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ロストカラーズ  作者: あすか
第二章 魔王城防衛
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第28話 報告会をしよう

 シクトリーナ城四階会議室。


 俺達は何故か正座をさせられていた。いや。何故かではない。理由は明白だった。そして目の前には仁王立ちで立っている姉さんがいる。


「それで、何か言うことは?」


「「いえ、すいませんでした」」


 言い分けもなく俺とトオルは揃って土下座をした。


「サクラ様、その辺でもうお許しになっては……」


 ルーナが姉さんを宥めようとするが、姉さんはキッとルーナを睨む。


「あのね、この件ではルーナも同罪なんだからね」


 ルーナが一人だけ土下座じゃないのは、俺達に巻き込まれたと判断されたからだろう。


「はい……申し訳がございません」


 シュンとして引き下がるルーナ。いつもの強気はどうした! もっと頑張れよ!


「そうですよールーナ様。私達が苦労して苦労してようやく一仕事終えてきたってのに、暢気に遊んでるなんて非道いですよ」


 いつもと違いシャルティエがルーナに対して強気だ。でも今回はルーナの方が非があるので言葉遣いが悪くてもルーナが問いただせない。尚、シャルティエの手にはカードが握られている。


「う~んと、これ!」


 ヒカリがカードを一枚取る。


「あっそれは!」


 シャルティエが慌てる。


「えへへ、あーがり! シャルティエちゃんの負けだね」


「ぐぬぬ……もう一度です」


 そう、姉さん達を待っていた間、俺達はトランプで遊んでいたのだ。

 トオルと熱く語った後で俺はキャンピングカーへ行き、トランプを持って帰ってきた。


 定番のババ抜きや七並べをルーナに教えながら遊んでいた。想像以上に白熱して戻ってきた姉さん達にも気がつかないほどに……。


 疲れて帰ってきた状態でそれを目撃した姉さんのキレっぷりといったらもう……。

 トランプはその場で没収され、ヒカリとシャルティエが遊んでいるという訳だ。


「それで! 私達が必死で働いて! ゲンさんも一生懸命手伝ってくれて! ようやく一息ついて報告に来たら暢気にトランプで遊んでいるですってぇ!? しかもこちらに気がつかない! 一体どういうことかしら!」


 ヤバい、これは過去最高に怒ってるぞ。


「いや、おれた……いえ、私達もですね。ちゃんと交渉はしてきてですね。それで……ちょっと息抜きといいますか、昔を思い出したと言いますか。いえ、すいませんでした」


 こうなったら仕方ない。ひたすら謝るしかない俺とトオル。


「そりゃあ初めての実戦や交渉をして、疲れただろうから息抜きしたい気持ちはわかるわよ。私だって偶には遊びたいし……でも時と場合を考えてよね!」


「全くもって仰るとおりでございます」


 ひたすら頭を下げる。


「もういいわ。怒ったって仕方がないしね。でもいいこと! 今度から遊ぶときは必ず私も呼びなさい!」


「はい! ……えっ?」


 何のことはない。色々とご託を並べても、結局は姉さんも単純に遊びたかっただけだ。

 確かに久しぶりに遊んでいるのに仲間はずれは怒るよな。


「ほら、ヒカリ達も遊んでないでそろそろ会議を始めるわよ!」


 片付けをしながら「は~い」と返事をするヒカリ。シャルティエはまだ遊び足りないようだ。


「ほら、シャルティエも。今度またお願いして遊ばせてもらいましょう」


 ルーナがそう言ってシャルティエを立ち上がらせる。


「ルーナ様、よろしいのですか?」


「ちゃんと仕事が片付いてないといけませんよ。それからちゃんとシオン様たちの許可を得ること。ですよね? サクラ様!」


 なぜルーナはそこで城主の俺でなく、姉さんに許可を求めるんだ?


