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ロストカラーズ  作者: あすか
第二章 魔王城防衛
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第26話 交渉しよう

「おい貴様ら! 我らにこんなことをして、ただで済むとは思ってないだろうな!」


 城の牢屋で馬鹿ランディーが騒いでいる。……コイツは何でこんな状況でも強気なんだろう?


「いや、それはこっちの台詞だが? 勝手に人の縄張りに侵入して、しかも捕まって……ただで済むと思ってないよな?」


「ぐっ」


 脅しが効いたのかランディーは一瞬言葉に詰まる。


「お前達は赤の国を敵に回してどうする気だ!」


「いや、だからそれもこっちの台詞だから。何故赤の国は攻めてきたんだ? 俺達を敵に回してどうするんだ?」


 さっきから盛大なブーメランしか放ってないよなこいつ。


「攻めてない! 俺達はただの偵察で……それをお前達が襲ったんだろうが!」


「なぜ偵察が攻めないことにならないのか甚だ疑問だが……順番を間違えてもらっては困るな。先に命じて襲いかかってきたはそっちだろ? 言わば正当防衛第だよこれは」


「ええい! そもそも貴様ら魔族どもがこんな所に住んでいるのが間違っておるのだ! 素直に大人しく城を引き渡せば全滅は免れるかも知れんぞ!」


「ついに逆ギレか。もう何を言っても無駄だな。情報だけ手に入れたらこいつは処分しよう。情報の引き出しは頼んでいいか?」


「ええ、お任せください。手の空いているものにさせましょう」


 ルーナはすぐさま代わりのメイドを呼ぶように指示をする。


「なっ、拷問でもする気か! さすが野蛮な魔族のするようなことだ。だが拷問ごときで情報は洩らさんぞ!」


「野蛮なのはどっちだろうな? 拷問をするのは赤の国の方だろ? こっちは拷問なんてしなくても……」


 俺は牢の中に入りランディーの額に人差し指を当てる。【毒投与・自白剤】と頭の中で念じた。


「これでお前は嘘が吐けない。それに、こちらの質問には何でも答えるようになった。自分の意思とは別にな。意識だけはしっかりしているだろ? ああ、それからお前はしないと思うが、情報の隠匿のために、中には自殺しようとするものがいる。でも、この魔法には防衛機能が付いてるから、自殺も出来ない。だから安心して情報を提供してくれ」


 ランディーがなにやら叫ぼうとしている。あっ、伝えてなかったけど、うるさいので質問の答えしか声を出せないようになってるんだった。……まぁ面倒だから説明しなくてもいいよね。


「さて、お前の名前は?」


 ちゃんと効果があるか確かめるために、まずは知っている情報から確かめる。


「ランディー=ノーマンド」


 自分の意思とは関係なく出た声に驚愕するランディー。声は出せなくても感情の表現は出来るんだな。しかしコイツ……名字があるということは貴族だったのか。


「貴族か。道理でプライドだけ高いはずだ。ま、ランディーだっけ? その調子で色々と教えてくれよ?」


 俺はランディーに向かってニヤリと笑みを浮かべる。それを見てランディーの顔は真っ青になる。自殺もできない上に、自分の意思とは別に何でも話してしまうんだ。ようやく自分の立場を理解したようだ。俺はルーナに任せて、隣の牢にいる残りの二人の方へと向かった。



