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ロストカラーズ  作者: あすか
第二章 魔王城防衛
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第25話 どうするか考えよう

「シオン様、トオル様、お疲れ様でした。どうでしたか初戦闘は?」


 トオルの転移で城に戻るとルーナ達が出迎えてくれた。姉さんにヒカリ、シャルティエもいる。


「ああ、皆ただいま。流石に少し疲れたかな。戦闘自体はそこまで苦労はしなかったけど……」


 初めての実戦で人殺しだ。さっきまでは緊張や興奮もあって何も感じなかったが、皆の顔を見て緊張が解けたようだ。肉体的ではなく精神的に疲れを感じる。


「ええ、初めてにしては上出来だったと思います。実戦で初めて分かったこともあるでしょう。反省は今度にして、まずは休んでください」


 戻ってきた場所は訓練場だったが、そこにはテーブルと椅子が準備されていた。


「シオン、トオル、お疲れ。よく頑張ったわね。でも……」


「どうしたの姉さん?」


 珍しく姉さんが言い淀んでいる。


「貴方たち、今回の戦いでどう感じた? 私には二人が楽しんで戦っているように見えた。確かに毎日修行して、強くなったのを実感するのは楽しいものだと思うけど……私は貴方たちに殺人を楽しんでもらいたいわけじゃないの。別にこの世界で人を殺すなとは言わないし、こっちも覚悟を決めなさいとも言ったわ。さっきも送り出したしね。……でも、それは決して命を軽んじろと言っているわけではないの。ましてや快楽殺人者になれと言ったわけでもないわ。それを考えてみて今回の戦いはどう思った?」


 姉さんの言葉にヒカリも心配そうに見ている。

 俺たちが楽しそうに戦っていたように見えた。確かに戦っている時は自分がどれくらい強くなったか確かめたくて楽しんでいたと言える。しかし、それ以上に嫌悪感もあった。だが、それは見ただけでは分からないだろう。

 ……姉さんの目にも、もしかしたら何かが変わっていく、そんな風に見えてしまったのだろう。


「ナイフで人を切った感覚が今でも残ってるよ。狩りの時とは違って、正直あまり気持ちがいいものじゃなかった。いや、狩りの時も最初は気持ちがいいものじゃなかった。でも最近は慣れてきてあまり感じなくなっていた。殺人にしても、このまま慣れていかないか……そのうち何も考えず、もっと簡単に、それこそ理由もなく人を殺すんじゃないかって不安もある。そんな自分が今は怖いと思うけど、将来は何も感じないかもしれない。でも姉さん達の心配はありがたいと思う。姉さん達が俺を心配してくれる限り、俺はその心は忘れないと思う」