「当然じゃない! 遊びは皆でやるから面白いのよ!」


 その言葉に笑顔になるシャルティエ。普段遊びとは無縁だから嬉しいんだろうな。今後はもっと村人も集めて娯楽を広めるか。……仕事に影響が出ない程度で。



 ――――


 説教から始まった会議だったが話した内容は濃かった。


 まず、シャルティエの報告から。

 どうやらシャルティエは死体の処理班の方に回されていたようだ。俺が戻ってきても来ないと思っていたスーラはシャルティエについて行ったようだ。先ほど戻ってきて今は定位置の肩にいる。


 ちなみにスーラにも《私抜きで遊んで……知らないもん!》と拗ねられた。


 シャルティエもスーラの言葉が分かるから、意思疎通は簡単にできる。

 因みにメイドの中では料理隊を含む十人以上のシルキーが飴を舐めている。シルキー以外では村のノームやグレムリンなど必要そうな人物には渡している。その為、俺達の方の飴はほとんど残ってないが、姉さん達が持ってきた分がまだ残ってるから大丈夫だろう。


 シャルティエの報告は死体からは鎧と剣を回収、魔道具は持っておらず、後はわずかな食料のみであったとのこと。

 食料も保存食で今の俺達の食糧事情では必要ないとのことだったため、死体と一緒に処理したとのこと。


「持ち帰った鎧や剣はも大したものではありませんでしたから、溶かして素材にした方が宜しいかと思われます」


「ありがとう、シャルティエ。うーん、まぁ偵察隊じゃあまり良い物は持ってないか」


 それに魔力検査カードがすでに十分な戦果だと思う。



 ――――


「では次はわたくしとトオル様からですね」


 ルーナは隊長(ランディー)の話をメイドからの報告で受け取っていた。トオルはもう一人の捕虜の話だ。


 基本的には二人ともほとんど同じ話だった。隊長だった分、ルーナの情報の方が多かったくらいか?

 その分トオルの方は赤の国の首都の町並みや情勢を詳しく聞いていたようだ。


 二人の話を纏めると、そもそも今回偵察に来たのは魔王が本当に死んでいるのか確認するためだったようだ。


 どこから死亡説が流れたかというと、冬の間に魔族が一人赤の国に捕まったのが始まりだ。

 その魔族はスプリガンという元妖精系の魔族だ。

 そのスプリガンは以前この城で兵士をしており、シエラの死後ここを逃げ出した。その後、しばらくフリーの傭兵をしていたが、ある日正体がバレて他の魔王に捕まってしまう。その後、拷問を受けて情報を全部吐いた後、赤の国に捨てられたという。

 死にかけの所を赤の国の兵士に見つかり、また同じような拷問を受けてこの城の情報が抜き取られた。

 そのスプリガンは拷問後、見世物にされる予定だったが、拷問の途中で死んでしまったらしく、死体は剥製にされ城に飾っている……まったく反吐が出そうな話だ。


 赤の国は本当に魔王が死んだのか? 罠じゃないかと勘ぐりながらも、この土地を手に入れるチャンスと思い偵察隊を送ったようだ。


「これってさっき言ってたヘンリーって魔王の策略だよな?」


「間違いなくそうでしょう」


「この後どう出ると思う?」


 俺はルーナに尋ねる。


「まず、赤の国は捨て置きましょう。魔王様の生存も分からず、偵察隊はほぼ全滅。結局戦力は落ちていないことが分かったのですから。当分は何もして来ないはずです」


 赤の国に関しては同意だ。そうでなければあの二人を帰す意味がない。


「そしてヘンリー卿は恐らく何かアプローチをしてくるかと思われます」


 ヴァンパイアの魔王、ヘンリーか。一番新しい魔王らしいがどうなんだろう。


「そういえばあの使い魔はどうなったんだ? 一応倒しておいた方がいいかと思って【毒の雨】(ベノムシャワー)を使った時にあいつも範囲に入れておいたんだが?」


 結局確認し忘れたことを思い出す。


「ええ、兵士の死体と一緒に死んでおりました」


 どうやらシャルティエが死体を見つけたようだ。


「ならそのヘンリーってのには、何も情報が行ってないのか?」


「いえ、使い魔自身の能力で差がありますが、基本的に使い魔の情報は使用者には筒抜けです。恐らく死ぬ直前までの情報は知っていると思われます。むしろ使い魔が殺されて怒っているかも知れませんね」


 えっじゃあ俺が殺したことがバレてるってこと? ヤバいじゃん。


「ってことは仕返しに攻めてくるかな?」


「いえ、恐らくまだ様子見でしょう。ヘンリー卿は用心深いですから、シオン様とトオル様のような知らない人物がいたら警戒するはずです。それに最も確認したいはずのわたくしの生死は分かってないはずですから」


