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ロストカラーズ  作者: あすか
幕間
368/468

日常編 竜宮城

「シオン様! 何故こちらには来てくださらなかったのですか?」


「はっ? なんのことでしょう?」


 ティアマトに大事な話があると言われ、呼び出されたら、いきなり責められた。レムオンといい、最近こういったこと多くない?


「何のことではございません! 聞けばドライ諸島を案内するツアーを行ったようではないですか! 何故、竜宮には来てくださらないのですか? もしかして、妾のこと……まだお仲間と認めてくださらないのですか?」


 ティアマトがものすごい剣幕で捲し立てる。いや、仲間とか、そうじゃないとか大げさなもんじゃないだろうに……。


「い、いや、ほら落ち着いて。はい、深呼吸」


 俺は興奮しているティアマトを何とか宥める。


「えーと、別に仲間外れにしている訳じゃないんだけど……ほら、俺はトオルが居なかったら、俺は竜宮城に入れないじゃないか。ツアーをしたときは、トオルが居なかったんだよ」


 まぁ本当はただ忘れてただけだけど。さらに言うなら、ツアーはティティに一任していた。だから、忘れていたのは、ティティだな。うん、俺は悪くない。


「トオル様からは、シオン様がいつ入城しても構わないように、専用の魔法結晶を預かっております。魔力を練るような……戦いなどを行わなければ、何の問題もございません」


「えっ? そうなの? それ、知らなかったんだけど……」


 じゃあ戦いさえしなければ、竜宮城に行ってもいいんだ。ちゃんと教えて欲しかったよ。


「そういうわけです。では早速向かいましょう」


「はっ? 今から? もうツアーは終わったから、今からなら俺一人だけになるぞ?」


 まぁ、誘えば女王は喜んでついて来るだろうけど。


「別に構いません。妾はまだシオン様に助けていただいた礼すら出来てないのですから」


「礼なら何度も聞いたし、偵察隊を追い払った時点で十分に返してもらったけど」


「……もしかして、妾のもてなしを受けたくないのですか?」


「えっ? いや、そんなことは……」


 正直、竜宮城の宴は見てみたい。でも、料理が微妙だと言ってたしな……。


「全く……遠慮をするのは日本人の悪い癖ですよ!」


「日本人て……」


 俺達しか知らないくせに……しかも、トオルや姉さんは遠慮と言う言葉を知らない。一体誰のことを……と、そういえば遥か昔に浦島太郎が竜宮城に招かれたんだっけ? ……遠慮がちだったのかな?


「……ここまで言っても、聞いてくださらないのでしたら、シオン様に蔑ろにされましたと、ゼロ様に愚痴りますよ」


 それって脅しじゃん! ただでさえ、不在中のことを任されてるんだ。ティアマトを蔑ろにしたとか言ったら、俺は間違いなく殺される。


「分かったよ。じゃあ折角だし、竜宮城に招かれましょうかね」


「ありがとうございます。さっ、行きましょう」


 ティアマトは笑顔で俺を引っ張る。こうして俺は半ば強制的に竜宮城へと連れていかれた。



 ――――


「姫様。おかえりなさいませ」


 竜宮城に着くと、立派な白髭を蓄えた初老のじいさんに出迎えられた。


「じい、今すぐに宴の準備をしなさい。良いですか。最大級のもてなしをするのですよ」


 いや、別にそんな盛大にしてもらわなくても……。


「はっ! かしこまりました。今すぐに宴の準備を致します」


 じいさんは何の疑問も抱かずに、急いで中へと引っ込む。


「今のじいさんは?」


「確か……以前シオン様もお会いしたと聞きましたが……」


 はて? あんな執事見たことあったっけ?


「彼は妾が暴走していたときに、争っていた亀ですよ」


「あっ! あの時のでかい亀か」


 あの亀が今のじいさん……うーん。想像がつかん。


「じいは前大陸の頃から妾との付き合いで……。その頃から全く変わってないのですよ」


 亀は長生きって言うけど……ロストカラーズ時代からあの姿なのか。計り知れないくらい長生きなんだな。

 機会があれば、あのじいさんからも色々と話を聞いてみたいものだ。



 ――――


「いやぁ、美人にお酌してもらうお酒ってのは本当に美味しいね」


「あら、わたくしを美人って言ってくださるの?」


「もちろんさ。君みたいな美人は中々いないよ」


「まぁ。お上手だこと」


「あははははっ」


 いやぁ、楽しい。最大級のもてなしってのは本当に良いものだな。

 色っぽいニンフ達の踊りとお酌。それだけでテンションがただ上がりだ。


《……シオンちゃん。鼻の下が伸びてるの》


 仕方ないだろ。何て言うか……お酌してくれる時に、微妙に当たったりとかさ。

 ビキニしか着てない状態の艶やかなダンスを見せられたらさ。あの腰つきとか堪んないとか、男なら感じちゃうだろ。

 まぁそんな正直なことはスーラに言えないけど。


 それに、料理もそこまで期待外れではなかった。確かに肉類はないけど、海藻や、見たことのない芋や豆っぽい野菜など、丁寧に料理してあった。特にコンニャクみたいな食材があって、それがからし酢味噌と合う。おつまみとしては最高だ。

