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ロストカラーズ  作者: あすか
第六章 青に忍び寄る白
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第247話 冒険者に接触しよう

 ヒミカ達の会話を盗聴した翌朝、俺はバルデス商会の仮店舗に来ていた。

 昨日の話だと、ヒミカとリカの二人が、朝一にここにやって来るはずだ。


 店には通常通りの営業をお願いしている。休業にして、下手に勘ぐられたくなかった。

 ただし、レンだけは店に連れてきていない。昨日の時点で俺がお嬢様扱いしたから、最重要人物と思われているはずだ。その為、危険だと判断した。


 それに、ケータイの件もある。彼女らは用件が済んだらスマホを奪う話をしていた。

 だが、レンがいなければ奪うことが出来ない。奪えないとなったら、襲うのを控えるかもしれない。

 仮にそれでも襲った場合、スマホを手に入れられなくなる可能性が高まる。それは彼女達としても、本意ではないだろう。


 レンは従業員だけ表に出て、自分は安全な場所にいるのを嫌がったが、こればかりは我慢してもらうしかない。

 レンの代わり……というか、いつもいるから、代わりではないかもしれないが、ミサキは店に出ていた。本当なら日本人の特徴のあるミサキにも隠れていて欲しかったんだが、流石に押し切られた。まぁ敵を店に入らせなければいいだけの話だ。


 一応、ミサキと従業員には、万が一に備えて、スーラの分身体と魔法結晶を渡している。

 スーラ本体ならともかく、分身体が名付き天使相手に、どれだけ守れるか分からない。

 ただ、攻撃の一回くらいは防いでくれるだろう。

 その間に、渡してあるトオルの魔法結晶で、転移してもらう。念じるだけで、勝手にバルデス商会本店に戻るように設定してある。少なくともこれで逃げることは出来るだろう。


 それでも流石に従業員はそわそわしている。そりゃあ攻めて来る訳じゃないけど、敵がやって来るのだ。緊張していても仕方がないだろう。


「皆シオンさんが来とるから、落ち着かんようや。シオンさん。売り場やのうて、皆の見えん所にいてや」


 ……どうやら敵に緊張している訳じゃなく、俺に緊張しているようだ。

 何故俺に? とも思わなくもないが、考えたら俺ってバルデス商会に取ったら出資者というか、オーナーというか、とにかく偉い立場の人って印象のようだ。一従業員が緊張する理由も理解できるな。

 ってことで、俺は店内じゃなく、店の外で待つことにした。



 ――――


 さて、店の外に出たものの、二人が来るまで何しよう?


(スーラ、まだ二人は来そうにないか?)


