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ロストカラーズ  作者: あすか
第六章 青に忍び寄る白
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第236話 核を回収しよう

「よし! じゃあ夕方までには帰ってきたいから、早く出発しようか」


 今日は【トールの遺跡(ダンジョン)】に核を回収しに行く日だ。メンバーは俺とデューテ。回収するだけだから人数はいらないしね。


「……ねぇ。そんな日帰りじゃなくてさ。数日くらいかけてさ、ゆっくりしようよ」


 いつもより元気のないデューテが言う。


「……お前、単に修行に帰りたくないだけだろ」


「あたりまえだよ! あんなキツイ修行。誰が好き好んでやりたがるんだい!」


 来るべき天使との戦いに備えて、デューテはリュート達とアインス砂漠で修行中だった。今回は俺が参加してないから、ブートキャンプじゃなく自主練的な予定だったんだけど……単純にリュート達がブートキャンプの修行しか知らなかったから、今回も似たような修行になっているらしい。

 まぁデューテも、文句を言いながら付き合ってるから、強くはなりたいんだろう。


 ただ、そのデューテすら逃げ出したくなる存在が今回参加している。言わずもがな姉さんだ。

 姉さんはセラ達を育てている時は、結構甘い感じだったんだけど、自分には厳しい。今回は俺の急成長も相まって、余計に張り切っているようだ。それに周りも釣られているみたい。

 結果、俺の時よりも遥かに厳しい修行になっているようだ。帰りたくなくなる気持ちも分からんでもない。


「気持ちは分かるが駄目。俺だってあまり時間取れないから今日中にトールの宮殿の探索は終えるぞ」


「ぶーぶー! 横暴だよ!」


「お前……少しは年を考えろよ」


 デューテは見た目は中学生っぽいが、既に三十を超えてる。ってか本当の年齢は知らないな。もしかしてアラフォーの可能性も……?


「なっ!? 僕みたいなカワイイ子にはね、年齢は関係ないんだよ! それに僕だってこの一年で少しは成長したんだよ!」


 デューテの成長が止まっていたのは、トールと契約していたからだ。今は契約も解除になっている為、成長が再開したらしい。……のだが、正直何処が成長したのかさっぱり分からない。


「……本当に成長したのか?」


「ふふん! この一年で身長が五ミリとバストが一センチも増えたんだよ!」


 ドヤ顔でデューテは答える。


「一年で五ミリ……ただの誤差じゃ? それに胸も……」


 どう控えめに見ても増えてるようには見えない。


「キミは失礼だね! ってかそんなにジロジロと胸を見ないでよ! エッチ! ルーナとラミリアに言いつけるよ!」


「いや、胸が成長したって言われたら、誰だって見るだろ! 不可抗力だ」


 こんなことで二人に怒られたくはない。


「なら今日は泊まりで。ねっ、いいでしょ?」


「それはない。泊りになったら本当に怒られるだろうが! よしさっさと行くぞ」


 俺を脅してサボろうとするのは流石に甘い。


「あっ!? ちょっと待ってよ!」


 俺がさっさと転移しようとすると慌てて追いかけて掴まった。



 ――――


「シオンくん。遅いじゃないか!」


「……何でトオルが居るんだ?」


 トールの宮殿には既にトオルが待機していた。確かに今日行くって話はしたが、トオルも何やら忙しそうだったので誘いはしなかったんだ。まさか待ち構えてるとは思わなかった。


「ってか、待ってるくらいだったら、さっさと探索すればよかったじゃないか」


 別に俺達を待つ必要はなくないか?


「だって一人で探索してもつまらないよ。こういうのはね、皆で探索するから面白いんだよ。力を合わせて障害を乗り越えたり、最奥で宝を見つけた感動は一人じゃ味わえないんだよ」


「いや、今回はそんな大冒険じゃないから」


 今回はダンジョン攻略じゃなくて、知り合いの家にお邪魔する感覚だ。


「僕はね、主がいるのに不在の状態で入るほど無法者じゃなよ」


 そういってトオルはドアを開ける。……いくらここに主がいるからって、その主の許可は貰ってないぞ。まぁ否定はしないだろうけど。



 ――――


 宮殿内は前回と全く変わらない。結界内は電磁波で体は重いし、至る所に電流が走ってる。

 ん? ちょっと待てよ?