「確かにルーナが強いのは知ってるけど……魔王も恐れるほどの人だったの?」


 さっきははぐらかされてしまったからな。


「ヘンリー卿にとって、わたくしは相性が最悪なのです。ヴァンパイアという種族は銀製品に弱いので……わたくしがいる限り城へは攻めにくいのではないでしょうか?」


 やっぱりヴァンパイアは銀製品に弱いのか。


「なるほど、まさに天敵ってやつか。じゃあルーナが生きてるって公表したら? 怖がって攻めてこなくなるんじゃないの?」


「その場合ですと、ヘンリー卿以外に、魔王様が死んだとバレる可能性がございます。ヘンリー卿以外の魔王はシエラ様がいないと分かるとわたくしの有無に関わらず攻めてくるでしょう」


 一応まだ魔王の生死がバレると困るのか。


「なんでルーナが生きてると教えることが、シエラが死んだことになるんだ?」


「まず、わたくしは普段この城から外に出ることがありません。それなのにいきなり外を出歩くと、間違いなく怪しまれます。それに、そろそろシエラ様の気配が無くなったことを他の魔王も気がつく頃です。何せこの半年何の活動もしておりませんから。そこで、メイド長であるわたくしが表舞台に現れると間違いなく魔王様は死んだと思われるでしょうね」


「えっ? この半年活動しなかったって……確かにそうだけど、今まで何か活動してきたの?」


 この城で何か活動してた話は聞いたことがないけど?


「主な活動は兵士達により森の魔物の駆除やなどですね。この半年、城の外への出入りは全くないですし、食料の買い出しや他の村や町との交流も全くしておりません。廃墟になったと思われても仕方がないかもしれません」


「村や町の買い出しって?」


「今までは季節ごとに一回、兵士達が馬車を率いて魔族の村や町に食料を買い出しに行っておりました。ですが、秋と冬。ここ二回は買い出しに行っておりません。特に冬の前に買い出しに行かなかったのは怪しすぎます。以前話しましたが、ここは結界であまり季節は関係ありませんが、それでも冬支度をしない訳ではございません。今は皆様のお陰で完全な自給自足が出来ておりますから買い出しの必要ありませんでした。ですので失念してましたが……偽装くらいは行っておくべきでした」


 まぁその偽装するために送り出す兵士がいないんだけどな。

 ……と、考えたらそうだよな。いくら何でも誰もこの城から出てこないのはおかしすぎるか。人間の国ばかりに気が行ってたけど魔族側にも気を配るべきだったな。


「話を続けます。他の魔王に攻め込まれると確実に負けます。他の魔王はヘンリー卿とはレベルが違います。唯一、今の戦力で勝てるかも知れないのがヘンリー卿です。周囲にシエラ様が死んだことは悟られずに、この城の中にいる状態で、普段通りにしつつ、わたくしが生きていることを知らせるにはヘンリー卿が何かしらの仕掛けをしてこないと無理でしょう」


「結局は待つしかないってことか。ところでルーナから見てヘンリーの魔力はどのくらいか想像つく?」


 せっかく魔力検査カードで自分の魔力が分かったんだ。敵の戦力がどの程度か分かるなら知っておきたい。


「おおよそですが、十万位でしょうか?」


 ルーナの半分程度か。俺よりは大分強いがそれでも肩透かしにあった気分だ。


「あくまでも魔力の数値だけでござざいます。戦闘になりましたら他にも力や体力なども必要ですし、何よりヴァンパイアは基本不死ですし、種族特有の能力もございます。それに怪我などもすぐに回復してしまいます」


 俺が侮ったのが伝わったのだろう。ルーナが釘を刺す。


「魔力の大きさが戦闘力って訳ではないってことか」


 そうだよな総魔力=最大MPだし。最大MPだけで戦闘力が分かるわけがない。


「そういうことです。例えばさっきの測定ですと、シオン様よりトオル様の方が魔力は多かったですよね。しかし実際に戦うとシオン様の方が強いでしょう」


 それはちょっと嬉しい評価だな。魔力で負けてるのを見たからちょっと凹んでたんだ。


「では話を戻します。ヘンリー卿は本人は恐らくまだ攻めては来ないでしょうが、近いうちに何かしらアプローチはあると思います」


「ねぇ、また話の腰を折るけどさ、そもそも何で皆この城を占領しようと企んでるの? 単純に領地を増やしたいだけ?」


 ヘンリーは日頃からシエラを目の敵にしていたし、宿敵のルーナもいるから分からなくもないが、シエラが死んだから他の魔王が攻めてくる。その理由が分からない。


「理由は三つございます。まずはシオン様が仰られた領地の増加でございます。ここの土地は立地が魔族領と人族領の境目にございます。ですので他の土地に攻めいるのに足掛かりになる丁度いい場所と言えるでしょう」