 ――――


 隣のランディーとのやり取りを聞いていたようで、二人の顔は既に真っ青だ。


「さて、君達二人はあの隊長とは違って、正直に話してくれると思っているんだけど?」


「何が聞きたいんだ?」


 抵抗は無駄だと分かっているのか、トオルが捕まえた方の男が答えた。


「お前はちゃんと話してくれそうだな。トオル、そっちは任せてもいいか?」


「本当は僕もそっちがいいんだけど……まぁ僕が捕まえたんだし仕方がないよね」


 トオルもBの魔法の方が興味があるみたいだ。不満のようだが一応納得してくれた。


「まぁまぁ、ちゃんと後で教えるから」


 トオルを宥めてBの方を向く。トオル達は一旦牢から離れて別の場所へ行くみたいだ。

 俺も隣にいるランディーに話を聞かれたくないので、隣の尋問室へBを連れて行くことにした。



 ――――


「さて、お前には色々と聞きたいことがある」


 俺がそう言ってもBは黙っていた。俺はしばらくの間、Bが話すのを待った。


「……一体何を聞きたいんだ? 言っておくが俺の情報なぞ他の二人と変わらないぞ」


 しばらく待った後、Bはそうぶっきらぼうに答える。

 ちょうどその時部屋の中にルーナが入ってきた。どうやらランディーを他のメイドに引き継いだようだ。


「まずは名前を聞こうか」


 いつまでも魔法使いBじゃ困るからな。


「……グリンだ」


「OK、グリンだな。お前に聞きたいのはお前の魔法についてだ。俺の属性を当てたよな?」


 グリンはその問いにやはりかと言った顔を浮かべる。


「俺を生かしたのはそれが知りたかったからだろう? 俺の魔法は対象が何の属性でどれくらいの魔力を所持しているかが分かる」


「グリンの属性は?」


「白だ」


 予想外の色に少し驚く。てっきりレアな色だと思ったのだが外れたようだ。しかしこれはこれで興味深い。


「一体どんなイメージをしたら白で他の人の情報が分かるようになるんだ?」


「属性検査カードは最初は白だろう? それをイメージした。白から魔力を通すと色が変わる。色の強弱で強さが分かる。……そのことから相手が魔力を使うと、今俺が持っている魔力検査カードが反応して、色が変わる。魔力の数値はカードに表示されている」


 世の中には変なイメージをする奴がいるんだな。しかし、要は魔力検査の要領で、自分の手元にある魔力検査カードに、相手の魔力の属性と魔力の数値が表示される。と、そこで今の会話に違和感を感じた。


「属性検査カードと魔力検査カードって違うものなのか?」


 俺は属性検査カードしか知らないぞ。言い方が違うだけなのか?


「俺の鎧の右側にある……そうそれだ。普通の属性検査カードは魔力の強さは色の強弱で大まかに分かるだろ。だがそれでは詳しい大きさは分からない。だがこの魔力検査カードは魔力の強弱は数字で表される」


 一応逃げ出さないように後ろ手に縛られているため、グリンの代わりに俺が鎧から魔力カードの束を取り出す。見た目は属性検査カードと何も変わらない。


「この魔力検査カードは数字で表示されるのか? 確かにそれは分かりやすいな。このカード自体はお前でなくても誰でも使えるのか?」


 グリンは頷く。


 よし、さっそく試してみよう。俺は一枚抜き取り、残りをルーナに渡す。俺は残ったその一枚に魔力を込める。

 すると魔力検査カードは紫になり、数字が浮き出てくる。


「へぇ。一万五千だってさ。さっき一万って聞いたけど……思ったより多かったな」


 俺の数字にグリンは驚愕と恐怖を混ぜたような目をこちらに向けてくる。まるで化け物を見るような目だ。


「それは現在の魔力の数字だ。さっきは一万二千だった。戦闘中で何回か魔法を使っていただろう? それで減っていたが、自動回復したんだ。それにしてもこの短時間で三千も回復するとは……本当に化け物か」


 要は最大MPではなく現在のMPが分かるのか。考えたら、こいつらが来る前にも訓練していたし、魔法も結構使ったよな。多分今も満タンではないし、もう少し上がるかな?


「うん、これは便利だな。このカードは赤の国では普通なのか?」


 普段城に引きこもってるだけだから、もしかしたら俺達が遅れているだけかもしれない。


「市場には出回っていない。一部王族が持っているくらいだ。他国から仕入れたようだが……他国ではそれが普通かどうかは分からない。少なくとも我が国ではこれを作る技術はない。俺は能力のおかげで特別に支給された。自分で作ることも不可能だ」


 他国では普通に出回ってる可能性があるのか。俺達だけでなく、赤の国も遅れている可能性もあると。


「これ……百枚くらいはあるな。まぁとりあえず十分か」


 このままでも百人は調べられる訳だしな。同じ人物だったら一枚のカードで上書きできるし、問題はないだろう。


「お前の能力は属性検査カードでも発動するのか?」


 もしこのカードが無くなったら属性検査カードで代用できないかな?


