日常編 ハンナとおでかけ
ハンナの話が終わるまでは毎日投稿をする予定です。
「さて、ハンナはどこに行きたい?」
できる限り、ハンナの希望には答えてあげたい。
「……シオンお兄ちゃんと二人だけ?」
……まさかそこをツッコまれるとは思わなかった。
「嫌なのか?」
嫌って言われたら、凹んじゃうぞ。
「ううん。嫌じゃないけど……」
「他に誰か誘いたい人がいるのか?」
「うん! ラミリアお姉ちゃん!」
ラミリアか。確かにハンナは俺と同じくらいラミリアのことが大好きだからな。
俺はケータイを取り出し、ラミリアを呼び出す。
『シオンさん? 何でしょう』
「最重要任務がある。今の仕事を投げ出してでも、出来るだけ早くここに来てくれ」
それだけ伝えると、返事も聞かずに通話を切る。ラミリアのことだ。説明したら来てくれない可能性がある。
「シオンお兄ちゃん! 仕事を途中で投げ出したら駄目だよ!」
ハンナが少し怒ってる。まさかハンナに怒られることがあるとは……。ハンナもラスティンの所で仕事するようになって、仕事の大切さを理解できるようになったんだな。
「そうだな。ハンナの言う通りだ」
俺はもう一度ラミリアに連絡する。
『……どういうつもりですか?』
あっ、ちょっと怒ってる。
「いやいやすまん。ラミリアに用事があるんだけど、時間とれそう?」
『……取れなくはないですが、一体何なんです?』
「えっとな……。あっ、ちょっと待った」
俺が説明しようとすると、目の前のハンナが何か言いたげに主張していた。
「どうしたハンナ?」
「私がラミリアお姉ちゃんにお話ししたいの」
「なるほど。分かった」
俺よりハンナの方が説得に応じそうだ。
「ラミリア。今代わるから」
『はぁ? 代わるって誰に……』
俺はラミリアの言葉を最後まで聞かずにハンナにケータイを渡す。
「使い方は分かるか?」
「ノーマン先生に教わったから大丈夫!」
ノーマン先生か。くそっ、先生って呼ばれてるのが羨ましい。
「ラミリアお姉ちゃん? ……うん! ハンナだよ! あのね。シオンお兄ちゃんが遊びに連れてってくれるから、ラミリアお姉ちゃんとも一緒にお出掛けしたいなぁって思って。……駄目かな?」
……今のハンナのお願いで断るようなら俺はラミリアを軽蔑する。
「……うん。……本当!?」
ハンナの顔が華やぐ。どうやら来てくれるようだ。
「はい! シオンお兄ちゃん。ラミリアお姉ちゃんが代わってって」
俺はハンナからケータイを受けとる。
「代わったぞ」
『狡いですよ……。断れるわけないじゃないですか』
だよなぁ。
「んで? 本当に大丈夫なのか?」
『別に急ぎは何もありませんから、問題ないですよ。それに……私もハンナに会いたいですからね』
ラミリアもハンナのこと大好きだもんな。
『ただ、やりかけの処理と、引き継ぎだけ済ませてしまいますので、一時間くらい頂ければ』
「ああ、それくらいなら問題ない。まだ行き先も決まってないからな。その間にハンナと何処に行くか決めとくよ」
ラミリアの仕事が片付いたら、連絡する約束だけ決めて、俺は通話を切った。
「ラミリア大丈夫だってな」
「うん! 一緒に行ってくれるって!!」
「じゃあラミリアが来るまでに、何処に行くか決めようか。ハンナは何処に行きたい?」
「……シオンお兄ちゃん。もうひとつだけお願いしてもいいかな?」
――――
「なぁハンナ。本当にここでいいのか? ここじゃなくても、例えば……大きな船に乗って魚釣りしたり、海の中にあるお城を見学も出来るぞ?」
「うん。……本当はちょっと海のお城を見てみたいけど……」
ハンナが選んだのは、シクトリーナの遊園地だった。遠出をする予定だったのに、まさか帰ってくることになるとは……。
しかも、ここにいるのはハンナとラミリアだけじゃなかった。
ハンプールの孤児院にいる子供達。それから、シクトリーナとフィーアスの子供達までいる。
「せっかく新しいお友達が増えたんだから、早く打ち解けたかったんだぁ。それにここの子達とも遊びたかったの!」
ラース達の孤児院から来た子供達は、突然の環境の変化に戸惑っていたそうだ。
別に苛めがあるわけじゃないし、ワガママを言う子もいない。だけど、どこかよそよそしい感じで、上手く打ち解けてなかったようだ。だから、皆で遊べば早く打ち解けることが出来ると、ハンナは考えたらしい。
そして、ハンナは自分達だけじゃなく、シクトリーナの子供達とフィーアスの子供達も一緒に遊びたいと言った。
シクトリーナの子供達は、たまにハンプールで孤児院の子達を教えに行ってるから、知らない仲じゃない。だからこそもっと仲良くなりたいんだろう。
フィーアスの方は、ハンナはまだ会ったことがない。なにせ魔族だ。ハンプールには連れていけない。
ただ、シクトリーナの子供とは多少の交流もあるし、いい機会だと思って承諾した。
ただし、シクトリーナの遊園地なら、移動には時間もかからないし、泊まりでもないため、日を改めて、次の日に朝から遊ぶことにした。
まぁこっちも色々と準備をする必要があったしね。
――――
「ねぇじょーしゅさま。わたし達も一緒でいいの?」
大勢の人間の子供がいるから、少し不安そうにしているフィーアスの子供達のナン、ラーワ、ミケ。他にも、知らないナパイアーとスプライトの子供がいる。……いつの間に増えたんだ?
