第258話 塔を完成させよう
トオルの言った全ての管理とは、中央の島から四つの島全てに、俺の魔力で、一つの巨大な結界を張ることだった。
中央を含む各島には、それぞれの管理者が、核を利用して結界を張る。その上から俺が、中央の塔の最上階から結界を張る。
俺が張る理由は、アズラエルの魔法のジャミングするためだ。
トビオは死んだが、アズラエルの英霊は回収されてしまった。
ラミリアと話たはしたが、アズラエルを兵器として利用されてしまったら、俺以外は全滅してしまうかもしれない。
だから、俺がアズラエルの魔法を無効化させる。
アズラエルの魔法は回避不能で、防御魔法や、予防魔法は発動するか、分からない。
それならいっそのこと、防ぐのではなくて、そもそも魔法を発動させなければいいのだ。
俺はアズラエルの魔力……ではなく、実際にはトビオの魔法を受けたのだが、根本的な魔力の質は同じはずだ。
今回の偵察隊にはアズラエルは出て来ないだろうが、次の本隊は分からない。
本隊が来る前までには、必ず魔法を完成させ、結界を張ってみせる。
――――
塔に関しては、皆の協力もあり、瞬く間に完成した。
俺は灯台程度の塔だとばかり考えていたんだが、完成した塔は、高さ二百メートルを誇る、予想を遥かに超える高さの塔だった。
その外観は、日本の地元にある電波塔を思い出す造りをしていた。
懐かしいな……小学校時代の社会科見学でタワー見学があったのだが、行きたくなくて仮病を使ったっけ。
でも、結局姉さんにバレて引きずられながら参加させられたな。エレベーターは外が見える構造になっていて、怖くて入口付近で震えていたっけ。
最上階に着いても、友達がフロア中を動き回って望遠鏡を覗いたり、下を見下ろして『ふははっ、人がゴミのようだ』とアニメのセリフを言いながら楽しんでいた時に、俺は一人でエレベーターの入口前で時間が過ぎるのをひたすら待ってたっけ。
あっ、考えただけでまた怖くなってきた。
……って、考えたらこの塔でしばらく生活することになるんだよな?
一応中から外は見えないような造りになっているが……考えたら恐ろしくなってきた。
塔に入るときは恐怖心を抑える薬を飲むことにしよう。
塔の管理はルーナが引き受けた。ようやく腹を括ったとようだ。
とにかく、ここまで敵が来ることはないだろうが……というか、この塔に侵入されるってことは四つの島が攻略されたってことで、大ピンチなのだが、これでルーナと一緒に戦えるかと思うと、嬉しく感じた。
塔の内部に関しては、シクトリーナの侵入者エリア同様、ルーナ監修の罠部屋になる。
ただ、流石にそこまでは完成してないので、現時点では何もない部屋があるだけだ。ルーナが不敵な笑みを浮かべていたから、きっとまた凶悪極まりない罠を仕掛けるはずだ。
塔の中央部には通信室とコントロール室が設置された。ここにはシクトリーナからの転移でしか、入ることが出来ない。通信室もコントロール室も、内装は殆どシクトリーナと変わりがなかった。
コントロール室にはルーナの核が設置してあり、中央の島全体にルーナの結界が張られている。
通信室にはエリーゼらメイド通信隊のメンバーが出張してきた。ここで俺達にとって、いい意味で想定外のことがあった。
シクトリーナで【千里眼】の魔法を使うキャメリアがドライの領域でも魔法が使えたのだ。
恐らく塔に設置したルーナの核が影響しているのだろう。ルーナを含むシルキーメイド達は塔の中では能力が下がらなかった。この塔がシクトリーナと同じく、シルキーの家と判断されたのだろう。
ルーナの結界は中央の島だけなのだが、キャメリアの【千里眼】は四つの島まで――俺が結界を張る範囲までが有効範囲のようだ。俺はまだ魔法が完成してないから、結界を張ってないが、範囲自体は核の実験で既に設定していた。
俺の核は中央部からさらに上の階に設置予定だ。
正直あまり高い所に設置して欲しくないんだが、四つの島を上から結界を張るため、仕方がないそうだ。
同じく、四つの島に幻影魔法を使うラピスラズリは、一つ下の階の制御フロアで魔法を使うことになっている。
制御フロアは魔法を唱えるのに最適なフロアになっており、魔力の回復や、増幅、集中力を高めやすくなっている。これにより、二人は一日は無理でも半日以上は幻影を維持できるようになっていた。
こうなってみると、塔の完成はメリットだらけで、無理矢理にでも完成させて良かったが、流石に無理がたたった所為で、ドルク達錬金術師達はついに限界を越えた。
肉体的な疲労はエリクサーでいいんだが、今回は魔法の過度な使用のため、精神的な疲れが溜まったようだった。