「ああ、だがその場合は色しかわからない。色で強弱なんてほとんど区別がつかないからな」


 そりゃそうか。数値が見えないと魅力は半減するけど……属性が分かるだけでも十分重宝はするな。


「何枚かこちらで預かり解析してみます。量産が出来るようでしたら、今後は量産していくように致します」


 ルーナがグリンに聞こえないようにこっそりと耳打ちしてくる。別にコソコソする必要はないと思うけど……まぁいいか。


「よろしく。あ、ルーナは今試してね。俺とどのくらいの力の差があるか知りたいから」


 模擬戦では全く手が届かないんだ。どれくらいの差があるか……ちょっとした好奇心だ。


「えっ? わたくしも調べるのですか? ……できれば遠慮したいところなんですが」


 珍しく俺のお願いを断ろうとするルーナ。でも、そこまで隠されるとやっぱり気になるじゃないか。


「ダメ。いつも実力隠してるじゃないか。城主として使用人の実力ははっきりしておく必要があります」


 使ったことがない命令権を発動してみる。するとルーナは観念したのか、呆れたようにため息を吐く。


「はぁ。こういう時だけ城主ぶるんですから。仕方がありませんが、あまり他の方には広めないでくださいまし。乙女の秘密でございますから」


 乙女って……あ、目付きが怖くなりそうなので何も言いません。はい。


「了解。ようやくルーナの強さの秘密が少しわかるのかな」


「本当はご自身の実力で知ってもらいたいのですけど?」


 そう言われるとちょっと困る。でも数値でみたいじゃないか。

 ルーナはすぐに測り終わって、魔力検査カードを渡してくれた。


 色は銀色、初めて見たがすごく鮮やかな色をしている。そして数字を見て…思わず二度見する。

 ひい、ふう、みい……うん、まず六桁あるのがおかしい気がする。俺は一万五千。五桁だったぞ。

 おかしいな一桁間違ってない?


「はぁっ!? 十七万!? 嘘でしょ? あれっ? 俺の数字って低すぎ?」


「ちょっと!? 口に出さないでくださいまし! はい、もう十分でしょう。さぁ早く尋問に戻りましょう」


 ルーナは慌てて俺からカードを取り上げる。おお、耳まで真っ赤だ。白い肌だからすごく目立つ。


「照れてるルーナは可愛いな」


 思わず口に出してしまった。瞬間、ルーナは赤かった顔がさらに赤くなる。顔から火が出るとはまさにこの様な時に使うのだろう。


「もう、からかわないで下さいまし! サクラ様に言いつけますよ!」


 もう少し見ていたい気がするが、これ以上はやめた方が良さそうだ。俺は男に目を向ける。


 グリンは俺たちをまるで別世界の生き物を見ているような顔をしている。


「ん? どうした?」


「十七万……だと? そんなの神話の世界の話じゃないのか!?」


 俺が思わず言ってしまった数字を聞いて、心底驚いているようだ。それよりも……十七万って神話クラスなの? いやいや、本当にルーナって何者だよ!


「ふっ、どうやら聞かれてしまったようだな。だが、その数字は忘れた方がいいぞ。じゃないと、そこの真っ赤になっているメイドさんが黙ってないからな」


 グリンは分かったと黙って何度も頷く。それに対してルーナはそっぽを向いている。ちょっと揶揄い過ぎたかな?


「それで……俺の数字にも驚いていたけど、基本人間の魔力はどのくらいなんだ?」


「一般市民が2二百、一般兵士で五百、魔法使いで千。将軍が三千。我が国最高の魔法使いでも五千がやっとだ。冒険者を測ったことはないが、兵士と比べたらBランクの冒険者が千、Aランクの上位で二千以上がいるらしい。とある国のSランクがこのカードを使用したときに一万を超えたことがあったと聞いた」


 思った以上に低かった。ってか、一般兵よりもBランクの冒険者の方が強いのかよ! って、兵にはDランク以上から慣れるって以前勉強した時に聞いたから、間違ってはないのか。

 それにしても……ルーナだけが化け物じみた魔力を保持してるのか? それとも他の魔族が多いのか? 要検証だな。


「その兵士の魔力は赤の国だけ? それとも他の国も同じくらい?」


「赤の国だけだな。ただ兵士の質はそんなに変わらないと思う。ただ将軍クラスのような一定以上の実力者は他の国に比べて圧倒的に少ないだろうな。我が国は五年前の魔力戦争で将軍クラスが大幅に減ってしまったのでな。オズワルド将軍以外は皆五年以内に新しくなった将軍だ」