 前に地図を見たときに思ったが、森に囲まれてはいたが、場所自体は大陸の東部分で人間の領地と魔族の領地の境界線だ。人間側も魔族側もここを拠点にで切れた攻める足がかりになるだろう。


「次にシエラ様の魔法が特別だったことがあげられます。転移魔法。この世界で転移魔法が使えるのはシエラ様しかいませんでした。……今はトオル様がいらっしゃいますが。そして、その魔法を利用して造られた城。転移の罠がある城なんてこの城くらいです。魔王様お手製の転移系の魔道具もありますし、周りからはまさに宝の城と言った所でしょうか」


 普段から普通に使っていたけど、まさか世界でもここしか使えないシステムだったとは……シエラが残した魔法結晶が一つでも手に入ればまさに値千金だろう。


「最後に人ですね。村の場所や存在は噂レベルでしか広がってませんが、魔王様が女性だけを救っている。城の中は女性しかいない。そう思っている男性はこの城をどう思うでしょう?」


 最後の理由は女か。ある意味分かりやすいな。

 魔族でも容姿は人間とほぼ変わらない。しかもリャナンシーやローレライ、ニンフにシルキー。美人ぞろいだ。人間側も魔族側も手に入れたいのだろう。


「そんなやつらに負けたくはないな。と、話の腰を折ってすまない。進めてくれ」


「進めると申されましても、ヘンリー卿のアプローチが近くにあると思うので何が起きても慌てないように、力も蓄えましょう。くらいでしょうか?」


 話が終わってしまった。色々と横道にそれたので中途半端な気分だ。



 ――――


「なんか、いきなり終わったみたいな感じだけど…まあ、いいわ。次は私達ね!」


 姉さんが立ち上がって報告し始めた。もちろんゲンさんについてだ。


 ゲンさんのコピーは無事に成功した。コピーから魔法の発動、魔玉の補充も成功したとのこと。

 ただし、ゲンのコピーのストックが残り三人空いてないため、他に優先度が高いコピーがきたら交換すると話があった。


「それは流石に仕方ないだろう。ゲンさんの都合もあるんだから。まぁその時は出来るだけ多目に魔法結晶を補充してもらおう」


 白の魔法結晶が手に入ったら優先的に補充してもらおう。


「ま、とりあえずしばらくゲンさんには頑張ってもらいましょ」


「私からの報告は以上なんだけど……シオンにちょっと考えてほしいことがあるの」


「考えてほしいこと?」


 姉さんが勿体ぶった言い方をするときは大事な話をするときだ。


「今後の方向性よ。今は魔王への対策でいっぱいでしょうけど、その後のことを今のうちに決めたいと思う」


「その後って…前にも話したけど戦力の増強じゃないの?」


「だから具体的にどうするかよ。半年前とは状況が変わったわ。貴方達は今後も二人だけで戦っていくの? 私も入れて三人よ? どう考えても無理でしょ。傭兵を雇う? それも今の環境じゃ現実的じゃないわよね。村のことにしてもそう、今の農業の発達は著しいわ。来年には収穫量も大幅に上がるでしょう。だけど人数的にこれ以上の発展は無理だわ。今回のカードの研究にしてもそう、魔法関係はルーナに任せきりじゃない。ルーナも専門家じゃないし……それに魔道具などに関しても専門家を用意するべきだと思う。要するに、人員が足らないから今後どうするってことよ」


 姉さんが言いたいことは人口を増やすかどうか? ってことだろう。フィーアス村がある島には使われていない土地はいくらでもあるしこの城の兵士宿舎も空っぽだ。


 だが、フィーアス村に人口を増やすことは厳しいだろう。しばらく村で交流してみて分かったが、あそこは良くも悪くも閉鎖的だ。一人二人ならともかく一気に増やすことは環境的に無理だろう。


