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ロストカラーズ  作者: あすか
幕間
370/468

日常編 死の呪い

「シオン様! あんまりではないですか! なぜ……何故わたくしをお呼びになってくれませんでしたの!」


「い、いや。落ち着けって。呼ぶとか呼ばないは……ティアマトに言ってくれ」


 今日は先日お願いした玉手箱を引き取りに、ティアマトと第一竜宮城にやって来たんだが……着いた瞬間、テティスに責められることになった。

 確かにあの時テティスはいなかったけど……俺は単純に忙しいからいないと思っていた。だが、実際には誘われていなかったんだな。


「ティアマト姉さま! どういうことですの!」


「どうもこうも……シオン様は妾の歓待に来てくださいましたのだから、妾がもてなすのは当然のことでしょう」


「それでも、一言くらい声をかけてくだされば、わたくしもすぐにそちらに参りましたのに……」


「だって……貴女に自慢したかったのだもん」


「お姉さま!?」


 テティスが驚く。俺だってそうだ。まさかそんな子供っぽい理由で誘わなかったのか。


「ああ、あの時のシオン様。本当に楽しそうにしておられましたわ」


「キー!! お姉さま! 大人げないですわよ!」


 本当にそうだ。ったく、普段はメチャクチャ仲がいいのに……まぁ喧嘩するほど仲がいいって言うから、これも仲がいい証拠なのかもしれないな。


「シオン様。今度は是非ともわたくしの方へ……もちろんお姉さま抜きで!!」


「駄目に決まってます。シオン様は妾との方が楽しいに決まってます」


 ……ただし、俺を巻き込むのだけは止めてくれ。


「二人とも落ち着いて。それがさ。この間の歓待を、この駄目スライムがチクリやがってさ。竜宮城の接待はNGになっちゃった」


 俺は二人を宥めながら説明した。せっかく楽しかったのに……城に帰ったら、スーラが真っ先にルーナとラミリアの二人に報告。問答無用で正座コースだ。

 ルーナはこの間、俺を信じて怒らないって言ったばかりなのに、キャバクラみたいな女遊びは別ですって……はぁ。


《ちょっと!? 誰が駄目スライムなの!!》


「お前だこの駄ライムが!」


《駄ライム!? ムキー!! 今日こそはもう許さないの!》


「おお? やるか? 俺だって毎回毎回やられっ放しじゃないぞ」


《いいの。覚悟するの!》


「「あ、あの……その辺で……」」


 俺とスーラが喧嘩を始めたので、言い争いをしていたテティスとティアマトが仲裁に入る。

 俺達にとっちゃあ日常茶飯事なんだが……俺とスーラも二人と似たようなものだったな。



 ――――


 ちょっとした言い争いがあったが、無事に【死の呪い】が封じられている玉手箱を貰うことが出来た。

 ティアマトによると、中には一人を殺す程度の呪いしか入ってないようだが……。

 一応、万が一を考えて、誰にも迷惑が掛からないように、絶対立ち入り禁止にした状態のアインス砂漠で試すことにした。


「スーラも離れていた方がいいんじゃないか?」


《何言ってるの! ちゃんと役に立って、駄ライムの汚名を返上するの!》


 さっきのまだ気にしてるのかよ。


「もぅ……悪かったって。別にスーラは駄目なスライムじゃないからさ。だから……本当に危ないかもしれないから、離れててくれよ」


《危ないなら、尚更離れないの! だって私は相棒なんだから》


「……ったく。本当に知らないからな」


 相棒か……本当に心強いな。


《まぁ本当はシオンちゃんが頼りないから私が頑張るしかないの》


 ……前言撤回。やっぱり駄ライムで十分だ。



 ――――


「よし、じゃあ開けるぞ」


 玉手箱に鍵は掛かってないが、はずみで落としたり、破壊しようとしても、絶対に開かないようになっている。

 開ける方法はただひとつ。開けようとする意思を持って箱を開けるだけ。開けようと思わない限りは、絶対に開かない。


 ゴクンと息を飲んで、玉手箱の箱に手を当てる。

 俺が『開ける!』と確固たる意思を持つと、箱はすんなりと開いた。


「うわっ!?」


 開いた瞬間、中から白いガスが吹き出した。これが【死の呪い】か!?

 俺はモロにガスを浴びることになった。触れてみて分かった。このガスは本当にヤバイ! 俺は咄嗟にスーラを掴み投げ飛ばす。


《シオンちゃん!!》


「大丈夫だ! ゴホッ。それよりもスーラは早く俺の魔力を確認してくれ!」


 叫んだことで、ガスを思いっきり吸い込んでしまう!