 腕輪状態のスーラに念話で確認する。昨日から分身体を付けているから、常に居場所が分かるはずだ。


《すぐそこまで来ているの》


 えっ? と思ったとき、昨日聞いた声が聞こえてきた。


「あっ! リカ、あの人よ!」


 声がした方を見ると、ヒミカとリカが歩いてこちらに向かってきていた。


「あれが……ホントに日本人じゃないの?」


「本人はそう言ってるけど……あっ! おはようございます!」


 俺が二人を見ていたのに気がついたのか、ヒミカが元気に挨拶する。


「おはようございます。貴女は昨日の……確かヒミカさん? でしたか?」


「あれっ? どうして私の名前を? 名乗りましたっけ?」


「いえ、名乗ってはいませんが、昨日大きな声で、名前を呼ばれていたじゃありませんか」


「あっ、そうでしたね」


 ヒミカは少し恥ずかしげに俯く。こうしていると、普通の女の子なんだけどな。


「おやっ? ですが、お連れの方は昨日の方……確かスバルさんでしたか? とは違いますね?」


「……昨日殆ど見てなかったと思いますけど、よく分かりますね?」


「職業柄、人の名前と顔は出来るだけ覚えるようにしてるんですよ」


 俺は飄々と嘯く。本当は人の顔と名前とか普段は全然覚えられないってのにな。

 リカの方は一歩前に出て軽くお辞儀をする。


「初めまして。私はリカ。貴方は……」


「申し遅れました。私はシオンと申します。このバルデス商会で護衛兼秘書をしています」


「護衛兼秘書……ですか?」


「ええ。お嬢様……昨日私と一緒にいた女性ですが、バルデス商会の創始者――バルデス様のご息女なんですよ。私の役目はお嬢様のお側で身の安全をお守りすることです」


「今は一緒にいないんですか?」


「お嬢様は現在別件でこの町を離れております。本来なら私も付いていく所ですが、どうしても離れることが出来なくて……代わりに別の者が護衛をしております」


 レンがこの町に居ないことを強調する。これでスマホがないことが分かったと思う。


「紹介主の娘さんがこんなところまで来るの?」


「元々店の方は息子のミハエル様に任せて、バルデス様は行商をしておりました。お嬢様もそれに同行されていたのです。ですが、残念なことに、バルデス様は数年前の赤の国滅亡事件に巻き込まれて亡くなってしまいました。お嬢様と私は何とか助かることが出来ましたが、バルデス様の後を継いで、お嬢様は今も行商をしておいでです」


「……なんか悪いこと聞いちゃったかしら?」


 リカはばつの悪そうな顔をする。


「別に構いませんよ。あの時、バルデス様を助けられなかったのは私が未熟だったせいですから。こう見えても私、一応Aランクの冒険者なんですよ」


 今でもたまに思う。もう少し早くたどり着いていたら、助けることが出来たんじゃないか? ……と。


「えっ!? 冒険者なの?」


「ええ、まぁ冒険者としての活動は殆どしておりませんけど。商業カードはお嬢様が持っているので、私には必要ありません。それよりも、冒険者の肩書きの方が役に立つことが多いんですよ」


「へぇ、よくそれでAランクになれたわね?」


「行商の移動中に現れた魔物を倒していましたら自然と……。それから、赤の国事件の最中、かなりの数のアンデッドを相手にしましたから。そこでそこでの功績も含まれていますね」


 俺は少し自嘲気味に言う。ちょっと過剰な演技かな?


「私のことよりも、今日はどうされたのです? もしかしてお客様でしたか!? それですと、申し訳ありませんが、並んでいただく必要があるんですが……お知り合いと言えども、皆様には公平にお買い物を楽しんで頂いておりますので」


「あっ、えっと……別に客じゃないの。実は貴方にお願いがあって……」


「お願い……ですか? それは商売に関することでしょうか?」


「確かに商売に関する……ことなのかな?」


 ヒミカは自信なさげにリカを見る。昨日の盗聴でも感じたが、スバルがワガママで愚直のリーダー。リカがパーティーの頭脳。ヒミカがちょうど中間って感じだった。


「シオン……さん? でいいかしら?」


「ええ、構いませんよ。リカ様」


「リカでいいわ」


「大事な取引相手にそんな……それではリカさんとお呼びしますね」


「別に私の呼び方は何でもいいけど……シオンさん。貴方本当は日本人なんでしょ?」


「いえ、昨日もヒミカさんにお伝えしましたが、私は日本という場所ではなく、黄の国から……」


「嘘っ! だって……私今日本語を話してるのに通用してるじゃない!」


「あっ本当だ!」


 リカがビシッと俺に向けて指差す。ヒミカは言われて初めて気がついたようだ。

 ってか、そんな罠を仕掛けていたなんて……意外と策士だな。全く気がつかなかった。


「えっ? そうなんですか? てっきり共通語を話していたと思いましたよ」


「で? これでもまだしらを切る気?」


「しらを切る……というか、私には皆さんが何の言葉を話しているかなんて、知らないんですよ」


「ちょっと。何で知らないのよ。流石にそれは無理があるわよ。それに貴方だって、日本語話してるじゃん」


 あっ、向こうにも日本語で聞こえるんだ。


「実は……あまり大きな声では言えないのですが、実は私はとある魔道具を持ってまして……その魔道具のお陰で、全ての言語が自動的に翻訳されてしまうんですよ」


 そのお陰で、俺は相手が何語で話しているかも、俺が何語で話しているかも分からない、だって自動的に翻訳するんだもん。


「はぁ? そんな魔道具聞いたことないわよ!」


「いえいえ、本当のなんですよ。えっと……これなんですが、この飴を舐めると、全ての声が共通語として聞こえ、私の声は、自動的に相手の理解できる言葉に変換できるんですよ。そして、声だけでなく文字も全ての言語……暗号まで解読できる優れものです」


