日常編 ハンナと遊園地③
「あっ!! じょーしゅさまー!!」
「おっ、ラーワじゃないか。どうだ? 楽しんでるか?」
「うん、すっごく楽しい!」
「そうかそうか。それは良かった」
俺はラーワの頭を撫でてやる。
「わーい! じょーしゅさま、ありがとー」
「そういえば他の子達は?」
辺りを見渡しても、ラーワしか見当たらない。
「あっちでエイミーおねえちゃん達と、ご飯を食べてる。私はじょーしゅさまの匂いがしたから飛んできちゃった」
匂い……そんなに匂うのかな? いや、ラーワはスプライトだ。微かな匂いにも敏感なのだろう。
「ラーワちゃん! 突然飛び出して……って、シオンさんでしたか」
ラーワを追いかけて、エイミーがやって来る。
「うん! じょーしゅさまの匂いがしたから飛んできちゃった」
「臭い……」
エイミーがちょっと後ずさる。
「あっ、お前、今臭いと思ったな。違うからな。ラーワが特別なだけだからな」
「あっ、そうだ。ラーワちゃん。いきなり飛んでっちゃうから、皆が心配してたよ。何か嫌われるようなことしちゃったかな? って、落ち込んでる人もいたから、早く戻ってあげて」
エイミーめ。それで誤魔化したつもりか?
「えっ!? そうなの? うん! じゃあ急いで戻るね。じょーしゅさま。偶にはフィーアスにも遊びに来てね」
「ああ、分かったよ。今度遊びに行くから」
「絶対だよー!!」
ラーワは元気よく返事して、皆の所に飛んで戻った。
「エイミー。ラーワ達は皆と仲良くやってるか?」
「ええ、ラーワちゃん達は妖精みたいで可愛いですから、すぐに皆のマスコットですよ。ナンちゃんの食べる姿も可愛いって、皆から食べ物を貰って、口いっぱいに頬張ってました。ミケちゃんも毛並みがいいですから、皆に触られまくってます」
「……それって、仲がいいってより、ペット扱いされてるんじゃ……」
本当にそれでいいのか?
「ラーワちゃん達は嫌がってないですし、いいんですよ。そもそも、最初は相手がどんな人なのか分からないから、見た目で判断するしかありません。それで仲良くなったら、今度は本当のお友達になればいいんです。心配しなくても、あの子達ならすぐに本当のお友達になれますよ」
「……エイミー。お前、初めて良いこと言ったな」
確かにエイミーの言う通りだ。初めての――まして相手が魔族だと、どう接していいか分からない。ましてや、ラーワ達のように、身体的特徴がハッキリしているなら、そこを取っ掛かりにするのは仕方がない。要はそこからどうやって仲良くなっていくかだ。
「初めてって何ですか! 初めてじゃないですよ……多分。頻度的には多くないですけど……せめて偶にはって言ってください」
「……偶にでいいのかよ」
しかも自分で多分とか言って……もっと自信持てばいいのに。
「まぁ私のことはいいんですよ! それよりも……これがシオンさんの目指していた夢なんですね」
「えっ?」
いきなり何を言い出してるんだ?
「ほら、魔族も人間も……全ての種族が仲良く暮らせるようにって、言ってたじゃないですか。子供達とラーワちゃん達を見ていたら、こういうことなんだなって。このまま今の子供達が大きくなって、魔族に偏見が無くなったら、将来もっと仲良く……それこそ、フィーアスと城下町が、自由に行き来できるようになるんじゃないかと。シオンさんの夢は、今はもう私の夢でもあるんですよ」
もしかしたら、一番フィーアスのことを見てきたエイミーには、俺以上に感慨深いものがあるかもしれない。
「じゃあ私も戻りますね。早く戻らないと、ナンちゃんが食べ過ぎで飛べなくなっちゃいます」
「ああ、あまり食べ過ぎないように見張っててくれよな」
エイミーも頑張ってるんだな。俺はエイミーの後姿を見ながらそう思った。
「えへへ……シオンお兄ちゃん! 肩車して!」
「どうしたハンナ? 急に甘えん坊さんになったな」
そう言いつつも、俺はハンナを抱えて肩車する。
「なんでもなぁい!」
まぁハンナに甘えられるのは、大歓迎なんですけどね。
「ねえシオンお兄ちゃん! スーラちゃんの所にも行ってみようよ!」
「そうだな……結構時間も経ったし、行ってみるか」
スーラハウスか。嫌な予感しかしないな。
――――
「……やっぱりいたよ」
広場に造られたスーラハウス。そこに陣取っていたのは、自称親友さんのリースだった。
「姉ちゃん。それ何個目だよ!」
「リース姉! そんなにボールを集めたら、僕達が投げる分が無くなっちゃうよ!」
「お姉ちゃん! お姉ちゃんは大きいんだから、あまり跳ねると怖いよ!」
「嫌ですわ! こんな可愛らしいスーラちゃんボールを投げるなんて、集めてコレクションにするんですの。ああ……スーラちゃんの中ってこんなにも暖かくて楽しいものなのですね」