その為、第三の島の開発途中だが、しばらく安美を取ることになった。
まぁどのみち、敵の偵察隊がやって来たら、念のため全員避難させる予定だったのだ。それが数日早くなっただけの話だ。
その為、ついでにドウェイン達にも数日間の休暇を取らせることにした。彼らには働いた分の給料を渡して、シクトリーナの城下町に連れていった。
本当はルーアンに帰りたかっただろうが、一応まだお務めの最中だ。問題を起こしても、すぐに対処出来るシクトリーナの方が望ましかった。それにシクトリーナなら、空いている宿泊寮があるから、寝泊まりにも困らない。
シクトリーナ城下町も最近では料理屋や娯楽も増えている。流石に色街はないが、そこは我慢してもらうしかない。彼らには一日だけだけど、温泉も開放するから、ゆっくりしてもらいたい。
――――
リカとヒミカから天使兵五百を乗せた飛行船が出発したと連絡が来た。
五百か……偵察だからだろうが、想像よりも少ない。だが、油断は禁物だ。何故なら全員が天使ってことは、最低でも魔力十万を超えてる可能性が高いってことだ。
一人一人がSランクの魔物よりも強いと考えると、五百もいたら、それだけで人間の国を征服出来そうな戦力だ。
まぁそれでもティアマトとテティスなら後れを取ることもない。むしろこちらの実力をアピールできる最高のデモンストレーションになるだろう。
二人からの出発の連絡後、同日中にカラーズ大陸から飛び立つ飛行船をテティスの配下のネーレーイスが目撃をした。
敵は真っすぐにこちらに向かってきているそうだ。進行スピードから、到着は三日後。休憩のために停船すれば、もっと遅くなるかもしれないらしい。
そっか、確かに三日間ずっと飛び続けるとは限らないよな。停船する場合って、海に着水することになるのか?
その際は、見張りのネーレーイスには、見つからないように、安全な所まで避難するように指示した。
なお、通信用に魔法で完璧な防水を施したケータイを渡してあったので、遠くからだが、船の写真を撮ってもらった。そこには、やはりというか――船が空を飛んでいた。本当に船が飛んでるとか……実際に見ると信じられない光景だな。
飛行船の周りには、常に天使が飛び回っていた。写真では小さくて見えにくいが、確かに鳥みたいなのが飛んでいるように見える。
カラーズ大陸の外に出たことで、人の目を憚らずに済むからだろう。ああやって、不審なものを探しているんだろうな。やっぱり、空飛ぶ魔物は近づかせなくて正解だったようだ。
このまま何事もなくドライまで来るのなら、空を飛んでいる天使達に気がつかれる前に、ラースに幻影魔法を唱えてもらわないといけないな。
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リカとヒミカは偵察隊到着予定の前日にやって来た。二人は案の定というか、城塞都市を見て驚いていた。まぁここだけ現代世界並みの技術に見えるだろうからな。
リカの足は治ってなかった。やはりヒミカでも治すことは無理だったようだ。
ヒミカはまだ治療を諦めてないようだったが、天使の力は回収させてもらう契約だ。天使の魔力で敵に見つかっては困るので、申し訳ないが、二人の英霊は回収させてもらった。
俺はデューテの体内からトールを追い出した要領で、難なく二人の体内から取り出すことに成功した。取り上げた英霊はバラキエルと同じように、二体とも玉手箱に閉じ込めた。玉手箱の中なら、英霊の魔力は漏れないようだし、安心だ。
今はバラキエルと同じく竜宮城に保管してある。
ヒミカとリカの二人は、天使の力が無くなっても、恐らく同じ魔法を使うことは可能だ。
スーラやリュートのように、属性が変わっても元の魔法を使えるのと同じように、体が覚えているはずだ。
ただし、融合していた分上乗せされた魔力は失う。そのため、威力はかなり低くなるだろう。
だから、仮にヒミカが魔法を完成させても、魔力が足らなくて、治すことは出来ない。
それでもリカはヒミカの魔法が完成するまで待つと言った。いつか、魔力が高くなり治してくれるのを信じて……。
俺達はリカに車イスを用意した。魔法結晶を内蔵して、可能な限り自由が効くようにしている。今後はこの車イスでの生活になるだろう。
あと、二人に関して、少し気になることがあった。天使の英霊を体内から追い出した後、雰囲気がガラリと変わったのだ。
なんか憑き物が落ちたというか……やはり天使との共存は、意識があっても、少なからず影響があったようだな。
二人の話は明日やって来る偵察隊を撃退してから考えよう。
それよりも、明日に備えて鋭気を養えることにしよう、




