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ロストカラーズ  作者: あすか
第六章 青に忍び寄る白
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第248話 冒険者を騙そう①

 俺は仮店舗から少し離れた場所にある、バルデス商会が借りている倉庫の一室に二人を連れて来ていた。

 倉庫の中には調味料など、バルデス商会で販売している商品が置いてある。ただし、ここから商品を補充するわけではない。ここはあくまでもフェイク。普段は仮店舗の奥から本店の倉庫へ転移して、商品の補充を行っている。

 この倉庫は今回のために、一晩かけて突貫で準備をした。商品も、表に見える一部分だけは本物だが、大半は偽物になっている。

 仮にヒミカ達がバルデス商会を襲う場合は、ここを真っ先に狙うことになるだろう。


 二人は倉庫内を興味深そうに観察していた。ここで質問を受けたら、また話が進まなそうだ。さっさと本題に入ることにしよう。


「それで? どのような理由で領主様にお会いしたいのですか?」


「ねぇねぇ。その前にぃ、さっきの飴。私にも戴けない? 代わりにぃ、今晩私を自由にしていいからさぁ」


 リカはなまめかしい声を出して、俺の手を取る。……これで誘惑しているつもりなのか? 流石に色気が足らないと思うが……。というより、やっぱり脇道に逸れるんだな。


「いえ、あれは非常に貴重なものですので……それよりも、そんなことに自分を安売りしない方がいいですよ?」


 俺がそういうと、リカが驚いた顔をする。てっきり『余計なお世話よ!』とか言われて、怒られると思ったのに……。


「……何ともないの?」


「えっ?」


 何ともない? 何? ドキドキするとでも思ってた? そりゃあ自分を過大評価……じゃなくて!?


「もしかして、何かしました?」


「えっ? そのー。はははっ、何でもないわ」


 コイツ……多分魅了か洗脳か……とにかく精神系の魔法を唱えたのだろう。男を誘惑して、欲しいものを手に入れるって感じかな。

 しかし、残念ながら、俺は一度姉さんに洗脳されてから、自動的に全ての状態異常を無効化する魔法を唱えてる。そのお陰で不老になってるんだけどね。

 ただ、それを説明する訳にはいかない。これはいつものやつかな。


「もし何かしたとしても、私には精神攻撃は効きませんよ。このペンダントが全ての状態異常を無効化しますから」


 俺は首にぶら下げてるペンダントを見せる。スミレから貰ったエルフのお守りだ。レムオンの時には自動防御の効果があるって誤魔化して、今回は状態異常無効化。本来の役目とは違うが、本当に便利なペンダントだ。


「随分と強力なペンダントね。今まで防がれたことはないんだけどな」


 どうやら信じてくれたようだ。まぁ魔法で防がれたよりも真実味があるからだろう。


「エルフの秘宝ですからね。強力なのは事実ですよ。それよりもどういうつもりですか? 大事な話のようなので、案内したのですが、どうやら勘違いだったようです」


 俺は少し苛立ちながら立ち上がる。


「あっ!? ちょっと待って。話があるのは本当なの! ほら、リカも謝って!」


「……ごめんなさい」


 リカは思いっきり不貞腐れた状態で謝る。……全く反省してないなコイツ。


「ちょっとぉ……。あの、シオンさん。この子、これでも謝ってるんです。本来なら絶対に声に出して謝ることなんてないんですから。だから……」


「……仕方がないですね。ヒミカさんに免じて、一度だけ目を瞑ります。ですが、二度目はないですからね」


 というか、許さないと話が進まない。ったく、面倒なことばかりするよな。


「ありがとうございます! じゃあ早速説明を……」


 俺の気が変わらないうちにとでも思ったのか、ヒミカは間を置かずに話し出す。


「昨日少しお話ししましたが、領主が取引している人が私達の同郷の可能性があるの。私達の故郷は特殊な故郷で……どうしてもその同郷の人に会いたいの!」


 ……これ。何も知らなかったから、信じていたかもしれない。それくらい真剣な目をしていた。

 いや、これは半分は本音かもしれない。


 彼女達は、今回、情報収集のために来たのかもしれない。でも、それとは別に、彼女達は今までに日本人に会ったことがないんじゃないか?

 だとしたら、例えスパイだとしても、日本人に会いたいという気持ちだけは本当かもしれないな。


「その……故郷というのは日本という場所なのですか?」


「ええ、そうよ。貴方は違うみたいだけど、貴方のような黒髪と、肌の色をしているわ」


 答えたのはヒミカでなく、リカの方だ。まだ俺を疑ってるのかな?


「……そういった事情があるのでしたら、領主様を紹介してあげたいのですが、少しタイミングが悪いかもしれません」


「どういうこと?」


「実は昨日領主様にお会いしたのですが、少し事件がありまして……しばらく時間が取れそうににないのです」


 さて、ここからが本番だ。


「そうなの……いつになったら時間が取れそうなの?」


「それはなんとも……犯人が早く捕まればいいのですが」


「犯人? なんだか物騒な話っぽいわね」


「ええ。……あっ、お二人も気をつけた方がいいかもしれませんよ」


「「えっ?」」


 いきなり気をつけろって言われて戸惑う二人。


「実は昨日、この町で女性が殺される事件がありまして……」


「「ええっ!?」」


 二人はかなり驚いている。だが、殺人事件なだけでは驚きすぎだ。きっと、この驚きは何でバレた? って驚きなんだろう。


「まぁ驚かれるのも無理はありませんよね。その女性……殺されたのは二人ですが、かなり無惨な殺され方だったらしくて……それで今は領主様が犯人を捜索しているのですよ」


「……無惨な殺され方って、どんな殺され方だったの?」


 リカが探るように尋ねる。確かリカがトビオを発見して死体を処理させたんだよな。近くに人はいないって言ってたし、何でバレたのか気になるんだろう。


「……あまり女性にお話しする内容ではないのですが、その……性的な暴行を受けた後で、バラバラにされていたと……。すいません。気分のいい話じゃなかったですよね」


「……それって町のどこら辺の話なの?」


「私が現場を見たわけではないので、詳しくは分かりませんが、ここからそう遠くない路地裏だそうですよ」


 昨日ラミリアが出て行った後に、現場を発見した。スーラの分身体が警察犬並みの嗅覚を発揮したらしい。現場は何も残ってなかったが、血の臭いがこびり付いていたらしい。状況は昨日の話で聞いていたから、それっぽいことを言うだけだ。


