第27話 皆の帰りを待ってよう
グリンとの交渉を終え、会議室へ戻ると俺はそのまま机に突っ伏した。
「あー! 疲れた。いや、これ絶対に戦闘よりキツいって。やっぱり交渉とか尋問みたいなのは性に合わないや」
「ふふ、お疲れ様でした。中々でしたよ」
ルーナが机の上にお茶を置く。
「おっありがとう。疲れたけど、うまくいきそうだな。ゲンさんの方はどうだったんだろう?」
姉さんとヒカリもまだ村から戻ってきていない。ちゃんとお願いできたのかな?
「先ほどサクラ様に付いていたメイドから報告がございましたが、どうやらゲンさんから了承を得たようです。無事に能力をコピーできたか確かめるので。戻ってくるまでもう少しかかるでしょう」
「そっか。ゲンさんの協力は得られたのか。よかったよかった。これでグリンを解放しても安心だな。次は魔力検査カードをどうにかしないとな。結構枚数あるけど制限があると使いにくいもんな」
カードは約百枚。数に制限があるだけで、勿体ないと感じて使いにくくなる。
「量産はそこまで難しくはないと思いますよ。わたくしとしましても、既存の属性検査カードよりも正確に測定できるのは魅力です。シオン様の修行が捗ります」
ルーナがやる気になるって俺が辛くなる気が……でも、結果がハッキリと数字で分かるなら確かにやり甲斐がある。
「というか色の強弱って全然分からなかったよな。最初こそ色が変わった面積や薄かったのが濃くなってきたから判断できたけど、最近じゃ全く変わらなかったし」
もしかしたら測る魔力に上限があったのかもしれない。
「やはりある程度の大きさになりますと区別がつきませんものね」
「……そりゃあ十七万もあれば色で区別は出来ないだろうよ」
「また……もう、止めてくださいまし! あと、くれぐれもメイドにはお話にならないようお願い致します」
ルーナがしぃーと人差し指を口にの前にやる。珍しく子供っぽい仕草だ。
「分かってるって、でもトオルには話してもいいだろう?」
「……まぁトオル様がどうしてもと仰るなら。でもトオル様から聞いてきたときだけにしてください。決してシオン様から話を振らないようお願いしますよ」
「分かったって。それにしても、何でそこまで恥ずかしがるんだ?」
「わたくしはメイドですから。メイドは自身のことは決して語らない。自己主張は許されない裏方の存在ですから」
別に自己主張をしているメイドもいそうだが……何かルーナなりのこだわりがあるのだろう。
「でもシャルティエ辺りは皆に話しそうだけどな。『私の魔力値はこんなでしたー!』ってさ」
俺は似てないシャルティエの真似をしながら言った。
「ふふっ、その通りですね。でもあの子はあれでいいと思います。ああいうメイドが一人くらいはいてもいいでしょう」
俺はその言葉に少し驚いた。
「へぇー、てっきりルーナはもっとメイドらしくっていうかと思ってた」
「勿論その都度、本人には注意しますよ。メイドとしては間違っていますからね。でもあの子の長所は伸ばしてあげたいですから…」
「俺、もっとルーナは頭の固い人だと思ってた。今のルーナって母親みたいだ」
なんかルーナの意外な一面を見たきがする。いや、意外でもないな。さっき姉さんと話していた時、俺達四人を優しく見守る姿はどこか母性を感じた。
「わたくしはあの子が生まれたときから世話してますから。親がいないシャルティエにとってはわたくしが母親の代わりのようなものです」
そう考えるとこの城で生まれたシルキーは全員ルーナが母親みたいな存在だったのかもしれない。
「ルーナにもそういった立場の人はいたの? 母親のような…」
俺がそう尋ねるとルーナは少し考える仕草をし、少し懐かしがるような表情を浮かべる。
「そうですね。強いていえばシエラ様でしょうか? ……いえ、どちらかと言えばシエラ様にはお世話をした記憶はございましたが、お世話をされたことはございませんでした。忘れてください」
「はは、どうやら魔王とルーナはとてもいい関係だったみたいだな。ちょっと妬けるよ」
ルーナの性格上、上司であった魔王に対して冗談を言うのはイメージにない。多分、シエラとルーナって魔王とメイドってよりも友達みたいな関係だったようだ。
だけど多分、今の俺に対しては友達みたいな感情は持っていてくれないだろう。時間や実力が圧倒的に足りない。……悔しいな。
「えっあのシオン様……それはどういう?」
俺が少し考えているうちになにやらルーナが動揺している? 顔も少し赤いし……何でだ?
先ほどの会話を思い出してみる。ルーナとシエラの関係に嫉妬する俺……あれっ? 実力不足を嘆いたつもりが何やら魔王に嫉妬している男に聞こえますよ?
「あー、なんだその、ちょっとした言い間違いだ。忘れてくれ」
恥ずかしいので俺は急いで話題を変えることにした。
「それよりもシエラの話が出たからちょうどいいけど、正直なところ魔王はルーナよりも強かったのか?」
十七万よりも強かったのか、弱かったのか。それに他の魔王はどうなんだろう?