「なぁ、デューテが空けた大穴とかどうなってるんだ?」


 外から見た感じ、大穴はなかった気がする。それに、あの時は魔法でいろんな場所が欠けていたが、現在は壊れた形跡はない。


《我の宮殿には自動修復機能が備わっておる。まぁあれは巨大な穴だったから、修復に結構な時間を有したであろうがな》


 なるほど。シクトリーナと同じように自動修復機能があるのか。ってことはそれも核ののうりょくなのかな? 壊れても自動で元通り……こうなってくると。俄然核が欲しくなるな。


「それで、宝物庫は何処なんだ?」


「こっちだよ!」


 トールでなくデューテが答える。デューテもこの宮殿の内部は知り尽くしているみたいだ。


「そういえばこの宮殿には【魔素溜まり】はないの? 魔物が全然いないんだけど?」


 一年前の決戦の時も魔物はいなかった。だけど、こんだけ魔素が集まってるんだ。

 【魔素溜まり】がないと逆に不自然だ。


《ここの魔素は全て雷に変換する。だから【魔素溜まり】は存在せん》


「へえ、そんなことも出来るんだ。それも核の能力か?」


《その通りだ》


 【魔素溜まり】の代わりに雷に変換か。これってかなり有用かもしれない。


「……ん? じゃあ何でこの宮殿の遺跡(ダンジョン)難易度がSなんだ? いくら結界内が電磁波や雷まみれでも、魔物が出なかったらそんなに難易度高くないんじゃないか?」


 シクトリーナみたいに極悪な罠が沢山あるわけでもない。ならAランクの冒険者パーティーなら十分に攻略可能だと思う。


「キミねぇ。キミくらいの魔力なら少しだけ体がピリピリしたり、体がちょっと重くなるだけだろうけど、Aランク冒険者程度なら、中に入っただけで黒焦げになっちゃうよ」


 デューテが呆れたように言う。そうだったのか。全員同じ効果だと思ってた。


《まぁ仮に宮殿内に入ってくる不届き者がおったが、その時は我が返り討ちにしておったわ》


 がははっ、と笑いながらトールが言う。

 トールが相手とか、魔物どころかラスボス、いやクリア後の隠しボスと戦うレベルだぞ。それなら攻略不可能なのは当然か。


「それにしても、ヤッパリここは居心地が良いね! 力が溢れてくるみたいだよ。ねぇシクトリーナにもこういう場所を作ろうよ」


「……お前には居心地いいかも知れんが、俺達には最悪な環境だからな。ってか、それ以前にお前はただの居候であって、城の人間じゃない!」


 なんで居候の為のプライベートルームを作らねばならぬのだ。


「ちぇっ、ケチなんだから」


 いや、ケチとかそういうもんじゃないと思う。……でも、デューテもアイラと旅して随分と仲良くなってたみたいなんだよな。その内、居候じゃなくて本当に居座ることになりそうだ。



 ――――


《ここが宝物庫だ》


 目の前には一回り大きな扉。他の扉に比べて装飾も豪華で、一目見ただけで宝物庫だと分かる。ってか、宝物庫って隠してないんだ。てっきり隠し扉か何かだと思ってたよ。

 まぁ隠してなくても、この扉を見たら誰も入らたがらないかもしれないが。


「……これって本当に入れるのか?」


 扉はバチバチとプラズマが発生している。触ることはおろか、近づくだけで感電死してしまいそうだ。


《賊対策だ。厳重にするのは当然であろう》


 確かにそうだけど……。


「僕は平気だよ。キミだって、ちょっとパチッてするくらいじゃない?」


 そんな静電気みたいに言われても……。


「まぁデューテが平気って言うんなら、デューテが開けてくれよ」


「ったく、意気地無しだなぁ」


 そう言いながらもデューテが扉を開ける。いや、意気地とかじゃなくて、単純にパチッとでもしたくないだけだ。


《どうだ。これが我の宝物庫だ!》


 鳥型のため見た目は変わらないが、それでもトールがドヤってるのは伝わった。

 しかし……これはドヤりたくなる気持ちも分かる。


 宝物庫の中には数多くの武具に金塊。用途が分からない道具が沢山あった。まさに財宝って感じだ。


《今の我には必要なものは殆どない。好きな物を持ち帰って良いぞ》


「マジで!?」


 うわっ、一気にテンション上がった。えっ!? 本当にここにある物貰っていいの?


