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ロストカラーズ  作者: あすか
幕間
354/468

日常編 ハンナの成長

今回からしばらくハンナ編に入ります。

 ラース達とヒミカ達。ついでにゼロ。

 立て続けに、放置していた問題を解決してきた。……数日経っても、ゼロは旧友を探しに行ったっきり、戻ってきてない。まぁ二ヶ月くらいかかると言っていたし、カミラとは連絡を取ってるみたいだ。島の開発もフレアとカミラが参加して順調みたいだし、問題ないだろう。


 だから、今日も放置していた問題を解決する。今回は俺にとって、何よりも大事な問題だ。その為、何がなんでも解決する必要がある。


 俺は気合いを入れて、ハンプールのラスティンの屋敷へ向かった。



 ――――


「ハンナー! 元気してるか?」


「あっ! シオンお兄ちゃん!」


 ハンナはいつも通り、俺へ向かって駆け出し、飛びついて……来ない!?

 ハンナは、ゆっくりと歩きながら、俺に近づく。


「シオンお兄ちゃん! 久し振りだね!」


「あ、ああ。久し振りだけど……ど、どうしたんだハンナ?」


「ん? どうしたって何が?」


 ハンナは俺の質問が分からないようで、首をかしげる。もしかして、しばらく会いに来なかったから、嫌われた?


「いや、いつもなら、元気よく俺の胸に飛び込んでくるじゃないか」


「もう! シオンお兄ちゃん。私だっていつまでも子供じゃないんだよ」


 今のハンナの言葉に、俺はハンマーで殴られたような衝撃を受けた。

 ハ、ハンナが、自分のこと私って……。今までのハンナは、自分のことをハンナって名前で呼んでいた。

 それに、いつまでも子供じゃないって……。少し照れながら言うなんて……。

 ハンナに一体何が……。だって、最後に会ってから、まだ一ヶ月ちょっと。二ヶ月も経ってないんだぞ!


「ハンナ。領主は何処だ?」


「ラスティン様? 執務室にいると思うよ」


 ラスティン様だと!? あいつ、名前で呼ばせてるのか。


「よし、挨拶に行こう」


 詳しい話を聞かないとな。場合によっちゃあ……ふふふ。


「シオンお兄ちゃん? なんで怖い顔して笑ってるの?」


 いかんいかん。顔に出ていたようだ。


「ハンナに会えて嬉しい気持ちを我慢してたら、ちょっと強ばっちゃっただけだよ」


「別に我慢しなくても、私もシオンお兄ちゃんに会えて嬉しいよ!」


 ああ、本当にハンナは天使だな。

 だからこそ、ラスティンを問いたださないとな。



 ――――


「じゃあハンナ。少しだけ領主と大事な話があるから、お仕事して待っててくれ。終わったらすぐに会いに行くからな」


「うん! じゃあまた後でね」


 ハンナは元気よく手を振ると、仕事に戻っていった。

 ……このあと行われるかもしれない惨劇を、ハンナに見せるわけにはいかないもんな。


 俺は執務室のドアをノックする。


『入っていいぞ』


 部屋の中から、ラスティンの声が聞こえた。よし、ちゃんといるな。


 俺は扉を開けた。


「ん? なんだシオンじゃないか。ひさしぶ……」

「貴様あああ!! ハンナに何をしたああ!!」


 俺は部屋に入るや否や、ラスティンに食って掛かる。


「うわっ!? な、なんだ!?」


「吐け、さあ、今すぐ吐け。正直に答えたら、命まではとらん」


「い、命!? お、落ち着けシオン! 一体何があったと言うんだ!」


「これが落ち着いていられるか! ハンナが……ハンナが……」


「おい! ハンナって……ハンナに何かあったのか!?」


「何があったじゃない! あの純真無垢で幼かったハンナが大人になってるじゃないか!」


「……は?」


「は? じゃない! あの『シオンお兄ちゃん大好きー!』って、駆け寄って来てたハンナが、『もう子供じゃない』って、ハニカミながら言うんだよ! 絶対におかしいよな!」