 後でレシピを教えてもらおう。そして、出来れば食材を分けて欲しい。


《シオンちゃん。キャバクラに行かないって約束したのに……》


 いやいや、スーラさん。ここはキャバクラじゃなくて竜宮城ですよ。

 たとえ綺麗なお姉さんに、ちやほやされながらお酒を飲んでても、断じてキャバクラじゃあない。だから、ルーナやラミリアには報告しないでね。


「楽しんで頂けているようで幸いです」


 そこにティアマトが現れる。着替えてきたようで、彼女は青いドレスを纏っていた。


「久しぶりに着てみたのですけれど、どうでしょうか?」


「とてもお似合いですよ」


 紺に近い少し濃い青は彼女にとても似合っていた。流石は海の女王だな。


「ふふっ、ありがとうございます」


 そう言いながら、俺の隣に座る。


「さっ、どうぞ」


 ティアマトが俺にお酌をしてくれる。

 さっきまでは若い女性のキャバクラ感万歳だったのに、ティアマトがいるだけで、一気に高級クラブにいるような雰囲気になる。

 ティアマトは高級クラブのママさんみたいで、なんかドキドキする。


「じゃあティアマトも……」


 お返しとばかりにティアマトに酌をする。

 二人でグラスを合わせ、乾杯をする。


「ふふっ、こんな風なもてなしは、随分と久しぶりですから、緊張してしまいますわね」


「その割には随分と慣れてそうだけど?」


「ふふっどうでしょうか?」


 随分と余裕そうな切り替えし。うん、全然緊張なんかしてなさそう。


「実はティアマトとは、ゆっくり話をしたいと思ってたんだ」


「あら、もしかして、口説かれてしまうのかしら?」


「ははっ、ティアマトは魅力的な女性だけど、もし口説いちゃったら、多分ゼロに殺されちゃうなぁ」


「愛のためには障害はつきものですよ」


「言うねぇ。まぁ口説くのは機会があったらってことで」


「それで……聞きたいことはロストカラーズのことですか?」


 ティアマトが一気に真顔になる。


「それと天使のこともかな。知っていることを教えてくれると嬉しいかも。あと浦島太郎」


 一体どうしてロストカラーズは死の大地になったのか。天使は何でロストカラーズに拘るのか。そして、ロストカラーズを復興させて良いものなのか。ティアマトがどの程度知っているかは分からないけど、何かのヒントになると助かるな。

 最後の浦島太郎はついでだ。やはり身近な昔話の裏話って気になるよね。


「はっ? 浦島太郎?」


 ティアマトがキョトンとした顔を浮かべる。


「あれっ? 竜宮城に来たことがあるってトオルから聞いたけど……知らない?」


 あっ、聞いたのはテティスからだっけ? もしかしてティアマトは知らない?


「いえ、浦島様なら確かに来たことがありますが……ここでその名前を聞くとは思いませんでしたから」


「まぁ俺のいた日本では御伽噺で超有名だからな。気になるじゃん」


「日本では何と伝えられているんですか?」


「そうだな……浦島太郎が、子供に苛められている亀を助けたら、お礼に竜宮城へ連れて行ってもらえた。んで、そこで乙姫っていう美しい姫から歓待を受ける。しばらくの間、歓待を受けた後、浦島は地上に戻ることにした。その時に乙姫は絶対に開けてはならない玉手箱をお土産に渡して、浦島を地上に返す。浦島が地上に帰ったら、そこは浦島が時代よりも何百年も経っていた。その事実に絶望した浦島は、玉手箱を開けてしまうんだ。浦島が玉手箱を開けると、煙が飛び出て浦島はおじいさんになってしまう。簡単にだが、そんな話だ」


「……何と言いますか、随分と面白い伝わり方をしたのですね」


「ってことは、事実とは違うんだ」


「ええ、まず最初の亀を助けると言うのが……逆に亀――じいがゲートに飲まれ、溺れていた浦島を助けたのです」


 ここに来た時点で、ゲートに巻き込まれたのは分かっていたけど……そうか。浦島は溺れていたのか。


「乙姫と言うのは、テティスのことでしょう。妾はあまり相手にしませんでしたから」


「何で乙姫って呼ばれたんだろうな?」


「さぁ。妾には分かりません。何せ、乙姫という言葉自体知りませんでしたから」


 まぁ姫だけが伝わったってことかな?


「あと、歓待と申されましたが、特に歓迎した覚えはありません」


「そうなのか……さっき、遠慮するのは日本人の悪い癖って言ってたけど、浦島も遠慮気味だったのか?」


「……まぁあまり主張する方ではありませんでした。というよりも怯えている感じでしたね」


 まぁ浦島から見れば、物の怪の類だと思われても仕方がないもんな。


「それでも数日もすれば落ち着いたのか……逆に調子づき始めました。挙句の果てにはウチの子に手を出そうとする始末」


 おいおい。何してるんだよ浦島は。


「ですので、牢に閉じ込めて、新たにゲートが開いたタイミングで、ゲートに放り込みました」


 ……本当は残念な浦島太郎を聞いた気分だ。やっぱり聞かなきゃ良かったかもしれない。でも……地上に戻った浦島が、何百年も経ってたって話は、別のゲートを抜けたことで違う時間軸に飛んだんだろう。


「じゃあ玉手箱は? 開けたらじいさんになったって言い伝えられてるけど、そもそも玉手箱って、英霊を封じてるんだよね? 渡してないの?」


「それに関しては……そうですね。天使が入っている玉手箱とは別の玉手箱を渡しました。その中身は……ロストカラーズに関係があるので、先に天使とロストカラーズの話をしましょうか」


 えっ? ここでロストカラーズに繋がるの? 予想外過ぎるけど……まぁ本命はロストカラーズの話だし、このまま話を聞いていこうかな。

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