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ロストカラーズ  作者: あすか
第二章 魔王城防衛
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第24話 返り討ちにしよう

 その情報はもたらされたのは、俺達がこの世界にやって来て半年が過ぎ、春になったばかりのことだった。


「シオン様、ルーナ様、大変です!!」


 今日のルーナとの模擬戦が終わり、一息ついていたところにシャルティエが大慌てでやってきた。


「シャルティエ、はしたないですよ。もっとお淑やかにしなさい」


 言われて慌てて体勢と息を整えるシャルティエ。


「申し訳ございません。ルーナ様、でも大変なんですよー」


「だから語尾はのばさないようにとあれほど……。それで、一体何が大変だというんですか? 村で何か問題でも発生しましたか?」


「いえ、村はサクラ様のおかげで平和そのものです。じゃなくて、敵です。この城に人間の団体が迫ってきています」


 その言葉に俺は思わず身が引き締まる。


「ついに来ましたか。予定通り春になったから出てきたのでしょう。それで詳細は?」


「鎧からおそらく赤の国ではないかと。それからトオル様の情報では上空には魔物もいるそうです」


「赤の国は予定通りですが、魔物は何でしょう? 赤の国が従えてるとは思えません。魔物の種族は?」


「コウモリだよ。恐らく他の魔王の監視じゃないかな?」


 ルーナの質問には別の場所から答えが来た。声がする方を見てみると、訓練場の入口のところにトオルがいた。


「はいこれ、上空からの映像。ドローンを飛ばしてみたんだ。見つからないようにかなり上空からだから分かりにくいかもしれないけれどね」


 そこには赤い鎧を着た人族がが写っている。えっと、十人くらいかな? 少し後方にも同じようにいるみたいだから二十人ってところか。


「どうやら二部隊編成で来ているみたいだね。見たかぎりじゃ、暫く監視してたけど、他に隠れている人はいないみたい。ただの偵察だと思うよ。あと、ここ見てよ。コウモリみたいのが写ってるでしょ。このコウモリもずっとあの部隊を見ていたからさ、きっと見張ってるんだよ」


「しかし何だって魔王が赤の国の人間を監視してるんだ? 偵察先は俺たちじゃないのか?」


「最終的にはこちらかもしれませんが、まずは人間がどうするか調べているのではないでしょうか?」


「で、ホントに魔王なの?」


「ほぼ間違いなく魔王かと。コウモリを偵察に使う者はその方しかわたくしは存じ上げません」


「その魔王は?」


「【不死王】ヘンリーです。ヴァンパイアの王にして魔王の一人、この城から一番近い場所に住む魔王です」


「【不死王】ヘンリーか。確かアンデッド系の魔物や魔族を従えてるんだったよな?」


 俺も魔王については少し調べた。確か二百年くらい前に数千年君臨していた魔王が現役を引退して、代わりに就いた一番若い魔王だ。


「ええ、五百年前に魔王になったシエラ様と比較的似た世代のため、何かと因縁をつけてくる面倒くさい方です」


 三百年の差があるのに似た世代ってもうわけ分からんな。

 でも、その他の魔王は千年以上魔王として君臨しているようなので、突っ掛かれるのがシエラしかいなかったらしい。自分の地位向上も兼ねてこちらの失脚を望んでいたって感じか。魔王の癖に器が小さくない?


「そのヘンリーはシエラが死んでいることを知っていると思うか?」


「恐らく知っているかと。そのため人間を使って調べようとしているのではないでしょうか?」


「ヘンリーが赤の国を操っていると?」


 利用しているってことはそういうことだよな。


「遠目から見る限りですと、操られている様子ではございません。恐らく情報操作をしているくらいではないでしょうか」


「なるほど、シエラが死んだことを噂でも何でもいいから流せば強欲な赤の国は確認に出ると」


「概ねそんな感じかと」


「それにしても、どうやってヘンリーはシエラが死んだことに気がついたんだ?」


「まぁ半年経ちますから。どこからか漏れてもおかしくはないでしょう」


 確かに。この城から逃げた兵もいたらしいし、バレるのは仕方ないか。


「それでシオンくん。さしあたって赤の軍勢をどうしようか?」


「そうだな……。俺としてはこの世界に来て初めて出会う人間だから、会話をしてみたい。けど、難しいよな。いきなり攻撃されたらどうしよう」


「赤の国だからね。会話は期待できないよ」


 今まで聞いた話だとそうなるよな。


「だよなぁ。ならやっぱり戦うことになるのか」


 今更戦うのに抵抗はない。もちろん人殺しは経験ないが、この半年で十分な覚悟は決めた。


「ではシオン様とトオル様で一人一部隊ずつ倒されてはどうでしょう。もし危なくなったら加勢はいたしますが、その場合は後で居残りで訓練が必要でしょうね」


 居残り訓練と聞いて、なぜか関係ないシャルティエが怯える。俺達も過去にあった特別訓練を思い出した。あの時は無事にクリアするのに三日間かかった。シャルティエも似たような経験があるのだろうか? 今度ルーナ被害者の会でも開いてみようかな?


