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ロストカラーズ  作者: あすか
幕間
360/468

日常編 ハンナと温泉

「シオンお兄ちゃん。もうひとつだけお願いを言っていい?」


 観覧車の中。ハンナの告白が終わったあと、気を取り直したハンナが改まって言った。


「おお、何でも言っていいぞ」


「あのね。温泉に入りたいの」


「温泉? ああ、もちろん言いとも。バーベキューが終わったら、温泉に入ってくるといい」


 ハンナは以前にも温泉に入っている。気に入ってたのかな?


「そうだ! ラミリア、せっかくだから、お前もハンナと入ったらどうだ?」


「そうですね。ハンナ。一緒に温泉に入りましょうか」


 ラミリアも即答する。ラミリアもハンナと温泉に入るのは賛成なんだな。


「うん! じゃなくて……シオンお兄ちゃんと三人で入りたいの!」


「「はっ? えええ!!」」


 いやいや、一緒に温泉って! 流石にマズいだろ。しかも、ハンナだけでなく、ラミリアも……下手したら俺は殺されるかもしれん。


「ハ、ハンナ。流石にハンナのお願いでも、一緒に温泉は……」


「駄目?」


 ハンナが悲しそうに答える。……いや、流石にそんな顔しても、無理なものは無理だ。


「私ね。いつもありがとうって、シオンお兄ちゃんのお背中を流したかったな……」


 ハンナに労われながら背中を流してもらう。……全国のお父さんの夢がそこにあった。だがしかし……。


「み、水着着用なら……」


 激しい葛藤の末、なんとか妥協点を導き出す。これならバレたとしても、死ぬことはないかも知れない。


「ちょっ!? シオンさん!!」


 ラミリアに怒鳴られる。まぁラミリアからしたら、絶対に嫌だろうが……。しかし、背中を流してもらう……このイベントは外せない。


「ラミリアお姉ちゃん。……駄目?」


「うっ……その……」


 ハンナに見つめられて、流石のラミリアも怯む。


「み、水着着用なら……」


 激しい葛藤の末、俺と同じ答えを導き出す。


「やったー!! ラミリアお姉ちゃんのお背中も流してあげるね」


「……ありがとうハンナ」


 流石のラミリアもハンナには敵わなかったか。


(シオンさん。これ、どうするんです?)

(どうするもなにも……入るしかないだろ)

(……寂しがり屋のウサギさんが死んでも、知りませんからね)


 寂しがり屋のウサギって……まぁ確かにさっきはウサギの着ぐるみ着てたけどさ。というか、死ぬのはウサギさんじゃなくて、俺の気がする。


(ルーナには……まぁなんか考えとくよ)


 殺されないように、何かしら対策を立てる必要があるから。


 このあと俺は観覧車の恐怖も忘れ、バーベキュー中も、ずっと上の空で、味を堪能することも出来なかった。



 ――――


 バーベキューも終わり、ハンナを残して、子供達は帰っていった。

 交流会は大成功のようで、人間も魔族も全員が仲良くなれたようだ。こういう行事は定期的に続けた方が良いかもな。


 ただ、俺とラミリアはそれどころではない。今から三人で温泉に入らないといけないのだ。


 しかも、ただでさえヤバいのに、説得相手のルーナにはさっきウサギの着ぐるみで放置という、非道いことをした。

 今現在はハンナがいるから怒らないだけで、ハンナがいなくなった瞬間に、正座コースだろう。

 というか、未だにウサギの着ぐるみを着ているのが、逆に不気味すぎる。……何でまだ着ているんだよ。


 そんなルーナを説得する? いや、無理だ。入る前に殺されてしまう。かと言って、黙って入っても後が怖い。上手くバレずに……いや、温泉に入るんだから、バレない訳がない。

