第241話 核の主を決めよう
第一の島の開発が完了した。
開発を始めて約半月、かなりのハイペースだ。現在はスライム達がいた第二の島の開発に取り掛かっている。
スライム達も最初はスーラのためにと、張り切って手伝っているらしいが……どうやら俺達の出すゴミや食事がいたく気に入ったようで、既にスーラのこと関係なく手伝っているようにもみえる。
後は城塞都市として機能するために、核を使って結界を張るだけなのだが……。
四つの核のうち、トールとフェンリルの二つの核は既に使用済みだ。だけど、魔法結晶と違い、他の人が魔力を流しても問題なく使用できることは、レプリカを使って確認済みだ。ただし、相性は存在するので、それに適した人物が使用するのがいいだろう。
トールの方はトール自身にお願いすることにした。やっぱり本人が一番相性がいいだろうからね。
その為、城塞都市の一つは宮殿と似たような電磁波結界になるはずだ。
フェンリルの核に関してはエキドナにお願いすることになった。フェンリルとは少し違うが、グリフォンやヒポグリフのような魔獣を使役しているので、一番環境に適した使い方が出来るようだ。
では残り二つを誰の魔力で結界を作ればいいのか。
それが今日の議題だ。
「やはりここはシオン様が使用するべきではございませんか? 味方を例外登録して、シオン様が毒の結界を張れば、敵は入って来ただけでやられてしまいますよ」
まずはルーナがそう進言する。間違いなくそれは言われると思った。でも……例外登録したとしても、毒って少し怖いな。
「僕はトールの城があるから満足だけど……どうせなら四色別々の結界にした方が良くない?」
デューテの言う通り、別々の属性にした方が良いだろう。なので黄色の属性の人は外れてもらうことになるな。
「ここは城から攻撃できそうな、遠距離攻撃に特化した方がよろしいのでは?」
これはラミリアだ。遠距離攻撃が出来る人って誰だよ。
「俺としてはトオルとルーナで考えてたんだけど……どうかな?」
「わたくしとトオル様……ですか?」
自分だとは思っていなかったのか、ルーナが驚いた表情を浮かべる。
「まずはトオルの方から説明するな。ラミリアの遠距離も捨てがたいと思ったけど、俺は結界内に入られたことを重視したんだ。トオルならシクトリーナと同じようなことが出来るだろ?」
転移の罠をふんだんに使った島。この島は人員を殆ど割かずに罠だけで敵を引きつける。圧倒的に人数が少ない俺達にとって、罠は重要だと思う。
「僕はどっちでもいいよ。もし使わせてくれるなら、色々とやってみたいことはあるけどね」
トオルに異論はないようだ。というか、凶悪な島が完成しそうだな。
「それで……もう一つは何故わたくしなのでしょうか?」
「ルーナってさ。シクトリーナから出たら能力が激減するじゃん。だから、ルーナが核を登録することで、そこが自分の家扱いになって、魔力が減少しないんじゃないかなって思ってさ。あっ、別にシクトリーナを捨てる訳じゃないよ。あくまでも別荘的な家って感じでさ。どうだろ?」
ルーナは少し考えて答えた。
「正直分かりません。試したことがありませんから。ですが、シルキーが能力が下がるのは、その家に縛られているからです。別荘だとか関係はない気もします」
ルーナが申し訳なさそうに言う。うーん。ルーナの魔力を込めればいけるかも? って思ったんだけど、ちょっと当てが外れたかな。
「ちょっといいかな? 僕は常々思っていたんだけど、シルキーの城から出ると魔力が減少するのって、逆だと思っているんだ」
「逆? 何を言ってるんだ?」
何と逆だというんだ?
「元々のシルキーの魔力は外の時の魔力が正しくて、城の中でのみバフが掛かってるんだよ。だから減ってるんじゃない。強化してるんだよ」
減るんじゃなくて増える。だから外に出ると元に戻るから減ると勘違いしていた。
「……この呪いだと思っていた能力は実は違ったと?」
ルーナは驚いている。そりゃあずっと苦しんでいたことが実は逆だったと言われたら驚くよな。
「うん。だから少し質問するね。ルーナくんってさ。シクトリーナに住み始めてから、魔力が上昇したの? それともシクトリーナに入って、魔力が変わらなかったけど、外に出たら減るようになったの?」
もし魔力が上昇したのなら、トオルの言ってたバフ説が真実になる。逆に魔力が変わらなくて減ったようだと、呪いになる。
「城に住み始めたからと言って、魔力は急に増えた覚えはございません。ですが、当時は今のように具体的な数字は分かりませんですた。それから、城に住み始める前はシエラ様よりも低い魔力でしたが、五百年間で、最終的に城内ではシエラ様よりも魔力は所有していたと思います。ですので、少しずつ増えていったのではないかと思うのですが」
ってことは、俺の魔力増強ドリンクみたいに、毎日少しずつバフが掛かっていたと考えた方が良さそうだ。
「じゃあ次の質問。外に出たときに魔力が減るようになったのは、城に住み始めてすぐ? 住み初めてしばらくしてから? 城が完成して核を使用してから?」
「そうですね……完成した時点では何も変化がなかったと思います。完成後シエラ様が核を使用した後ではないかと思いますが、その後しばらくは外出しておりませんから、いつからなのか分かりません」
気がついたときには能力が下がってると思ってたんだな。というか、城が完成したときから引きこもってたんだな。
「それで? これで何が分かるんだ? どっちにしろ城の中より外が低くなるのは変わらないだろ?」
結局は意味のない話のような気がするんだが。
「何でバフが掛かったかの原因が分かれば、外でもバフの効果が生かせると思うんだ。その原因が、核だと僕は思っているんだ。だからシオンくんの言ったように、核にルーナくんの魔力を込めたら、その城が自分の家だと感じて、バフ効果が見込めるかもしれない。仮に一軒しか登録出来なくても、この城の核なら……シクトリーナのレプリカなら同じようにいけると思うんだけど」
城の核が理由なら、それがあれば他の場所でもバフが掛かる?
