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ロストカラーズ  作者: あすか
幕間
356/468

日常編 ハンナと遊園地①

「いやー、子供達のエネルギーって凄いな」


 俺の合図と共に、全員が駆け出していく。

 そんなに走ると危険……とも思ったが、怪我してもすぐに治してやれるし、今日くらいはいいだろう。


「シオンお兄ちゃん! ラミリアお姉ちゃんも! 私達も早く行こうよ!」


 ハンナが俺とラミリアの手を取る。


「ハンナは皆と一緒じゃなくて良かったのか?」


 ハンナが皆と仲良くなりたいって言ったんだ。俺達よりも皆と交流を深めるんじゃないのか?


「きっと皆はちゃんと仲良くしてるよ。それよりも、私はシオンお兄ちゃんと、ラミリアお姉ちゃんと遊びたいの!」


 ……本当に嬉しいことを言ってくれる。


「よし! じゃあ一緒に回ろうか!」


「うん!」


 俺達三人は仲良く手を繋いで遊園地へ入った。



 ――――


「えへへ、こうやって、三人で歩くの久しぶりだね」


 ハンナは嬉しそうに、繋いだ手を大きく揺らす。


「そうですね。手を繋いで歩くのは、初めて会ったとき以来でしょうか?」


 あの時はハンナが皆のためにオモチャを買いに来たんだよな。……考えたら、あの頃からちゃんとお姉ちゃんしてたんだな。

 最初は泣きそうだったんで、慌ててスーラに頼んだっけ。飴も舐めさせて……考えたら、あの飴のせいで、ハンナの人生は大きく変わったよな。……本当に良かったのかな?


「私ね! あの時シオンお兄ちゃんに会えて本当に嬉しかったんだぁ。あれから、孤児院の皆も元気になったし、お勉強もするようになったんだよ! だから、本当にありがとう!」


 ……うん、良かったよな。


「ねぇ! またあれやってよ!」


「あれ?」


「あの持ち上げて、足がぷらーんってするの!」


 そういえばやったなー。しかし、あの時と比べると、ハンナは背も伸びて、随分と成長してしまった。……出来るかな?


「前も言ったけど、あれは本当は危ないんだ。それにハンナも大きくなったし……だから、一回だけな」


 本当は止めようって言うつもりだったが、それを察したハンナが、みるみるうちに落ち込んだから、急遽変更した。


「本当!?」


「ああ、じゃあラミリア。せーのでいくぞ!」


「本当にやるんですか? ……仕方ないですね」


「よし、じゃあ。せーの!」


「きゃはははっ! すごいすごーい!」


 俺とラミリアがせーのでハンナを持ち上げる。予想以上の重さにちょっと驚く。


「はい、おしまい」


「うん! ありがとう! シオンお兄ちゃん。ラミリアお姉ちゃん」


「いえいえ、それよりも、ハンナは随分と大きくなりましたね。ビックリしましたよ」


「だってお姉さんだもん!」


「ふふっ、お姉さんですか。では頑張らないといけませんね」


「うん!」


 ラミリアとハンナの会話は、まるで本当の親子みたいでほのぼのするな。



 ――――


「そういえば、スーラちゃんの色が変わってるね」


 そっか。ケータイを持ってないからハンナはアークスライムの事情は知らないのか。


《ムッフッフ。ハンナちゃんが成長したように、私も成長したの!》


「そうなんだぁ。私もスーラちゃんみたいにもっと成長したら色が変わるのかなぁ?」


《きっと変わるの!》


 変わるわけないだろ!! ったく、スーラは適当に言いやがって……。

 ……肌が紫色になるハンナ。うん、見たくない。というか、それは成長じゃなく病気だ。


「じゃあ前みたいに、スーラちゃんハウスがあったら、それの色も変わるのかなぁ?」


《…………そうなの!! シオンちゃん。私大切なこと忘れてたの! だからちょっと行ってくるの!》


 スーラは俺の肩から飛び降りると、ピョンピョン飛びながら、入口の方に戻っていった。


「スーラちゃんどうしたの?」


「……スーラハウスを作りに行ったんだろ」


 今の会話の流れから、そうとしか考えられない。多分、案内所でスーラハウスを作っていい場所を聞いて、そこでスーラハウスになるんだろう。


「そっかぁ。後で行ってみようね!」


「そうだな」


 変なことしてないか確認だけはしないとな。



 ――――


「ねぇ! あれなぁに?」


「あれか? あれは……なんだ?」


 ハンナが指差した方向を見て俺は固まった。


「なにって……着ぐるみが風船を配ってるだけではないのですか?」


 ラミリアの言う通り、ウサギとトラの着ぐるみが風船を配ってる。

 遊園地ではありふれた光景だ。だが……。


「あんな着ぐるみ、いたっけ?」


 というか、この遊園地に着ぐるみはいないはずだ。


「今回のために、誰か準備したのではないですか?」


「多分そうだろうけど……」


 でも、昨日聞いた限りじゃ、特に着ぐるみの話は出なかったけど?

 お祭り大好きティティが気を利かせて準備をしてくれたのかな?