 怒られること自体はもう諦めたから、せめて温泉までは邪魔されないようにしなくては。

 ただ、それにもメイドの協力がなければ、無理だ。誰にも邪魔せされず三人で温泉貸し切りは不可能だ。だれか協力してくれそうな……。


「ティティ。ちょっと」


 俺はティティを手招きして呼んでみる。ティティは遊園地の総合案内所にいたから、見送りで丁度ここにいた。


「はにゃ? 何ですか? シオン様」


 トテトテとティティが近づく。実にあざとい歩き方だ。


「ティティに相談したいことがあるんだが……誰にも聞かれたくないんだ」


 俺は誰にも聞こえないように小声で話す。


「……楽しいこと?」


「……怒られること」


「ってことは、私は楽しめることだね。分かった。任せて」


 非常に不愉快な動機ではあるが、ティティが協力してくれそうだ。


「じゃあシオン様。今日の報告でちょっと気になることがあるから、通信室まで来てください」


 うまい具合にティティが話を振ってくれた。


「ってことで、ちょっと行ってくる。すぐ戻ると思うから、ラミリア。ハンナのことは任せたぞ」


「ではハンナは片付けの邪魔にならないように、私の部屋に連れて行きます。用事が終わったら、連絡下さい」


 流石ラミリアだ。自然な流れに持って行った。


「シオン様……ティティの前にお話……」

「さぁティティ! 急いで話を終わらせようか!」

「ちょっ!? シオン様!!」


 ここでルーナに捕まる訳にはいかない。

 俺はルーナの言葉を遮り、急いで通信室に向かうことにした。



 ――――


「シオン様。ルーナ様を無視してよかったの?」


「なぁに。すでに怒られることをしているんだ。それに、この後もっと怒られることをするし、もう一つくらい怒られることをしても変わらないさ」


 俺とティティは通信室には行かず、尋問室に来ていた。流石のルーナもこんな所にいるとは気づきまい。


「……シオン様。その開き直りはどうかと思うよ」


「いいんだよ。それよりも相談なんだが……」


 居場所が特定されてしまう前に、決行してしまわないとマズい。俺はさっさと本題に入った。


「今から俺とハンナとラミリアの三人で温泉に入るから、その間、誰も邪魔が入らないようにしてくれ」


「……シオン様。私、シオン様に自殺願望があったなんて知らなかったよ」


「ああ、俺も知らなかった。だが、やるしかないんだ」


「何がそこまでシオン様を駆り立てるのさ?」


「そりゃあ、ハンナが俺の背中を流してくれるって夢を叶えるためさ」


「……シオン様ってさ。時々馬鹿だよね」


「お前、何気に失礼だな」


「でもさ、背中を流してもらうだけなら、ハンナちゃんとだけ温泉に入れば? それなら、半殺し位で済むと思うよ」


 それでも半殺しは確定なのか……。


「いや、ハンナがどうしてもラミリアも一緒が良いって……」


「まぁラミリアさんはすごくスタイルが良いらしいしね。シオンさんも見たいんでしょ? つーか、見たことあるんだっけ?」


「……ノーコメントで」


 見たって言っても、初変身の時と、ヴァスキ事件の時だけだ。どちらも、それどころじゃなかったから、よく見てない。けど、確かにラミリアのスタイルは、これ以上ないくらいに凄いのは間違いない。見たいか見たくないかで言われたら、間違いなく見たい。だって俺も男だもん。


「ねぇ、シオン様。いい加減ハッキリさせた方がいいと思うよ。ルーナ様にするのか、ラミリア様にするのか。それともスミレ様と寄りを戻すのか」


 ティティはさっきまでの軽い口調じゃなくて、少し責めるような口調になる。


「それは分かってるんだけどな」


 だから俺もちゃんと答える。


「分かってるなら、ちゃんとしようよ。それこそシオン様が望むなら、三人のハーレムだって、皆納得すると思うよ」


「いや、それはしない」


 そこはちゃんと誠実でありたい。


「そこはハッキリ言うんだ。……もしかして、もう本命決めてるの?」


「……誰にも言うなよ」


 ここには二人しかいない。スーラもハンナと一緒にいるので、誰も聞いていないのは分かっているが、俺はティティに耳打ちした。


「えっ!? 本当に?」


「ああ、だけど誰にも言うなよ。ティティしか……それこそスーラすらも知らないんだ。広まった瞬間に犯人だとバレるぞ」


「……なして私に言ったし」


「おい、訛ってるぞ」


「そりゃ、訛りたくもなるよ! いきなり、誰も知らない秘密を打ち明けられるんだよ」


「いや、お前が聞いたからだろ」


「でもさ。まさか本当に話してくれるとは……もしかして冗談とか?」


「何でだよ。ちゃんと事実だ。言っておくが、俺はメイドの中では、ルーナやエリーゼよりも、ティティを一番信用してるし、頼りにもしてるんだぞ」


「なにゆえ!?」


「だって俺はティティがいい女ってことを知ってるからな」


「……最近シオン様はことあるごとにそう言うよね? 前は否定していたくせに」


 その秘密は誰にも言わずに墓まで持って行くとキャメリアと誓った。だからティティ本人にも言えない。


「ようやくティティがいい女って気がついたんだよ。俺はティティみたいにいい女、他には知らないぞ」


「……最近、シオン様が私に言ういい女って、馬鹿にしているように聞こえるんですけど」


「何でだよ! めっちゃ尊敬してるつーの!」


 あと、若干の負い目もあるけどね。


「……まぁ私のことはいいとして、仮に本当だとして、決めてるんなら、さっさとくっついちゃえば良いじゃん。だらだらとしてても、誰も幸せにならないよ」


 仮じゃなくて本当なんだが……。


「実は、本当なら青の国に旅行に行った後に、話そうと思ってたんだ。男だけで行くから、旅行先でプレゼントも買えるだろうと思ってな。だけど、こんなことになっちゃっただろ? だから、天使の件が全部片付いてからにしようと思ってな」


