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ロストカラーズ  作者: あすか
第六章 青に忍び寄る白
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第228話 目を覚まそう

 ティアマトに解毒薬を投与して一時間。ようやく体内の毒は完全に無くなった。


「多分もう暴れることもないから麻酔も解除するよ。でも一応念のため全員下がってて」


 暴れはしないだろうが、麻酔が切れたせいで、この巨体が寝返りでもしたら堪ったものではない。


 トオルは俺のそばを離れられないから近くにいるが、残りの三人は一歩下がったところに待機する。


 俺は麻酔を解除する。これで次に起きたときは、自我を取り戻し、体も自由に動くはずだ。


「あっ、見てシオンくん!」


 トオルが驚きの声をあげる。勿論俺も見ていたからトオルの驚きはすぐに理解した。

 突然ティアマトから黒い霧が吹き出していた。


「ちょっ!? なんだこれっ!」


 流石にこれは予想外だぞ!


「落ち着きなよシオンくん。恐らく人間形態に変身するんだよ。エキドナが変身する時もよく黒い霧に包まれてるよ」


 エキドナの変身した姿は二回見た子ことがある。確かに始めてみたときは黒い霧を出していた。二回目の時は模擬戦だったが、その時は土煙に隠れて見えなかったな。


「でもまだ意識が戻ってないのに何で……」


 テティスが人間形態になれるんだから、ティアマトが人間形態になれてもおかしくはない。だけどなれたとしても、人間の姿になるのは目が覚めてからだと思っていたのだが……。


「姉の自我が戻ったのですわ」


 もう安全だと思ったのか、三人が近づいてくる。


「姉は自我があるときは、無意識状態でも、いつも人間のお姿をしておりました。実は先程までのお姿は、わたくしでも千年以上拝見しておりませんでした」


 なるほど、寝ていようが意識がなかろうが、自我が復活すれば自動的に人間の姿になるようにしているんだろう。


 目の前の霧は見る間に小さくなっていく。人間サイズまで小さくなると、霧が晴れ、一人の女性が姿を現した。

 濃い青色のショートヘアー、銀色の髪飾りが良く映える。

 目を閉じてはいるが、美しい女性だというのは良くわかる。


「ああっ……ティアマト姉さま」


 テティスが感極まってティアマトに抱きつく。魔王ともあろうものが、人前で涙まで流して……それだけ不安だっただろうな。


「シオン」


 二人を見ていたら背後でゼロが俺の名を呼ぶ。


「本当に感謝する」


 振り返るとゼロの目にもうっすらと光るものが見えた。それに対して気づかない振りをした。……ゼロ、良かったな。



 ――――


「……ん? ここは?」

「ティアマト姉さま!!」


 目を覚ましたティアマトにテティスが抱きつく。


「ここは竜宮の医務室です。姉さまはその……我を失って……」


 ティアマトが人型に戻った後、俺達はティアマトを竜宮城へと連れ帰った。あそこにいつまでもいる意味はないからね。


 俺はトオルが側にいるという条件付きで竜宮城への入城を許可された。まぁ別に許可されたって偉そうなことをテティスが言ったわけではない。言ったのはトオルと姉さんとゼロだ。

 むしろテティスは礼にと歓待をしたいらしい。歓待なんて大げさなことは必要な……いや、姉さんじゃないけど、竜宮城の歓待自体には大いに興味はあるな。


「そう……妾はあの魔法にやられて……」


 どうやら自分の身に何があったかは理解しているようだ。


「ええ、それで彼らが姉さまを助けてくださったのです」


 テティスに言われてティアマトは俺たちを見る。


「妾を助けてくれたようで、心から感謝します。あなた方の活躍は意識を封じられていても、夢を見ているような感覚でおぼろげではありますが、感じておりました」


 何となくではあるが状況は把握しているようだ。俺達の働き……姉さんのピンクのクラゲを追い回していることも覚えているのかな?

 そしてティアマトはゼロに視線を向ける。どことなく懐かしむような優し気な表情を浮かべる。


「貴方が妾を必死に止めようとしていたのはハッキリと覚えています。お名前を教えてくれますか?」


「はっ。ブラッドが直系、エンシェントヴァンパイアのゼロと申します」


 ゼロは跪き恭しく答える。ブラッドってのが始祖ヴァンパイアロードの名前なのかな?


「やはりあの人の……まるで生き写しのように似ていますね。実はあの人が生きていたのではないかと思ってしまいました」


「残念ながら父は……」


「分かっています。あの人は妾を守って死んだのですから……」


 そういえばヴァンパイアロードが死んだ理由は聞いたことがなかった。

 ヴァンパイアって元々不死っぽいのに何で死んだか気になってたんだよな。

 ティアマトを守って死んだのか。確かティアマトって、そのブラッドってゼロの父が死んだ後に魔王を引退して海に籠ったんだよな。別に結ばれたわけじゃないって聞いたけど、想い人が自分を守って死んだとなれば籠るのも分かる気がする。


「父はいつもティアマト様のことを語っておられました。生前、私にティアマト様のことを頼むとお願いされていたのに、こんなことになってしまい……」


「それは妾が逃げたせいです。貴方に非はありません。それに……ちゃんと守ってくれたではありませんか。ですからご自分を責めることはおやめなさい」


 ティアマトはそう言ってゼロを立ち上がらせる。……少しそっとしておいた方が良いかな?