「そうですね。……ふふふ、内緒です」
そう言って先ほどと同じように人差し指を口に当てる。でも先ほどの子供っぽい仕草とは違い、今度のは大人の魅力があるような妖艶な仕草に見えてドキドキした。
――――
「ただいま。いやー疲れたよ。……あれ? なんだかお邪魔かな?」
ようやく尋問を終えたのかトオルが戻ってきたが、部屋の中の微妙な空気に変な勘ぐりを入れる。
「バカ言うな。で、どうだった?」
何事もなかったように話を進める。ルーナは立ち上がってトオルにお茶を入れる。
「まぁ普通に話してはくれたと思うよ。特にシオンくん達が、二人は命を助けると伝言をくれた後は、安心してしゃべってくれた感じかな」
牢にいるメイドに伝言をしたが、ちゃんと届いたようだ。
「そっか。まぁ話した内容に関しては皆が揃ってからまとめて聞くよ」
「その方がいいね。僕も何回も話したくないし」
「じゃあ話は全員が揃った後だけど……」
その前に俺はトオルに魔力検査カードを一枚渡す。
「特製の検査カードだ。魔力を通してみ?」
トオルは魔力を通す。カードは透明になるが数字だけは浮かび上がっている。
「へぇ数字が表示されるんだ。一万七千とちょっとかな」
負けた。思った以上に差がありショックを受ける。
「マジか……確かにトオルよりは魔力が少ないと思ったけど、そこまで差があるとは思ってなかった」
俺はトオルにこの魔力検査カードの話をした。
「ふーん、そっか。便利だねこれ。今度シオンくんの魔力増強ドリンクを飲む前と後を比べて、どのくらいの効果があるか検証してみたいね」
「あっ、そういう使い方もあるのか。他にも技の一つ一つに使用後の魔力と見比べてどの程度違いがあるかとか見ると楽しそうだな」
そう考えるとかなり有用だな。それに自分の魔力を更新するだけならカードを消費しなくて済む。
「これ量産は可能なんでしょ?」
「先ほどシオン様にも申し上げましたが、おそらく可能と存じます。属性検査カードと原理は同じはずですので、通常の属性検査カードを作る魔道具に少し改造を加えればいけると思います」
作り方を調べるわけじゃなくて、属性検査カードを作る魔道具の方を弄る感じか。
「そんなことができる人がこの城にいるの? ってかそのそも属性検査カードってこの城でも量産できたの?」
「基本的に魔道具の改造などはトオル様の銃を改造したグレムリンのグレイさんにやってもらいます。グレムリンは道具を弄るのが好きな種族ですので……」
「へぇ。じゃあ魔道具とか作るときはお願いすればいいの?」
「いえ、グレムリンは既存の道具を弄って改造するのが得意なので、新しく製造は無理のようです。この城にはおりませんが、そういったのはドワーフが得意とします」
そういえばトオルから銃の説明の時に聞いたかもしれない。
「ドワーフか……。一度会ってみたいな。それにしてもグレムリンか……水をかけても増えたりしない?」
俺のグレムリンの知識はその程度だ。
「は? いえ、特にグレムリン族はそんな性質は持ってはおりませんが?」
「シオンくん、あれはただのフィクションだよ。別に水で増えたりしないし、夜に物を食べても凶暴化しないよ。本物のグレムリンは物を弄るのが大好きな種族なんだよ。地球では飛行機にイタズラしていたらしいよ」
「えっ? グレムリンって地球にもいたの!?」
「そういった言い伝えがあるだけだよ。まぁいたとしたら多分ゲートでもくぐったんじゃない? ってことで、グレイくんには今度キャンピングカーをこの世界使用に改造してもらおうと思うんだ」
「改造? どうするんだ?」
「具体的にはガソリンや電気じゃなく魔力結晶や魔法結晶で動くようにする。そうすれば燃料切れを気にする必要はなくなるからね。旅もしやすくなるよ」
「そっか。今やすっかりただの置物だからな。たまには整備して運転してやらないいけないな」
「うん、それに娯楽も多いから……ゲームとか余裕ができたら皆で楽しもうよ」
キャンピングカーの中にはテレビやらゲーム機やら映像機器、他にも様々な遊具が置いてある。あっ、でもノートPCやプリンターは全部この城の通信室に持って行ったんだっけ? あとサッカーボールやバドミントンなどは村の子供達にあげた覚えがある。
そういえばこの城の通信室には俺も入ったことがない。以前シャルティエに城案内されたときは防犯の意味もあって教えなかったそうだ。
確か一階の下……地下がコントロールフロアになっていて、通信室や罠や転移の管理室にもなっているらしい。
「そうだな。今回の一件が落ち着いたら娯楽も色々と挑戦してみようか。アナログゲームをこの世界でも流行らせよう!」
「いいね、それ!僕たちの本領が発揮されそうじゃないか!」
トオルも乗り気のようだ。
その後も、トランプなら……じゃあ将棋を……人生ゲームは難しいか? この城を利用したリアル脱出ゲームなら……ハグルなんか面白そうじゃね? など久しぶりに趣味の話で盛り上がることになった。
正直一緒にいたルーナにはほとんど理解出来なかっただろうが、興味津々といった感じで聞いてくれた。