「大丈夫です。すでにお二人は十分に強くなってます。それはもう、わたくしが計算していたよりも速いスピードで成長しております」


 ルーナの訓練に加えて、毎日飲むだけで総魔力が上がる【魔力強化ドリンク】を飲んでいる。

 約半年毎日飲んでいたんだ。予想以上のスピードって言われても納得するしかない。


「じゃあちょっくら行ってくるかね。んで、場所は? ここから遠いの?」


「僕が近くまで空間転移で連れて行くよ。敵がいる場所の近くを登録しているから」


「そっか。なら頼むわ」


「じゃあ十分後でいいかな。最低限の装備は準備しないとね」


 俺も何か準備をした方がいいか? ……うん、特に必要ないな。武器は魔法で出すから必要ない。

 俺の主力武器はナイフだ。剣や槍、斧など色々と試したけど、正直どれもピンとこなかった。

 ナイフはルーナが指導でよく使っているから、一番慣れてる。それに、毒に使われるのはナイフって相場が決まっている。


「今は召喚した物でいいでしょうが、今後はご自身の武器も手に入れなくてはなりませんね。城の宝物庫にいいのがなかったかしら?」


 最後の方は独り言のようだったが、確かに召喚でない自分の武器も必要かもしれない。


「あっ、スーラはどうする? 付いてくる?」


《もちろん行くの!! 私も頑張るからね!》


 ピョンピョンと跳ね、意気込みを感じる。スーラも随分と張り切っているな。


「駄目です。これはシオン様の初めての実戦ですが、同時に試験でもあります。スーラさんはわたくしと残って見学です」


《えー》


 スーラは随分と不服そうだ。でも、スーラもルーナには勝てない。最後には折れることになった。


《仕方ないの。シオンちゃん頑張ってね》


 そう言って俺の肩から飛び降りる。


「お待たせ。準備はいいかな?」


 ちょうどトオルも準備を終えて戻ってきた。と、姉さんも一緒に付いて来ている。


「トオルの準備って?」


「ああ、これだよ。持ってきたエアガンを改造してあるんだ。試してみようと思って。これ魔法が出るようになってるんだよ。村に住んでるグレムリンのグレイくんに改造してもらったんだ」


 見たことはないけど、グレムリンも村にいるって言ってたな。……グレイって名前でも、きっと女性なんだろうな。


「それってエアガンじゃなくて魔法銃ってこと? 何それすごい」


「基本的にはソータくんから貰ったナイフの応用だよ。魔法結晶を装着したら対応した魔法が放たれるんだ。魔法結晶の各属性は村人やメイド達から貰ったんだよ。今度シオンくんの紫も頂戴」