「別に気にしなくてもいいんじゃない?」


「そうは思うけど、やっぱり気持ち的には落ち着いてからの方がいいと思ってな」


 それに……ないとは思うが、やはり万が一のことも考えないといけない。


「んで、本命は決めてるのに、今回はコソコソと温泉に入るんだ」


「それとこれとは話が違うからな」


「……なんか、ハンナちゃんが一番の本命に聞こえちゃうよ」


 実はさっき振ってきたってことは、流石に言えないよな。


「まぁいいや。じゃあ三人で温泉に行ってくるといいよ。キャメちゃんに協力してもらうから、キャメちゃんには話すけど、邪魔は入らないようにするから安心して」


「本当か!」


「うん。その代わり、温泉が終わったら、ルーナ様には報告するね」


「ああ、ハンナが帰ったら、甘んじてお叱りを受けよう」


「……そこで男らしさを発揮されても困るけど……まぁいいや。とりあえず、場所は男湯でいいよね? あそこなら、普段はシオン様くらいしか利用しないし、万が一誰か入ろうとしても、準備中にしておけるからね」


「助かる」


「後は、ラミリア様を見て、理性を失わないように。もし理性を失ったら、変態の称号を与えるからね。それから、もしハンナちゃんで理性を失ったら、シオン様はこれからはロリコンの称号を与えるからね」


「……善処する」


 どちらも絶対に受けたくない称号だな。しかし……理性を保てる保証はない。


「あと、水着もこっちで準備しておくから。脱衣所に置いてあるのを使うように言っとくね」


「そっか。水着の準備か必要だったな」


 本来、温泉で水着は御法度だが、今回ばかりは致し方ない。俺も自分の分を用意しないと。


「よし! じゃあ行ってこい!」


 おお、何かティティがものすごく頼もしい。やっぱりティティに助けを頼んで正解だったな。



 ――――


「ヤバい。緊張してきた」


 先に男湯で待つこと数分。脱衣所に二人の話し声が聞こえてきた。

 なんていうか……気分はもう思春期の学生だ。混浴ごときで、何でこんなにドキドキしてるんだ? いや、混浴自体今まで経験したことがないから、緊張してもおかしくないか。


 っと、下手に興奮してしまうとヤバい。今のうちに、平常心を保てるような魔法を唱えとこう。……うん、これで一応問題ないはずだ。


「わぁ! こっちの温泉もおっきいね」


 ガラガラと扉が開く音と共にハンナの声が聞こえてきた。……振り向いてもいいのかな?


「あっ、シオンお兄ちゃんだ。先に入ってたんだね」


「あ、ああ」


 俺は勇気を出して、ハンナの方を見る。

 ハンナの水着はスポーツビキニだった。これなら下手に動いても見えることがないし、なにより活発的なハンナにはお似合いだ。


「ハンナ。似合ってるぞ」


「えへへ。ありがとうシオンお兄ちゃん」


 ハンナは少し照れた笑いを浮かべる。


「……あれっ? ラミリアは?」


「ラミリアお姉ちゃんもすぐ来ると思うけど……あのね! ラミリアお姉ちゃん、すっごいの!」


「すごい? 何が?」


「おっぱいが! こーんなにおっきくてね……」

「ちょっ!? ハンナ! それ以上は……」


 ハンナの言葉に慌てて出てくるラミリア……って!?


「ラミリア……お前、なんちゅう格好をしてるんだ?」


「シオンさんがそれを言うんですか!! これしか準備されてなかったんですよ!」


 ラミリアは非常に布地の少ないマイクロビキニを着ていた。ラミリアが着ることで、とんでもないことになっている。というか、色々と隠れてない。ほぼ裸だ。いや、裸よりもエロいぞ。

 ティティのやつ……一体何を考えているんだ?


「ねっ? ラミリアお姉ちゃんのおっぱいすごいでしょ!」


「あ、ああ」


 いや、胸だけじゃなく、全てが凄い。凄いと言う表現では済まされないくらいだ。


「ちょっと! そんなに凝視しないでくれます?」


「す、すまん」


 俺は慌てて視線をそらす。が、これは……見るなと言われても、本能が勝手に見てしまう。ティティめ。これで理性を失うなとか、どの口が言ったんだ?


 もう見られて諦めたのか、ラミリアは仕方なくそのままかけ湯を始める。


「ハンナ、こっちに来なさい。まずはしっかりとかけ湯をして、それから湯船に入るのです」


「はーい!」


 ラミリアとハンナは仲良くかけ湯をして俺から少し離れた場所に入浴する。うん、俺の精神のためにも、それくらいの距離がちょうどいい。


「あーあ。ハンナもラミリアお姉ちゃんみたいに、おっぱいが大きくなりたいなぁ」


 俺とラミリアの気持ちなんてこれっぽっちも考えていないように、ハンナが呑気に言う。というか、ハンナがおっぱいと言う度に、ラミリアの胸に視線がいってしまう。……浮いてる。いやいや、いかん。俺は慌てて視線を外す。


「ハンナもこれからですよ。背も伸びてきてますからね。ちゃんと成長してますよ」


「本当? ラミリアお姉ちゃんみたいになれるかな?」


「それは……」


 ラミリアは答えに窮する。

 ……すまん。俺も、流石にあそこまでは無理だと思う。


 しかし……楽しいと思ってた温泉は、思いの外居心地が悪い。というか、どうしていいか全く分からない。こうなったら、早く上がるしかないな。


 ハンナに背中を流してもらうのは、まさに至福の瞬間ではあったのだが、全然落ち着けなかったので、俺はのぼせた振りしてさっさと脱出した。

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