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ロストカラーズ  作者: あすか
第六章 青に忍び寄る白
325/468

閑話 兵頭飛雄①

今回と次回は閑話になります。


また今回はそれ程ではありませんが、次回は若干の残酷な描写や性的な描写があります。

出来るだけ直接的な表現は控えていますが、苦手な人はご注意ください。

この閑話を読まなくても本編が分からなくなることはありませんので、明後日までお待ちいただけますと幸いです。

 この世界はクソゲーだ。


 運動神経がいい奴、勉強ができる奴、顔が良い奴だけがもてはやされる世界。

 俺のように運動が出来ない、頭もよくない。容姿なんて以ての外だ。俺はこのクラス……この学校では最底辺だった。

 毎日イジメられ蔑まれ……何故俺だけがこんな目に合わなければならなかったのか。本当にこの世界は残酷で理不尽なクソゲーだった。


 だが、ある時このクソゲーがバグった。

 授業中、突如激しい眩暈に襲われ、意識を失う直前に頭の中に声が響き渡る。


『お前は選ばれたのだ。その特別な力、それを使い、失われた大陸を元に戻すのだ』



 ――――


 気がつくと俺は全く見覚えのない部屋にいた。そして、目の前には見たこともない人物が立っている。明らかに日本人ではない顔。立派な法衣。そして意識がなくなる直前に聞こえた声。間違いない! 異世界召喚だ。

 漫画や小説によくある、異世界召喚が本当に起こったんだ。

 しかも、あの時聞いた声。それによると、俺には特別な力がある選ばれた存在らしい。心の中で狂喜乱舞した。


 だが、その喜びも長くは続かなかった。異世界に召喚されたのは俺だけでなく、一緒に召喚された人物が四人いた。

 神代昴(かみしろ すばる)十頭卑弥佳(とがしら ひみか)大江梨華(おおえ りか)。クラスの中でも特に苦手で嫌いな女子たちだ。チラチラと俺を見ては笑い、蔑んでいた。

 そして、もう一人が光河朔(こうが さく)。俺とは違い、勉強も運動も出来て、顔もいい。性格も良くて、クラスでも人気者。完全に勝ち組の男だ。


 何故この四人と俺が一緒に召喚されたのか? その答えはすぐに分かった。


「ふむ。……余計な者もついて来たようだがまあ良い」


 俺達を召喚したらしい男が、光河に向かって、そう話し掛けたからだ。


 考えてみれば、俺を含む今この場にいるのは、光河の席を中心に前後左右に座っていた。

 なんのことはない。あの時聞いた言葉は、光河に対する声だったのだ。俺は選ばれた存在ではなく、ただ巻き込まれただけの存在だった。

 先ほど喜びは一瞬にして霧散する。そして新たに湧き上がる感情は、光河への羨望、そして憎しみだった。



 ――――


 この世界――カラーズは、物語によく出てくる魔物や、魔法が使えるファンタジー世界だった。

 教皇はメタトロンらしい。ゲームでは最終盤に登場する有名な大天使だ。

 教皇の目的は失われた大陸の復活。その為には七大天使の力が必要らしい。


 その七大天使の一体、セラフィエルを復活させるために、適性者を召喚させた。それが光河だった。

 光河にはそのセラフィエルの力を授かることが出来るらしい。

 選ばれた七大天使の力を得て、失われた大陸を復活させる。まさに勇者のような役割だ。


 もちろん、ただ巻き込まれた俺にはそんな役割はない。


「其方らがこの世界で生きることが出来るよう、其方らにも天使の力を授けよう」


 ただし、俺と女子達にも天使の力は与えられるらしい。ただし、選ばれた七大天使ではないようだが。


「ほう、お主……人間の癖に面白い属性をしておるな。黒……か。本来なら忌々しい魔族にしか備わらない色……いや、ただの黒ではないようだ。この全てを吸い込みそうな黒……他の色に染まらない。さしずめ闇色とでも言うべきか」


 この世界では一人一色の属性があるそうだ。俺の色――闇色は人間には非常に珍しい色のようだ。しかし、どんなに珍しくても選ばれたのは俺じゃない。


「この属性なら……ふむ。試してみるか」


 どうやら教皇は俺で何か実験するらしい。俺がオマケだから、どうなってもいいんだろう。

 クソゲーから逃れた先はクソゲーだったってことだ。この世界に少しでも期待した俺が馬鹿だった。


 俺に用意された天使はアズラエル。死の天使の異名を持つらしい。

 アズラエル――俺が過去に遊んだゲームでは死神を名乗っていた。この世界ではどんな天使か知らないが、あまりいい予感はしない。


「今までこのアズラエルを入れて生き残った者はいない。……さて、貴様はどうか?」


 実験とは俺がアズラエルを受け入れることが出来るか? らしい。受け入れられなかったら死ぬだけか。俺なんか、死んでもいいってことだ。

 死にたくないから受け入れを拒絶したい。……しかし、俺がいくら拒絶しようとも、相手は天使だ。俺が敵うはずがない。そうこうしている内に、俺の体内にアズラエルが入ってきた……。


《死を……全ての生に死を……》


 頭の中に全てを憎むドス黒い感情と、声が流れてきた。声は止むことがなくずっと頭の中に囁き続ける。

 くそっ!? 何だこれは! この声を聞き続けているだけで、不安が押し寄せてくる。このままではその内発狂死してしまいそうだ。他の奴もきっと同じように死んでいったに違いない。

 何が全てに死をだ! 結局死ぬのは俺一人じゃないか。全てにって言うならこの場にいる全員を殺せよ!!