「それはいいけど……俺の分も作ってくれるよう頼んでくれないか?」


「それくらい自分でしなよ。と言いたいところだけど、すでにシオンくんのも改造済みだよ。今度渡すね」


 おっ、思わぬところで武器ゲット。まぁ使うかどうかは分からんが。


「それじゃあ頑張ってきなさい! 正直弟が人殺しに行くのに応援するのは姉として失格かもしれないけど」


 確かに日本では考えられないことだ。複雑な表情をする姉さんの葛藤もわかる気がする。


「ありがとう姉さん。じゃあトオル行こうか」


 トオルの転移魔法で目的地へ向かった。



 ――――


 到着した場所は城のすぐ近くの広場だった。


「そういえばトオルの転移魔法は初めて経験したけど、城の転移と全然違うな」


 どっちかというとゲートの転移に近い。


 透明が空間なんてとんでもないイメージで転移魔法を完成させたトオル。正直俺の代わりに魔王の後継者でいいと思う。


「城の転移は据え置きだからね。直接発動とは感覚が違うよ。それに転移魔法は正直慣れてないからね。まだ研究中だよ」


 俺は意識を集中してみる。どうやら前方に複数の魔力を感じる。すぐそこの森の中にいるようだ。


「結構城に近い場所まで来ていたんだな。俺たちが察知したんだ。おそらく向こうにも俺達の存在はバレてるだろう」


 トオルは魔力を透明化する魔法で魔力を隠すことができるが、俺には出来るだけ小さくすることしか出来ない。


「まぁ今回は転移の魔法を使った時点でバレバレだと思うよ。転移の魔法を使うときにも魔力を隠した方がいいかも。今後の課題かな」


「まぁどうせ正面からやっつけるんだし。話し合いも考えてたけどこの殺気じゃ多分無理でしょ」


 魔力の探知から用心している気配じゃなく相手を倒す殺気が漏れてる。


「だよねぇ。あっ来たよ」


 トオルが指さした方向から赤い鎧が見えてくる。


 向こうもこちらに気がついたようで、足音が止まる。


「そこにいる者! 何者か?」


 先頭にいた男から声が俺たちに向かって叫ぶ。そんな大声出さなくても聞こえるっての。


「そっちこそ誰だ? こっちには古びた城しかないけど?」


 こっちは普通に話しかける。古びた城って言っちゃったけど、ルーナに聞かれてたら怒られそう。


「貴様はこの鎧を見て分からんのか! 我らは紅翼騎士団のハインヒル部隊であるぞ!」


 話す度に気になるけど、何でコイツはこんなに偉そうなんた?


「ハインヒルだってさ。トオル知ってる?」


「僕が知るわけないよ。それよりも何の用事か聞かないと」


「そうだな。で? そのハインヒルさん? あんたはこの先に何の用事があるんだ?」


「ハインヒルは部隊名だ! 我が名はランディー。そもそも貴様らが何者か分からんのに理由を答えるわけがなかろう! もうよい邪魔立てしないのなら見逃してやるからそこを退け」


 理由は教えなくても名前は普通に教えるんだ。こいつバカだろ。


「いやー俺たちあの城に住んでんのよ。だからあそこに行かれたら困るってゆーか。大人しく帰ってくれると助かる訳よ」


 まぁ正直逃がす気はないけどね。


「何! 貴様らはあの城に住んでおるのか! なら魔王はどうなった! 本当に死んだのか!」


 やはりどこからか情報を仕入れているようだ。だが今は半信半疑といったところか? ……とりあえず情報源は知りたいな。


「えっ? 魔王が死んだって? 何で魔王が死ななきゃいけないのさ? どこ情報だよそれ?」


 俺は驚いた振りをして白を切った。


「しかしこちらの情報だと、あのくそ忌まわしき異邦人達の手によって魔王は討たれたと……ええいもういい! おい、お前たちこいつらを捕まえろ。後でゆっくりと聞いてやる」


 やはり目の前の馬鹿は簡単に情報を漏らしてくれる。しかし忌まわしき異邦人ってのは、ソータのことだよな?


「いやーどうやら本当に異邦人は嫌われているみたいだね。シオンくん、どうする?」


 緊張感のない声でトオルが話しかけてくる。これ以上は捕まえてからの方が効率がいいだろう。


「とりあえず、向こうはこっちを殺す気みたいだから、遠慮はいらないよね。話せる奴を一人残して全滅させよう。トオルは奥の部隊をお願いしてもいい?」


「分かったよ。奥の方の部隊の人も誰か生き残らせる?」


「このランディーとかいう馬鹿じゃ少し頼りないからな。でも他の奴よりかは情報を持っているだろう。俺があの馬鹿を残しとくから、念のためトオルの方も一人残しといて」


「分かったよ。じゃあちょっと行って来るよ」


 そう言うとトオルの姿消えていく。どうやら透明化して近づくようだ。


「む、おい! 一人がいなくなったぞ!逃げ出したかもしれん。応援を呼ばれたら面倒だ、逃がさないように気をつけろ!」


 兵士達から了解しました。と聞こえてくる。やはりあの馬鹿がリーダーか。


 さて、と。じゃあ俺も行動を開始するかな。



 ――――


 俺にとっては大事な初陣だ。

 油断はしちゃ駄目だけど、今まで作っただけで試せなかった魔法を色々と試してみたいな。

 ルーナは魔物は食材だから毒なんて……って、攻撃魔法は使わせてくれないからな。


 まず俺は目の前にパチンコ玉くらいの小さな毒の塊を召喚する。


「さて、鎧は砕けるかな? ……【毒弾(ベノムブレット)】」


 【毒弾】は勢いよく敵に向かっていき……隊長の横にいた男を鎧ごと貫通し、さらにその後ろの男の鎧にも穴を開けた。さすがに後ろの男までは貫通しなかったようだ。あれっ? 予想以上に威力が高い。