「……おかしいのはお前の方だ。いきなり掴みかかってくるから、何事かと思えば……ただ単純に、ハンナが成長しただけではないか」


「たった一ヶ月であんなに成長するもんか! きっと何かあったに違いない……ラスティン。俺はお前を信じていたのに……このロリコンが!」


「ロリ!? き、貴様こそ何を考えておるのだ!」


「それに、なんでハンナがまだここで働いてるんだよ! とっくにノーマンは帰ってきているだろ!」


「むっ、それは……」


「ほらやっぱり、やましいことが……」


《あーもう! いい加減にするの! スーラパーンチ!!》


「がはっ!?」


 俺はスーラの一撃で沈んだ。



 ――――


「はい。ハンナが急に大人びていたので、寂しかっただけです」


 スーラの一撃をもらった後、俺はいつものように正座をさせられ、説教を受けていた。

 目の前にはラスティンとノーマンの二人がいる。ノーマンは俺が沈んだ後に、ラスティンが呼び出した。ちなみにハンナはいない。ラスティンが気を利かせたようだ。

 ハンナにこんな情けない姿を見られたら、俺はきっと耐えきれない。


「まったく。これではシオンの方が子供ではないか」


「うう……返す言葉もない」


「いいですかシオン様。元々ハンナは年齢の割には心が幼すぎました」


「……それは何となく思ってた」


「それもこれも、シオン様が甘やかしすぎたからです。シオン様がハンナの成長を妨害していたのですよ」


「いや、俺にそんなつもりは……」


「そんなつもりがあろうが、なかろうが、それが事実です」


 俺はスーラに殴られた以上の衝撃を受けた。俺のせいでハンナが成長できなかった?


「ハンナはここで働くことになって、ようやく年相応に成長したんですよ」


「それだけじゃない。あと、最近孤児院に人が増えたんだろ? 友達が増えて喜んでいたが、自分は年上だから、しっかりしないとって、言ってたぞ」


 ラースの住んでいた孤児院の子供達のことだな。そっか、年長者としての自覚が出てきたんだな。


「でも、ハンナが一番成長した理由はシオン様。貴方ですよ」


「……どういうこと?」


「シオンはさっきノーマンが戻ってきても、ハンナが働いていることに疑問を持っていたな?」


「え? うん」


「ハンナが、自分から働かせてくれと言ったんだ。私が理由を聞いたところ、ハンナは、将来シオンの役に立ちたいから、今の内からしっかりと勉強したいと。ノーマンに師事したいと言っていた」


「ハンナがノーマンに……」


「ノーマンがシオンの秘書代わりで、一緒に旅に出ているのを知っているからな。その役目を自分がしたいと思っているんだろう。無論こちらとしても、ハンナのように使える人材は、戦力としても非常に助かるから、断る理由はなかった」


 ……いかん。感極まって涙が出そうだ。


「それなのにシオン。お前ときたら……」


「いや、本当に悪かったって。でもさ、あれだけ変わっていたら、そりゃあ驚くって。嫌われたかもしれないって、本気で思ったぞ」


 思春期の娘を持つ父親って、こうやって、スキンシップが少なくなるのを寂しく感じるんだろうか? 俺、ハンナに下着を一緒に洗濯しないで! とか言われたら、立ち直れない気がする。いや、一緒に選択する機会とかないけどさ。


「とにかく、ハンナは頑張ってるんだ。邪魔だけはするんじゃないぞ」


「分かってるよ」


 寂しい気持ちはあるけど、俺だって、ハンナには立派な大人になってもらいたい。


「それで? 今日は一体なんの用事があったんだ? まさか、ハンナに会いに来ただけではないんだろ?」


「いや? ハンナに会いに来ただけだ」


「……シオン。もしかして暇なのか?」


「暇なもんか。数ヵ月後には天使との戦争が控えてるんだぞ。時間なんていくらあっても足りないよ」


「そうだろうな。だから、私も気を使って、ルーアンとの交渉を引き受けているんだ」


 今はラスティンとルーアンとの商人が交渉してるんだよな? ルーアンの商人は、ノーマンと一緒にハンプールに来たって話だったけど、今はいないのかな?