「トオル、姉さん。ちょっと……」


 俺はトオルと姉さんに小声で呼びかけ、そっと部屋の外に出ることにした。



 ――――


「シオンが空気を読むなんて珍しいわね」


 姉さんが随分失礼なことを言う。ったく、俺だって空気くらい読めるぞ。


「本当は話を聞かなくちゃいけないんだろうけどね」


 ……トオルは空気を読めないな。話くらい後で良いだろうに。


「とりあえず無事に目が覚めたみたいだから俺は帰るよ」


「えっ!? ご飯食べてかないの?」


「竜宮城のごちそうは気になるけど、まずは薬を量産しないといけないからね」


「「ごちそう……」」


 あれっ? 二人の反応が鈍いぞ。何でだ?


「なに? 竜宮城の食事って美味しくないの?」


 だって竜宮城だよ? タイやヒラメの舞い踊りはないようだが、代わりにマーメイドやネーレーイスなどの踊りがあったりと、豪華絢爛な宴のイメージがあるんだけど?


「美味しくないって言うか……宴は本当に豪華なのよ! マーメイドの躍りなんて同姓の私が見ても欲情したし」


 欲情って……なにいきなりとんでもないこと暴露してんの! ……いかん。かなり見てみたい気がする。


「でもね、食事の方は……魚はなくて、海藻とかばっかりなのよ」


「えっ!? 海の中なのに?」


 だって海中だよ! 海の幸がてんこ盛りだよ!


「海の中だからこそ……かな。どうやらテティスくんがベジタリアンみたいでね。同じ海の世界に生きているからって、海の生き物を食べないんだよ」


 ベジタリアンの海魔王。同じ海の世界の生き物だから食べない……か。

 本人はのほほんとした感じで全然強そうじゃなかったけど、慕われてるのはそういった部分なのかな。


「別にテティスくんは肉食を嫌っている訳じゃないんだよ。魚の中には肉食もいるからね。自然の摂理として理解はしてるんだよ。ただ、トップが食べない料理を出すわけにも……ねぇ」


 別に肉食は毛嫌いしているわけではないと。でも城のトップが食べないから料理として出せない。

 そりゃあトオルと姉さんが微妙な顔をするのも分かるな。


「海藻の料理は結構凝ってるのよ。海の中だけど、乾燥させたり出来る場所があるみたいで、海苔やコンブ、ワカメもしっかり加工してあったしね」


 おっ、それは嬉しいな。ルーアンに加工技術が浸透するまでは、ここと交渉して海藻類を手に入れたいな。


「ひじきの炒め物やもずくの酢の物は美味しかったわよ。それにこの海には地球にはない不思議な食べ物もあるみたい。海の中なのに、ジャガイモやトウモロコシ、豆に似たような食材もあるみたい。マッシュポテトそっくりの料理もあったわ」


 地球にはないオリジナル食材!? それはかなり興味あるな。豆や芋っぽいみたいだけど、地上のと味比べしてみたい。


「でもねぇ。お酒はないし、肉も卵もないとなると……物足りないのよね」


 確かに。お酒はないのは辛いよな。ってか、海底で熟成させた酒って美味しいって聞いたことあるぞ。地上で熟成するよりも早く熟成が進むんだよな。これは落ち着いたら実験できないかな?


「まっ、色々と興味はあるけど、とにかく今回は見送るよ。それより早いとこ解毒薬を量産してルーアンに戻らないと」


 マフィアが壊滅してから既に随分と時間が経過している。解毒薬の開発に三日以上かけたし、共鳴の実験でも半日以上、ほぼ一日経過している。おそらく伝令の天使がルーアンにやって来るまであと四日。

 正直時間が全然足りない。


「俺は今からアインス砂漠で薬の量産をするから誰か定期的に取りに来てくれ」


 アインス砂漠で作るのは思う存分共鳴の力を出すためだ。海底じゃトオルの負担が多すぎるし、シクトリーナでも共鳴の魔力は巨大すぎるから魔力を感じることが出来るルーナや通信隊は落ち着かないだろう。


「じゃあ僕が取りに行くよ。サクラくんはリュートくんを連れて隔離している魔物たちをドライ海峡へ搬送してくれないかい? これから解毒する魔物は全てあそこで解毒しよう」


 確かに一気に千個の魔法が無くなったんだ。これから消えていく魔法に関してもここじゃない方が良いかもしれない。


「ねぇ、ちょっと疑問なんだけど。ガブリエルってさ、自分の魔法が一気に消滅したのが分かるのよね?」


「うん、間違いなくね」


「なら、今生きている魔法の確認ってしないの? あっ、一辺に検索できないのは分かるわよ。でも一つずつ調べたりはしないのかな?」


「今生きている魔法を調べる?」


「だって、全く関係ない場所で魔法が無くなったんでしょ? 他の魔法の所在を確かめるのは当然だと思うけど……」


 ……それは全く考えてなかったな。自分が調べるのが面倒だから調べないと決めつけてたけど、考えたら姉さんの言う通りかもしれない。


「トオル……今隔離している魔物の毒をガブリエルが感知したらこの場所はバレるか?」


「隔離しているのは僕の結界の中だから、どこにあるかはバレないと思う。だけど結界内で消去したり、結界の外に出ればバレるかもしれないね」


「じゃあ上手く隔離した状態でドライ海峡に連れて行き、そこで治療するってことでいいのね?」


「それが出来るなら一番かな」


「じゃあそれはこっちでやるから、シオンくんは量産を頼むね」


 姉さんの指摘にヤバいと思ったけど何とか大丈夫そうかな?

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