「……嘘ついてない?」


 リカは俺に疑惑の目を向ける。


「いえいえ、本当ですよ。私には共通語やエルフやドワーフ、獣人は当然として、ゴブリンやオークなど、魔物の言葉も理解できます」


「えっ? 魔物まで? じゃあ……あの馬の言葉は?」


 リカは少し離れた場所に停車している馬車を指す。


「あれは魔物ではなく動物なので流石に……。ですが、魔石を持っている生き物なら大丈夫ですので、例えば……あっ、あそこにいる竜なら分かりますよ。話してみましょうか?」


 俺は馬車ではなく竜車の竜を指した。


「……竜と話したところで、私が理解できないから証拠にはならないわ。それよりも暗号も解読できるのよね?」


「ええ、知らない言語で書かれた暗号でも読めますよ」


「じゃあこれ読んでみて」


 リカは自分の剣先を地面に付けて何やら書き始めた。……暗号ってか、ただの落書きにしか見えない。


「……これ本当に暗号ですよね? 法則とかあるんですよね?」


「ええ、私が考えた暗号よ。適当に見えるかもしれないけど、ちゃんと法則性があるのよ。何? やっぱり読めないの?」


 リカが勝ち誇ったように言う。


「それが……私にもこんなパターンは初めてですので、驚いているんですが……ちゃんと読めるんですよ」


 見た目はミミズが這ったような適当な落書きでとてもじゃないが、文字には見えない。だが、俺には何て書いてあるか読めた。……ちゃんと文字として認識するんだ。


「本当に読めるの? でたらめ言ってない?」


「いえ、本当ですよ。なんなら読み上げて……って、これ本当に読み上げていいのですか?」


 そこに書いてある文字を読み上げるの、かなり恥ずかしいんだが。


「ねぇリカ。これ本当に暗号なの? 私には全く読めないんだけど……。そしてシオンさんの表情からなんか嫌な予感がするんだけど」


 俺が思わずヒミカを見てしまったせいか、ヒミカが不安そうにリカに問いただす。うん、その感は間違っていないぞ。


「……なんか本当に読めてるみたいね。でもフェイクかも知れないわ。いいわ、読み上げて頂戴」


 言われたから仕方なく読むけど……。


「十頭卑弥佳の初体験は高校二年生の夏。当時サッカー部の……」

「ちょちょちょっ!! 何言いだしてるのよ!!」


 ヒミカが顔を真っ赤にして俺の胸ぐらをつかむ。


「えっ? いや、ですから読み上げて良いか確認を……」


「良いわけないでしょうが! ちょっとリカ!? 何を書いて……ちょっと待って!? そもそも何で知ってるのよ!」


「驚いた……本当に読めるんだ」


 ヒミカがリカに詰め寄るが、リカの方は俺が本当に読めたことに驚いていた。まぁ俺だって驚いてるしな。


「ちょっとリカ……本気で怒るわよ」


「いや、だってさ。この人が本当に知らないことを書かないと意味がないじゃない」


「だからってこんなこと書かなくてもいいじゃない!!」


「他に思いつかなくて……ははっごめん」


 リカは笑いながら謝る。全然悪びれてない様子だ。


「それで、どうして知ってるの?」


「どうしても何も……当時、かなり噂になってたわよ」


「そんな……どこから広まったのよ」


 ガクリとヒミカは崩れ落ちる。……これ、俺悪くないよな?


「えと……では信じてもらえたようですし、これ以上は読まなくてもいいですよね?」


「ええ、流石に信じるわ」


「ちょっと待って!? 他に何が書いてあったの!?」


「それは……聞かない方が……」


 俺も言いたくないし。


「リカ……後で本当に締め上げるからね」


 おいおい、マジな殺気を出してるぞ。まぁ気がつかない振りするけど。


「いや、本当にごめん。そんなに怒るとは思わなかった。と言うか、本当に読めると思わなかっただけだけど」


「それで……結局用件は何でしょう? 何もなければ、そろそろ仕事に戻りたいのですが」


「あっ! 待って。さっきも言ったけど、実は貴方にお願いがあるの」


「私は日本人じゃないですよ?」


「それはどうでもいいの。実は私達、領主に会いたくて……。貴方が領主と取引しているって聞いたから、是非紹介してほしくて……」


「領主に……ですか? 一体どんな用件ですか?」


「それはここでは……。どこか人の少ないところで話せない?」


「……では、こちらの方へどうぞ」


 俺は二人を奥へと案内した。

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