「がふっっ!!」


 最初に弾に当たった男が口から吐血する。本人は何が起こったか分かっていないようだ。そのまま前のめりに倒れ込む。

 奥の男の方は貫通しなかったから毒が体内にある状態だ。苦しそうに喚き胸を掻きむしろうとするが、鎧があるから届かない。前方の男と同じく吐血しながら倒れる。


「……何で貫通して二人も死んでるんだよ」


 あんまり魔力は高くなかったぞ。一人だけのつもりだったのに……鎧脆すぎだろ。


 ランディーはいきなり二人が倒れたのに驚き、そして死んでいることを確認して、さらに驚愕の顔を浮かべて俺を睨む。


「き、きさま…いったい何をした! どうやって二人を殺した! ええい答えよ!」


 どうやらこの中に俺が【毒弾】を放ったのに気づいたものは誰一人いないようだ。


「ったく、それはこっちが聞きたいよ。これじゃあ他の実験が出来なくなるじゃん」


「じ、実験だと!? きさまぁ…! お前達、相手は妙な技を使ってくるかもしれん。一気に叩くぞ!」


 その言葉で、残りの兵たちが一気に動く。こっちに向かってきているのが、えーと5人だな。んで奥で魔法を唱えているのか二人か。


 さて次はどうしよう?


「そりゃあ!」


 考えてると向かって来た兵士が俺めがけて剣を降り下ろしてくる。遅い、いつもルーナが仕掛けてくる攻撃と比べるとまるで止まって見える。

 俺は剣を悠々と躱す。そこに二人目が横から剣を振ってきたので、それをナイフで横に反らす。


「死ねぇ!」


 そこに三人目が同じように剣を降り下ろしてくるので、ナイフで相手の手首を一閃。


「ぎゃああああ!」


 剣を手首ごと地面に落とした男は叫び声を挙げながら倒れていく。


「おい、その場に倒れるな! 早く後ろに下がれ……って、えええ!! 死んでる!?」


 後ろにいた兵士が驚き叫ぶ。


「バカな! 手首を切られただけだぞ! なのになぜ死んでる! 出血もそんなにしてないだろうが!」


 それは毒を受けたからです。しかし、手首から毒が回ったにしては、毒の回りが早すぎる気がする。やはり俺の予想以上の効果なのかもしれない。


「毒だ! こいつは毒を使ってやがる! さっきのやつらも毒にやられたみたいだ! あいつに直接触るな! すぐに死ぬぞ!」


 奥で魔法を唱えてた男から声がした。まぁ流石に気付くか。……って、そう言えば魔法は? そう思ったらようやく男の杖から炎の塊が出てきた。ねぇ発動までの時間がかかりすぎじゃね? 何してたの?


 男が放った火の球がこちらに向かってくる。うーん、避けてもいいけど、せっかくだし、ここはあれを使うか。

 俺は【無効盾】を唱えた。目の前に小さい盾が現れる。

 以前ルーナに言われて作った相手の魔法を無効化する盾だ。


 向かってきた火の球が【無効盾】に当たる。火の球は爆発することなくその場で消滅した。どうやら成功みたいだ。この魔法はまだ試してなかったから若干不安だったんだよね。


「はあっ!?」


 魔法を消滅された魔法使いは口を開けて呆然としてい。いや、魔法使いだけじゃなかった。魔法が当たった隙を突いて攻撃しようとした近くの兵士も動きを止めて驚いている。まぁ俺も初めてルーナにされたときは同じ様に固まってしまったから気持ちは分かるが、今は戦いの最中だ。そんなに隙を見せられたら……一気に攻め落としたくなるじゃないか。


 俺は近くにいた兵士の首筋を直接触る。【毒投与】だ。

 俺に触れられた兵士が一人、二人と叫び声も上げずに倒れていく。近くに残っているのは兵士が一人、それから奥の魔法使いが二人とランディーだ。


「おい! どうなっている! なんでこんなガキ一人に手こずってるんだ!」


 ランディーがわめき散らしている。後ろで指示だけ出してるだけなのに随分と生意気だ。でも、だったらお前が来いとは言わない。隊長は生かしておく予定だからね。


「た、隊長! こいつの属性が判りました! こいつの属性は紫です。そして魔力値は……一万を超えてます」


 その言葉に俺はこの戦いで初めて動揺した。奥にいたもう一人の魔法使いが俺の属性を言い当てる。何で属性がバレたんだ? それに魔力値ってのはなんだ?