 五年前の戦争の話はたまに聞くな。ソータがこっちに来た原因でもある戦争か。赤の国は負けたって聞いたけど、将軍クラスが全滅なら惨敗だったみたいだな。だからこそ魔王が死んだ今がチャンスとみて、再度占領を図り、戦力アップを図ろうとしたのだろう。


「ちなみにお前のように他人の能力が分かる魔法を使える人はいるのか?」


「赤の国では俺だけだ。冒険者や他の国のことは分からない。が、おそらくいるのではないか? 以前他国だが物の真贋が分かる男はいた」


 赤の国ではこいつだけか。やはり鑑定能力はかなり貴重だな。


「それで……お前はこれからどうしたい?」


「どう、とは? 死ぬ以外に選択肢があるのか? まさか人間を裏切って仲間になれとか言うまいな!」


 流石に裏切りはしたくないようだ。いや、魔族に協力したくないだけなのか?


「いや、こっちだって裏切るかもしれない奴を仲間になんか出来ない。そうじゃなくて、ここで死ぬか、生きて帰りたいかどっちがいい?」


「そりゃあ、生きて帰りたいさ。……そう言うってことは何か条件があるんだろう? さっきも言ったが俺は裏切らないぞ」


「裏切る必要はないさ。ただ貴方の能力はとても貴重だ。それを少し分けて貰えないか?」


 俺は魔法結晶が入った箱を取り出す。こいつは白だから白の魔法結晶か……あった。俺達の中で白を使う人はいないから全部使っても問題ない。今あるのは全部で五個か。


「この魔法結晶にお前の魔力でいっぱいにしろ。全て満タンに出来たらここから解放すると誓おう」


「……本当だろうな?」


「嘘は言わないさ。ただし、帰すといっても条件はある。まぁ条件と言っても、国に帰ってもこの城、そしてここであったことについて何も話さない。以上だ」


「約束を破ったらどうなる?」


「おいおい、破る気なのか? 一応は破られないように魔法は使わせてもらう。この城に関係することを口外したり、字を書いて伝えようとしたら死んでしまう呪いだ。なぁに約束さえ破らなければ、日常生活には何の支障もない魔法だ」


 グリンは少し考え……頷いた。


「……分かった。ただこちらからも条件がある」


「条件を出せる立場じゃないと思うけど……何?」


「残りの二人も一緒に解放してもらう」


 ルーナは三人を返すと侮られるって言ってたよな。それに、あの馬鹿(ランディー)は絶対に約束は守らなくて呪いで死ぬ未来しかみえない。


「隊長の方は無理だけど、もう一人なら構わない。ただし、同じように城のことは話さないようにしてもらうけど」


「帰還した後に全く話せないと、国に対して言い訳のしようがないが?」


 それもそうだ。こっちの利になる程度の話はしてもらわないといけない。


「じゃあ、この城の者にやられたってのは話していい。魔王の生死は分からなかった。あと必要になった場合のみ、俺の魔力値も言っていい。一万超えてたってな。さっきの話じゃそれで尻込みするだろう。あっ、くれぐれも属性は言わないように。紫って珍しいらしいからな。珍しい属性だって理由で攻めこまれたら堪ったもんじゃない。だから魔力値だけ。それだけなら恐れて攻めてこないでしょ。それ以外は口止めされてて喋れない。話すと死んでしまう呪いをかけられてるって言えばいい」


「もし断ればどうなる?」


「その時は隊長と一緒にここで死んでもらうだけだ。もちろんもう一人の男もだ。解放するのは魔法結晶に魔力を注いだ対価だというのを忘れるな」


「……分かった。その魔法結晶に魔力を込めればいいんだな。ただ、俺の魔力じゃ五つ全てを満タンにするには数日かかるぞ」


「構わない、他にも必要なものがあったら言ってくれ。魔力を注ぐ為ならいくらでも協力する」


 話は終わり、グリンを牢に戻す。トオルはまだ話しているようで、牢には戻ってきていない。

 仕方がないので、見張りをしているメイドに先に戻る旨を伝え、俺とルーナは一足先に会議室へと戻った。

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