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ロストカラーズ  作者: あすか
第六章 青に忍び寄る白
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第260話 開戦しよう

「ついに見えてきたな」


 まだ豆粒程度の大きさだが、正面から飛行物体がやって来た。

 俺は手に持っていた双眼鏡で確認する。……紫色だが、使えなくはないもんな。


「……結構な数が船から飛び出しているな」


 リカの話だと、今回の偵察隊は五百人って話だ。外には百人くらい出ている気がするぞ。まぁ向こうもそろそろ目的地が近づいてるのは分かっているだろうから見逃さないように大人数で探してるのかな? というか、向こうの位置からはもう既にこの島は見えているはず。だとすると、あれは既に臨戦態勢なのかな?

 でも、その割には天使達は散開せずに、飛行船を守るかのように囲んでいた。


「大事な偵察に一隻しか用意をせんのだ。あの船は奴等にとって、万が一にも撃墜されてはならんのだろう」


 まぁあれ一隻だけではないだろうが、数は少ないに違いないだろう。今回は報告のために、何人かは生かして帰すつもりだが、飛行船だけは必ず破壊しよう。


「二人はどうやってあの人数の天使を倒すんだ?」


 目測だが、塔よりも少し高い位置を飛行していることから、飛行船は地上から三百メートル位の高さで飛行しているのだろう。

 俺の場合なら、ホリンに乗れば十分に対処が可能だ。

 だが、海面の二人は上空への攻撃は可能なのか? 圧倒的に不利なんじゃないのか?


「シオンよ。心配するな。まぁ見ていろ」


 ゼロはティアマトに対して全く心配してないようだ。俺も信じて大人しく見ていよう。



 ――――


 海面上で座っていた二人が立ち上がる。座っているときもそうだったが、海の上に立っている状態は、不思議でしかない。だが、それ以上に驚く光景が目の前に広がっていく。


「水が……昇っていく!?」


 二人の足元の一部分だけが――まるで巨大な噴水のように海が噴き上がる。二人はその噴水の天辺に立ったまま、高く上昇し続け、最終的には塔と同じくらいの高さの水柱が二柱出来上がった。


「どうだシオン。これで高さの差はなくなったぞ」


 それでもまだ百メートル位の差はありそうだが、それくらいなら許容範囲だ。


「ああ……凄いな。俺には到底真似できないよ」


 足場しかない水柱の天辺に立つなんて恐ろしいこと、俺には出来ない。その場にへたり込んで、途方にくれるに違いない。


《……なんかシオンちゃんとゼロちゃんで、凄いの認識が違う気がするの》


 ……気のせいだろ?


「でも、高さの差はなくなったけど、あれって危険じゃないのか? 攻撃されたら避けれないどころか、あの足場じゃ一歩も動けない。そもそもあの水柱を破壊されたら、まっ逆さまだぞ」


 あんな高いところから落ちたら、俺なら発狂死するな。


「心配する必要はない。そもそも攻撃なぞ受けなければいいだけだ」


 いやいや、それは無茶じゃないか? でも、慌ててる様子もないし……まぁこのまま様子を見ようかな。



 ――――


『そこの船、ここから先は我らファントムの領域。大人しく去るなら攻撃せぬが、それ以上近づくようであれば容赦はせぬぞ!』


 あらかじめ二人には通信機を渡してあるので、二人の声はここからでも聞こえる。

 同時に通信室やトオル達別場所で待機している人は、生放送の時のように、モニターや、ケータイの画面からリアルタイムで確認できる。


 ティアマトの声にひとまず停船する飛行船。どうやら会話はティアマトがするようだ。まぁテティスのほんわかな雰囲気は敵との交渉に向いていない。


 ティアマトの言葉に、外に出ている天使達は行動を起こさずその場で待機する。少し待つと飛行船から、他の天使よりも一回り大きな体つきの天使が現れた。


『我が名はサハクィエル。この船の船長なり』


 優に二メートルは越えているであろう身長。とてもじゃないが、人間とは思えない。名乗ったということは、彼は名付き天使。英霊ということだ。

 以前――敵だった頃のトールが言っていたことがある。人間の体を乗っ取り、人間の意識がなくなると、英霊の体に作り変わると。……コイツは、元の人間の体を乗っ取ったってことか。

 何気に外見まで本物の天使は始めてみるな。


 ヒミカ達は乗っ取られた訳でなく、共存。そのため、ベースは人間のままだった。

 黄の国で戦った、ケインは乗っ取られたばかりで、まだ変化してなかった。

 プラナ――ガブリエルと、ディラン――ウリエルは人間の姿だった。プラナは共存しているのか、乗っ取られているのか分からなかったが、ディランは確実に乗っ取られていて、時間も経ってた。だが、人間の姿のままだった。確か潜入する際に便利だから……って理由だったはず。