 スーラを投げたのはスーラを蔑ろにしたり、助けるためではない。俺を客観的に観測して欲しかったからだ。ガスに触れた瞬間、急激に力が抜ける感覚があった。吸い込んでからはさらに顕著だ。

 これ……単純な死よりも、もっと別の何かなのかもしれない。


 ……時間にして、恐らく一分位だろうが、随分と長い時間が経過した気がした。

 辺りや体内から【死の呪い】が無くなった。


「……何とか生きてるな」


 ティアマトめ。何が多少魔力があればレジスト出来るだ。確かにレジスト出来たけど、かなり危険だったぞ。


《シオンちゃん!! 無茶すぎるの!》


 スーラが怒りながら近づいてくる。


「すまんすまん。だけど……観測できたなら、理由は分かるだろう?」


《シオンちゃん。一瞬だけ、紫の属性が薄くなってたの。それから、魔力もどんどん減ってたの》


「やはりか……」


《何か分かったの?》


「この【死の呪い】は、アズラエルのように、相手を殺す呪いじゃない。相手の属性を無くす呪いだ。生き物は誰だって属性を持っている。その属性を……魔力を全て失わせる。恐らく属性と魔力を全て失ったら……」


《私達魔物は、属性と魔力が無くなったら、存在そのものが無くなっちゃうの》


「魔物だけじゃなく、人間や植物もだ。魔石を持ってなくても、どれだけ低くても、魔力は必ずある。それがなくなれば、存在が無くなるさ」


 俺はケータイを取り出し、ティアマトに連絡する。ティアマトとテティスにはちゃんとケータイを渡しているから、気づけば取ってくれるはず。


『……これで良いのでしょうか? もしもーし。繋がってますか?』


 慣れてないのが丸わかりだな。にしても、もしもしはどこでも共通か。


「ティアマトか? 俺だ。シオンだ」


『まぁ!? シオン様ですか。妾に連絡していただけるとは、本当に嬉しいですわ』


「ごめん。大事な話なんだ。玉手箱……【死の呪い】の件について聞きたいことがある」


『……何でしょう?』


 声から、ティアマトの空気が変わったのを感じとる。多分俺が玉手箱を開けたのに気づいたんだろう。


「前回聞き忘れたんだけど……【死の呪い】を受けた人はどうやって死んだんだ? あと、植物や建物なども……」


 俺がこっちに来た当初に、ルーナから聞いた言い伝えでは、死のガスが蔓延し、草木は枯れ、死の大地となったと聞いた。

 それを聞いたときに、俺は氷河期を思い浮かべた。火山灰のようなもので覆われて、太陽が差し込まず、草木は枯れて……。

 死のガスにしても、火山ガスのような有毒ガスを想像していた。だけど……。


『【死の呪い】で死んだものは、死体も残らず、塵となり消えてなくなりました。建物や植物も同様です。そこには何一つ残されていません』


 やっぱりそうか。


「もうひとつ。死体は消えたと言ってたけど、生きている状態で体が消え始めたり、魔法が使えなくなったりしたか?」


『……私が知る限り、生きた状態で体が消えたというのは知りません。全て死んだ後でした。あと、魔法ですが、大技が使えなくなることはありましたが、魔法自体は使えました。ただ威力は低くなってましたが』


「方舟で脱出した中に【死の呪い】を受けて生きていた人物はいたか? あと、【死の呪い】を受けた人物はどれくらい耐えることが出来たか?」


『シオン様。もしかして、何か分かったのですか?』


「分かるかもしれないから聞いているんだ」


『失礼しました。方舟の中には【死の呪い】に触ったものはいませんでした。【死の呪い】に一瞬だけ触れたものは、特に何事もなく生き続けておりました。ですから、玉手箱の中の量なら、特に死ぬことはないと判断しました』