スーラハウスのトランポリンで、はしゃぎながら、一人でボールを抱え込むリース。
「もう! おい、皆で姉ちゃんに攻撃して追い出すぞ!」
「でも弾を取られてるから、攻撃手段がないよ」
「大丈夫、弾はお願いすれば沢山降ってくる。お願い! 弾頂戴!!」
「あっ本当だ! いっぱい降ってきた!」
「よし! 姉ちゃんを一斉攻撃だ!」
「「「おおー!!」」」
「ちょっ!? 一斉攻撃は卑怯ではありませんか?」
《ラクウェルちゃん。独り占めは良くないの。一旦外に出て入りなおすの》
「えっ? スーラちゃん?」
突如リースのいた場所に穴が開き、リースがすっぽりと穴に落ちる。
「そんなぁ……スーラちゃあああん!!」
穴は滑り台になっていたようで、リースはそのまま滑って……俺達の前まで降りてくる。
「……おい。お前は一体何をやってるんだ?」
「えっ? ……あっ、自称スーラちゃんの相棒さん」
「自称じゃねーよ! お前こそ、自称スーラの親友だろうが! ってか、俺はお前に子供達の見張りを頼んだはずだぞ。何で子供達の邪魔してるんだよ!」
「あっ、いえ、最初はちゃんと見張っていたのです。ですが……スーラちゃんが催し物を始めたと聞きまして、居ても経っても居られず……」
本当にこの娘は……スーラのことになると、おかしくなるな。
「あのなぁ。リースがスーラのこと大好きなのは知ってるけど、もっと他の人とも仲良くなった方がいいぞ」
せっかく友達の良さを知ったんだ。スーラだけじゃなく、他の人とも仲良くなるべきだ。
「あら、私だって、お友達は増えましたのよ」
「……そうなのか?」
それはそれで驚きなんだが……。
「その奇特な人は一体誰なんだ?」
「奇特って!? 随分失礼ですね。私の親友二人目はアイラさんです!」
「ア、アイラ?」
また、予想外のところと繋がったな。……いや、この間まで砂漠で一緒に修行していたから、仲良くなってもおかしくはないか。
しかし、あの場にはデューテや姉さん、リュートなど他の人もいたはずだ。何でアイラなんだろう?
「ええ、アイラさんとは、寝食を、そしてあの辛い修行の苦楽を共にした親友ですのよ。それに、私の話を黙って真剣に聞いてくださいましたの!」
……アイラは基本寡黙だからな。リースが勝手に話しまくってただけじゃないのか? まぁそれでも打ち解けようとしているのは良いことかな。
「……貴方には感謝してるんですよ」
少し照れたようにリースは言う。
「……どうしたんだ。いきなり」
「兄様と私を解放してくれたこと。兄様は貴方のお陰で、もうギルドの言いなりになることはなくなりました。感謝してもしきれません」
「リース……」
「それに、私はスーラちゃんと親友になれました。アイラちゃんもいますし、きっとまだまだこれからも沢山お友達が増えます」
今まで苦労ばかりしてきたんだ。リースはこれから青春を楽しむんだろうな。
「……今度、スライムの仲間が大勢いる第二の島を案内しようか?」
「本当ですか!? ……いえ、別に私はスライムとお友達になりたいわけではなく、スーラちゃんがいれば……本当に案内してくれるのですか?」
めちゃくちゃ気になってるじゃねーか!
「ああ、いいぞ」
「では、それを楽しみにしています。では、私はもう一度スーラちゃんの中へ……今度は負けませんわよ!」
リースは走ってスーラの中へと入っていった。……何と勝負してるんだろうか?
「ハンナもスーラハウスで遊んでいくか?」
「ううん。皆楽しそうだから大丈夫!」
確かに子供達はリース相手に楽しそうにスーラボールを投げ合っている。同じ目線で遊んでくれる大人がいるのは、子供達にとってもいいかもしれないな。
「ねぇ、シオンお兄ちゃん。スーラちゃんのお友達が沢山いる島があるの?」
「ああ、色んなスライムがいっぱいいるぞ。あと、もふもふなワンワンも沢山いる」
「……シオンお兄ちゃん。私もその島行きたい」
「じゃあ、今度はその島に行こうか」
「うん!」
どうせ近いうちに視察には行くんだ。その時に、リースとハンナも誘ってあげよう。
「そういえば、アイラお姉ちゃんもいるんだよね? どこにいるのかなぁ?」
リースとの会話で、アイラの名前が出てきたからな。ハンナも気になったのかな?
アイラは多分、俺達の中で、一番孤児院に顔を出しているはずだ。ハンナも俺とラミリアの次にアイラに懐いている。
「この遊園地のどこかにいると思うけど……まぁ遊びながら探してみようか?」
「うん! だから、シオンお兄ちゃん! また肩車して!」
「おっ? また肩車か?」
「高い方が探しやすいもん」
「そっか。じゃあ……」
よいしょとハンナを持ち上げる。さて、アイラを探しますかね。




