日常編 ラピスラズリ
今回から日常編の投稿となります。
恐らく三日に一回の投稿で、十回前後になると思います。
トオルから敵の準備が完了するのが半年後と伝えられた。
これなら城塞都市の完成も十分に間に合う。
油断は出来ないが、時間に余裕が出来たのは助かる。
とりあえず、溜まっていた問題を一つずつ消化していかないとな。
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放置していた問題その一。
「今回は二人に助けられたよ」
まずは今回幻影魔法を唱えてくれた、ラピスラズリの二人だ。今回は手伝ってくれたけど、考えたら最初に捕虜にしてから、何も進展していない。
いい加減、二人の今後について話さないといけない。
少なくとも今回、彼らは十分に働いてくれた。その活躍に報いる必要がある。
「命を助けてくれた恩を返したまでだ。それと……ラクウェルに笑顔を与えてくれた。本当に感謝している」
「親友であるスーラちゃんが困ってるのですから、助けるのは当然です」
ラースはともかく、リースはぶれないな。最初はこんな子じゃなかったんだけどな。
「それでもだよ。ありがとう。だから……俺も二人を助けてあげたい。元々二人は金が欲しくて暗殺者を始めたんだろ? 理由を話してくれないか?」
今度は俺が二人を助ける番だ。
二人は少し渋ってはいたものの、身の上を話してくれた。
――――
二人がお金を欲していたのは、やはり孤児院の運営に金が必要だったかららしい。
元々孤児院にいた二人は、当時の院長によって、とある貴族に売り飛ばされた。
院長はスラム街で孤児を見つけては育てる聖人を演じていた。
だが、その裏では、孤児院で子供の面倒を見つつ、貴族や好色家に売り飛ばして金を稼いでいた。
金になりそうもない孤児に関しては、自分のストレス発散に利用していたそうだ。
双子は珍しいということで、二人も貴族が引き取った。
何も知らない二人は貴族が善意で引き取ってくれたと思い、院長と貴族に感謝した。
だが、二人に待っていたのは双子という特性を調べるための、実験場だった。
そこで様々な魔法実験をさせられた。そこで日々体を弄られながら、実験させられた。
二人は苦痛の日々を何とか耐え忍んだ。二人だから耐えきれた。二人でひとつ。片方が死んだら両方殺される。そう思ったから耐え続けた。
だが、それにも限界が来た。実験中にリースの魔力が暴走した。
ラースは何とかリースを助けようとして、リースに同調。それが初めての【魔力の共鳴】だった。
暴走が収まった時には、研究所は跡形もなく破壊されていた。
二人は逃げ出した。だが、逃げる場所は何処にもなかった。孤児院には院長がいる。二人を買った貴族に連絡するに違いない。
破壊されたのは研究所だけ。そこにいた研究員は死んだけど、貴族はまだ生きている。
だから、二人は自分を買った貴族を殺害した。そして、孤児院の院長も殺害。これで、二人のような犠牲もなくなり、孤児院は平和になるはずだった。
だが、そうはならなかった。二人を買った貴族以外の孤児院の顧客が黙っていなかった。二人は院長と貴族殺しで犯罪者になった。それと同時に闇ギルドの賞金首にもなった。
表世界でも裏世界でも狙われることになり、流石に二人でも、どうすることも出来ず、孤児院の子供を引き連れて、逃げ出すことにした。
二人と孤児院の子供たちは、山奥の洞窟でしばらくの間生活することになった。
実験により、ある程度の強さを手に入れた二人は山に生息している魔物を狩って飢えをしのいでいた。
だが、このままいつまでも、洞窟で生活するわけにはいかない。表の犯罪者は逃げ切れる自信はあったが、裏の賞金稼ぎ相手には逃げら自信はなかった。だから、闇ギルドをどうにかする必要があった。
二人は自分達を捕まえに来た賞金稼ぎを、一人生け捕りにすることに成功した。
その賞金稼ぎから闇ギルドの場所を聞き、直談判することにした。
その闇ギルドの名前は【深淵】。二人は【深淵】に賞金首を解除してもらうため、自分達を売り込んだ。賞金首で賞金を支払うよりも金が稼げると言って……。
二人が実験され、通常よりも高い魔力を持っていることに興味を持った【深淵】の担当者は、二人に賞金を掛けた貴族の殺害を二人の入団試験とした。
二人はその試験をクリアし、闇ギルドの一員となった。
これにより、無事に闇ギルドの賞金は解除されたが、表のお尋ね者まではどうすることも出来なかった。二人はもう堂々と表を歩くことが出来なくなった。
二人は今までの名前を捨て、ラースとリースと名乗ることにした。そしてラピスラズリとして活動を始めた。
二人は闇ギルドにお願いし、新しい孤児院を建ててもらった。闇ギルドには孤児院を建てる理由はなかったが、二人に対する人質にもなるため、協力した。
二人は自分達に掛けられた賞金分と、孤児院の設立に掛かった費用を闇ギルドに返済しなくてはならなかった。
多額の借金と、さらに孤児院の維持費。金がいくらあっても足らなかった。を背負うことになった。もし二人が返済しなかったら、孤児院の子供たちがどうなるか……。
だが、二人が暗殺者として働き続けている限り、孤児院は無事。そう信じて、ひたすら仕事をすることにした。
闇ギルドには様々な暗殺技術を身に付けている同業者がいる。二人はその人らに師事することにより、自身の魔法を磨いていった。お陰で暗殺面に特化する魔法を身に付けていった。二人も同業者に魔法を教えることもあった。そうすることで、【魔力の共鳴】に関して色々と学ぶことが出来た。
二人は成長を続け、いつの間にかラピスラズリの名前は国中に知れ渡るようになった。そのお陰か、次第に【深淵】以外の闇ギルドにも出張して暗殺業をこなすことになった。
そんな時、別の仕事で【奈落】の闇ギルドに来ていた二人に、高額の依頼が舞い込んできた。
闇ギルドが『敵対するな、調べるな、関わるな』と三原則を敷いてまで敬遠している冒険者の暗殺だ。
無法の闇ギルドでさえ恐れる冒険者。興味があった。もしその冒険者を暗殺することが出来れば、闇ギルドも俺達を縛ることが出来ない。孤児院の子供達も解放できるのではないか?