 それにもし入れるとしても女性しか駄目だろう。男性を入れたら問題しか起こらなそうだ。


 半年前は強くなることだけを考えてたし、村は収穫が出来るか確認からだった。だけど今は俺達は魔王にはまだ勝てないまでもそれなりに強くなったし、村もヒカリやノームのおかげで半年である程度は収穫できるようになっていた。

 しかし魔王と戦うことになったら戦力は増やさないといけないし、村だって農業だけじゃなく産業も始めたい。信頼できる新しい仲間が欲しい……が、現状では厳しいな。


「ルーナ、姉さん。村に新しく人を住まわせることって可能か? ……俺は正直厳しいと思うんだけど?」


「無理ね。一人や二人ならともかく、村を拡大しようとするってことでしょ? 他所から来た人とあの村人たちが馴染めるわけがないわ。そもそも誰を入れるつもり? 人間? 魔族? 男性? 女性?」


 姉さんは俺の考えとほとんど同意見のようだ。ってかそうだ性別の前に種族の問題もあったな。人間と魔族は相容れない。


「わたくしもサクラ様と同意見です。それから人員に関しても、村を公にできませんから新規の村人募集をかけることが出来ません。兵士に関しても大量募集をすればシエラ様の不在を感づかれてしまいます」


 そうだよな。大っぴらに募集をかけることができず、かつ早急に人員が必要……か。


「募集は出来ないけど人口は増やさないといけない。けど、村には住めない。難しいな」


「シオン様はどのようにお考えですか?」


「まずは信頼できる人を少人数ずつ勧誘しよう。まぁそれは魔族だろうが人間だろうが男性女性関係ない。俺達が信頼できるのが重要だ。それから各分野の職人が欲しいな。農業だけじゃなく産業も始めたい。村に住むのが厳しいなら城でも兵士宿舎でもいいし、新たな村を作ってもいい。まぁフィーアスに作るのが無理なら別の……それこそツヴァイスを侵入者の罠じゃなくて新しい村にでもすればいいんじゃね? それで村同士で交流していって少しずつ両村の壁を取り除いていけばいい。どうかな?」


 ツヴァイスなら元は平原や草原だから村も作れるし、それになによりかなり大きめの島だ。


「ツヴァイスを開墾するのは構いません。まぁ人数が揃ってからの話でしょうし、先に魔物も排除する必要がありますが。まぁ人口が増えて魔素が溜まりにくくなれば魔物も減るでしょう。今度メイド警備隊に命じてツヴァイスの魔素溜まりを見つけておきます」


 思いつきでツヴァイスの村計画を話したけど、ルーナの話を聞く限り意外と悪くないかもと思い始めた。


「じゃあ、シオンは種族に関係なく、仲間になってくれそうな人達を集めて新しい村を作るってことで良いわね?」


 もちろん俺に異論はない。


「シオンくん、ソータくんから貰ったメモに何かあれば力になりそうな人のリストがなかったっけ? その人達を頼れないかな?」


 トオルからナイスなアイデアがもたらされた。確かにソータが頼りにしていた人なら性格的にも実力的にも問題はないはずだ。


「そうだな。まずはそこを頼ってみるか。後はエルフの村にも行かないとな。スミレに会わないといけないし」


「そうだよ! スミレちゃん! 元気かなぁ?」


 ヒカリは親友だったからな。心配だろう。


「あの……スミレ様と仰る方は?」


 事情を知らないルーナとシャルティエは疑問顔だ。


「あれ? 説明してなかったっけ? スミレは俺達の大事な仲間だ。今はエルフの村で長をしてるらしい。確かこっちではスミレじゃなくてツクモって名前だけど」


 そういえばこの半年間自分たちでいっぱいいっぱいで、スミレの事を話した記憶はなかった。


「エルフの長のツクモと言いますと…あの【迷宮天使】のツクモですか!?」


 俺の説明に予想外の食いつきをみせるルーナ。


「迷宮天使? なんだそれ?」


「少し前……十年程前でしょうか? エルフの国に攻め入った者が付けた名です。当時は長ではなかったと聞きましたが、攻めてきた敵を一人で全滅させた姿はまるで天使のようだったと伺いました。その後はおそらく魔法でしょうがエルフの村に入れない、必ず森で迷ってしまう結界が張られたようです。それ以降森は迷いの森と呼ばれるようになりました。そのことから今のエルフの長、ツクモは【迷宮天使】と呼ばれるようになりました」