「……そうなんだ。私達はこの辺りに宿を取ってるんだけど、そんな話聞いてなかったから驚いたわ。そんな悲惨な事件があったらすぐに噂になりそうだけど?」


 ……意外と鋭いことを言う。


「それは、まだ公表してないからでしょう。現場には何も残されてなかったようですから、まずはちゃんとした証拠を見つけてからだそうです」


「何も残されてなかったのに事件があったことが分かるの? 誰か見てたってこと? でも、何も残ってないなら、その人の見間違いってことじゃ?」


「いえ、誰かが見ていたわけではないそうです。ですが……これはあまり話せないことなので、詳細は伏せさせて頂きますが、この町では、人が死ぬと分かる方法と、現場で何があったか読み取れる方法があるようなのです。そこで昨日二人が急に反応がなくなったので、その現場に行って、何があったか読み取ったら、大事件が起こっていたと……」


 ここは専門の魔法があるってことにすれば問題ないだろう。


「そぅ」


 リカは信じているのかいないのか……素っ気なく答える。


「今までこんな事件は……マフィアがいた頃ですら、なかったのようなのですが……。まぁすぐに犯人も見つかるでしょうから、犯人が見つかったら、多分領主様も時間がとれると思いますよ」


「すぐに見つかるの?」


「それはおそらく……としか言えません」


 ここはぼかした言い方をする。


「ですが、私達も従業員が女性中心なので、しばらく営業を控えようと思いまして……店も明日からしばらくお休みして、町を離れようと思っていたのですよ。既にお嬢様には先行して、この町を出ていってもらいました」


「さっき別件って言ってたけど……」


「あの時は、この話をする予定はありませんでしたからね。今日の営業が終了すれば私もお嬢様に合流する予定です。昨日お見せしたケータイで連絡が取れますから、すぐに合流出来ます」


「その……ケータイって、貴方とお嬢様しか持ってないの?」


「全部で三つですね。私とお嬢様と二代目が所持しています。どういう原理か分かりませんが、黄の国にいる二代目にもここからお話が出来るのですよ」


「じゃあ今はこの町には貴方が持ってる一つしかないの?」


「ええ、まぁ。この一つじゃ何の意味も持たないのですけどね。それに、充電? というのが必要らしくて、それをしないと、すぐに使えなくなってしまいます。そういえば昨日ヒミカさんが仰っていたスマホ……でしたか? それも充電が必要なのですか?」


「え、ええ。でも……充電ってどうやるの?」


「私は使えませんが、充電の魔法を使える従業員がいるのですよ。これを領主様から頂いたときに、その魔法も教えていただきました。これにしか使わない専用魔法なので、お二人には関係はないでしょうけどね」


「そ、そうね」


 こう言っておけば、詳しい話を聞きたくても聞けないはずだ。それに、奪おうとしても使えなくなるなら奪う必要は無くなる。これで諦めてくれればいいが……。


 さて、ここまでは予定通りに話が進んでいる。このあとはどうかな?



 ――――


 明日で四人には帰ってもらうもらう。


 昨日、盗聴の後で、トオルはそう言った。

 俺にはどうやって帰ってもらうか、見当も付かなかった。だってコイツらは情報収集に来たんだし、帰るときにはバルデス商会を襲うと言ってるんだ。何もせずにただで帰るわけないだろう。


 トオルの作戦では、まずは友好的に接する。

 翻訳飴の説明やら、余計なことも話してしまったが、これはクリア出来ただろう。


 次にトビオの悪行を暴露する。彼女らはバレていないと思うから、慌てるに違いない。ただし、ここでは犯人は分からないようにする。犯人が分かってるとなったら、開き直って暴れるかもしれない。

 多分、これもクリアできたのではないかと思う。あっ、ついでにホーキングと面会できないような方向に話を持っていくのも忘れない。


 そして、バルデス商会が撤退する旨を説明する。


 これにより彼女達がどういった行動をとるのか……。それ次第で次の選択肢が変わってくる。


 犯行がバレるのを防ぐために、町から離れる?

 やっぱり開き直って、領主を拉致するか、はたまた町で暴れ始めるか。

 プラナに連絡して指示を仰ぐって可能性も考えられる。


 でも、トオルの予想は……。


「ねぇ、貴方は、領主の取引相手のこと知らないの? どんなことでもいいの!」


 領主からでなく、俺から情報を得ようとする。まさに予想通りだ。


 最初に友好的に接してなかったら、この流れにはならなかったかもしれない。ってことだったけど、まさに予想通りだな。


「……仕方がありません。貴女方も真剣なご様子。それに、もう私が話したところでどうにもならないですしね」


「……どういうこと?」


「その取引相手は、もうこの町にいないからです。用事が済んだと帰られました。ですから、ここで会うことは出来ません。それでも聞きますか?」


「ええ、お願い」


 よし、第二段階の開始だな。

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