 その事から、乗っ取っても、本来の体になるのか、そのままでいるのかは自由のようだ。しかし、本来の姿の方が強いに違いない。……強敵かもしれないな。


「スーラ。アイツの属性と魔力値は分かるか?」


《……駄目なの。流石に遠すぎて、調べられないの》


 流石にここからじゃ距離がありすぎるか。


「分かった。まぁ無理して調べる必要もないだろう」


 調べれるなら調べるが、二人の邪魔をしてまで調べる必要はない。


『別に貴方の名前なぞ知りたくもない。早々に立ち去るがよい』


 おお、言う言う。サハクィエルだっけ? 結構イラついてそう。


『貴様らが我が同胞の魂を捕らえているとの情報を聞いた。それは事実か!』


 てっきり有無を言わずに攻撃してくるかと思ったが、そうじゃないみたいだ。でも、そっか。まずはバラキエルの存在を確認しないと何のために来たのか分からないもんな。


『確かに我らは天使の霊を手に入れておる』


『その同胞の魂をこちらへ引き渡せば、この場は大人しく引いてやろう。だが、大人しく渡さぬのであれば、攻撃もやむなしだ』


『断る! 貴様らはあれは我らにとっても必要なもの。渡すことは出来ぬ! そもそもお主らは不当に海を傷つけた。本来なら許しがたいことであるが、我らの主は寛大であるがゆえ、我らに関わらねば、その罪を不問とすると仰っておった。我らの主に感謝し、すぐに立ち去るがよい』


 主って言うのは誰のことだろう? ……俺じゃないよね?


『笑止! 渡す気がないのであれば武力行使をするまでだ!』


 最初からそのつもりの癖に何を今さら。まぁ俺達も立ち去れと言ったが、逃がすにはこれっぽっちもないけどね。


『立ち去る気はないと。……なんと愚かな。良かろう。ではファントム四天王である妾がお主らの選択が間違いであったと後悔させてやろう!』


 ファントム四天王……残り三人は誰だろう?

 強い順で言うと、俺、エキドナ、ゼロか?

 いや、ルーナも塔では全力を出せるから、ファントムのくくりなら、十分に可能性はある。

 それに、トオルも同じくらいの実力を持ってるし、デューテだって、トールと融合すれば、島の管理を任せれるレベルで強い。

 あっ、各島の管理者が四天王か? ……いやいや、ティアマトは島の管理者じゃないから、対象外になる。一体どんな基準で選んだんだろう?


「なぁゼロは四天王って誰だか分かる?」


 ゼロならティアマトと一緒にいることが多いから知ってるかもしれない。……まさか適当って落ちじゃないよね?


「そんなもの、ここには四人の魔王がいるではないか」


 あっ、魔王の人数か。【海魔王】、【重奏姫】、【夜魔王】、【銀乙女】の四人か。

 カミラはまだ来てないけど、四の島が完成したら、来る予定にはなってるし、数に入れても良いのかな。


「って!? ティアマトは【海魔王】じゃないじゃん!」


 今の海魔王はテティスだ。……まぁ元海魔王だし、実力はティアマトの方が上みたいだし、似たようなものか。


「シオンよ。そんなどうでもいいことを考えてていいのか? 戦闘が始まったぞ」


「えっ!?」


 俺は慌てて戦場を確認する。

 確かに既に戦闘が始まっていた。ティアマトとテティスが立っている水柱の至るところから、水のレーザーのようなものが発射される。あれって攻撃も兼ねてるんだ。


 敵の方もまずは遠距離から攻撃をするようだ。赤や黄色の魔力弾が二人目掛けて襲いかかる。

 足場がないから、二人は避けることが出来ない……が、魔力弾は殆どがレーザーで打ち落とされる。レーザーを掻い潜った魔力弾は二人から一メートル以上離れた場所で何かに防がれて、消滅する。


「ティアマト様の【水のカーテン】だ。生半可な攻撃は通用しない」


 ここからじゃ何も見えないけど、どうやら防御魔法が張られているようだ。【水のカーテン】って呼び名から、水で防いでるのかな?


「しかし、このままじゃ決め手に欠けるな。レーザーも効いてないようだし」


 水柱から発射されるレーザーは殆ど敵に当たっていない。レーザーは自動で適当に発射しているようで、狙いが定まってないようにみえる。それに、威力もそこまで強くなさそうだ。命中しそうな攻撃でも、盾や魔法で容易に防がれている。


「あれは攻撃ではない。ただの誘導だ。よく見てみろ。敵は散り散りにならずに、固まっているだろう」


 言われてみると確かにレーザーは敵を攻撃しているのではなく、その場から離れようとする敵の行く先を狙って発射されている。なるほど、敵をその場に留めてるのか。


「これから面白い攻撃がお目に掛かれるぞ。楽しみにしておけ」


 ゼロがそこまで言う攻撃……かなり楽しみになってきたぞ。

申し訳ありません。明日は恐らく投稿できないと思います。

明後日には投稿しますので、申し訳ありませんがお待ちいただければと思います。

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