第243話 冒険者の正体を探ろう
俺とレンは、急いでホーキングの屋敷に向かった。この町では集まるには広くて便利な場所だ。
……本来なら領主の屋敷なんて、アポがないと絶対に入れないだろうけどね。
レンにはラミリアに連絡をお願いし、俺はさっきの二人の動向を探ることにした。
「スーラ、二人にちゃんと尾行はつけたか?」
《もちろんなの。ちゃんと分からないように靴の踵に分身体を付けてるの。会話も盗聴できるの》
「本当か! すぐに聞けるか?」
《流石にトオルちゃんみたいに音声出力は出来ないから、私が通訳するの》
そう言って、スーラは分身体を二体作る。それが変形して人の形になり……。スーラの人形劇が始まった。
――――
『ちょっとスバルのせいで逃げられちゃったじゃない!』
『何よ、見かけたから声を掛けただけでしょ。それに、逃げられたって……どうせ大した情報なんて持ってなかったんでしょ』
『……スマホを持ってた』
『はぁ? ……スマホって、あの?』
『うん、しかも繋がるみたいだった』
『繋がるって……電波ないでしょ?』
『魔法結晶が電波の代わりをしていたみたい』
『はぁ……よくそんなこと考え付くわね。って!? じゃあさっきの二人は地球人なの? 確かに見た目は日本人っぽかったけど……まさか本当に日本人?』
『ううん。随分と怪しかったけど、本人は否定してた』
『否定って……スマホ持ってるのに誤魔化せないでしょ!』
『本人は、この町の領主から貰ったって言ってたけど……』
『この町の領主って今回のターゲットの?』
『ちょっと!? こんなところでターゲットなんて言わないでよ。誰が聞いてるか分からないのよ』
『えっ? ……それを言うなら、この会話自体、ここで話しちゃ駄目じゃない。でも、随分と重要な話ね。あの二人名前は何て言うの?』
『知らないわよ』
『はっ?』
『だから知らないの! どこの誰かも分からないわよ! 分かってるのは、どこかの商人ってことだけ。あと、男の方が女の方を、お嬢様って呼んでた』
『ちょっと! 何で聞かないのよ』
『聞く前にスバルが話しかけたから、逃げられたんじゃないの』
『名前くらい最初に聞きなさいよ。……で、これからどうする?』
『一旦リカとトビオと合流しましょ』
『そうね。……ヒョウドウはちゃんと情報収集したのかしら?』
『さあ? 当てにする方が間違ってるんじゃない?』
『あーあ。大体、何であんな奴と一緒に行動しなくちゃならないのよ』
『仕方ないでしょ。生き残ってるのは、私達四人しかいないんだから』
『それよ! 何でサク君が死んで、ヒョウドウが生き残ったんだろ。絶対あの時何かあったよね?』
『あんまり疑わない方がいいよ。それよりも戻りましょ』
――――
《で、このあと歩き始めたの。今は特に話してないの》
スーラの人形劇が終了した。
二体のスーラ人形はまるで生きているかのように器用に動いていた。まぁ形は人間なのだが、色は全身青紫色だし、声は出ずにスーラの念話だったけど。
でも、念話でも区別をつけていたようだし、ちゃんと口調まで再現していたようだ。ってか、スーラも頑張れば普通のしゃべり方が出来るんだな。いつもの『なの』口調はリンみたいにキャラ作りだったってことだ。まぁそれを指摘すると怒りそうなので言わないが。
「今の話だと、後二人仲間がいるみたいだな。リカとトビオか。トビオが男で、多分ヒョウドウって奴だろう」
名字が判明したのは一人だけ。兵藤? それとも兵頭かな?
《なんか随分と嫌われてたみたいなの》
確かにトビオはかなり嫌われているようだ。特にスバルの方がかなり嫌ってたみたいだな。
ヒミカの方は名字じゃなくて名前で呼んでたし、そこまで嫌ってないのかな?
「もう一人のリカも名前から女っぽいし、三人女性の中に一人だけ男がいたら、アウェーなんじゃない?」
女性の中に一人男がいたら居場所がないのは実体験済みだ。
《でも、本当ならもう一人男の人がいたみたいなの》
「ああ、サクって言ってたな。死んだみたいだけど、不自然な死って感じみたいだな」
あの時何かあった? みたいなことを言っていた。その時に生き残ったのがトビオ。それでスバルはトビオを疑っていて、嫌ってるのかな?
《シオンちゃん。どうするの?》
「とりあえずトオルたちに連絡だな。あと、カタリナにも話が聞きたい。ヒミカとスバルの格好は完全に冒険者だった。この町のギルドに顔を出している可能性が高い」
《そうじゃなくて……戦うの?》
彼女らはホーキングがターゲットって言っていた。
「スーラ。ヒミカの属性はキラキラしてたんだよな?」
一応さっき見せてもらったけど、念のためもう一度確認する。
《そうなの。キラキラしてたの。あと、白が混じってたの。後から来た子もキラキラしてたの》
そういえば、スバルの方は確認してなかったな。そっか、二人ともキラキラしてるのか。……なら四人全員と考えた方が良さそうだな。
「ってことは、やっぱり彼女達がガブリエルの偵察隊で間違いないだろう。ってことは、俺達の敵だ」
白が混じったキラキラなら間違いなく天使が中に入ってる。
しかも、ケインのように自我を失ったり、洗脳を受けている様子もない。
ということは、彼女は自分の意思で天使を受け入れている。……だとすれば彼女らは敵だ。
「敵なら、例え彼女たちが日本人だろうと、俺は戦うよ」
あとは、彼女たちが天使の悪行を知っているかどうか。知っているなら完全に敵だから容赦はしない。だが、知らずに従っているなら……話くらいは聞いてもいいかもしれない。
……それにしても、ガブリエルは何で日本人を偵察に寄越したんだ? 何か意図があるのか? それとも実力で選んだら偶々彼女らだった?