「バカを言うな! 紫なんてそんな属性聞いたこともないぞ! それに魔力値が一万を超えてるだと? それではオズワルド将軍やハインリヒ将軍よりも上ではないか! ええい、もう一度測り直せ!」


「もう三回も測りました! 結果は全て変わりません! 隊長、撤退しましょう! 我らの敵う相手ではありません!」


 奥の魔法使いは戦意を喪失したみたいだ、少しずつ後ろへ下がり始める。


 二人の話を聞く限り、どうやら奥の魔法使いは他人の属性やその力が分かるらしい。かなりレアな魔法だ。俺は予定を変更してこの魔法使い……Bでいいや魔法使いBを捕まえることにした。


 俺は逃がさないように【毒の雨】を唱える。すると隊長と魔法使いBの周り以外に雨が降る。


「ぐあぁぁぁぁ!」


 雨を受けた兵士と魔法使いAが苦しみ出す。


「なっ、これは……まさかこれは毒の雨か!! 一体どれぽどの魔力があればこんなことが……まさか本当に一万を超え……」


 最後まで言い終わらずに隊長の体が崩れ落ちる。隊長に向けて【毒弾・麻酔】を放ったのだ。


「ひぃぃっ!」


 Bは残っているのが自分一人になったことで、慌てて逃げ出そうとする。勿論そんなことはさせない。俺は素早く背後に回り込む。

 ルーナとの模擬戦ではいつも負けてるから実感はなかったけど、ちゃんと敏捷性も向上しているようだ。


「おっと、逃げない方がいい。この雨に打たれたら死ぬからな。大人しく降伏すれば殺さない」


「は、はぃぃ。こ、こうさんします」


 随分と男は情けない声を出しながら、両手を挙げて降参する。完全にこちらに対する戦意は無いようだ。


「なら後で色々と聞きたいことがあるから今は寝ときな」


 そう言うと俺は男の額に人差し指を立て【毒投与・麻酔】を使用する。

 すると、魔法使いBはすぐに眠りに落ちる。


 ふぅ、終わったか。俺は隊長と魔法使いBを拘束してようやく一息尽く。


「やぁシオンくん、終わったみたいだね」


 前方の木の影からトオルがやってくる。


「こっちはすぐに終わったんだけど、シオンくんがまだ戦闘中だったから待ってたんだ」


 今来たのかと思ったが、どうやら木の影で俺が終わるのを待っていたようだ。


「びっくりしたよ。戻って来たらいきなり雨が降りだすんだもん。危うく巻き込まれるところだったよ」


 あの時か。そういえば周りは気にしてなかったな。一応植物には影響しない毒にしてそれ以外を気にしてなかったな。


「ああ、ごめん、大丈夫だったのか?」


「空間を操作して逸らしたからね。でも、あの魔法を使うときは周りの影響も考えた方が良いかもね」


「一応植物には気を使ったんだが……そうだな、気を付けるよ。あと毒の威力も考えようと思う」


 【毒の雨】も【毒弾】も想像以上に威力があった。


「そうだね。即死レベルの雨は流石に…」


「一応、弱めにしたんだけどね」


 毒の威力はスーラに教えてもらっている。スーラからは強力、強い、ちょっと強い、普通、弱いなどの評価を貰っていた。今回の【毒弾】が普通で、【毒の雨】は弱い威力だったんだが……まさか弱いでも即死レベルだったとは。そもそもの基準値が間違ってたってことだ。


 そういえばスーラは大人しくしてるかな? 離れるときは不満たらたらだったが。


「それでトオルの方は? 生きてる人はいるの?」


「うん、一人だけ生かして向こうで眠らせているよ」


 トオルは森の奥の方を指差す。


「それじゃあ連れてこいよ。こっちは二人生きてるから全部で三人か。とりあえず連れて帰ろう」


 トオルの転移魔法で連れて帰れるのかな?


「残った死体はどうしようか?」


 そっか、それもあったな。魔物なら解体するのだが……最初は戸惑っていた解体も最近は随分と馴れてきた。


「このままじゃあ不味いよなぁ? とりあえず一旦帰ってからどうするか相談しよう。必要があればすぐに戻ってくればいいんだし」


 とりあえず俺達は死体はそのままにして、一旦城に戻ることにした。

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