《ただし、一つだけ条件がある》


「条件?」


 何だ? 俺は思わず身構える。これ程の対価だ。とんでもない条件をつき出すんじゃないだろうな?


《ここで人型に戻ってもいいだろうか? 我も自分の武具を持ち帰りたい》


「なんだ。そんなことか。別に構わないぞ」


 変に身構えて損した。確かに人型になれば、この中の武器も装備できるもんな。装備したままなら次回以降変身しても装備したままだ。ってか、時間に制限はあるけど、規制はしてなかったはずだが。


《感謝する》


 トールは礼を言うとデューテから離れて人型にチェンジする。


「久しぶりに見たけど、やっぱその姿のトールはカッコいいね!」


 デューテも久し振りなんだ。てっきり毎日のように人型になってると思ったんだけど……。


「ふむ。鳥型も楽ではあるが、やはりこっちの方がしっくりくるな」


 トールは声を発した。そういえば人型は念話じゃなくてちゃんと喋れるんだったな。


 トールは少し体の状態を確認した後、宝物庫内にあった籠手を装着し、帯のようなものを体に巻く。

 その後で、巨大な鎚を持ち上げる。もしかしてあれがミョルニルなのかな?


「……以前の我よりも体格が小さくなっておるから、これではちと大きいな」


 トールはそういうと鎚に魔力を流す。すると、鎚は一回り小さくなる。

 うおっ!? そんなことも出来るんだ!


「ふむ、これなら十分使えそうだな」


「なぁ、それがミョルニルなのか?」


「そうだ。籠手がヤールングレイプル。帯がメギンギョルズ、そして槌がミョルニルだ」


 籠手と帯にも名前があるんだ。ってことはその二つも魔防具ってことかな?

 トールは使用感を試すように宝物庫内でミョルニルを振り回す。


「おいっ! 危ないだろ!」


「おお、すまん。嬉しくてついな。ほら、主らも適当に選ぶとよい」


「そうだな……って、武器が目的じゃねーし!」


 思わず物色しようとしたが、ここには核を探しに来たんだった。


「でもさ、シオンくん。ここは本当にスゴいよ。この槍なんて物凄い魔力を感じるよ」


 トオルが一本の槍を手に取る。確かにその槍は他の武器よりも更に凄そうだ。


「それはグングニルだな。我が父オーディンの愛用武器だ」


 グングニル!? オーディン!? またとんでもない名前が出てきたな。

 って、オーディンって、トールの父親だったの?


「そういえばオーディンの遺跡はないのか?」


「オーディンはこの地には来ておらん。あちらの戦争でフェンリルに食われて死におった」


 食わっ!? えっ? つい先日聞いた話じゃ、フェンリルってロキの息子だよな。何で食われてるんだよ! しかもロキの次男はトールと殺し合いをしてるし……本当に北欧神話の人物相関が訳分からないよ!


「本来ここにある核はオーディンが使用するはずだった」


 だけどオーディンは来なかった。だから余ってるのか。


「ほら、あったぞ」


 トールは俺に向かって核を投げる。


「うわっ!? 危ないだろ。落として壊れたらどうするんだよ」


 冗談抜きで危うく落とすところだったぞ。

 しかし、これが核か。シクトリーナの核は何度か見たことあったけど、全く同じものみたいだ。


「よし、これでドライ海峡に城が作れるな」


 さてと。目的の物は見つかったし、他のお宝を物色しようかな。


「ねぇ。……これあと四つ手に入らないかな?」


「はぁ? 四つ?」


 またトオルが訳の分からないこと言い始めたぞ。

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