まだ情報が少なすぎるから、判断は出来ない。もう少し様子を見ることにしよう。
――――
ホーキングの屋敷には、レンとラミリア、ミサキ、それからトオルとカタリナがいた。肝心の屋敷の主のホーキングはいない。
流石にまだ何も分かっていない状況だから、日常業務を優先させるそうだ。まあ領主だし、忙しいから仕方がないだろう。リンもそれに付き合っている。
アイラには引き続き、バルデス商会の仮店舗にいてもらう。もしかしたら、残りの二人がやって来るかもしれないからね。万が一に備えないといけない。
「彼女達は【永久のエトランゼ】。同僚に聞いたら、今朝町に入って来たようです。データによると、元々は五人で登録されてましたが、一人いなくなって、現在は四人パーティーですね。全員がBランクの冒険者です」
どうやらカタリナが対応したわけじゃないようだが、冒険者ギルドには滞在登録をしているようだった。多分町中を歩いても不自然に思われないようにだろう。
「【永久のエトランゼ】。永遠の旅行者。まさに自分達の境遇を指してるんだね」
トオルが言うにはエトランゼとは、よそ者とか異邦人、旅行者って意味があるらしい。
恐らく彼女達も突然現れたゲートに巻き込まれてやって来たはずだ。そして、もう帰ることの出来ない……ってことか。
最初は五人で一人いなくなった。それがサクのことだろう。
「リーダーは神代昴、そして十頭卑弥佳、大江梨華、最後に兵頭飛雄です」
「……コイツらフルネームで登録してるのか。ってか、漢字は無理だろ?」
冒険者カードに漢字は使えないだろ? なんでカタリナが漢字で書いてるんだ? そもそもカタリナは飴を舐めてないから、読めもしないはず……。
「えっと、一応冒険者カードに使えなくもないんですよ」
「えっ!? そうなの?」
カタリナの予想外の言葉に驚いた。
「正確には漢字……ではなく、記号として扱うんですよ。冒険者は身分証カードを所持している人だったら、獣人やエルフなど、人間以外もなることが出来ます」
うん、それは知ってる。アイラはエルフだし、ウチにいる【蒼穹の槍】のリャンファンは猫の獣人。ダナンはドワーフだけど、冒険者だもんな。
《私もこの間身分証カードを手に入れたから冒険者になれるの!》
うん、流石に無理だろうね。スーラは大人しくしてようか。……無理だよな?
「冒険者カードは共通語で登録するので、どなたでも読めはするのですが、中には種族特有の言語や文字を利用したいと言われる方も多いんですよ」
まぁ母国語で登録したい気持ちは分からんでもない。
「だから、共通語のフリガナを振れば、その文字で登録を許可しているんですよ」
別に漢字を読み込む訳でなく、記号として扱って、フリガナを振るのか。それなら納得だ。
しかし、コイツ等はなんでそこまでするんだ? 異邦人ってバレる可能性が高くなるだけでメリットなんてないだろうに……。もしかしたら、よっぽど日本に思い入れでもあるのだろうか?
「にしても、まさか敵が日本人やなんて。もしかして、ウチらのことバレてるんちゃう?」
やっぱりそう思うよな。ガブリエルとは黄の国で戦ってるから、俺達が異邦人だとバレてるはず。そして、ケインを必死に助けようとしている姿を見られているから、同じ異邦人には甘いと思われても仕方がない。……考えただけでもバレバレな気がする。
「どうだろうね? バレてない場合でも、彼女達が送られてきた理由は何となく分かるよ」
「えっそうなの?」
トオルの仮説は結構当たるからな。期待したいところだ。
「借りにバレてない場合、敵は……ファントム。巨大な船や未知の技術を持っているのは知っている。僕達のことと結びつけなくても、カラーズでは考えられない技術を持った人って誰だと思う?」
「ああ、そうか。向こうは俺達じゃなくても、別の異邦人が関わってる可能性を考えてるのか」
「恐らくね。まぁカラーズの外からやって来ていると思ってるから、異邦人じゃない可能性も考えてるだろうけどね。でも、どっちにしたって、彼女達の方が、技術に詳しいと思っても、おかしくはないんじゃないかな」
敵が異邦人だろうと、なかろうと、カラーズ技術以外が使われてるなら異邦人の技術を知っている分詳しい……か。あの見た目高校生が、どれくらい詳しいかとか考えてないのかな?
「もちろん単純に能力で選んでいる可能性や……異邦人だから、捨て駒にって、考えてたりするかもね」
「捨て駒はないんじゃないか? 二人は天使と共存してるんだぞ」
「まっ、詳しくはこの後の情報を聞けば分かるんじゃない? スーラくん。彼女たちはどこにいるの?」
《今は潮風亭にいるの。まだ二人しかいないの》
「よりにもよってあそこかよ……」
俺達が最初に泊った宿だ。貴族しか泊らない高級宿。
あんな高級宿に泊まったら目立つだろうに……。隠れて偵察じゃないのかよ。
「あそこなら丁度いいね。一回泊ったから、ある程度は構造も分かるしね。スーラくんの人形劇も見てみたいけど、ちゃんと実物も見たいから、ちょっと隠しカメラを仕掛けてくるよ」
「お、おい。隠しカメラって……」
俺が尋ねる間もなく、トオルはさっさと出ていった。……確かに映像は見たいけど……絶対にバレるなよ。




