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ロストカラーズ  作者: あすか
第六章 青に忍び寄る白
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第245話 冒険者の会話を盗聴しよう②

『ヒミカはスマホを持ってる怪しい人間の情報、私はバルデス商会の情報。それで、スバルはどんな情報を仕入れてきたの?』


 四人の休憩が終わったようで、話し合いが再開した。が、早速リカがスバルを挑発する。頭冷やすために求刑したのに、何でいきなり喧嘩腰になるんだよ!


『私はマフィアが壊滅した状況を調べて来たわ』


 スバルは特に気にした様子はない。挑発っぽいと思ったけど、これが彼女達の平常運転みたいだな。

 どうやらスバルは住民からマフィア事件の話を聞いていたようだ。恐らく一連の話は伝令の天使が伝えているのだろうが、それは門番から聞いた話だけ。スバルは色々と聞き込みをしたようで、避難所の話と、紫の煙のことを知っていた。流石に住民にまで口止めは出来ないから聞き込みをすればすぐにバレるか。


『紫の煙って……毒ガスかしら?』


『ってか、毒ガスごときで死んじゃうなんて情けない。ホムンクルスとエンジェルって本当に大したことないのね』


 ん? ってことは、少なくともこの四人はアークエンジェル以上が宿っているのが確定したな。


『バカね。死体が二つしかないってことは、別の方法で死んでるんでしょ。誰が殺したかまでは知らないけどね。紫の煙はフェイクでしょ。それで、怪しい人物の目撃証言はなかったの?』


 よかった。フェイク扱いしてくれた。


『一人だけ、すごく怪しい人がいたんだけど……私達が探している船の関係者で、マフィアが全滅する前に追いかけ回していた人。でも……』


 あっ、これ、間違いなく俺だな。


『何よ。歯切れが悪いわね。聞く限り、その人が本命じゃない。船の関係者ってのは確かなの?』


『それは間違いないみたい。領主と一緒に船の使用許可を貰うところを見ている人が何人もいたし、実際にその人が船を取り出すところを見た人もいたけど……』


『ちょっと待って、取り出すって何? 船が停船してたんじゃないの?』


『それが、そうじゃないのよ。その男が海に何か投げたら、何もなかった場所に、巨大な船が現れて、中からメイドが出てきたって……』


 まぁあの場には遠巻きに結構な数の人が見ていたからな。【物体交換】を使う所は勿論、イチカの姿を目撃されていてもおかしくない。


『はぁ? 何バカなことを言ってるの? そんなことあるわけないじゃない』


『そう言われると思ったから言いたくなかったのよ! でも、一人や二人じゃなくて、かなりの人がそれを目撃してるって言うんだもん!』


『魔法……かな?』


『えっ? ヒミカは何か分かるの?』


『いや、私にも分からないけど、何か投げたんでしょ? 例えば大きさを自由に変更できる魔法が使えたら、そういうことも出来るんじゃない?』


 確かに状況を聞く限りだと可能性が最も高いように聞こえる。【物体交換】なんて気がつくはずないよな。


『巨大な船をオモチャみたい小さくして、持ち歩いてたってこと? そんな魔法、何色だったら可能なのよ!』


『だから分からないって言ってるでしょ! それに文句を言うなら他にどんな方法があるか言ってみなさいよ!』


 あーあ、また喧嘩が始まろうとしてる。さっきはスバルとリカで、今度はヒミカとスバルか。コイツら本当に仲が悪いな。


『あー! もう! 話が進まないじゃない。船の話は一旦置いときましょ』


 今度はリカが取り成す。


『それで、その怪しい人について、他に何か分からないの?』


『それが、マフィアが壊滅したあと、パッタリと姿を見せなくなったそうよ』


 ん? あれれ?


「なぁシオンさん。シオンさんって今日もレンと町を歩いとったよな?」


 ミサキが小声で聞いてくる。


「ああ、それに今日だけでなく、結構ぶらついてると思うぞ」


 ここ数日は町をぶらついてるし、合間合間にもルーアンに来ていた。住民と話はしてないけど、結構人にも目撃されているはず。……もしかして、俺のことじゃないのか?

 でも、マフィアと揉めて、商業ギルドで船の許可をもらって、船を出したのは全部俺だぞ?