 迷宮天使……黒歴史確定の二つ名だな。あのスミレのことだ。この名前を付けられた時きっと悶絶してただろうな。恥ずかしすぎる。

 姉さんとヒカリは笑いを堪えているが今にも吹き出しそうだ。


「迷宮天使」


 トオルがボソッと呟いた。


 瞬間、吹き出し、二人の大爆笑が響く。


「ぶはっ!! ち、ちょっとトオル止めてよね。せっかく我慢してたのに……。でもあの子が迷宮天使。あはははっ! ……駄目だわ想像がつかないわ」


 流石に爆笑しすぎだろ。でも気持ちは分かる。


「えっ? どういうことですか? 一体?」


 ルーナは何故皆が大爆笑しているのか解らず困惑気味だ。シャルティエに至ってはツクモという名前を知らなかったようでキョトンとしている。


「いや、ごめん。俺たちが知っているイメージとあまりにもかけ離れてて……」


「ではシオン様のお知り合いということは迷宮天使はやはり……」


「ああ、異邦人ってことになるな。俺達がこっちの世界に来たのはツクモ……俺達はスミレって呼んでるからスミレな、彼女に会うためでもあったんだ」


 そう言ってアイリスからもらった森の地図とブローチを取り出す。アイリスから貰ってから、ずっと手元に持っている。


「こいつはスミレの娘から貰ったものだ。村への地図と村に入るための鍵だ」


「迷いの森を抜けるための道具ですね。認められたものしか入れないという話でしたが、専用の鍵が必要だったのですね。それにしても、もしエルフと協力体制が出来れば有り難いですね。エルフの知識は役に立ちます」


 あくまでイメージだけどエルフってだけで、魔法とか詳しそうに感じる。


「よし、じゃあヘンリーの件が片付いたらスミレに会いにエルフの村へ旅立つか。その後は仲間探しでソータの知人を巡ろう! 出来ればいろいろ巡ってみたいな」


「シオン様この城から出られるんですか?」


 話について行けてなかったシャルティエだが、出かけるってところに反応した。

 そう言えば少し前にもヒカリが似たようなこと言ってたな。やっぱり不安になるのか?


「別に出て行くわけじゃないよ。この城に役に立つ物や人材を探しに行くだけだ」


「でも、その旅って長いんじゃ……」


「そんなに長くはないよ。それにトオルの転移魔法ですぐに戻ってこれる。それこそ昼間は旅して夜はこっちに帰ってくることとか出来るんじゃない?」


 俺はトオルの方をチラリと見る。


「多分可能だけど……それもう旅とは言わないよ。日帰り遠足って感じになっちゃうよ」


 遠足って……でも、元々現代っ子だったんだから仕方がないじゃないか。旅はしたいけど、出来るだけ楽もしたいんだよ!


「いいんじゃないか。この城も安定しているわけじゃないし、遠足で結構。あっキャンピングカーを改造するならキャンピングカーで行くか? 遠足じゃなくて、ドライブになるけど」


「あっドライブいいね! 私、この城しか知らないから楽しみだなぁ」


 ヒカリは早くも頭はドライブモードになっているようだ。貴女ちょっと前にお留守番するって言ってませんでしたっけ? まぁ何時でも帰れると聞いて気が楽になったんだろう。


「落ち着けヒカリ。どっちみち今の問題が片付いた後だ。ルーナ、奴らはいつ頃動くと思う?」


「恐らく十日は動かないかと。まずは赤の国の様子を見てから行動を起こすはずです。攻め込む気なら一ヶ月といったところでしょうか?」


「一ヶ月か……その短期間でどれだけ強くなれるかな?」


「お望みとあらばヘンリー卿よりも強くして差し上げますよ」


 それ、多分攻めてくる前に修行で死ぬやつですよね? 今ですらハードモードなのに、ルナティックモードやヘルモードは勘弁してほしい。


「けど、そうも言ってられないよなぁ。はぁ、まっとりあえずやってみるか」


 厳しいかもしれないが、皆のためにも魔王が来るまでに魔王に匹敵できるようになりたい。

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