「ですが、シエラ様はもういらっしゃいません。核のレプリカに魔力を込めることは……」
「出来るんじゃない? だって別人が魔力を込めることが出来るのは、フェンリルとエキドナで確認済みじゃないか。それに、ルーナくんはずっとこの城にいたんだ。多分核も受け入れてくれるよ」
「そう……でしょうか?」
「ものは試し。一回やってみようよ」
というわけで、俺達はシクトリーナの核のレプリカを持って、完成した第一の島に向かった。
――――
「……ここで戦うのって、結局勿体ない気がするな」
対空砲台がいくつも用意されている城。かなり三十メートルはありそうな高く頑丈そうな城壁。城壁には【魔法無効化】の魔法結晶が埋め込まれており、ある程度の魔法の攻撃も無効化できるそうだ。
城と城壁以外の建物にも砲台が設置されている。城壁の外には堀を始め、障害物や罠なども準備されていた。
確かに戦闘に特化した城に出来上がってはいるが、想像以上の完成度に勿体ないと思うのは俺だけだろうか?
「確かに見た目の完成度はいいように見えるけど、生活できるようには作られてないんだよ。シクトリーナのように配魔盤と送魔線は殆ど設置されてないんだ。それに軍事施設だけで、畑や工場もないし、住民もいないからね。壊れても核があれば建物の自動修復は可能だから被害は殆どでないんだよ」
そっか。シクトリーナは自動修復機能はあっても人的被害や農作物の被害の方はどうにもならない。
ならここは多少壊れても被害は殆どないのか。
「この沢山の砲台はどうやって撃つんだ?」
流石に砲台が自動とは思えないんだが。
「ゴーレムにお願いするよ。イチカくん達ならゴーレムへの遠隔操作が可能だから、離れていても操作できるから危険はないよ。まぁゴーレムには少し可哀そうなことになっちゃうけどね」
船の時のように、イチカ達人型ゴーレムは、機械ゴーレムに対して遠隔で指示が出来るようだ。
しかし、ゴーレムってロボットみたいなもので、命がないとはいえ、壊れても良いわけじゃない。仕方がないこととはいえ、ちょっと気が引けるよな。
「じゃあ早速核を起動してみようか」
俺達は城の中のコントロールルームで核の起動実験を行うことにした。
――――
「ではまいります」
コントロールルームには核を置く台が用意してあり、そこに設置することで使用可能のようだ。
ルーナは少し緊張した面持ちでレプリカを台に置き、魔力を流す。
そういえば今回ルーナは、一言も文句を言わずに、ここにやって来たな。城の外なのに……。ここは外部の人間がいないから、気にならないのかな?
俺はルーナの魔力の検査係だ。シクトリーナでのルーナの魔力値は八十万。今ここにいるルーナは五十万だ。核に魔力を流した後、魔力回復ポーションを飲んで、魔力が回復すれば、城の外のデメリットは無くなったと言っていいだろう。
……まぁ正直な話、城の外でもこれだけ魔力を保有していれば十分だと思うが、やはり全力が出せないのは不安なんだろうな。
とりあえず最初は未使用の核のレプリカだ。やはりオリジナルを使いたいので、こっちでデメリットが無くなるのが一番だ。
ルーナが魔力を核に流すと核の輝きが増した。
「……無事に核が起動したようです。何か命令してみますか?」
「いや、それしちゃうと城が染められてしまうから、とりあえずそのままで。それでルーナくん。体の調子はどうだい?」
「そうですね。城の外にいるような不安感は薄れました。能力は……どうなんでしょうか?」
そう言いながら魔力回復ポーションを飲む。早速確かめてみると……。
「おおっ!? 魔力が増えてるぞ。……だけど完全ではないな」
ルーナの魔力は七十万に戻っていた。シクトリーナの八十万には戻らなかったが、かなり近づいているな。
「なんかこれでいい気もするけど……一応シクトリーナのレプリカも確認してみるのか?」
確かにオリジナルを使いたいならこれで十分のような気もする。
「せっかく準備したんだからやってみようよ。じゃあルーナくん。お願い」
「畏まりました」
ルーナはレプリカを台から外す。あっ。ルーナの魔力が一気に五十万まで戻った。やはり核がシルキーを縛っているのかな? いや、能力を向上させているといった方が正しいのか。
ルーナはシクトリーナのレプリカを台に乗せ、同じように起動させる。
「……こちらの方が、魔力を操作するのは難しいですが、安心感を感じますね」
シエラの魔力が使用されていたから操作は難しいのだろう。安心感があるのはシクトリーナと同じだからか? 俺はルーナが魔力回復ポーションを飲んだのを確認して魔力値を確認した。
「……さっきよりも魔力が上がっているが、それでもシクトリーナほどじゃないな」
今回は七十五万。殆ど誤差のようなものだが、それでもさっきよりは上がっている。
「でも、これでルーナくんはここでも力が発揮できることが証明されたよ。あとは……ちょっとだけ勇気をだすだけだよ」
トオル……もしかしてルーナが外に出るのを怖がっていたことに気がついていたのか。
「……少し考えさせていただけますか?」
「まだ二つ目の島を開発途中だからね。この最初の島はエキドナかトールにお願いするよ。だからルーナくんは四つの島が開発完了する前までに決めてくれればいいよ」
これはルーナが考えることだから、俺から何か言うことはない。だけど……ルーナが外に出るための第一歩として勇気を出してくれればいいと思う。