《……お前は全ての死を望むのか?》


 あっ? 頭の中に響く声が変わった? 全ての死を望むか? 当たり前だろ。俺だけが理不尽な目に遭うクソゲー。そんなの許せるはずがない。どうせ死ぬなら……俺の死を望むなら、全員を道連れにしろ!


《……貴様。気に入ったぞ》


 はぁ? 何を言い出すんだコイツは?


《今まで我を取り込もうとした輩は皆等しく、自分が死にたくないとしか思ってなかった。自分の死を対価に全ての物の死を望む者は初めてだ》


 ……それで? 気に入ったら殺さないのか? そんなわけないよな。


《貴様に我の力を貸そう。我の力を使い、貴様以外の全ての生に死を与えるがいい》


 俺が全てに死を……?


《そうだ。ただし、貴様が誰にも死を与えないようなら、我が貴様に死を与え、代わりに貴様の肉体を使い、全てに死を与える》


 ……本当に殺せる力をくれるんだろうな?


《無論だ。だが、我の力を使いこなせるかどうかは貴様次第だ》


 ……面白い。なら力を寄越せ! その力で俺が全てに死を与えてやる!

 俺の叫びと共にアズラエルが俺に同調し、混ざり合うのが分かる。こうして俺はアズラエルを取り込むことに成功した。


「よもやアズラエルを取り込むとは……これは思わぬ拾い物か?」


 教皇が驚嘆の声を出す。……どこまでも上から目線だ。今の俺は全ての生物に死を与える存在。コイツもいずれ俺の手で殺してやる。

 だが、今はまだ無理だ。俺はこの世界のことを何も知らないし、力の使い方も分からない。

 俺がこの世界のことを学んだら……俺を実験扱いしたことを後悔させながら、絶対に殺してやる。



 ――――


 それから俺はこの世界のこと、そしてアズラエルの能力について知ることが出来た。

 アズラエルの死を与える力……それを俺は魔法として放つことが出来た。

 俺が対象に向けて魔法を唱えるだけで対象者は死ぬ。まさしく最強の魔法だ。

 だが、勿論制限があった。俺の魔力よりも高い魔力を持つ者には効かない。

 そりゃそうだ。即死魔法が自分よりもレベルが高い敵やボスに効いたら、そのゲームはクソゲー以前の問題だ。

 いくらクソゲーの世界であっても、それだけは無理だった。


 それでもアズラエルを取り込んだ俺は、強くてニューゲーム状態。スタート時点で一般人よりもかなり強い魔力を保有していた。ただし現状、他の天使には遠く及ばない。

 決してアズラエルが弱いわけではない。単純に俺が弱いだけだ。レベル1の俺がアズラエルを上手く使えないだけ。俺自身を鍛える必要があった。


 ただ、ここでもアズラエルの隠れた能力が発揮することが出来た。アズラエルの能力で相手を殺すと、相手の魔力が俺の総魔力に加算されていく。そのため、俺は殺せば殺すほど強くなることが出来る訳だ。

 自分より弱い相手だけだが、魔法を唱えるだけで、相手が死に俺は相手の分強くなる。

 チマチマと経験値を集めてレベルを上げていくよりも、よっぽど簡単で楽だった。

 だが俺は現在、この国に現れる雑魚の魔物を殺すことしかしていない。


 俺が今住んでいる場所は聖教国――通称白の国と呼ばれる国だった。教皇はそこのトップ。

 そして俺と光河。その他の女子は、プラナという幹部の下に就くことになった。このプラナには七大天使のガブリエルが入っているらしい。現状まだ俺には敵わない相手だ。

 今は大人しく言うことを聞いて堪えるしかない。だが、俺が強くなればコイツもいずれ殺してやる。



 ――――


 こっちの世界に来て、二ヶ月が経った。俺は相変わらず魔物を倒しながら魔力を伸ばしている。


《貴様はいつになったら人間に死を与えるのだ? 魔物しか殺しておらぬではないか》


 俺の中にいるアズラエルは消滅したわけでなく、体内に残っていた。俺の体内に俺以外の存在がいる。嫌悪感しかないが、アズラエルがいないと力が使えない。我慢するしかなかった。