『その人が初めて現れたのが、船が目撃される前日で、冒険者ギルドでマフィアと揉めたらしいわ』


 うん、やっぱり俺だ。


『その人の名前は分からないの?』


『名前を知ってるのは揉めたマフィアと受付くらいだって。マフィアは全員捕まっちゃったし、受付は守秘義務……とか言って話してくれないし』


「そうなの?」


 俺は思わずカタリナに尋ねた。


「今回は私が対応した訳じゃないですけど、基本的に冒険者の情報は流しませんよ」


 そっか。クリスも言ってたけど、ギルドは信用第一だもんな。簡単に話していたら、俺の正体なんて黄の国で速攻バレているぞ。


『んで、最後に目撃されたのが、マフィアが壊滅したときに住民が避難した避難所。そこで配給を受け取ろうと並んでいたところを、追い返されたらしいわ』


 えっ? そんなことまで聞き込んでるの? ってか、住民も見知らぬ冒険者にそんなこと話すなよ。


『確か船が目撃されたのと、マフィアが壊滅したのって、別の日よね?』


『確か数日の誤差があるって聞いたよ。何日前かまでは覚えている人はいなかったけど』


『ってことは、ますますその人が怪しいわね。船はないのにマフィア壊滅までいたんだから……その人は何で配給を受け取れなかったの?』


『理由を人はいなかったけど、そこを仕切っていた人に叩かれて追い出されたって言ってたから、関係者じゃない?』


『ちょっと待って、避難所のスタッフと、その人が関係者なの? じゃあ完全に事故じゃなくて、計画的にマフィアわ壊滅させてるじゃない!』


 ……そりゃあそこまで情報があったらバレるよな。


『ねぇそのスタッフは何者なの?』


『……さっき話していた、バルデス商会の人間よ』


『もう決まりじゃない! バルデス商会が、船の関係者と繋がっていて、マフィアを壊滅させた。もしかしたら、さっきヒミカが話していた男がその人かも?』


 まさにその通りなんですけど……。


『それはないでしょ。だってその後から目撃者がいないんだから。普通に歩いているわけないでしょ』


 普通に歩いてるんですが……。


『そっか。ねぇ、その人はどんな人なの?』


『スライム』


『はっ?』


『常にスライムを肩に乗せている人なんだって』


『……何その人。何でスライムを肩に乗せてるの?』


『知らないわよ。あれじゃない? スライムしか友達がいないんじゃないの?』


 くそっ……散々な言われようだ。友達くらい……いるもん。


「なぁ、シオンさん」


 またミサキが声をかけてくる。でも今度は少し笑いを堪えているようにも見える。


「なんだ?」


「シオンさん。スーラさんがおらんから、皆に気づかれてないんじゃ……」


 はっ!? そうだ、確かに避難所以降、町中はスーラは腕輪になっていた。

 理由としては目立つ特徴を回避したかったから、目的自体は間違ってないけど……住民全てに、別人扱いされるのは予想外って言うか、悲しいものがあるぞ。


「あーっははは! シオンさん。スーラさんがおらんと顔まで忘れられて……もういっそのことスーラさんが本体を名乗ってもええんちゃう?」


 おい、爆笑しすぎだろ。正直今回は助かったけど、それ以上に凹んでるんだぞ。


「二人とも静かにしてください。聞こえないでしょ!」


 うるさくしているのはミサキだけなのに何故か俺まで怒られる。全くもって理不尽だ。ただ、ミサキの方はラミリアに追加で後頭部に拳骨をもらっていた。あれは痛そうだ。


「うおぉぉ……。ら、ラミやん。げんこは反則やろ。せめて手刀やろそこは……」


 ミサキは頭を押さえながら悶絶する。大声を出さないのは追加攻撃を受けないためだろう。うん、ちょっとスッキリした。


 ラミリアはそのまま画面の方に戻る。俺も画面に戻ろうっと。


『とりあえず、エンジェルを倒したスライム男はもういないようだけど、これからどうするの?』


 どうやらあまり話は進んでいないようだ。しかし、ついにスライム男って、俺自身がスライムみたいになってしまったな。


『とりあえず、予定通り領主に話を聞きましょう。多分全て知ってるでしょ。問題はどうやって接触するか……』


『領主の屋敷とか大した警備なんかいなさそうだし、拐っちゃえばいいんじゃない?』


 おいおい、かなり物騒だな。


『それは最後の手段よ。プラナ様に穏便にしなさいって言われてるでしょ。事を荒立てたら駄目だって。領主がいなくなったら、それだけで大騒ぎになるわよ』


 おっ、プラナの名前が出てきた。これでコイツらがプラナの部下なのが確定したな。にしても、プラナか。ガブリエルではないんだな。外部にガブリエルの名前が出ないように配慮してるのかな?