「こんにちは! 私はハンナ。シオンお兄ちゃんから、皆のことを聞いていたから、一緒に遊びたかったんだぁ。いいかな?」
その緊張を溶かすように、ハンナが元気に挨拶する。
「ハンナは俺の大事な妹だからな。仲良くしてやってくれ」
「じょーしゅさまの妹なの!?」
「ああ、そうだ」
別に血が繋がってなくても、ハンナは俺の大事な妹だ。
《妹ってより、可愛がり方が、娘って感じなの》
いや、別に娘でもいいけど……まぁ家族だな。うん。
「じゃあ仲良くするー!」
「私だけじゃなく、皆ともお友達になってあげてね。皆いい子達だから、安心だよ」
「分かった! ハンナお姉ちゃんがそう言うなら、仲良くするー!」
ハンナ……本当にしっかりしたお姉さんになったんだな。
ハンナとゆっくり楽しむことは難しくなったけど、これはこれでいっか。
――――
「よーし! じゃあ皆。フリーパスは持ったか? これがないと、乗り物に乗れないから、絶対に無くすなよ!」
「「「はーい!!」」」
全員が大きな声で元気よく返事する。
……気分はもう遠足の引率だな。
「あと、お食事券は一人三枚しかないからな。ちゃんと考えて食べるように!」
「三枚って、ちょっと少ないよなー」
「美味しそうなのがいっぱいあって、三つじゃどれ食べていいか分からないよ」
「ねぇ。せめて五枚は欲しいよね」
「フリーパスみたいに、食べ放題にしてくれたらいいのに」
どうやら三枚に文句があるようだ。まぁこの中には魅力的な食べ物が、たくさんあるからな。
「三枚で十分だ。それ以上食べると、食べ過ぎてお腹壊しちゃうだろ」
食べ放題にすると、いくらでも食べちゃうもんな。まだ文句を言ってる子はいるけど、こればっかりは仕方がない。
「みんな。色々食べたかったら、交換すればいいんだよ。ね、だから、文句は言わないの」
ハンナがパンパンと手を叩き、皆に言い聞かせる。
「そうだな。唐揚げとたこ焼きとかなら一枚で五個入ってるから、交換して食べるといい」
そう言うと、ようやく皆が大人しくなった。どうやら量よりも種類を食べたかったようだ。
「あと、何か困ったことがあったら、このお姉さん達が、遊園地の中にいるから、すぐに言うんだぞ」
俺は隣にいるスタッフを見る。
リカとヒミカ。ラースとリース。アイラとエイミーがいた。それから、総合案内所にはメイドが何人か待機している。
……ラースは男一人で若干肩身が狭そうにしてるけど。でも、彼らの孤児院の子供達もいたから、参加してくれた。
残りはこの町で先生をすると決めたリカと、付き添いのヒミカ。
実は大の子供好きのアイラと、フィーアスの子供達担当のエイミーだ。
ここには悪い大人はいないから、誘拐なんかはないけど、迷子になったり、怪我をしたり、喧嘩になったりは十分に考えられる。その為、見回り兼、遊び相手として彼女たちを選んだ。
「もし近くに誰もいない状況になったら首にぶら下げてる笛を吹くんだぞ。すぐに誰かがやって来るから」
仮に迷子になって、誰とも出会わないような……研究隊のように幸の薄い子もいるかもしれない。そんなときは、笛を吹けば、キャメリアに届くようになっている。
キャメリアが位置を確認したら、すぐに誰かがその場所まで行ってくれる。
「よし、じゃあ夕方の鐘がなったらこの場所に戻ってくること。遊びすぎて忘れるなんてことがないようにな。あまり遅くなると、美味しい晩御飯を食べ損なうかも知れないぞ」
「晩御飯なにー?」
「晩御飯はバーベキューだ。お肉やらお魚を皆で焼いて食べるんだ。美味しいし、面白いぞ」
「わーい!」
「おい、たくさん遊んでお腹をペコペコにするぞ!」
「お食事券は早めに使おうよ。後で使うとお腹いっぱいで食べられないよ!」
おうおう、皆一気にテンションが上がったな。
「よし! 皆楽しんでこい!」




