーには乗ってないのだから、女王達と一緒にここにいるのはおかしいか。
「それは……私は【魔物使い】ですから。あそこを見てください」
俺が指し示した方向にはホリンがいた。
「あれは……白いグリフォンですか?」
「ええ、そうです。グリフォンのレア種ーーホーリーグリフです」
「噂には聞いていましたが……非常に美しいですね」
「でしょう。どこかのスライムとは大違いですよ」
《私だって美しいの!!》
「ははは。そんなこと言うからそのスライムが怒ってるじゃないですか。……本当に言葉を理解できるみたいですね」
スライムが言葉を理解できるということは、モンスターカードのお陰で周知されている。
宰相ならチェックはしているだろうな。まぁ肩で飛び跳ねていたら、知らなくても気がつくか。
「あの白さに比べると、青紫ってみすぼらしいでしょう? しかも、以前は緑だったんですよ。途中で色が変わるなんて、本当に変なスライムで……」
《ムキー!! シオンちゃん。いい加減にするの!》
「あのー。随分と怒ってるみたいですが?」
「気にしなくてもいいですよ。それにしても……アズラット様は宰相様なのに、随分と頼りな……いえ、偉ぶら……これも違う。えと、親しみやすい方ですね」
本当、こんな冗談を言えるとは思えなかった。前回は挨拶しかしなかったから、気がつかなかったけど、すごく話しやすい雰囲気の人だ。とても偉い人には思えない。
「ははっ、よく言われますよ。まぁ前任者が反逆を考えていたものですから、次は人畜無害そうなのを選んだとか、そういう理由でしょう。正直、まだ全然実感が湧かないです」
それ、自分で言っちゃうか。
「でも、女王陛下はアズラット様のことを優秀な宰相と申しておりましたよ」
「でも喧しいとも言ってたでしょう?」
「……それは黙秘で」
流石女王に振り回されているだけあって、よく分かってる。
「それで……先ほどパーティーに参加されると言われておりましたが?」
「ええ。私、こう見えましても、領地を管理する立場におりまして……」
「……冒険者ではないのですか?」
「もちろん冒険者ですよ。まぁ領地管理は副業みたいなものですね」
「失礼ですが、どこの領地をお持ちで?」
「それがお答え出来ないんですよ」
「はっ?」
「アズラット様はバルデス商会の商品をご存知ですか?」
「そりゃあ、今や我が国で知らない者はいない大商会ですから」
「実は、バルデス商会の商品の八割以上は私の領地で生産されていたのですよ」
「なっ!?」
「娯楽品、食材、調味料、酒、レシピ……今は野菜の種もですね。全て私がバルデス商会に提供しました。そのため、私はバルデス商会のお抱え冒険者として活動しているのですよ」
「……知りませんでした」
いや、知ってたら怖いから。
「もし、私の領地がどこにあるか……それが知れ渡ったらどうなるか……アズラット様なら分かりますよね?」
「……商人が大勢やって来るでしょうね。それから、盗賊も……」
「その通りです。ですので、大変申し訳ないのですが、私の領地については聞かないでくださいますと、助かります。私の言葉が疑わしいのでありましたら、バルデス商会の代表がパーティーに参加しますし、女王陛下も証言してくださいます」
「いえ、本店にいた時点で、関係者なのは分かっていましたから……」
よし、ちゃんと信じてくれたようだ。まあ全て本当のことだからな。ただ、真実も話してないけど。
「もし、何かご入り用でしたら、お気軽に声をかけていただければ、ある程度はご期待に添えることが出来ると思いますので……」
「では、可能であれば、ひとつ聞いてくれませんか?」
おおっ、まさかいきなり言ってくるとは思わなかった。
「ええ、構いませんよ。何でしょう?」
「その……ハンプールで頂いたポーションをもう一度頂けませんか? ここに来るまででもうへとへとで……」
ヤバい。俺、この宰相。メチャクチャ気に入った。
「もちろん構いませんよ。アズラット様以外の皆様にも後程お配りしますね」
「いやぁ。本当に助かります」
うん。パーティーは憂鬱だけど、この人と知り合いになっただけでも、来た甲斐は会ったかもしれない。
ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございます。
本来なら年末には日常編を終えて本編に戻るつもりだったのですが、色々考えていたら終わらなくなりまして……。
一応このシリーズで日常編は終わりになります。恐らく三話か、長くても四話か……本編は一月第二週から開始予定になります。
宜しければ来年も引き続きお読みいただければ幸いです。