 別に快楽殺人者になりたい訳じゃない。むしろ殺さないに越したことはない。


「そうだね。確かに今回は僕も気持ちが昂ぶっていてあまり考えられなかったけど、サクラくんの言う通りだね。うん、僕ももう一度よく考えていくよ」


「シオン……トオルもありがとう。感情の維持なんて難しいと思う。でも、考えてくれるのはすごく嬉しい。私は二人がとても誇らしいわ」


 サクラは少し涙ぐんでいるようにも見える。俺は気がつかない振りをした。


「私も……正直ちょっと怖かったけど、二人のこと信じてるから。だから、今度からも絶対に無茶はしないで無事に帰ってきてね!」


 ヒカリの方は俺たちのことをずっと見守っていたようだ。こっちはすでに泣いていた後のようで目が赤く腫れている。


「大丈夫だって。もしケガしたらその時はヒカリに治してもらうから」


 俺は出来るだけ明るく言った。


「だから、ケガするような無茶しちゃダメなんだってば! でも……うん、ケガしたときは任せて! どんなケガでも全部治しちゃうから!」


 ヒカリは泣き顔のような、でも笑いながらそう言ってくれる。


「サクラ様とヒカリ様がいる限り、シオン様とトオル様が道を踏み外すことはなさそうですね」


 ルーナが微笑みながら言う。その中にはルーナも入ってるんだぞ。と、俺は心の中で呟いた。



 ――――


「それで、捕まえてきた者達はどうした?」


 少し落ち着いたところで、捕まえた三人について聞いた。


 捕虜にした三人は戻ってからすぐに、シャルティエが他のメイドと一緒に連れて行った。


「今は城の牢に入れております。もちろん魔法が使えないように処置済みです。あと、残った兵たちの死体ですが、こちらもメイド達が回収に行っております」


「そういえば今回は放置しちゃったけど、死体は今後どうすればいい?」


「城の敷地内でしたらメイドが処理を致しますので、命令していただければそれで構いません。もし、敷地外に行くことがございましたら、その時はまず装備品をはぎ取ります。鎧や剣、魔道具等、有用なものは出来るだけ回収した方がよいでしょう。理由としては、素材の確保と……アンデッド対策です」


「アンデッド対策?」


「ええ、もし死体がアンデッド化してしまうと装備したままの方が強くなってしまいます」


 ああ、そう言う意味ね。スケルトンやゾンビが装備した状態なのか素手なのか……随分と違うな。


「では、そのアンデッド化を防ぐ方法を教えます。基本は死体を浄化すればアンデッド化はしません。単純に埋めたり、放置すればアンデッド化する可能性は上がります」


 埋めるだけは危険なのか。ちゃんと浄化……ってどうやるんだ?


「普通は浄化の炎や回復系の魔法でしょうね。シオン様の魔法でも問題はないと思います。それらしい魔法を考えてみてください。また、魔法以外ではスライムに任せてもいいです。シオン様にはスーラさんもおりますからね。スライムなら骨まで全て食べてしまいますから、アンデッド化できません。今もメイド達はスライムを連れております。もし時間がなく、すぐにその場を離れないといけない場合はそのままでも仕方ないと思います。その場合は他の魔物などが勝手に処理することになるでしょう」


 肉食の魔物が食べるってことか。自然の摂理ってことでも、あまり考えたくはないな。


「了解。次は自分で処理をするよ。これも必要なことだからな」


「何事も経験が必要だと思います。それで……わたくし共も映像は拝見させてもらってましたが、声までは届いておりませんでした。戦闘の状況を聞かせていただけませんか?」


 戦闘自体は城の通信室で映像を見ることが出来るらしい。専門の魔法が使えるメイドがいるらしい。だが画像はドローンの写真よりも粗く、声も聞こえない。


 俺は戦闘時のことを説明した。

 特に魔法使いBが俺の属性を判別出来たこと、魔力値と言う単語を使用していたことははっきりと伝えた。


「他人の属性が分かる魔法か……ソータくんが存在はするって言ってたけど、かなりレアみたいだよね。鑑定系の能力は便利だから必須レベルで必要だと思うから、どうにかしたいね」


 トオルも鑑定の重要さを知っている。それが例え相手の属性くらいしか分からなくてもだ。


「それは……あの者を仲間にするということですか?」


 どうやら口調からしてルーナは不満げな様子だ。まぁ当然だろう。


「いや、出来ればそれはしたくない。俺達とは価値観が違いすぎる。赤の国の兵士だ、俺達異邦人も魔族も相容れないだろう。たとえ仲間にしてもいつ裏切るか分かったものじゃない。できれば能力の秘密を暴いて、俺たちが利用できるようにしたいのだが……」


 可哀想だが、捕虜の三人は情報を聞き出したら処刑する予定だ。現時点ではまだこちらの情報を漏らすわけにはいかない。



「他人の能力を使用できる方法はございます」


「本当か!?」


「ええ、第一にその者に魔法結晶を補充してもらう。そうすれば能力が分かる魔法が使えるはずです。シオン様が所持しているキューブを使えば確実でしょう。ですが、これだと魔法結晶の魔力がなくなる度に補充をしてもらわなくてはなりません」


 魔法結晶だけでも対象者の魔法が一つ使えるから問題はないだろう。それにキューブは俺とトオルの二個、姉さんとヒカリの二個がある。ただし魔力が切れたら補充か……ってことはBをこのままずっと捕虜にしていなければいけない。