 そういうことか。


『ですが、十分以上【死の呪い】の中で生き続けれたものはいないと思います。また、体内に取り込んだ場合は数分と持たずに死んでいました』


 俺は思いっきり吸い込んだから、下手したらヤバかったかもな。


「出来れば吸い込まないように、念押ししてほしかったな」


『もしかして吸い込んだのですか!? 何て無茶を……取り扱いには注意してくださいと、申しあげたではないですか!』


「あっ、あれ。そういう意味だったの? てっきり俺は俺以外の誰かを巻き込まないように……って意味だと思ってた」


『それは気をつける以前に当たり前のことです! それでっ! シオン様は大丈夫なのですか?』


「若干死にかけたけど、大丈夫だ」


『死に!? ああ……妾のせいでシオン様が死ぬことになったら、なんとお詫びをすれば良いのか……こうなったらもう妾は腹を斬るしか……』


「大げさだ! 一応生きてるし、ティアマトが気にする必要はない。それよりも色々と教えてくれて助かった。また何か分からないことがあったら連絡する」


『ちょっとシオン様お待ちくだ』


 多分また謝罪とかうるさそうだから、俺はさっさとケータイを切る。そして、着信が来ないように、電源を落としておく。


「さて、随分と状況が理解できたな」


 というか、前回ちゃんと聞いておけば、良かっただけだけどな。


《女の子相手に浮かれてるのがいけないの》


 またそんなこと言う。だって楽しかったんだもん。それに、お酒も飲んでたしね。思考が鈍っててもおかしくないな。うん。


「とりあえずまとめるぞ。【死の呪い】は正式には『殺す』ではなく、属性を『奪う』だ。魔力の源である属性が無くなれば、魔力も魔法も使えなくなる」


《属性が無くなったら生きれないの》


「そういうこと。どんな生き物にも、物体にだって、属性はある。たとえ魔法を知らない人間でもだ」


 俺たち地球人だって属性は持ってた。魔法が使えない浦島太郎だって属性は持ってる。

 だから浦島が玉手箱を開けたら、属性が奪われ、死ぬことになった。白い煙が出て、体が消滅したら、じいさんになって死んだと解釈されてもおかしくはない。


「スーラ。さっき俺の色が一瞬だけ薄くなったと言ったな? あと魔力も減ったと。今はどうだ?」


《さっきよりは戻ってるけど、元よりは薄い気がするの。あと魔力は三十万くらい減ってるの》


「結構減ってるな。俺的にはもう平常だから、属性が戻ってないとすると、もう色は薄いままかな。で、薄くなった分、総魔力も減ったんだろう」


《ヒカリちゃんの魔力回復ポーションを飲んでみるの!》


「そうだな。一時的なのかもしれないし、一応飲んでみるか」


 俺はダメ元でポーションを飲んでみた。


「……どうだ?」


《……さっきより魔力は上がったけど、属性は変わらないの》


「やっぱりそうだよな」


 それに魔力が上がったのも、満タンになっただけ。俺は常に魔力は八割程度にしているから、その分が回復しただけ。総魔力量は減ったままだろう。


 くそっまた鍛え直さなくちゃな。……まぁ一ヶ月くらい魔力増強ドリンクをメインで飲めば、すぐに取り戻せるだろう。


《一応エリクサーも飲んでみるの!》


「いや、エリクサーはケガを治すのであって、魔力は回復しないぞ」


《でも、多少の病気や呪いも治せるの》


「【死の呪い】も治せるってか? まぁ試すのは問題ないけど……」


 俺はエリクサーを飲んでみた。…………おおお?


「ス、スーラ! どうなった!?」


《すごいのシオンちゃん! 魔力は変わってないけど、属性の色は元に戻ってるの!!》


「だよな! 俺もなんか力が戻った気がするもん」


 さっきまで総魔力が満タンだったイメージが、まだ余裕があるように感じる。心持ち強くなった気もするのは属性の色が戻ったからか。……マジか。エリクサー最強だな。


《ほら! 私の言った通りなの!》


「ああ、流石スーラだ」


 まぁエリクサーはどうせ近いうちに飲むこともあるだろうから、その時に気がつく……もしかすると、今は減ったばかりだから有効で、時間が経てば無効になる可能性もあるな。

 ……でも、時間を置いて試す勇気はないなぁ。

 にしても、エリクサーが最強なのは間違いないわけだ。流石は世界樹。ロストカラーズ時代からの……待て待て待て。


 世界樹は【死の呪い】も治せる?

 レンは何て言ってた? 確か、世界樹はロストカラーズ時代はユグドラシルと呼ばれた大樹で……ロストカラーズが住めなくなったから方舟で移住した。

 方舟では乗せることが出来ないので、自らをいくつかの種にして……。


 住めなくなったのは【死の呪い】のせい。でも、ユグドラシルなら治せたんじゃないのか?

 いや、ガスそのものをどうにかしないと意味がないのか。

 いや、考えるのはそこじゃない。何故種になってまで持ってくる必要があったのか。長老の意思で箱舟に乗り込んだとは考えにくい。これが【死の呪い】の特効薬だと知っていて、持ち込んだんだ。

 もっと言うと、【死の呪い】とユグドラシルは何か関係があるんじゃないか?


「……長老の所に行って確かめてみるか」


 以前俺がロストカラーズのことを聞こうとした際、長老からはまだ時期尚早と断られた。

 そして俺に大変なことが起きると、意味深なことも言っていた。そして力を蓄えろとも。

 力を蓄える必要がったのは【死の呪い】をある程度、レジスト出来るようになる為じゃないか? あの時の俺なら、今ので死んでいたかもしれない。なら、今なら話してくれるんじゃないか?


 すべての鍵は長老が握っているに違いない。俺は迷いの森の長老に会いに行くことにした。

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