『じゃあどうするの? 私達が領主に会おうとしても、Bランクの冒険者程度じゃ、多分会ってくれないわよ?』


『バルデス商会を利用するのはどう?』


『バルデス商会の関係者を拉致して脅すってこと?』


 このスバルってのは一々過激だな。コイツがリーダーで本当にいいのか?


『だから穏便にって言ってるでしょ! 普通に交渉すればいいのよ! 彼らは日本製の商品を売ってるのよ。私達はその日本の知識を知ってるんだから、話は聞いてくれるはずよ』


『でも、さっきの二人は日本のこと知らなかったんでしょ? それに逃げられるくらいだから、話は聞いてくれないと思うけどな。それより脅す方が簡単でいいと思うけど』


『それで、逃げられたり、証拠隠滅されたらどうするの? 下手したら私達が粛正されるわよ』


『……分かったわよ。でも、そこまで言うんだからヒミカがやりなさいよ。一回接触したんだし、問題ないでしょ』


『ちょっと! 私一人に任せる気? スバルはその間何をするの?』


『いいよヒミカ。私が付き合ってあげるから』


『リカ。……まぁ二人ならいいか』


『じゃあ私は付き合わなくていいのね?』


『その代わり、スバルはトビオの見張りを頼むわね』


『はあっ!? ちょっと! 何で私が兵頭の見張りをしないといけないのよ!』


『だって私とヒミカはバルデス商会に行くんだもの。残ってるのはスバルしかいないじゃない』


『別にこんな奴、放っておけばいいじゃない』


『スバル。さっき私達が別れて情報収集してたとき、コイツが何してるか知ってる?』


『知るわけないじゃん。どうせ誰にも話しかけられなくて…………まさかっ!?』


 スバルの目が画面越しにも驚いているのが分かる。


『そう、私が会ったときにはもう二人が犠牲になってた』


 犠牲に? なんだ? くそっ、なんだか嫌な予感がする。


『兵頭! この町では大人しくしてなさいって言ったでしょ! 何で町に入ってたった数時間で二人も殺してるのよ!』


「なっ!? 殺し……」


 この町で既に二人が死んでいる?

 俺はラミリアの方を見た。そして互いに頷く。


「スーラ、分身体を一体出してくれ」


《えっ? いいけど何するの》


 疑問を抱きながらもスーラは一体の分身体を出す。俺はそれを掴みラミリアに投げる。


《ちょっと!? もっと丁寧に扱うの!》


「スーラさん、すいません。お借りします」


 スーラはラミリアに言ったのではなく、俺に言ったんだけど……ラミリアはスーラに謝罪だけして部屋を出ていく。

 俺はモニターに戻ることにした。


 画面ではスバルがトビオを糾弾していた。


「なぁシオンさん、今ラミやんとどんなやり取りがあったん?」


 いつの間にか復活していたミサキが質問する。今はそんな話をしている場合じゃないだろ。


「ああ、町の警備をしていたラミリアに、異変があったか聞いたら知らないって。変わったことも報告も聞いてないから、大至急調査するって。だから、裏通りとか、死角を探すためにスーラの分身体を貸してくれって言われたから、貸しただけだ」


 俺は画面から目を逸らさずに簡潔に説明した。


「……何であの一瞬で、そこまで分かるん?」


 いや、今のは分かりやすかっただろ。っと、流石にこれ以上説明する気はない。


『うるさいな! お前らだって似たようなことしてるじゃないか!』


『アンタみたいな異常な行為と一緒にしないでよ! それにどんなに胸糞の悪い行動でも、他の町じゃ何も言ってないでしょ! でもこの町じゃ、まだ騒ぎを起こすなって言ってるの!』


『あーもう、分かったよ!』


 そう言いながらトビオが立ち上がる。


『ちょっと、どこ行くのよ?』


『部屋に戻る』


『本当に分かってるの!! いいこと、絶対にこれ以上やらかさないでよ! この宿の従業員に手を出すのも駄目だからね!』


 スバルの叫びに返事どころか、一瞥もせずに部屋を出ていく。


「スーラ、トビオに分身体は?」


《既に四人に付けてるの!》


 流石だな。にしても、コイツら……様子を見るとか泳がせるとか言ってる場合じゃないな。今すぐに取り押さえた方がいいかもしれない。

 ったく、ガブリエルめ。とんでもない奴等を寄越しやがったな。

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