 アズラエルはこうやって偶にだが、頭の中に直接話し掛けてくることがある。


《人間を殺せないというなら貴様には用はない。体を我に明け渡すのだ》


 そう慌てるな。今はタイミングを見計らっているだけだ。それに……俺は最初に殺す人物は既に決めていた。

 光河朔――俺の最初のターゲットは奴だ。


 光河は俺や女子どもと違い、まだ天使を貰ってない。

 俺や女子どもは、すぐに天使を与えられた。だが、光河は違う。確実に天使を宿す必要がある。その為、まず光河自身が強くなる必要があるらしい。ある程度強くはないと、天使の力に負けて、天使を宿せない可能性があるらしい。

 つくづく俺は運が良かっただけらしい。あと女子どもの三人も……アズラエルよりは死ぬ確率は低かったようだが、魔力もない状態で天使を取り込むのは死のリスクが多少はあったらしい。ったく、取り込みに失敗して死ねば良かったのに。


 光河には、英才教育を施されており、殺すチャンスどころか、合う機会すら殆どない。その為俺はいつまでも人を殺せずにいたのだ。


 そして、いくら力を手に入れても俺は底辺のままだった。

 日本から来た女子どもは、相変わらず俺を蔑み笑う。天使の力を手に入れても、特に何もせずに、光河の追っかけをしているだけだ。

 今や俺の方が光河よりも強いはずなのに……何故蔑まれなくてはならないのか。

 いっそのこと先に三人を殺して……いや、やはり記念すべき一人目は光河がいい。その時まで我慢するんだ。


 それに、蔑んでいるのは三人だけではなかった。ここに住んでいる教徒ども。彼らまで俺を馬鹿にする。

 教徒どもは名付きの天使すら与えられないくせに……。七大天使の光河と、嫌われものの死の天使――アズラエルを宿した俺を比べて嘲笑う。

 光河を殺した後は、コイツらも一人残らず殺してやる。



 ――――


 ある時、近隣の森にアンデッドの群れが現れた。

 この聖教国において、それは脅威ではない。何故ならアンデッドはまさに相性のいい格好の存在。


 今まで訓練をしていた光河にとって、初めての実戦を経験するのに丁度いい相手だった。

 光河は数人のアークエンジェルと共に、魔物退治に向かった。


 この中には俺も参加していた。アズラエルはアークエンジェルの中でも名付きのため、上位の存在扱いされてはいるが、光河の知り合いだからというだけで、無理やり参加させられたのだ。


 だが、これは俺にとっても非常にありがたい。ついに光河を殺す最大のチャンスがやって来たのだ。


 今回出現したアンデッドは人型ではなく、獣のアンデッドだった。その中で一体だけ異質な存在がいた。


「サク様。あれは悪霊の集合体――レギオンです」


 アークエンジェルの一人が説明する。レギオンはいくつかのウィルオウィスプが集まって一つになった魔物だ。

 レギオンか……身代わり(スケープゴート)には丁度いいかもしれない。


 俺は光河ともアークエンジェルとも一歩引いた場所に待機した。

 彼らも上に言われて仕方なく俺を連れてきたが、元々光河派閥。俺のことは嫌っているようで、空気のような扱いだ。その為、戦わなくても誰も咎めない。むしろ邪魔しないで助かると思っていそうだ。


 俺の魔法の効果は誰も知らない。だから、ここから光河に対して魔法を唱えても誰も気がつかない。

 俺は光河がレギオンに襲い掛かったタイミングで魔法を発動した。瞬間、レギオンを前にして、光河の体が倒れていく。


「「はっ?」」


 突然倒れた光河に訳の分からないと呆けるアークエンジェルたち。


「レギオンの中に魂喰い(ソウルイーター)がいたんだ」


 アークエンジェルに辛うじて聞こえる程度の声を出す。


「なっ!? 魂喰い(ソウルイーター)だと!」


 魂喰い(ソウルイーター)――ウィルオウィスプのレア種で、Sランクの魔物認定されている。

 その名の通り、相手の魂を食べる特殊な魔物だ。

 見た目はウィルオウィスプと区別がつかない。魂を食われて初めて魂喰い(ソウルイーター)だと気がつく。

 レア種の為、見かけることは殆どないし、脅威となるのは魂を食う魔法のみ。それも有効範囲はそれ程長くない。そしてそれ以外の能力はウィルオウィスプと大差がない。

 元々ウィルオウィスプは肉体を持たないし、離れてさえいれば、そこまで脅威ではない。損じさえ認識すれば、Sランクの中では最弱と言ってもいい部類だった。


 もちろん、魂喰い(ソウルイーター)がいるなんて、俺のでっち上げ。Sランクの魂喰い(ソウルイーター)も、レギオンになっていれば、討伐履歴はBランクのレギオンになる。その為、真偽は分からない。ただ、レギオンに近づいた光河が突然死んだ。その事実だけが残った。


 俺は離れていたし、誰も俺の魔法の効果は知らない。誰も俺の仕業だと気がつかないだろう。

 アークエンジェルどもはレギオンと残りのアンデッドを殲滅し、光河の亡骸を持って帰還した。

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