「ノーマンも……ルーアンでは、途中から、ずっと任せっきりで悪かったな」


 ずっと放置して、気がついたら交渉して勝手に帰ってたもんな。


「途中からと申しましたが、最初からだった気もしますが……」


 ……ノーマンも言うようになったな。


「ま、まぁいいや。それで? 取引はちゃんと出来そうなのか?」


「ええ、問題ありません。信用できそうな商会ですから」


「そっか。良かった。何かあったら……ミハエルさんに言えば、ミサキとレン経由で、大体のことは出来ると思うから」


「分かっております。今年中には交易が始まるでしょう」


「そっか。楽しみにしてるよ。じゃあ俺はハンナに会いに行くから」


「お、おい! 本当にハンナに会いに来ただけなのか?」


「だからそう言ったろ。あっ、ハンナを数日借りても大丈夫か?」


「……なにする気だ?」


「いや、ここに働かせる時に、次はハンナと遊びに行こうって約束したからな。だから、ハンナと遊ぼうって……」


 その約束を果たすのが、今回の放置していた問題だ。


「お前……本当に忙しいのか?」


 ラスティンはもう一度同じ質問をする。


「当たり前だろ! でも、これからもっと忙しくなるからな。今しかチャンスがないんだよ」


 来月になったら、準備も追い込みで動けなくなるに違いない。今しかないんだ。


「……仕方がない。今ハンナを呼ぶから待ってろ」



 ――――


「ハンナあああ! 俺が悪かったよ。ごめんよおお!」


「きゃっ!? シオンお兄ちゃん。いきなりどうしたの?」


 俺はハンナが部屋に入って来るなりダッシュで抱きつく。俺の所為でハンナが成長できなかったんだ。いくら謝っても償いきれない。


「あっ、またラスティン様がシオンお兄ちゃんの悪口を言ったんでしょ。駄目ですよラスティン様」


 ……ん? また?


「いや、私は何も……」


「ハンナ。ラスティンはいつも俺の悪口を言っているのか?」


「そうだよ。『シオンめ。いつも仕事を増やして……』とか、『またシオンが厄介ごとを!』とか」


「ほほぅ」


 俺はラスティンの方を見る。


「なっ!? それは悪口じゃなくて事実だろうが!」


 ……まぁそうだな。


「でも、シオンお兄ちゃんのお陰で、仕事が増えて、この町が豊かになってるんでしょ? じゃあ感謝しないと!」


「うっ、そりゃあそうだが……」


「そうだそうだ。あまり文句を言うと、拠点をルーアンに変えちゃうぞ」


 ふふん。さっき怒られた分、ここで憂さ晴らししてやる。


「なっ!? お前……ここぞとばかりに反撃してきたな。でもいいのか? ここから出て行くと、ハンナと別れることになるぞ」


 なっ!? コイツ。ハンナを人質に……。


「シオンお兄ちゃん。この町から出て行くの?」


「バッカだなハンナ。俺がハンナを置いてどこかに行くわけないだろ。それよりもハンナ。今から俺とお出かけするぞ」


「シオンお兄ちゃんとおでかけ!?」


「ああ、約束したろ? 今度はハンナと遊びに行くって。泊りがけでさ、どこでもいいぞ」


「うん! あ、でも……」


 ハンナはチラリとラスティンとノーマンの顔色を伺う。


「ハンナ、たまには息抜きも必要です」


「そうだぞ。たまには思いっきり甘えてこい」


 二人の言葉にハンナは満面の笑みを浮かべる。


「はい! ラスティン様。ノーマン先生。ありがとうございます!」


 さて、どこに行こうかな?

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