 いや、ティティは総合案内所にいるはず。中に入っているのは別人だ。


「ねえ! 行ってみようよ!」


「……そうだな」


 もし危険人物だったら非常にマズい。確認の意味もあり、俺達は近づいた。


「風船ください!」


 ハンナがそう言うと、トラの方がハンナに風船を渡す。


「うわぁ! ありがとう!」


 ……特に怪しくはないかな。


 トラは残った風船をウサギに渡すと、ハンナの頭を優しくなでる。俺はその微笑ましい光景に思わずケータイを取り出し、写真を撮る。

 トラはそのままハンナを高く持ち上げる。そしてそのまま肩に乗せる。

 おいおい、流石にやりすぎじゃないか? ってか、スキンシップが過ぎるだろ! これ、もし中に入ってるのが男だったら……。


「……もしかして、エキドナおばあちゃん?」


「「はあっ!?」」


 俺とラミリアは、同時に素っ頓狂(すっとんきょう)な声をあげる。


「ハ、ハンナ。その中身、本当にエキドナなのか?」


「うーん、何となく触り方がエキドナおばあちゃんっぽかったの」


 触り方って……そんなの区別つくのか?


『流石ハンナ。妾のことをよく理解しておるの』


 着ぐるみの中からくぐもった声が聞こえる。……本当にエキドナかよ。


「エ、エキドナ様。そんな格好で何して……」


『なにって……。妾もハンナと遊びたかったんじゃ! のうハンナよ。何故ラミリアは誘って、妾は誘わぬのじゃ! 妾は寂しかったぞ』


「えへへ、エキドナおばあちゃん。ごめんなさぁい」


『うむうむ。まぁよい。こうやって、久し振りにハンナとふれ合えたのじゃ。許そうぞ』


「わーい! エキドナおばあちゃんありがとう!」


 ハンナはトラの着ぐるみのの顔に抱きつく。


『うう、せっかくハンナが抱きついてくれとるのに、着ぐるみのせいで、伝わらぬ。……もう脱いでもよいじゃろうか?』


「えー!? 脱いじゃうの? せっかく可愛いのに……」


『ハンナがそう言うのじゃったら、もう少しこのままでいようかの』


 ……チョロいな。


「はぁ、エキドナ様。本当に何を考えているのやら……。混ざりたければ普通に来ればいいものを……」


「本当にな」


 と、もう一人ウサギがいたな。このウサギは誰だ? もしかしてトオルか? エキドナに巻きこられたのだろうが、とんだ災難だったな。

 ってか、さっきからこのウサギ。じっとこっちを見てるんだけど……。こんなに見つめられるとちょっと怖いな。


「え、えーと。エキドナに無理やり被せられたのか? 誰か知らないけど、災難だった……」


『随分と仲の良さそうに歩いておりましたね。本当の家族のようでしたよ』


 地の底から発したようなドスの効いた声がウサギから発せられた。


「ひぃぃぃぃ!? ル、ルーナ?」


『ええ、その通りです。……シオン様。随分と楽しまれているようですね』


「いや、その……えっ? 何で?」


 いや、本当に何してるの?


『シオン様が、三人で仲睦まじく歩いているのを拝観しましてね。いてもたってもいられず……』


 大方キャメリアのモニターで俺達が手を繋いで歩いていたのを見ていたんだろう。それで、バレないように変装して、ここまで来たんだろうが……。


『最近、わたくしにはちっとも構ってくださいませんのに、シオン様はこんなところで新しい家族を持って……知っておりますか? ウサギは寂しいと死んでしまうのですよ?』


 ……もしかして、自分がウサギだとでも言いたいのか? いや、確かに今はウサギの着ぐるみを着ているけど……ってか、それが言いたくて、ウサギの着ぐるみにしたなコイツ。


「ハ、ハンナとは遊ぶ約束してたから……ほら、約束は守らないとな」


『……わたくしも、シオン様と夜景の見えるレストランで、お食事をする約束を、ずっと待ってるのですが……』


「……あー。そういや、そんな約束もしたような気が……」


 ハンプールでデートしたときのことだな。半ば騙したように連れていったから、次はちゃんと……。って感じだったよな。


『そのご様子ですと、完全に忘れておりましたね?』


 バレてる。ウサギの中から、プレッシャーが高まるのを感じる。

 このまま、せっかくのハンナとの一時をルーナやエキドナに邪魔はされたくないな。


 ……撒くか。


「おーい! 皆あああ!! 今からこのウサギとトラが皆に芸を見せてくれるってさ!」


『『んなっ!?』』


 俺の声に、遊んでいた子供達がわらわらと駆け寄ってくる。俺は急いでエキドナからハンナを取り上げる。


『シ、シオン様!? いったい何を……』

『シオン! どう言うことじゃ!』


「じゃあ二人とも、子供を困らせるようなことはするなよ!」


 俺はハンナを肩車し、ラミリアの手を握って、急いでこの場所から逃げ出した。



 ――――


「シオンお兄ちゃん。良かったの?」


「いいのいいの。だって、あんな可愛いの着ぐるみを着ているんだから、俺達が独占しちゃったら、他の子達が可哀想だろ? ほら、皆も風船が欲しいって」


「……そうだね。本当はエキドナおばあちゃんともうちょっと遊びたかったけど、私が独占しちゃ駄目だよね」


「そうそう。それに、今日は俺達がいるだろ」


「うん! 次はどこに行こっか?」


「そうだな。色々とぶらついてみるか」


 とりあえず適当にアトラクションを見ながらブラブラすることにした。


(本当によかったのですかか? 後でルーナさんに怒られるんじゃ……)


 ハンナに聞かれないように、ラミリアが俺にアイコンタクトで伝える。


(あとの事よりも、今の方が大事だ。……まぁ正座コースは免れないと思うけど)


 今度は本当にちゃんとしたデートに連れて行けばなんとか……許してもらえるかなぁ?

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