そう思って【月虹戦舞】の暗殺の依頼を引き受けた。
――――
「結果は暗殺に失敗し、こんなことになってしまったがな」
ラースは自嘲気味に笑う。
重い! 想像以上に重い話だったよ!! てっきり経営難の孤児院を養うためとか、そんな理由だと思ってたよ!!
何だよ実験って!? 院長に裏切られるって……。ハンナのところのジョージさんと大違いだよ!!
「ってか、孤児院はどうなってるの!? 二人は死んだことになってるんでしょ!!」
人質扱いだったのなら、もしかして消されたり……。
「基本【深淵】は孤児院を設立しただけで介入はしなかった。俺達が裏切ったのなら、人質に取られるだろうが、死んだのなら人質の意味はない。かと言って、わざわざ殺すこともないだろう。恐らく何もされずに放置されているだけだ」
「そっか。良かった……」
流石に子供達が犠牲になってたってことなら申し訳なさすぎる。
「問題は俺達が孤児院に金を入れてないから、飢えてないかだけが心配だ。一応やりくりすれば二ヶ月くらいは持つくらいの蓄えは準備していたが……」
「じゃあもっと早く言えよ! そんな事情があったら孤児院を優先させたよ!」
俺も詳しく話を聞かなかったから悪いけど、最初に話を聞いたときに言いたくなったら言ってくれって言ったよね!
えーっと……。既に二人が俺達の所に来て一ヶ月以上経つ。で、二人は【深淵】から【奈落】へ出張に来ていた。その出張がどれくらいの期間か知らないけど、下手したら二ヶ月以上経ってるんじゃないのか?
「えっと、飢えてたら困るから食料を持って行かないと……。あっ、でも二人が行ったら死んでないことがバレて困るか……。とりあえず孤児院の場所を教えてくれ。でも二人がいなかったら怪しまれるか? うーん……」
そもそも二人がいつまでも死亡扱いされてたら、外に出れなくて困るよな。孤児院の子供を助けたら、闇ギルドと交渉しようかな。エリクサーを何個か渡せば金額的には十分だろ。
って、俺がこんなに悩んでいるのに、何で二人は黙ってるんだ。
「なぁ何とか言ってくれよ。お前たちの孤児院だろ?」
「……何で……何でそこまで」
ラースの言葉に大きく俺はため息を吐いた。
「お前ら二人はここで一ヶ月過ごしたんだろう? 俺以外の仲間やメイドとも話したはずだ。その中で、子供達を見捨てるような奴はいたか?」
そんな奴がいないことくらい俺が一番知っている。
「お前らは何でって疑問に思うより、ありがとうって言えばいいんだよ」
「……ああ、分かった。感謝する」
礼を言ったラースの顔は憑き物が落ちたかのように晴れやかだった。
多分……今までラースが背負い込んでいたものが、ようやく解放されたんだと思う。
「それでいいんだよ。さっ、孤児院について教えてくれ」
――――
孤児院の場所は教えてもらったので、リンにお願いすることにした。
ついでに孤児院の子供達にはジョージさんの孤児院に転居してもらうことにした。
あそこなら、ハンナを始め、教育を受けた子供達がいる。きっと新しく来た子たちにも良くしてくれるだろう。もし人数が厳しいようなら、シクトリーナでも……って思ったけど、ジョージさんが問題ないと快く引き受けてくれた。将来的にはシクトリーナでも構わないけど、まずは普通の環境で育ててあげたい。
闇ギルドにはラースとリースの生存を報告した。ついでに【月虹戦舞】が彼らを引き抜く打診をし、エリクサー二瓶で交渉が成立した。一瓶で何千万って価値があるんだから、随分と吹っ掛けられたもんだと思う。まぁ俺達にとっては二人が解放されるなら、それくらい安いもんだ。
だが、流石に今まで暗殺業を生業としていた為、表のお尋ね者までは取り下げることは出来なかった。
俺も二人のやった罪までは無くしちゃいけないと思うし、仕方ないと思う。
まぁ今後は二度と暗殺業を生業としないことを誓わせ、青の国に踏み込まないという条件で、青の国のレムオンと裏取引をし、見逃してもらえることになった。
まぁ貸し一って感じになったので、今度レムオンが執着していたホワイトボードでも贈ってあげよう。
「さて、二人はもう完全に自由だ。青の国には入国できなくなっちゃったけど、闇ギルドに縛られることもないし、捕まることもない。孤児院だってもう二人がお金を入れなくても良くなった。これからは二人の好きなように生きるといいさ」
二人の実力があれば、何処にいたってやっていけるはずだ。
「……俺達の力はもう必要ないのか?」
「ん? いや、いたらきっと役に立ってくれると思うけど、前回の戦いで十分頑張ってくれたからな。これ以上我儘は言えないよ」
「では俺達が自分の意思でここに置いてくれと言ったら、迷惑か?」
「……本当にいいのか? ここは危険になるかもしれないぞ?」
「なら尚のことだ。俺達を仲間にしてくれないか?」
「ああ、歓迎するよ。ただし……今後はお客様扱いはせずに、ちゃんと働いてもらうからな」
こうして二人は正式な仲間になった。