「次の方法はコピー能力者から能力をコピーしてもらうことです。対象をコピーすることによって、コピー能力者が対象の魔法を使えます」


 コピー能力って……。


「ソータのラーニングみたいなものか?」


「いいえ、違います。コピー能力者はその人自身をコピーします。姿形魔法全てをです。コピーしている間はその人の能力が使えます。また、その人を登録していればコピーを解除しても、またいつでも同じ人のコピーすることができます。たとえコピー元が死んだとしても…。ただし、登録できる人数には限りがあるので他に登録したい人が出来れば登録から外さなくてはなりません。勿論登録から外すとその人にはなれなくなります」


「コピー魔法か。確かにそれならいけるかもな。だがそんな魔法を使える人がこの城にいるのか?」


 全てのメイドの魔法を知っているわけではないが、今までこんな魔法は聞いたことがない。


「一人だけ村人にいます。ゲンさんという、ドッペルゲンガーです」


 ドッペルゲンガーって、自分と似た顔をしている人を見ると死んでしまうってあの?


「えええっ!! ゲンさんってリャナンシーじゃなかったの!?」


 姉さんはどうやら知っていたようだ。ただ、リャナンシーって認識してたみたいだけど。普段はリャナンシーになってるのかな?

 しかし……ゲンさんって言われたら何となく厳つい男をイメージしてしまう。


「いつもの姿は、昔に村に住んでいたリャナンシーの姿なんです。それに、偶にドワーフやエルフの格好をしているときもあります。本人も自分の姿を忘れたと仰ってましたから、今となっては元が男性か女性かも分かりません」


「そうなの? ……今度ドワーフの格好も見せてもらおうかしら」


「それで……シオン様、如何されますか?」


「如何もなにも、まずは話を聞くしかないだろう。あの魔法使いが魔法結晶に魔力を補充してくれるのが一番だ。あと、そのゲンさんは協力してくれそうなのか?」


「ゲンさんに関してはおそらく協力はしてくれると思います。ただ登録の限界のこともございますので確実ではないかもしれません。それからあの魔法使いは条件次第ではないでしょうか?」


「条件?」


「例えば殺さずに解放するとかでしょうか?」


「だが、解放するとなるとこちらの秘密がバレるんじゃないか?」


【毒の契約】(カースコントラクト)を使えばよろしいじゃないですか? 話せない状態になれば解放しても何の問題もございません。寧ろメッセンジャーとして赤の国に警告出来るメリットもございます」


「あれ? 【毒の契約】(カースコントラクト)のことルーナに話したっけ?」


 まだ実験もしてない魔法だから内緒にしてたと思ったけど。


「魔法の名前と効果はアレーナから伺いました。ふふふ、わたくしも知らない魔法をアレーナが知っていたのには少しばかり嫉妬してしまいましたよ。随分と仲がよろしいのですね?」


 ルーナに加えて姉さんとヒカリの視線が突き刺さる。


 そういえば、ちょっと前に魔法の名前について話した気がする。その時は誰も知らない魔法だから優越感に浸れるぞって話をしたが……まさかこんなところで返ってくるとは。

 だが確かにいい方法かもしれない。【毒の契約】は相手がいないと使えなかったから、実験が出来るのは大きいな。


「じゃあ逃がしても特に問題はないってことか」


「むしろ、一人だけなら逃がした方がメリットが大きいかもしれませんね。誰も帰ってこないなら、その原因を調べるため再度派遣される可能性がございます」


 何も分からないよりも、帰ってきて危険を伝えた方が次の戦いを回避できる可能性が高いのか。


「じゃあ、三人とも逃がすのは?」


「それだと侮りの方が強くなります。今度は大部隊で攻めてくる可能性が強いでしょう。一人だけ、逃がされたという状況が望ましいと思います」


「確かにそう言われればそういう気がする。じゃあそれで行こうか」


 今後の方向性が決まったことで話し合いは終わった。俺とトオル、ルーナは捕虜の尋問へ。ヒカリとサクラはゲンさんの説得へそれぞれ向かうことにした。

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